同期整流器を効果的に制御して電源効率をアップ

新しい電子機器ほど、プロセッサが高速になり、メモリが増え、帯域幅が広くなるので、必要な電力も増大することは周知の通りです。その一方で、市場からは電源の小型化が求められています。より小さなパッケージでより大きな電力を供給するには、電力効率の向上が必要です。この効率の向上には電源損失の低減が必要であり、そのためには基本設計を見直す必要があります。

そこで、損失が発生する場所と、損失に対する対応方法を見ていきましょう。ここでは、例としてフライバック電源を使用します(図1)。フライバックコンバータは、電界効果トランジスタ(FET)をオン/オフします。

図1:基本的なフライバック電源は、FETをオン/オフします。示されているのは、フライバック電源の電流と電圧の波形です。(画像提供:Texas Instruments)

FETがオンの間、結合インダクタの1次側には電流(IP)が流れます。これにより、インダクタに磁界が形成されます。FETがオフになると、インダクタの磁界が崩壊して2次電流(IO)が2次側に流れ、ダイオードを通って出力フィルタと負荷に流れます。損失は、結合インダクタ、ダイナミックスイッチング、FETと出力ダイオードの伝導損失、クランプ回路で失われる電力などです。これらの損失は個別に評価する必要がありますが、本稿では出力ダイオードの伝導損失に焦点を当てます。

出力ダイオードは、導通すると、電流レベルと温度によって変化する順方向電圧降下(VF)を示します(図2)。

図2:典型的なショットキーダイオードの順方向電圧降下は、温度と電流によって変化します。(画像提供:Diodes Incorporated

このダイオードの順方向電圧降下は、電流が増加すると増加し、温度が上昇すると減少します。25℃で10アンペア(A)の順電流の場合、順方向電圧降下は約420ミリボルト(mV)であり、ダイオードは4.2ワットを消費していることになります。この損失を回避する1つの方法は、ダイオードを、電源のスイッチングサイクル中の適切なタイミングでオンになるFETに置き換えることです。これは同期整流器(SR)であり、アクティブ整流器と呼ばれることもあります。FETがオンのとき、その順方向インピーダンスを主に占めるのはFETチャンネルの抵抗(RDS(ON))となります。Texas InstrumentsCSD18532KCSは、RDS(ON))が約5ミリオーム(mΩ)のNチャンネルFETです。このFETを前述のダイオードと比較すると、SR方式の利点がよくわかります(図3)。

図3:CSD18532KCSとショットキーダイオードにおける順方向電圧降下の比較。2つの等価回路モデルを使用することで、違いを際立たせています。(画像提供:Texas Instruments)

25℃での10Aの順電流に対する順方向電圧降下は、ダイオードが420mVなのに対し、FETはわずか約60mVです。FETの電力損失は、ダイオードの電力損失が4.2ワットなのに対して0.6ワットなので、極めて大幅に削減されているとともに、FETの電源の電力効率も改善されていることになります。

Texas Instrumentsが10ワット絶縁出力評価ボードUCC28740EVM-525を使って行った比較について以下に説明します。この評価モジュールは、定電圧・定電流の出力安定化を実現する10ワットのオフライン電源モジュールです。不連続伝導モード(DCM)フライバックコンバータをベースにしています。テストでは、スーパーバリア整流器またはTexas InstrumentsのNチャンネルMOSFET CSD19531Q5Aを用いたSRを使って、順方向電圧降下と順電流を測定しました(図4)。

図4:ダイオードまたはMOSFET同期整流を用いた、同一電源における順方向電圧降下と順電流の比較(画像提供:Texas Instruments)

整流器間の順方向電圧降下の違いは一目瞭然です。ダイオード整流器の順方向電圧は1ボルトの数分の1であるのに対し、SRの順方向電圧はそれよりもはるかに小さいからです。SR伝導相の最初と最後の小さな矩形パルスは、FETのボディダイオードの伝導によるものです。これらのパルスは伝導損失を増加させますが、持続時間が短いため、電源効率にはほとんど影響しません。

図5は、負荷電流の範囲における電源効率において、同期整流器の方が、より一般的なダイオード整流器よりも優位に立っていることを示しています。

図5:2つの電源電圧と負荷電流の範囲でダイオード整流器と同期整流器の電源効率を比較すると、同期整流器の方が、ダイオード整流器よりも効率が2~3%向上していることが分かります。(画像提供:Texas Instruments)

同期整流器は、広い負荷電流範囲において、ダイオード整流器より効率が2~3%高くなっています。SRの実装の方が複雑になりますが、そのコストに見合うだけの効果が期待できます。

同期整流の実装

SRの欠点は、電源のスイッチング動作と同期してFETを駆動する必要があることです。SRに使用されるFETを制御するには、概ね2つの方法があります。1つ目の方法は、自己駆動型制御です。この方法は、結合インダクタの2次電圧を直接、あるいは別個の巻線を使ってSRを制御するものです。この方法は、シンプルで部品点数が少ないところが非常に魅力的です。しかし、この方法はすべての回路トポロジで有効なわけではなく、結合インダクタのリセット処理に依存します。

2つ目の方法は、Texas InstrumentsのUCC24612-1DBVRなどの同期整流器コントローラを用いて、メインスイッチのゲート駆動信号からSRを制御する、制御駆動型の方法です。このコントローラは、アクティブクランプ、擬似共振(QR)、不連続伝導モード(DCM)、連続伝導モード(CCM)、LLC共振フライバック変換など、幅広いフライバックトポロジで動作します。本コントローラは、VDS電圧センシングを使って、伝導損失が最小になるようにMOSFETの導通間隔を設定しています。UCC24612-1DBVRは、フライバックコントローラと連携することで、アクティブクランプやゼロ電圧クロススイッチングなど、より多くの制御などの効率改善動作を実装することができます。

まとめ

同期整流器は、UCC24612-1DBVRなどの入手しやすいハードウェアデバイスに支えられた効率改善方法のためのツールキットの一つであり、より高い電力密度のニーズを簡単にかつ高いコスト効率で満たす設計を提供するものなのです。

著者について

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Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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