単純な部品などないことを、抵抗器を例にとって考える
どんな電気工学カリキュラムでも、生徒が最初に学習するのは、受動部品(抵抗器、コンデンサ、およびインダクタ)に関連した基本法則であり、通常はオームの法則(電圧=電流×抵抗、またはV = I × R)から始まります。この式には、北米標準の表示方法による回路図が伴います(図1)。(世界の他の地域では異なる記号が使用されますが、それについては別の機会に説明します。)
図1:この回路図は、3つの基本的な受動部品(抵抗器、コンデンサ、およびインダクタ)を示していますが、特定のアプリケーションにおける各部品の微細な点は示されていません。(画像提供:Solved Problems)
抵抗器を示すジグザグ線を確認してその機能を知ると、「これ以上にシンプルなものがあるだろうか」と思うかもしれません。抵抗器は主に、抵抗値(Ω)および、電力定格などの他のパラメータにより定義されます。これが、生徒に分かる情報のほぼすべてです。ハンズオンラボにおいてでさえ、ほぼすべてのプロジェクトが低電力/低電圧であるため、抵抗器は2つの形態の1つでありブレッドボーディングに便利な「リード線付き」(「スルーホール」としても知られる)バージョンになります。このようなデバイスの例としては、Stackpole ElectronicsのRC14KT100Kが挙げられます(図2)。
図2:このリード線付き抵抗器は扱いやすく、ブレッドボード上で簡単に使用できます。(画像提供:Stackpole Electronics)
もう1つの形態は、BournsのCR1206-JW-104ELFなどの基本的な「チップ」面実装デバイス(SMD)パッケージです(図3)。SMDはプリント基板上に配置されますが、扱いや精査がはるかに困難です。
図3:この超小型面実装デバイスは、スルーホールバージョンと同じ値のチップ抵抗器ですが、手動による扱いや精査がはるかに困難です。(画像提供:Bourns Inc.)
後に、この工学系大学生は就職して、実世界のさまざまな回路に遭遇し、部品表(BOM)の記入を手伝う必要があるかもしれません。それは、現実を突き付けられる瞬間であり、大きな打撃を受ける可能性があります。
なぜでしょうか?DigiKeyの検索ボックスに「抵抗器」という基本的な検索語を入力すると、固定値抵抗器の5大カテゴリが表示されます。
これは始まりにすぎません。掘り下げると、さらに細分化されています。たとえば、「特殊抵抗器」内には、電流センシングに使用される高電力、低インダクタンス、mΩ範囲の抵抗器や、電力処理に使用される高導電性、数十kΩ範囲の巻線抵抗器があります。
適切な抵抗器の選択
プロジェクトに「適切な」抵抗器はどれでしょうか?その判断が比較的簡単な場合もあります。標準のプリント基板を使用する基本的な低電力/低電圧設計の場合、おそらくチップ抵抗器が出発点となるでしょう。とはいえ、以下の問題を考慮する必要があります。
- 受け入れ可能な初期許容差は、±20%、±1%、またはその中間値でしょうか?
- I2Rの消費電力が1W未満の小さな値を超えた場合、どうなりますか?
- 1000ppm/⁰Cから数ppm/⁰Cまで幅広く変化する可能性がある抵抗温度係数(TCR)についてはどうでしょうか?
- DC回路では問題になりませんが、数十または数百kHz以上の周波数で動作する回路では一大事となる自己インダクタンスについてはどうでしょうか?
- 独立した抵抗器を使用すべきでしょうか?または、スペースを節約して温度係数を追跡するものの、より複雑なプリント基板トレースルーティングを必要とする抵抗アレイを使用すべきでしょうか?
さらに、信頼性、堅牢性、およびストレスなどの繊細な問題もあります。
- 通常使用および基準からいくらか外れた使用において、この抵抗器は内部および外部のどんな動作条件に直面しますか?
- 抵抗器は、AEC-Q200仕様「受動部品のストレス試験認定」1を満たす必要がある車載用アプリケーションで使用される予定ですか?その場合、0~4までの5つの温度グレードのうち、どれが適切ですか?
- 「Military Directives, Handbooks and Standards Related to Reliability(信頼性に関連した軍事指令、ハンドブック、および規格)」2で規定されているような軍事関連の多くの信頼性規格についてはどうでしょうか?
多くの大企業には、一次仕様を超越して、アプリケーション用に選定された部品の適合性の評価を専門とする「部品技術者」と呼ばれる専門家がいます。多くの場合、これらの技術者は設計やデバッグの「創造的な」部分に関わっていないため、それほど尊敬されていません。しかし、設計段階の早期に彼らと連携しなければ、きっと後悔することになるでしょう。彼らは「極端な温度、湿度、振動、塩水噴霧、ESD、EMI/RF(1つ以上を選択)などにさらされる現場で製品が使用される場合、~について考慮したことがありますか」と尋ねることにより、潜在的な落とし穴について警告してくれる可能性があります。
たとえば、KOA Speer ElectronicsのRK73-RTフラットチップ抵抗器ファミリがあります(図4)。これらの製品は、 AEC-Q200規格を満たすだけでなく、耐硫化性の高いインナートップ電極材料の使用による耐硫化特性、メタルグレーズ厚膜による優れた耐熱/耐候性、および3層電極構造による高い安定性/信頼性も提供します(図5)。これは「型破りな」抵抗器ではないことに注意してください。AEC-Q200定格および他の要素により、大きな需要があります。
図4: KOA Speer ElectronicsのRK73-RTフラットチップ抵抗器ファミリは通常のチップ抵抗器に見えるかもしれませんが、AEC-Q200規格を満たし、環境ハザードに対する耐性を提供します。(画像提供:KOA Speer Electronics)
図5:KOA Speer ElectronicsのRK73-RTファミリが提供する抵抗器の性能は、材料、設計、および製造技術の組み合わせにより達成されています。(画像提供:KOA Speer Electronics)
無知にいくらかの傲慢さが加わると、部品選定が容易に単純化されすぎてしまいます。何年も前に、主要な機械設計要素を備えた大規模な材料試験システムを構築した企業に私が勤務していた時、上級の機械技術者(ME)は、構造ビームの1つに長期的な問題の可能性があることに懸念を表明しました。それに対し、電気技術者(EE)の1人は「大した問題ではない。アルミ押出材でそれを支えればいいだけだ」と言いました。機械技術者は事務所に行き、分厚い本を持って戻ってきました。その本には、業界標準のあらゆるアルミ押出材が、プロファイル、引張強度、脆性、耐腐食性、および他の要素と共に記載されていました。彼はその本をテーブルに放り投げ、電気技術者に「さあどうぞ!そんなに単純なら、君が選んだらいい」と言ったのです。
結論
ここでの教訓は明確です。どんな「単純に思える」部品でも(基本的な抵抗器でさえ)、考慮すべき点はたくさんあります。一部の設計において、主な仕様は、許容差、電力、サイズ、および動作条件に関して比較的控えめであり、ごく普通の抵抗器で十分でしょう。しかし、それ以外の場合には、二次および三次的な多くの仕様があり、評価さらには現場において設計の成否を左右する可能性があります。
教育は、この問題に取り組み始めるのに優れた方法です。検索により、これらのトピックに関する多くの記事やアプリケーションノートを見つけることができます。ベンダーのアプリケーションノートも価値あるリソースです。ベンダーが提供するものに対して偏見を持つ人もいますが、優れた技術者は主張を分類し、筋が通ったものを抽出することができなければなりません。また、ディストリビュータのアプリケーション技術者も非常に優れたリソースです。彼らは広い視野を持ち、大局的視点に加えて多様な顧客ベースとの連携による経験を提供してくれます。立ち止まって、質問し、確認して、耳を傾けましょう。そうすれば、問題を回避することができるはずです。
参照資料:
1 – http://www.aecouncil.com/Documents/AEC_Q200_Rev_D_Base_Document.pdf
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