ポータブルデバイスのモーション制御に最適な超低消費電力マイクロコントローラ
ポータブルデバイスや電池駆動デバイスは今や至る所にあり、それらを使用しないでは日常生活を過ごせないところまで来ています。その典型例が、機械的モーションと方向制御を行うモータを搭載した小型のロボット掃除機です。ロボット掃除機の使用は今では日常生活の一コマのようになっていますが、設計者は、そのような小さなロボットに様々な電子機器を搭載しなければならないため、サイズ、重量、電力効率の限界まで追い詰められます。そのうえ、処理用ツール一式が入ったツールボックスも実装しなければならないのです。
このため、これら多数の必要な電子部品を一つのICに実装できれば、大いに助かります。これを実現するのが、Analog DevicesのMAX32672GTL+です。これは超小型、超低消費電力、高集積の32ビットマイクロコントローラであり、特に電池駆動デバイスやワイヤレスセンサで使用するために設計されています。FPU(浮動小数点演算ユニット)を備えた強力なARMCortex M4プロセッサを搭載しています。また、複雑なセンサ処理を行え、かつ電池寿命が最適化されているので、先に述べたデバイス設計に最適です。
MAX32672GTL+の応用例は、ご想像の通り、モーション/モータ制御、産業用センサ、電池駆動の医療機器などです。この他の応用例としては、光通信モジュールやセキュア無線モデムコントローラもあります。
小さな発電所であるこのMAX32672GTL+の汎用性を機能ブロック図(図1)として示します。
図1:MAX32672GTL+マイクロコントローラのブロック図は、Arm M4コアから、充実したメモリ、セキュリティ、電源管理、I/Oサポートに至るまで、そのパワーと柔軟性を示しています。(画像提供:Analog Devices Inc.)
まず、メモリから説明しますと、MAX32672GTL+は1メガバイト(Mbyte)のフラッシュメモリと200キロバイト(Kbyte)のSRAMを内蔵しています。このエラー訂正機能付き内蔵フラッシュメモリは、不揮発性のプログラムおよびデータストレージに使用されます。このフラッシュメモリは、2つの同じ大きさのバンクで構成されており、実行しながら書き込みができるようになっているので、ファームウェアをライブアップデートすることが可能です。
内蔵されている200KバイトのSRAMにより、アプリケーションの情報と関連データを低消費電力で保持することが可能です。このSRAMは、システムの信頼性を高めるために160Kバイトとして構成し、SEC-DED(Single Error Correction and Double Error Detection:1ビットエラー訂正2ビットエラー検出)符号を格納することで、データ破損からメモリデバイスを保護できます。エラー訂正符号は、フラッシュ、RAM、キャッシュのすべてに実装されていて、過酷な環境条件でも極めて信頼性の高いコード実行を保証できるので、重要です。
また、非常に重要な電源管理・制御のために、機能として、高性能と低消費電力を両立させた複数モードが搭載されています。この機能では、電源電圧モニタとブラウンアウト(電圧低下)モニタが用意されているので、電源切断、電源投入、および予期しない電源の過渡状態の際に動作が正常に行われているかどうかを確認できます。
MAX32672GTL+は、I2C, I2S、SPI、UARTを含む複数のシリアルI/O周辺機器とともに、広いI/O帯域幅を備えています。I2Cインターフェースインスタンスは、双方向なので、100kbps~3400kbpsの転送速度で動作できます。SPIインターフェースは、最大50Mbpsで動作し、4線式構成で全二重動作をサポートします。I2Sオーディオバスは、双方向であり、オーディオアンプおよびオーディオコーデックで使用できます。
最後のUARTインターフェースは、2線式または4線式のバス構成と独立したボーレートジェネレータを使って、全二重非同期シリアル通信を提供します。低消費電力UART(LPUART)は、最小消費電力のスリープモードで動作し、簡単にウェイクアップアクティビティを行うことを可能にし、データを失うこともありません。
周辺機器としては、シリアルインターフェースのほか、汎用I/O(GPIO)ピン(最大42本)、32ビットタイマ(最大4個)、低消費電力の32ビットタイマ(最大2個)、12チャンネル・12ビットの逐次比較レジスタ(SAR)型A/Dコンバータ (ADC)などを搭載しています。
ハードウェアサポートの視点では、MAX32672GTL+は、シリアルデータリンク、I/Oピン、ADCを統合しているので、大量のデータ処理を必要とするモータなどの回転機を制御できる強力なコントローラとなります。
柔軟なサポートで制御 & ロボティクスの設計が加速
ハードウェアはサポートツールが充実していないと、使用が制限されますが、この問題はMAX32672GTL+については該当しません。アプリケーション専用のツールでは、アナログとデジタルの両方のセンサを監視してパルス幅変調信号を生成したり、直交シャフトエンコーダからのデータをデコードしたりすることなどが可能です。モータ制御やロボティクスのアプリケーションを対象としたツールは、面倒な作業を大幅に取り除き、設計の開始から実装までを簡単に行えるようにしてくれます。
図1にある直交デコーダインターフェースは、2相信号ライン(QEA、QEB)とシャフトエンコーダからのインデックス信号(QEI)に基づいて、回転機シャフトのシャフト角と回転速度を復号化します。復号化動作の角度分解能を制御するために、X1、X2、X4のカウントダウンをユーザーが選択することが可能です。シャフトの回転は32ビットの位置カウンタ(QDEC:直交デコーダ)で追跡されます。このカウンタでは、「プリセット位置に到達した」などの特定のイベントも追跡されます。QDECの値は、シャフトの現在の角度位置を示しています。その他に、モーションや方向、回転方向の変化を示す出力もあります(図2)。
図2:直交クロックで刻時される直交入力QEAとQEBは、回転方向に応じてQDECカウンタをインクリメントまたはデクリメントします。出力信号は、動き(QDEC_INTFL)、方向(QDIR)、方向の変更(QDEC_INTRL)を示します。(画像提供:Analog Devices Inc.)
MAX32672GTL+は、デバイスのセキュリティを確保するためにAES(Advanced Encryption Standard)ハードウェアを内蔵しています。AESのキーはソフトウェアで自動生成され、専用のフラッシュ領域に保存されるので、不正変更を防ぐことができます。MAX32672GTL+は、真の乱数発生器(TRNG)を搭載しているので、暗号用シードとなる乱数や強力な暗号化キーを提供し、データのプライバシーを保護することができます。
このすべての処理能力を、わずか5mm x 5mm x 0.4mmの小型40ピンTQFN-EPパッケージに搭載しています。また、消費電力を抑えながら柔軟な運用を可能にする、5種類の電源モードを搭載しています。つまり、当マイクロコントローラは、1.1ボルト電源で動作し、アクティブモードでは100MHzの最大クロックレートまで1メガヘルツ(MHz)あたり61.5マイクロアンペア(mA)しか消費しません。
Analog Devicesの評価キットMAX32672EVKIT#は、マイクロコントローラMAX32672GTL+の能力を測定するためのプラットフォームです(図3)。この評価ボードは、設計でこのマイクロコントローラを使用しようと検討している設計者にとっては、良い出発点となります。
図3:Analog Devicesの評価キットMAX32672EVKIT#には、MAX32672GTL+と、あらかじめプログラムされたデモと、ユーザーが開発したプログラムへのアクセス許可が同梱されています。(画像提供:Analog Devices Inc.)
この評価ボードは、電源を入れると、デモプログラムを実行します。さらに、この評価ボードには、その内部I/Oポートからアクセスできます。また、ユーザープログラムを開発するためのソフトウェア開発キット(SDK)も用意されています。
まとめ
MAX32672GTL+は、モータ/モーション制御、産業用センサ、電池駆動の医療機器のための小型・低消費電力の、パワフルで柔軟なソリューションです。ロボット掃除機はその典型例です。MAX32672GTL+には評価キットや豊富なツールサポートがあるので、MAX32672GTL+を使用した面白い設計がすぐにでもたくさん出てくるのではないかと思います。そのような設計を温めている方がいらっしゃったら、是非お教えください。
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