高感度計測器の設計時にLTspiceを使用して光センシングのノイズ性能を判定する方法
Analog Devices Inc.の高精度広帯域幅信号チェーンとLTspiceシミュレータソフトウェアは、デバイスの選定と評価において設計者を支援します。それぞれの信号チェーンは、ADIの数十年にわたる経験とアナログポートフォリオを活用しているため、同社のノウハウとアプリケーション知識を得ることができます。
高精度広帯域幅信号チェーンは、高精度のAC/DC測定と駆動性能を実現します。3つのブロック図(電流・電圧、電流・電圧駆動、光測定)は個別の信号チェーンを示しており、信号対ノイズ比(SNR)、DC直線性、セトリング時間性能、閉ループ/測定レイテンシ、全高調波歪み(THD)の測定値など、アプリケーション特有のさまざまな測定値の最適化が可能になっています。
光測定のブロック図(図1)は、フローサイトメトリ、分光分析、化学分析、分析機器のアプリケーションに対応しています。
図1: フローサイトメトリ、分光分析、または他の分析的測定アプリケーションのための高精度広帯域幅光測定ブロック図。(画像提供:Analog Devices)
このソリューションは、ADIの高精度トランスインピーダンスアンプ(TIA)、アナログフィルタリング、基準電源、A/Dコンバータ(ADC)を組み合わせたものです。
光測定
TIAは、フローサイトメトリ装置に適合するため、極めて低い入力バイアス電流、低ノイズ、非常に広い帯域幅が必要となります。この機能に適したアンプが、超低バイアス電流と4ギガヘルツ(GHz)のFET入力を備えたAnalog DevicesのLTC6268H-10オペアンプです(図2)。右側の図は、20キロオーム(kΩ)の帰還抵抗でTIAとして構成した場合の、このオペアンプの周波数応答を示します。
図2:LTC6268H-10アンプは、低入力バイアス電流、低ノイズ、広帯域幅であるため、TIAとして使用するのに適しています。(画像提供:Analog Devices)
図2において、光検出器(PD)は寄生容量を減らすために逆バイアスされており、寄生帰還容量(C)はプリント基板と帰還抵抗の寄生容量をキャプチャしています。LTC6268H-10オペアンプの入力バイアス電流が帰還抵抗に流れる際に、大きなDC誤差を生じないことが非常に重要です。LTC6268H-10では、この基準を満たすために、入力バイアス電流を±4pAと極めて低く抑えています。LTC6268H-10の低ノイズ仕様は、1MHzで4ナノボルト/ルートヘルツ(nV/√Hz)に相当します。
高速フローサイトメトリでは、信号経路デバイスに高速スルーレート用の広帯域幅が必要となります。この回路におけるLTC6268H-10の帯域幅は210MHzで、これは約1000ボルト/マイクロ秒(V/μs)のスルーレートに相当します。
最後に、最も重要な仕様であるノイズ密度は、ADCのノイズ密度の3倍以上低くする必要があります。LTC6268-10の入力ノイズ密度は、1MHzで4.0nV/√Hzです。オペアンプの帰還ループは、このノイズを増幅します。さらに、それを囲む20kΩの帰還抵抗も、アンプの出力でノイズを直接発生させます。
20kΩフィードバック抵抗のノイズ密度への寄与(VFB)は、高周波におけるTIAステージのノイズ寄与に最大の影響を与え、以下に等しくなります。
図2のブロック図における3番目と4番目の機能は、TIAの出力信号をデジタル表現に変換することです。3番目、4番目、および基準電源の機能を組み合わせることで、データ収集ソリューションが出来上がります。このソリューションは、フィルタ、ドライバアンプ、基準電源、ADCを統合したものです(図3)。
図3:ADAQ23876はデータ収集ソリューションであり、ゲイン1.38のシングルエンド入力構成として示されています。(画像提供:Analog Devices)
図3のAnalog DevicesのADAQ23876は、16ビット、15メガサンプル/秒(MSPS)の逐次比較レジスタ(SAR)ADCを搭載し、ゼロレイテンシの結果を提供します。入力の完全差動アンプ(FDA)は,RINが1,407Ω、CINが3.3ピコファラッド(pF)で、1次のローパスフィルタとなっています。
このシステムは、回路設計者が抱えるADCのドライバやレイアウトの課題を完全集積デバイスで内部的に解決して単純化します。このアプリケーションでは、ADAQ23876構成が単一の入力信号に対応し、1.38の内部ゲインを実装しており、標準的な信号対ノイズ比(SNR)は88.8dBです。
LTspiceシミュレーションによる回路解析
LTspiceは、グラフィカルな回路図キャプチャ機能を備えた高性能なSPICEシミュレータソフトウェアです。シミュレーション結果の回路図をプローブし、LTspice内蔵の波形ビューアで探索することができます。
多くの場合、回路のノイズ応答は、特定の回路図に含まれる各部品のノイズの合計となります。LTspiceのノイズ解析機能により、ノイズ応答を導き出すことができます。このブログでは、フォトダイオード、TIA、データ収集ソリューションモデルによる光測定回路を使用して、デモを行います(図4)。
図4:このシミュレーションモデルでは、LTC6862-10 FETオペアンプとADAQ23876データ収集ソリューションを使用して、ノイズ応答を生成します。(画像提供:Analog Devices)
図4において、フォトダイオードモデルは、OptoelectronicsのFCI-125G-006 1.25ギガビット/秒(Gbit/s)シリコンセンサを表しています。FCI-125G-006の逆バイアス寄生容量は、0.66pFです。TIAの最適なシングルアンプであるLTC6268H-10は、10ボルト/ボルト(V/V)超の閉ループゲインで安定し、-40℃~125℃の広い温度範囲仕様を備えています。
ADAQ23876には、システムインパッケージ(SIP)技術を採用することで、よく使用する複数の信号処理/調整ブロックを1つのデバイスに統合し、システムの部品点数と設計の複雑さを軽減しています。
光測定のノイズ結果
回路全体のADC分解能を確認するには、ACスイープ/ノイズシミュレーションが役立ちます。このシミュレーションでは、寄生容量と寄生抵抗を考慮し、アプリケーションの周波数スペクトル全体にわたる完全なノイズ結果を生成します。アプリケーション回路全体(ADAQ23876 + LTC6268 + FCI-125G-006)の全周波数スペクトルのノイズ寄与は、124.49マイクロボルト(µV)rmsと表示されています(図5)。
図5:ADAQ23876 16ビットADCとLTC6268 TIAのノイズが、両デバイスの合計ノイズとともに表示されています。(画像提供:LTspice、Bonnie Baker(ボニー・ベイカー)氏)
ユーザーがプロットの上部にある曲線名をCtrlキーを押しながら左クリックすると、シミュレーションの周波数スペクトル全体におけるRMSノイズ寄与の合計が表示されます(図6)。
図6:曲線下エリアの総ノイズ量は、シミュレーション周波数範囲とデバイスのノイズ発生量に依存します。Ctrlキーを押しながら左クリックするだけで、このRMS値が表示されます。(画像提供:LTspice、Bonnie Baker(ボニー・ベイカー)氏)
周波数スペクトル全体におけるADAQ23876のノイズ発生量は、71.79μVRMSに相当します。このプロットにおいて、ADCの1MHzでのスポット電圧ノイズ寄与は、約12nV/√Hzです。曲線上にカーソルを置くと、左下に帯域幅1Hzのスポットノイズが表示されます。
LTC6268の出力ピンにおける周波数スペクトル全体のTIAノイズ寄与は、100.28μVRMSです。TIAの出力における1MHzでのスポットノイズは、約18.5nV/√Hzとなります。
そして、最も重要な質問は、システム全体の分解能の観点から見て、これが何を意味するかということです。
まとめ
測光系の計測器では、フォトダイオード、LTC6268などのTIA、ADAQ23876 16ビット、15MSPS μModuleを組み合わせることで、高精度・高速・完全なデータ収集システムを簡単に設計できます。この組み合わせをさらにLTspiceシミュレーションツールと併用することにより、フローサイトメトリなどの高精度アプリケーションにおいて、面倒なノイズ計算や高速プリント基板のレイアウト、チップ数の問題から設計者が解放されます。
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