デジタルプリディストーションで、ほぼ完璧な高精度信号発生器を実現

アナログ回路のみを使用して正弦波や任意波形などの高精度な標準波形を作成することは、常に困難を伴うものでした。なぜなら、数多くの見逃されがちなエラー源を特定し、克服しなければならないからです。 デジタルプリディストーション(DPD)を設計に組み込み、出力駆動型フィードバックと組み合わせることで、達成可能な性能が大幅に向上します。

精度は、システムおよび性能の仕様として頻繁に引用され、要求されるものです。 テストおよび測定においては、絶対精度、優れた一貫性、高直線性、高分解能、全体的な波形純度、低歪み、およびノイズやアーチファクトの最小化を意味します。

設計者は、必要な精度を達成するために、さまざまな戦略を組み合わせることができます。 そのような戦略には、以下のようなものがあります。

  • より精度が高く温度ドリフト係数の低い部品を選択し、使用前にエージング処理を行って不具合やドリフト傾向を排除します。 これは、単一の高精度低ドリフト部品がシステム性能に大きなメリットをもたらす電圧リファレンスでよく行われます。
  • レシオメトリック構成など、エラー源を自己相殺する回路トポロジを使用します。 これは、従来のホイートストンブリッジを使用することを意味します。別の選択肢としては、共通の基板上にペアの抵抗器を備えた差動アンプを使用する方法があります。差動アンプには、温度関連のドリフトが一致しているという利点があります。
  • 温度ドリフトが等しく逆方向である部品を一緒に使用して、変化を相殺する補償スキームを実装します。
  • 物理的レイアウトに関するベストプラクティスを遵守します。これらのプラクティスには、大きなグランドプレーンの使用、電流フローの管理、局所的な温度差の回避、および銅プリント回路基板(PCB)トラックや錫メッキされたコンポーネントリードなどの素材間の不適合による熱電対の特定と排除が含まれます。
  • 既知の標準に対してシステムを1回較正し、トリムポットなどのアナログ部品や、より一般的なデジタル保存の補正係数を使用して回路を微調整します。

より高度なアプローチであるDPDは、高速データリンクの設計者によってよく使用されます。 この手法では、通常は非現実的または不可能である接続チャンネルの改善を試みるのではなく、チャンネルの歪みを特徴づけます。 そして、逆歪み波形を持つビット波形を作成し、この事前歪み波形とチャンネルの歪みとが相殺されるようにします。 これにより、ビットエラーレート(BER)が低減し、より高速なデータレートがサポートされます。 最も高度な実装では、プリディストーションの設定は固定ではなく、チャンネルの状態が変化するのに合わせてリアルタイムで動的に調整されます。

プリディストーションでアナログ波形の精度を向上

DPDは高速デジタル信号以外にも有効です。 アナログのファンクションジェネレータの波形を改善するのにも使用できます。 この機能は、Analog Devicesの超低歪み、低ノイズ、デジタル制御任意波形発生器(AWG)「ADMX1002B」(図1)によって実証されています。 ただし、同じ仕様のADMX1001Bバージョンには、差動アナログ入力信号取得チャンネルが追加されています。このバージョンについては後ほど詳しく説明します。 EVAL-ADMX100X-FMCZ評価キットは、両方をサポートしています。

図1:ADMX1002B(左)は高精度の正弦波および任意波形発生器です。ADMX1001B(右)も同様ですが、ADMX1002Bでコネクタに挿入されるボードという形式でデータ収集チャンネルが追加されています。(画像提供:Analog Devices)

ADMX1002Bは、特許取得済みの方法で出力を検知・補正するDPDアルゴリズムを利用することで、このクラスで最高純度の差動正弦波信号を提供します(図2)。

図2:ADMX1002BはDPDアルゴリズムを内蔵し、最高の精度を得るために自身の出力を検知して補正します。ADMX1001Bでは、ブロック図の下と右下に示すデータ収集回路が追加されています。(画像提供:Analog Devices)

DPDアルゴリズムを使用しない場合、このユニットは30ヘルツ(Hz)から40キロヘルツ(kHz)までの出力を提供し、DPDが使用された場合は最大20kHzまで対応します。 付属のPCベースのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)は、USB接続を介してシステムデモンストレーションプラットフォーム(SDP)コントローラボードに接続します。

Non-DPDは、新しい正弦波周波数または振幅がレジスタにロードされたときのデフォルトモードであり、任意波形生成の初期動作モードとなります。 そのアーキテクチャにより、ADMX1002モジュールの性能は、Non-DPDモードでもコンポーネントのネイティブ性能を上回ります。

ソフトウェアまたはハードウェアにより、DPDアルゴリズムを有効にすることができます。 このプロセスは、外部リファレンス入力を必要とせず、特許取得済みの差動時間・振幅検出法を利用しています。

このアルゴリズムでは、超高純度正弦波形を生成するために、プロセッサルーチンで使用するADMX1001の出力にセンス入力を接続する必要があります。 DPDを有効にした場合、1kHzでの全高調波歪み(THD)は-130デシベル(dB)という極めて低い標準値(振幅は最大3.62Vrms)で、20kHzまで数デシベルしか劣化しません(図3)。

図3:周波数対THDのグラフは、DPDの追加によるTHDの改善を明確に示しています。(画像提供:Analog Devices)

DPDは正弦波形の純度も大幅に向上させます。DPD追加前と追加後の2Vrms出力の1kHzにおける高速フーリエ変換(FFT)の結果がそれを示しています(図4)。

図4:DPDを使用すると、基本周波数の奇数および偶数次高調波が減衰し、正弦波の純度が大幅に向上します。DPD追加前(左)と追加後(右)の測定結果がそれを示しています。(画像提供:Analog Devices)

単一の正弦波出力以上の機能

ADMX1002Bは、バーストモードまたは連続モードで、30Hzから20kHzの2トーン正弦波も生成できます。 波形周波数は1マイクロヘルツ(µHz)の分解能で、振幅は1マイクロボルト(µV)の分解能でプログラムできます。

さらに、このユニットはユーザープログラム可能なAWGとしても機能します。 AWG信号は最大20秒(s)までプログラム可能で、揮発性メモリに保存されます。 保存した波形をループバックすることで、連続したAWG生成を実行できます。 ADMX1002の出力には27kHzのローパスフィルタが含まれており、この帯域内でAWG波形を生成できます。

DC出力も可能です。ADMX1002は、正および負出力接続VpおよびVn間で最大11.3V DC(VDC)の差動DC出力信号を生成することができます。 この出力レベルは、1µVの正確なステップで調整できます。

アナログ入力の使用

前述の通り、Analog Devicesは、ADMX1002のすべての機能、特徴、および性能を備え、アナログ入力機能を追加したADMX1001も提供しています。 この高度に統合されたデータ収集ソリューションは、最大差動入力範囲±7.5V、最大入力コモンモード範囲±7Vで、7つのプログラム可能なゲイン設定を提供します。 内蔵の4次アンチエイリアシングフィルタは、最大-130dBの除去を提供し、フルスケールで1kHzの入力トーンを測定した場合、THD(標準値)は-115dBで、収集チャンネルのダイナミックレンジは最大128dBです。

まとめ

DPDは、単一および2トーン正弦波、およびユーザー定義の任意波形など、アナログ信号の高精度生成にメリットをもたらします。 その結果得られる波形は、THDやFFTなどの標準パラメータで測定すると、オーディオ帯域全体で130dBの範囲の性能を示します。 ADMX1001にデータ収集機能を追加したことで、設計の汎用性が向上します。

関連コンテンツ

「超低歪み、低ノイズ信号発生器および取得評価モジュールADMX1001およびADMX1002用ユーザガイド」

https://wiki.analog.com/resources/eval/user-guides/admx/admx100x

「ADMX1001/ADMX1002超低歪み正弦波・高分解能任意波形発生器 + 取得モジュール」(ビデオ)

https://www.analog.com/jp/resources/media-center/videos/6355673963112.html

「新たなデジタルプリディストーション手法を採用した信号発生器、高性能のADCやオーディオデバイスのテストに対応可能」

https://www.analog.com/jp/resources/technical-articles/high-performance-source-for-adc.html

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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