軽量化に関する考慮事項

「軽量化」は機械設計の分野で注目されている話題です。軽量化とは、簡単に言えば、有限要素設計(FEA)などのさまざまなCAD/CAEツールを使用して設計をモデル化およびシミュレートしたのち、材料を選択的に取り除いたり薄くしたりして、シミュレーションを再実行し、設計が依然として成立しうるかどうかを確認することです。目標は、材料を最小限に抑え、できれば生産を簡素化して原料費を削減しながら、サイズと重量を低減することです。

より口語的に言うと、基本的に問題が生じない限界にできるだけ近いところまで対象を切削するということです。原則的には、これはすばらしい考えです。結局のところ、重量とコストの削減はほぼすべてのプロジェクトにおいて優先事項であるからです。

こうした強力なシミュレーションツールやモデリングツールが登場する前の「古き悪しき時代」では、設計者は「万が一に備えて」安全域を確保するために少しばかりの余分を残すか、あるいは追加することすらありました。彼らは分析、判断、経験を組み合わせて使用し、こうした余分なものが必要になる可能性のある場所を決定していました。しかし、現在は、ツールで問題ないという結果が出ていることを根拠に、このようなマージンを最小限に抑えなければならないというプレッシャーがあります。

しかし、問題はないのでしょうか。設計者なら誰もが知っていることですが、シミュレーションはモデルのできを越えることはあり得ず、そしてモデルは必ず前提や単純化を内包しているものです。このことは、FEAの専門家および講師であるDigital Engineering社のTony Abbey氏が記した最近の記事「FEAのデモとベンチマーク」で非常に明確に説明されています。

彼は、多くのFEA設定で広く使用されているある種の標準的な構成では、「小さなこと」を簡略化することで構築と分析を楽にしているが、それにより分析の信頼性に重大な影響を及ぼすであろうという具体的な例を挙げています。

もちろん、こうした弱点に陥りやすいのは機械設計だけではありません。接合部、ブラケット、または部材の破損ほど劇的ではないだけで、電子設計にも同様の問題があります。たとえモデルに何らかの形で正直に見込みの余裕が含まれていたとしても、それらに対してどのように値を割り当てますか。これらの値は時間や温度とともに変化しますか。通常の材料や製造上のばらつきに起因する公称からの偏差にはどのようなものがありますか。適切に考案された設計のMonte Carloシミュレーションを使用したとしても、可能な限りあらゆるばらつきでシミュレーションを実行することはほぼ不可能です。

図1:避けることのできない抵抗器の放熱によってその温度が上昇し、それにより実際の抵抗が公称値から変化します。グラフでは、抵抗器の放熱がその定格パワーレベルに近づくにつれて温度が急激に上がることを示しています。(画像提供:TT Electronics

モデルの信頼性はRFの問題だけではなく、DCの問題でもあります。通常はミリオームの範囲にある、おなじみの電流検出抵抗器について考えてみましょう。原則として、これは短い銅線を使用することで実現できます。この抵抗器は機能しますが、自己発熱および結果として生じる銅の抵抗の変化が原因で、適切に機能するのはあまり長い時間ではありません。塩基性銅がもつ抵抗の温度係数(TCR)は約4,000ppm/°Cであるため、わずか50°Cの上昇にさらされた1ミリオーム(mΩ)抵抗器はすぐに1.2mΩ抵抗器になり、20%シフトします(図1)。

熱的効果を考慮せずに電子的なパフォーマンスのみを見て検証される設計は、ひいき目に見てもあまり良くありません。電子分析、磁気分析、熱分析、および機械分析の連結とクロスモデリングを可能にするComsolなどのマルチフィジックスツールがある場合でも、こうした相関関係に関する洞察力が必要になります。

Vishay Daleなどの特殊コンポーネントのベンダーが複合材料やプロセスに基づいて特別な低TCR抵抗器を提供しているのはこのためです。たとえば、パワーメタルストリップ抵抗器のWSBS8518シリーズのTCRは±110~±200ppm/°Cですが(公称抵抗値によって異なる)、WSLPシリーズはさらに良くなり、TCRは±75ppm/°Cまで下がります。他の供給者から提供されている、TCRが1桁の高度に特殊化された抵抗器もあり、ハイエンドの計測アプリケーションを対象としています。

一般に、設計者として多少の謙虚さをもつことは良いことです。自分のモデリングがまったく問題ないということが本当に間違いなく分かっているのでない限り、設計に少しの余裕を追加するようにしてください。放熱計算によって0.22ワットの抵抗器が必要であると分かった場合、おそらくちょうど対応する¼ワットの抵抗器を使用するのではなく、½ワットの抵抗器を選択する必要があります。モデリングが行われるようになって間もない頃の設計者は、自分たちがすべてを把握しているわけではないことを認識していたため、極端な軽量化を追求するのではなく、パフォーマンスと安全性を実現するために十分なマージンを日常的に追加していました。

現在は、強力なツールやモデルによって設計者がすぐに自信過剰になり、実際よりもわかっているような気になり、そのような行動をとってしまう可能性があります。現実的には、モデルおよびシミュレーションに対する自分の自信の度合いを考慮したうえで、それを設計やBOMに組み込むことが非常に賢明な戦略です。

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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