高電圧受動素子の勘所をつかむ
多くの設計者はレール数が1桁の低電圧システムに注目していますが、設計作業の目に見える重要な部分が今や、ますます多く高電圧の世界に移行しています。もちろん、高電力を効率よく供給するのに必要な高電圧は、従来から使用されていました。しかし現在、各種電気自動車(EV)や再生可能エネルギー、それらに関連する蓄電システム、さらにはエネルギー効率化などに大きな注目が集まっているため、数百ボルト以上で動作する電源レールや部品のニーズが高まっているのです。
高電圧設計の多くは、回路図上では、電圧が低い以外は共通の要素を持つ設計と似ていますが、数ボルト・数ワットの充電式バッテリサブシステムを製作するのと、600~800ボルトで動作し、数キロワットを供給して数メガジュールを蓄える電気自動車のパワーパックなどとでは、大きな違いがあります。MOSFETなどの能動部品だけでなく、抵抗、コンデンサ、コンタクト、コネクタなど関連する受動部品にも高電圧に対応した定格が必要になるのです。
つまり、低電圧回路の控えめな基本指針が当てはまらなくなるのです。それどころか、高電圧回路は、アーク放電、スパーク、絶縁破壊、コンタクトのフレッティング、材料劣化が発生するなど、容赦ない世界なのです。材料選定、部品選定、および物理的配置で間違いを犯すと、コストがかかるだけでなく、しばしば危険です。また、再設計は、一見些細なことに見えても、詳細な設計の見直しが必要となり、時間がかかってフラストレーションが溜まります。
高電圧設計の影響
高電圧設計の影響は、実際にはどうなのでしょうか。まず、高電圧の世界には絶縁や分離などの要件を定めた規格が数多くあり、電圧が数百ボルト、数千ボルトと高くなるにつれて、規格がますます厳しく、準拠するのが困難なものになってきます。このような規格としては、政府系の規制機関によって公布されたものもあれば、業界団体によって策定されたもの、また、設計上の優れた実践によって策定されたものもあります。
最も具体的な要件の一つは、最小限のクリアランスと沿面距離に関するものです。この要件が効いてくるのは、動作電圧が30V ACまたは60V DCを超える場合です。このような電位は危険な可能性があると見なされるためです。クリアランスは2つの導体間の空気中の最短距離であり、沿面距離は絶縁材料の表面に沿った最短距離です(図1)。
図1:高電圧レイアウトでまず検討するのは、2つの導体間の空気中の最短距離であるクリアランスと、絶縁材料の表面に沿った最短距離である沿面距離です。(画像提供:Altium Limited)
プリント回路基板は、材料、電圧、環境条件に応じて、最小クリアランスおよび沿面寸法に関するレイアウト要件が異なります。IEC 60601およびIPC 2221規格は、さまざまな電圧およびシナリオでの導体間の間隔に関する主要なガイドラインですが、アプリケーションに特化した追加のガイドラインも数多くあります。既述の基本的な要件のほかにも、絶縁タイプや厚みなど、材料の規定を行う規格があります。ここでも、「UL認証済」と「UL認定済」の違いなど、微妙な違いがあります(「関連コンテンツ」をご覧ください)。
部品も根本的に異なる
設計が高電圧の分類に見合った沿面距離とクリアランスなど物理的な規制基準をすべて満たしている場合でも、適切な部品表(BOM)を作成するためにやるべきことはまだたくさんあります。数百ボルトの電圧で機能して稼働し続ける抵抗は、わずか10~20ボルトの安全な領域で使用する抵抗とは、まったく異なるものです。設計、材料選定、製造プロセス、全体的なパッケージなど、あらゆる面で異なっています。
たとえば、Vishay Daleの自動車用認定(AEC-Q200)薄膜高電圧抵抗TNPVシリーズ(例:330キロオーム(kΩ)のTNPV1206330KBYEA)は、1000ボルトまで動作するように設計されています。このシリーズは、高電圧の正確な測定を主目的としているため、高度な材料、構造、レーザートリミングを使用しており、仕様もかなり厳しいものとなっています。厳しい仕様の例としては、1ppm/V未満の低電圧係数、±0.1%という小さな許容差、±10ppm/⁰Cと低い抵抗温度係数(TCR)があります(図2)。
図2:TNPVシリーズの抵抗は、特殊な材料、設計、製造の組み合わせにより、要求される高電圧動作と許容差を実現します。(画像提供:Vishay Dale)
Vishayでは、「細かいトリミングが抵抗素子のセグメントに沿った電圧勾配を低減し、高電圧での安定性を高めるのに役立ちます」と述べています。このチップ抵抗器は、3216(メトリック)パッケージに収められた、その他の点では普通の外観でありながら、そのような先進的な設計と構造により、アプリケーションの安定性と正確性を実現しています。
コンデンサについても、状況は似ています。例として、電気自動車やハイブリッド車のパワー半導体を保護するKyocera AVX FHCシリーズの300マイクロファラッド(μF)フィルムコンデンサFHC16I0307Kについて考えてみましょう。このコンデンサは、半導体を保護するのに、DCフィルタリングを行い、リップル電流が電源に逆流するのを防ぐとともに、DCバス電圧の変動を平滑化します。
FHC16I0307Kは、AEC-Q200およびIEC61071-1/IEC61071-2(パワーエレクトロニクス用コンデンサ向けの規格)に準拠し、115℃までの動作条件で非常に高い絶縁耐力を持つように特殊処理が施されており、樹脂が充填された金属化プラスチック製の矩形ケース(寸法:237 x 72 x 50mm)に収容されています(図3)。これは450ボルトのDC動作に対応したものです(非常に一般的なのは低電圧用の300μFのフィルタコンデンサですが)。このコンデンサは、オイル不使用で、セグメント化された金属化ポリプロピレン製の構造を採用しているため、管理された自己回復作用を特長としています。
図3:バルクコンデンサFHC16I0307Kは、車載用に設計されています。定格電圧は450V DCであり、金属化ポリプロピレン構造を使用し、金属化プラスチック製のケースに収納されています。(画像提供:Kyocera AVX)
また、セグメント化された金属化技術の比類ない特長は、コンデンサが寿命の終わりに動作する仕方にあります。このフィルムコンデンサは、短絡故障する電解コンデンサとは異なり、静電容量のパラメータ損失が発生するだけで、壊滅的な故障モードにはなりません。その代わり、本コンデンサはその寿命全体で正常に、つまり徐々に静電容量を失い、最終的には開回路となります。
まとめ
高電圧の回路図は低電圧の回路図と似ていますが、数百ボルト以上の高電圧システムに関わる設計者は、規制だけでなく、レイアウト、構造材料、部品選定、最終部品表に関しても多くの興味深い課題を扱おうとしていることを十分に認識しておく必要があります。ご説明してきたように、設計者が適切な能動素子や受動素子を選定するには、データシート、ベンダーの説明、部品のパラメータに細心の注意を払う必要があります。また、念のため、設計の詳細についてサプライヤと話し合っておくこともお勧めします。
関連コンテンツ
Triad Magnetics、「UL Listed vs. UL Recognized: What's the Difference?(UL認証済とUL認定済の違いとは?)」
https://info.triadmagnetics.com/blog/ul-listed-vs-ul-recognized
Vishay Intertechnology、「An Overview of High-Voltage Resistors from Vishay Dale(Vishay Dale製高電圧抵抗の概要)」
https://www.vishay.com/docs/49601/_high_voltage_resistors_vmn-sg2087-1612.pdf
Vishay Intertechnology、「Thin Film High-Voltage Resistor Product Overview(薄膜高電圧抵抗製品概要)」
https://www.vishay.com/docs/48637/_tnpv_ppt_product_overview_nov2018.pdf
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