ミネソタ大学とDigiKeyが新型コロナウイルス患者に使う人工呼吸器を迅速設計
ミネソタ大学とDigiKeyは、新型コロナウイルスに苦しめられている人々を助けるため、迅速かつ安価に製造できるシンプルで必要最小限の人工呼吸器を、共同で速やかに設計、提供できるようにしました。これは、Dyson、Medtronic、Ford、GE、GM、その他同種の企業で進められている多くの取り組みの1つであり、世界中の医療施設の最前線で奮闘している人々に患者のニーズを満たすことができるという希望をもたらすものです。
ミネソタ大学の人工呼吸器(図1)がコンセプトから現実のものに急速に変化した過程は、危機の時代における創意あふれる構想と分野をまたぐ企業間協力のすばらしい物語です。これは多くの中の一例に過ぎませんが、以下のようにして始まり、進められてきました。
図1: ミネソタ大学がDigiKeyと共同で開発した人工呼吸器の設計は、3月15日頃に始まりました。(画像提供: アーロン・タッカー氏、ミネソタ大学)
ミネソタ大学麻酔科フェローであるスティーブ・リチャードソン博士は、生物医学エンジニアの友人や民間企業から装置やリソースを調達して、3月15日頃に低コストの救急人工呼吸器を作りはじめました。
リチャードソン博士は、1950年代の教科書で当座の間にあうシンプルな人工呼吸器にはどの種の設計が適すかを調査する一方、友人の一人である生物医学エンジニアにそのプロジェクトを話し、大学の手術室に赴いていくつかのアイデアを試しました。そのわずか数時間後には、シンプルながら十分に機能し、役目を果たすであろう試作品を手にしていました。
博士は複数の企業に電話し、自分が新型コロナウイルスの拡大中に役立つこのシンプルな人工呼吸器に取り組んでいる麻酔科医であることを告げ、CEOと話をすることを希望しました。博士は、民間企業各社から装置製造とエンジニアリングの専門知識に関する支援を受けました。
米国食品医薬品局(FDA)が承認すれば、リチャードソン博士はきわめて迅速に生産拡大を開始できます。ほんの3週間程度のうちに数千台を生産できそうです。コストは標準的な病院用人工呼吸器に比べてほんのわずかで済みます。
一部の人が「安物の」人工呼吸器を装着されるのはご免だというのを耳にしたことはあります。私は個人的に、その時がきたら全く何もないよりはシンプルな必要最小限のものを使いたいと思います。
ご覧のように、リチャードソン博士の設計は多くの救急車で使われているものと似ています(図2)。しかし、人が袋部分を手で押して患者に空気を送ることで生命を維持するのではなく、ポンプ動作は電子制御により機械的に行われます。
図2:この新型人工呼吸器は救急車で一般的に使われる手動の人工呼吸器に似ていますが、ポンプ動作は機械的に行われます。(画像提供: Ambu USA)
この投稿に関する調査の過程で、私はEarl E. Bakken Medical Devices Centerのラボ管理者兼技術開発コーディネータであるアーロン・タッカー氏と連絡を取ることができました。タッカー氏は機械工学の博士論文提出志願者で、リチャードソン博士の計画に取り組んでいます(図3)。
図3:ラボ管理者兼技術開発コーディネータであるアーロン・タッカー氏と人工呼吸器の試作品(画像提供:アーロン・タッカー氏、ミネソタ大学)
アーロン・タッカー氏は、その計画やDigiKeyの関わり方、計画の進み具合に関する手短な質問に快く応じてくれました。
スティーブ・タラノビッチ:必要な部品を仕入れるのにDigiKeyを選んだのは、どのような理由でしょうか。また、仕入れ先として利用するのはDigiKeyだけですか。
アーロン・タッカー氏:私たちはこの数週間、DigiKey、Teknic、Protolabs、Electronic Systems Inc.、MGC Diagnosticsを含む多数の企業およびミネソタ大学医学部と緊密な共同作業をしています。
DigiKeyの場合は、既にその膨大なJIT(ジャストインタイム)対応能力について知っており、早くからランドール・レスル氏とよい関係を築いていました。DigiKeyのこの数週間の対応の速さはすばらしく、最初の試作品25台は同社なしにはできなかったでしょう。
スティーブ・タラノビッチ:これらの組み立てはどこが行うのですか。組み立てる場所はどこですか。
アーロン・タッカー氏:私たちは、地元ミネソタ州にある多数の医療機器企業と協力し、州内にある各企業の施設で製造と組み立てを行います。
スティーブ・タラノビッチ:コストはどうですか。それは誰が支払うのでしょうか。
アーロン・タッカー氏:製造可能性の設計レビューが完了するまで、コストについてはまだ不確かです。
スティーブ・タラノビッチ:どれだけの生産数を予定しているのでしょうか。
アーロン・タッカー氏:この人工呼吸器に対する需要はまだ不明です。米国だけで数十万台に上るという予測もあります。常に変化する状況であるため、私たちの目標はきわめて迅速に数千台を供給し、その時点で米国での需要を再評価することです。
スティーブ・タラノビッチ:この設計を他に供与して、これらの生産を助けられるようにする予定はありますか。たとえば、他の大学に。
アーロン・タッカー氏:私たちは、ミネソタ大学を通してオープンソースライセンスを設定することを計画しています。それほど高価でなく、高機能でもない装置を備えた施設でも製造できる設計を提供したいのです。できれば、使える資本設備の少ない他国で製造できるようになる設計までたどり着ければよいのですが。
スティーブ・タラノビッチ:量産時には装置を完成させるのにどれだけの時間がかかるのでしょうか。
アーロン・タッカー氏:それについては、来週中にわかると期待しています。
スティーブ・タラノビッチ:完成品の検査は誰が行いますか。試験はどのように行うのでしょうか。
アーロン・タッカー氏:製造企業が試験と検査を実施します。
人工呼吸器の設計を推進
図4:DigiKeyの販売マネージャであるカリ・ジェスムによれば、同社の販売、エンジニアリング、付加価値、流通、アプリケーションサポートの各チームが、ミネソタ大学や他の多くの組織と協力して、全国の人工呼吸器に対するニーズに対応しています。(画像提供:DigiKey)
DigiKeyの視点では、この共同作業は最前線のヘルスケア従事者への支援を、地元であるシーフリバーフォールズにおける地域支援活動による直接的な方法と、人工呼吸器の開発に取り組んでいるミネソタ大学のチームや他の多くの組織に電子部品、ハードウェア、必要としている技術サポートを提供するという間接的な方法の両方で行うという、進行中の取り組みの一部です。
「DigiKeyは、可能な限り多くの人々を支援できるように、既存のお客様、仕入先および社内チームで調和を図りながら多くのことを実施しています」と、DigiKeyのアメリカ中部およびメキシコ担当販売マネージャであるカリ・ジェスムは語ります(図4)。
「当社の販売チームは、全国の人工呼吸器に対するニーズに対応している多くのお客様と共同で作業をしてきました。その中には、平時からこれらの装置を製造している企業もあれば、自ら進み出て目標を支援するためにその施設を使用しているミネソタ大学や他の多くの組織も含まれます」
これは、世界中で起きている急激な変化を反映した、大規模で全社的な取り組みなのです。以下にその例を挙げます。
- DigiKeyの付加価値部門は、一度に1万個以上におよぶ多数の注文に対応するためにケーブルアセンブリを製造しています。
- サプライヤチームは、仕入先と連携して追加のニーズに対応するための部品供給を維持すべく尽力しています。また、これらの装置に大量に使用される部品をさらに多く入手すべく、日々の交渉を行っています。
- エンジニアリングチームは、必要な場合に代替部品を見つけることや、あるいは追加の供給元を提供し、完成した設計で支援するために、多数の経路や機会を活用することに力を入れています。
- また同じチームが、既存の設計となんらかの新しい設計でお客様を支援し、設計から生産への迅速な(ときには数日以内の)移行ができるように手助けしています。
「動作する人工呼吸器のサンプルを本日までに得るため、先週末に部品を必要としているお客様がありました」とジェスム氏は語ります。「私たちはPDC(製品ディストリビューションセンター)と協力して昨日注文を受けることができ、お客様が来社して部品を受け取ったため、本日、お客様は動作するサンプルを得ることができました。お客様は、当社AE(アプリケーションエンジニア)の一人と緊密に連携して部品の選定に取り組んだのです」
そのような製品には、ケーブル関連と電源、エンコーダ、コネクタなどがあります。
「当社の(部品)在庫配置、付加価値サービス、当社がビジネスにおいて仕入先とお客様の両方と維持している関係と共に、当社のすばらしい製品ディストリビューションチームと、このまさに必要な時に待ち望まれている部品を届けるために当社がロジスティクスパートナーとの間に維持している関係によって、このパンデミックとの戦いに微力ながら貢献できることをたいへん感謝しています」
大量の人工呼吸器を供給することに取り組んでいる多数の企業の中には、掃除機で有名なDysonも含まれています。創業者のジェームズ・ダイソン氏は、英国のボリス・ジョンソン首相から支援を求める電話を直接受けました。その後10日以内に、ダイソン氏のチームはCoVentの設計を終えました。現在、世界的で大規模な人工呼吸器の開発に取り組んでいる他の企業には、数社を挙げるだけでも、Medtronic、Ford、GE、GMなどがあります。
結論
私は、世界的な大危機の最中に支援の手を差し伸べようと進み出たこれらの医師、エンジニア、技師、メーカー、流通企業などの創造性と設計共同作業をたいへん誇らしく思います。ウイルスは事業計画も国境も構わず、家庭生活を破壊し、この時期に非常に多くの人々を危険に陥れています。しかし、私たちが人としての在り方について見直し、そのことに感謝する最良の機会にもなっているのです。
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