電池の基礎知識:環境に配慮した変化

このブログ記事を読んでいる方の中には、単3電池のパックを家に常備しておき、それをデジタルカメラや任天堂ゲームボーイの電源として使っていた方がいるかもしれません。また、あなた自身やあなたのご両親が、腕時計の電源として小さい丸形のコイン電池を購入した時代もあったのではないでしょうか。今でも、私たちの身の回りには電池があります。私たちはその電池を、リモコン付きのおもちゃ、煙探知器、ノートパソコン、タブレット、スマートフォンに使用しています。また、安全な廃棄物処理などの市場動向に基づいて、電池の新しいアプリケーションが登場してきています。継続的な血糖モニタリング(CGM)用パッチ、パッケージ出荷用のスマートラベル、セキュリティPIN表示が変化する支払い用カードなどはすべて、安全な廃棄が最優先される新しい電池アプリケーションの例です。

1次電池と2次電池

昔を振り返ったり、将来に思いを馳せたのには理由があります。上に挙げた思い出話や新しいアプリケーションのどれかに実感が持てるなら、電池の最も一般的なカテゴリである1次電池と2次電池について、あなたはすでに何がしか知っているということです。1次電池とは、非充電式の電池です。古いデジカメで使われている単3電池や、あなたの父親世代の腕時計で使われているCR2032コイン型電池は1次電池の例です。それに対して、今、スマートフォンで使われているのはリチウムイオン(Liイオン)電池でしょうが、それは充電式です。充電式の電池は、2次電池と呼ばれます。まとめると以下のようになります。

  • 1次電池:非充電式で、アルカリ電池やリチウム電池など。
  • 2次電池:充電式で、リチウムイオン(Liイオン)電池、ニッケルカドミウム(NiCd)電池、ニッケル水素(NiMH)電池など。

どちらのタイプの電池も、サイズが小さいわりには大きな電力を備えていますが、電力面と環境面で欠点があります。たとえば、1次電池のリチウム電池は従来、充電式リチウムイオン電池よりもエネルギー密度が大きいのですが、使用後は廃棄する必要があります(Sciencing)。そして充電可能である2次電池は、当初は環境面で優れているように思えますが、何度も充電を繰り返すと充電できなくなり、廃棄する必要があります。

使い捨て薄膜電池:持続可能な代替品

(画像提供:Molex

電池にはサブカテゴリや種類がたくさんありますが、モノのインターネット(IoT)、ウェアラブル、環境センサなどの成長市場からの注目を集めている電池業界の一角があります。それは、柔軟性があり、印刷式の薄膜電池IDTechEx)です。話を簡潔にするため、ここでは固体薄膜電池と呼ばれる、薄膜で柔軟性がある印刷電池の一般カテゴリに注目します。この名前から、ここで取り上げる電池タイプがどのようなものか少しわかるでしょう。固体電池とは、その名のとおり、内部にゲルや液体を含まない固体の電池(Qnovo)です。薄膜電池はきわめて薄い材料の層または膜を使って設計、製造されており、その薄型設計が、電池をきわめて柔軟にし、ウェアラブルセンシング市場を引き付ける一因となっています。このような固体薄膜電池の多くは、薄さと柔軟性に対する市場ニーズに応えていますが、環境にとって有毒となり得るリチウムベースの化学組成などを採用して設計されることが現在も多くあります。

毎年膨大な量の電池が廃棄されることを考えると、ある種の電池が有毒であり、それが広く使用されるのは問題になります。ノートパソコンやスマートフォンなどの電子デバイスの需要が増すにつれ、年々、それらのデバイスが廃棄物の発生量に占める割合も増しています(Sciencing)。電池は一般に生物分解性でなく、無頓着に廃棄すると有毒な金属や化学物質を地中にばらまくことになる恐れがあります。多くの国では、現在、電池の廃棄に関する規制を設け、リサイクルプログラムを提供しています。そのようなプログラムは、電池に含まれる金属のリサイクルに役立ち、電池の廃棄による環境への悪影響を抑制できます。

電池の廃棄規制は、より多くのデバイスに電力を供給し、モノのインターネットに接続するというニーズの高まりとともに、企業が危険な電池組成に代わる安全で持続可能なものを探究する動機付けになります。Molexの新製品である薄膜電池は、そのようなソリューションの1つです。リチウム電池による対応物とは異なり、この電池は亜鉛二酸化マンガンの化学組成を使用した設計で、より安全でエンドユーザが廃棄しやすくなっています。

Molexの利点

モノのインターネットにより、身に付けることができるセンシングデバイスや電源付きのスマートラベルなどの無線伝送アプリケーションが拡大しています。しかし、印刷式の電池の多くは、無線データ伝送に必要なピーク電流を供給することができません。Molexは、これらのピーク電流要件を満たす薄膜電池を提供することで、この課題に対応しています。また、Molexの電池は薄型で柔軟性があり、リチウムベースの化学電池よりも安全に廃棄できます。Molexの薄膜電池にはいくつかの独自の機能と利点があります。当社では、同一平面上に陽極と陰極を製造することができる独自の技術をライセンス供与しています。この垂直構造により、内部抵抗とフットプリントを削減することができます。リチウム系電源の欠点は、取り扱いに注意しないと自己発火する危険があることです。これに対して、Molexの薄膜電池は、通常の保管・使用環境では安定しています。これらは非危険物と見なされており、通常の一般廃棄物として処理することができます。また、同様の化学的性質を持つ電池に比べてピーク電流や使用可能容量が大きく、ワイヤレスでデータを送受信するデバイスには重要な役割を果たします。薄くて柔軟なフォームファクタにより、曲面に沿って折り曲げて使用することができるため、様々な製品に適合し、デザインの自由度を高めることができます。また、1.5Vと3Vの2種類の電池を用意しており、上記の特長から、低電力の単回使用のアプリケーションに最適な電池となっています。

薄膜電池の実用化

実社会での使用例を見れば、薄型、柔軟性、廃棄可能性、フットプリントの小ささといった特長が高く評価される用途、および薄膜電池市場の成長継続を期待できる用途が見えてきます。特に興味深い1つの使用例は、極超短波(UHF)スマート温度タグにおける薄膜電池の利用です。このタグはクレジットカード並みのサイズで、標準的なプリンタ用紙よりも少し厚みがあります。この製品は、温度に敏感な製品用にコールドチェーンロジスティクス管理に使用されています(Enfucell)。これらのスマート温度タグは、RFID、インテリジェント温度センサ、印刷薄膜電池の技術を組み合わせて利用し、製品の輸送および保管時の時刻と温度を正確に追跡します(Enfucell)。

さらに、民生、化粧品、医療の市場では、薄膜電池の応用実験が行われています。民生市場と化粧品市場の中心にあるのが電気アイマスクです。このアイマスクは、柔軟性のある印刷電池、電極、接着テープ、カバーシートで構成されたマイクロカレントデバイスを搭載しています(Enfucell)。このパッチを皮膚に当てると、即座に電流ループを生成し、化粧品成分がマスク内のアクティブ電極から皮膚へ流れます(Enfucell)。薄膜電池のその他の民生市場への応用としては、ウェアラブル電子デバイスおよびスポーツモニタリングデバイスがあります。その一例として挙げられるのが、ゴルフクラブのヘッド側面に貼り付けて加速度および角速度を測定する低消費電力Bluetooth(BLE)センサパッチ(Enfucell)です。廃棄可能な薄膜電池の医療分野への応用には、患者の診断、治療、モニタリングのためのデバイスなどがあります。

この200年の間、私たちが日々使用する多くのデバイスやアプリケーションに電力を供給するという世間で高まる要求を満たすため、新しい様々なタイプの電池の開発は長足の進歩を遂げてきました。近年では、豊富に存在し、持続可能で、環境にも人間にも安全な原料を使用して製造する電池の開発に企業が取り掛かっています。亜鉛二酸化マグネシウムなどの有機組成(この動画で紹介)や関連した化学組成を用いた柔軟性のある薄膜印刷電池は、より環境に優しい電池の新しい未来を明確に示すものです。産業、モノのインターネット、民生、医療などの市場では、既に薄膜電池を電源とする製品の実験および製造に成功しています。こうした電池の容量および製造可能性を増すため、さらなる開発が必要とされていますが、ある差し迫った疑問が常に開発者を駆り立てています。それは「薄膜電池の次の使い道は何か」ということです。

著者について

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Molexの製品管理スペシャリストであるHalie Henleyは、2016年からMolexに勤務しています。他の製品マネージャーとともに新製品(ごく最近では、相互接続製品、薄膜電池、アセットトラッキングおよびRFIDソリューションなどを含む)の開発と販売を行っています。Halieは企業家的経営およびコミュニケーション術の学位を取得しており、さまざまなプロジェクトと製品管理の役割を通して、お客様の声をMolexのエンジニアリング/製造リソースと共有しています。仕事以外では、旅行、読書、ボルダリングやサッカーなどのアウトドアスポーツを楽しんでいます。

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