先進的な材料により、高周波衛星通信の要件に対応したバンドパスフィルタを実現

衛星通信(SATCOM)は、より広い帯域幅とより高レベルのスループットを求めて、高周波数帯域へと移行しています。従来のL帯域(1~2GHz)、C帯域(4~8GHz)、X帯域(7~11GHz)の帯域幅はすぐに使い切ってしまうため、設計者は混雑度の低い空域を確保できるKu帯域(12~18GHz)以上の帯域に注目しています。設計者・技術者が衛星通信の性能向上に努める一方で、営利事業者はより軽量で小型の宇宙船をも求めるようになっています。

図1:地球の軌道が混雑し始めているため、技術者は他の衛星からの干渉を回避する、より高い周波数帯域に注目しています。(画像提供:Knowles DLI)

衛星通信システムの重要な要素は、RF信号の送受信に使用されるアンテナアレイです。アレイの各要素は、ミニアンテナのような役割を果たします。アンテナアレイは、高ゲイン、信号対ノイズ比(SNR)の向上、ダイバーシティ受信の強化などの性能向上をもたらすため、従来のパラボラ衛星アンテナに取って代わる存在になりつつあります。それでもなお、パラボラ衛星アンテナは、信号フェーディングを克服するのに役立っています。さらに、パラボラ衛星アンテナは、アンテナ放射パターンのサイドローブが小さくなることで、送信ビームの操舵性と、特定方向からの受信信号に対する感度が向上します。

これに対し、最新のアンテナアレイは、さらに性能を高めるために位相シフトを使用しています。以前は、衛星が軌道上を移動する際に、アンテナアレイを機械的に再調整してビーム送信の方向を変える必要がありました。現在は、フェーズドアレイアンテナが、コンピュータで計算された各アンテナ素子間の位相差で送信を行い、個々の素子の送信に建設的干渉を誘発して、特定方向の信号を強化します。

このように性能が向上しただけでなく、高周波での運用やフェーズドアレイにより、アンテナの小型・軽量化が可能になりました。これは、通信衛星のサイズ、重量、および電力(SWaP)を低減するのに役立ちます。

フェーズドアンテナのアレイでは、アレイ素子の間隔を動作周波数の波長の2分の1未満とする必要があります。これは主に、アンテナの送信パターンで電力を浪費するサイドローブ、いわゆる格子ローブを回避するためです。周波数が高くなると波長が短くなるのが特徴です。たとえば、L帯域の中心波長は300mm、Ku帯域の中心波長は20mmのため、後者の各素子間のギャップはL帯域よりも短くなっています。また、機械的なステアリングシステムを取り除いているので、アンテナの体積がさらに減少します。

バンドパスフィルタ:衛星通信に不可欠な部品

バンドパスフィルタは、衛星通信アプリケーションにおけるスプリアス信号の低減、干渉コンプライアンスへの対応、システムノイズの最小化を実現します。これはフェーズドアンテナアレイでは難しい課題となります。理由は、衛星通信システムの高速通信能力を実現するために、精密なフィルタリングの必要性、スペースの制約、高周波動作、のためです。

技術者は、デバイスのQ値を見て、フィルタが持っている可能性のある性能を判断しています。Q値は、ソリューションが不要な周波数を遮断し、目的の周波数を通過させる効果を示します。隣接するチャンネルが相互に近接している環境では、特に設計者が利用可能な帯域幅を最大限に活用しようとする場合、高い選択性が重要になります。

Ku帯域の衛星通信バイパスフィルタリングには、実績のある商用オプションがいくつかあります。好まれるオプションには、誘電体導波管、金属導波管、プリント基板ストリップライン、低温同時焼成セラミック(LTCC)、薄膜マイクロストリップオンセラミックが含まれます。それぞれに長所と短所があります。たとえば、金属導波管は70GHz以上の周波数に最適なオプションですが、かさばる上に高価です。一方、誘電体導波管は小型ですが、最大30GHzまでしか動作せず、周波数許容誤差(目的の周波数からのずれを示す指標)が比較的大きくなります。

薄膜マイクロストリップオンセラミックバイパスフィルタは、Kuバンドで動作するフェーズドアンテナアレイに最も適した、オールラウンドなソリューションを提供します。特徴は、金属導波管に次いで高い周波数まで動作可能であること、最小で0.3~0.5%の周波数許容誤差を実現していること、次に小さいオプション(LTCC)の半分未満のサイズであること、アンテナ内でアレイ素子のすぐ後ろに(プリント基板ストリップラインおよびLTCCと共に)組み込み可能なことなどです。

難問を解決する新材料

誘電体の選択は、セラミックバイパスフィルタ上のマイクロストリップの性能にとって非常に重要です。従来、小型フィルタで高いQ値を実現することは非常に困難でしたが、最新の高誘電率(K)材料でこの難問を解決しました。ただし、これらの材料の短所は、周波数許容誤差が大きいということです(特に温度が変動する場合)。しかも、真空の宇宙空間では温度変化は確実に大きなものとなります。

そこで、Knowles DLIの科学者たちの出番となります。同社には材料開発の歴史があり、高K誘電体の欠点を克服するマイクロストリップオンセラミックバイパスフィルタを内蔵した誘電体を製造してきました。この材料を使用して、同社は幅広い温度範囲で厳しい周波数許容誤差を実現した小型デバイスファミリを製造してきました。この誘電体は電力損失が少ないという利点もあるため、効率が向上し、温度安定性に貢献します。

Ku帯域での動作に適したこのファミリのフィルタの例として、B148QF0S 15GHzバンドパスフィルタがあります。このデバイスのサイズはわずか14 × 3.8 × 2.5mmのため、Ku帯域のアンテナアレイ素子間の間隔が半波長であるという厳しい制約の中で使用するのに適しています。

この製品は面実装パッケージで提供されるため、自動アセンブリが可能で、従来の衛星通信アセンブリのチップアンドワイヤまたはハイブリッド方式に比べて製造コストを削減することができます。また、SMDアセンブリは、市場投入までの時間を短縮するのに役立ちます。この製品のさらなる利点は、薄膜製造による再現性の高さから、デバイスのチューニングが不要になることです。

このフィルタは、Kuの公称帯域幅18 -12 = 6GHzに対して、実際の帯域幅が19.2 - 11.4 = 7.8GHz(fH - fLで定義、fLは低周波-3dB遮断、fHは高周波-3dB遮断)と、高い選択性を示しています。注目すべきは、低周波数と高周波数の遮断後、ローサイドまたはハイサイドの阻止点(B148QF0Sの場合は-40dB)に達するまで周波数応答がどれほど急速に低下するかです。高い選択性を示す勾配の数値は、15~20dB/decです。Knowles DLIのバンドパスフィルタは、約15dB/decの数値を実現しています(図2)。

図2: B148QF0Sマイクロストリップオンセラミックバンドパスフィルタの周波数応答。このデバイスは、衛星通信のKuバンド動作向けに設計され、15GHzの中心周波数、7.8GHzの帯域幅を備えています。(画像提供:Knowles DLI)

将来も継続して使用可能

やがては、Ku帯域も混雑し始めるでしょう。そのため、技術者は、K帯域(18~26GHz)おおよびKa帯域(26~40GHz)向けの衛星通信システムの設計をすでに開始しています。これは、Ku帯域フェーズドアンテナアレイ用のバンドパスフィルタの開発を牽引してきたSWaPの需要が、今後ますます高まるという意味です。朗報として、試作のマイクロストリップオンセラミックバンドパスフィルタが最大70GHzで動作することが検証されているほか、40GHzまで対応できる商用デバイスが既に入手可能です。したがって、これらの製品は、現在だけでなく将来の高度な衛星通信アプリケーションにも適したソリューションとなります。

まとめ

高K誘電体材料におけるKnowles DLIの研究により誕生した高いQ値のバンドパスフィルタを使用することで、設計者はKu帯域のニーズを満たすことができるだけでなく、低電力損失、効率向上、温度安定性の実現という追加のメリットをも手に入れることができました。このブレークスルー製品は、ちょうどKu帯域が混雑し始め、KおよびKa帯域への移行作業が始まるタイミングで誕生しました。その結果、新材料はより高い周波数でも動作するように最適化され、試作品は最大70GHzで動作するようになっています。

著者について

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スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

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