マイクロスイッチの巧妙な設計が従来のトレードオフを巧にバランスさせる
エンジニアリングの本質は、サイズ、重量、電力、コスト、性能、製造可能性といった属性間のトレードオフのバランスをとる技術と技能を兼ね備えていることです。小型部品と大規模システムの設計者は、この課題に直面しています。自動車の要件を満たすために小型スイッチのファミリを再設計した事例を詳しく見てみると、技術革新の焦点と設計および製造の微妙な部分が明らかになります。
自動車用リミットスイッチのジレンマ
モーメンタリコンタクトとラッチングスイッチは、基本的な単機能のデバイスであり、昔から存在しているため、設計や製造は簡単そうに見えます。しかし、電気的および機械的な多くの要件を満たし、信頼性が高く、大量生産が可能なスイッチを開発するのは意外に難しいものです。これらのスイッチは、サイズ、コンタクト定格、作動力、作動角度など、さまざまな要件を満たさなければなりません。
Omron Corp.の設計者が直面した課題は、自動車のドアが開いているか閉まっているかを知らせる小さなスイッチの開発でした。最近の自動車のドアはかつてないほど薄くなり、他の多くの機能が搭載されているため、小型の形状が不可欠でした。
その結果、押ボタンの動作はわずか数ミリメートルしかなく、スイッチ構造によりアクチュエータが押ボタンに接触しないようになっています。そうでなければ、通常のドアの閉まり方でスイッチが破損してしまうからです。過酷な使用環境における信頼性の問題や、IP67等級の防水、防塵性能の評価が、さらに問題を複雑にしています。
ここで求められるスイッチのタイプは、スナップアクションリミットスイッチと呼ばれています。このスイッチは内部の可動範囲が制限されており、感度が高く、調節可能なプランジャやロッド、トグル、アームレバー、ローラー、コーン、リーフ、ロータリアクチュエータ、スプリング、ウィスカ、ケーブルなど、多くのスタイルが提供されています。Omron D2SWファミリ(図1)のような今日のシール形超小型スイッチは、1930年代に開発され、現在も広く使用されている古典的なマイクロスイッチの進化形です。その内部設計と動作は、家電製品や卓上機器で使用されるオン/オフスイッチとは異なります。
図1:D2SW ファミリは、何十年もの間、設計者に役立ってきた古典的なスナップアクションリミットスイッチの1例です。(画像提供:Omron Corp.)
Omronのチームは、レバー付きの水平動作、レバーなし、角度のついたカム付きなど、既存のスイッチの動作の仕組みを検討しました。それぞれに利点がありましたが、スイッチボタンを押す際の角度オフセット、物理的な容積、長期的な摩耗点などに関する許容できないトレードオフもありました。
新しい考え方が道を示す
自動車ドア(およびその他)のニーズを満たす、より小型で信頼性の高いリミットスイッチを設計するという課題を克服するために、Omronの設計者は、NO D2EW-B03Hや補完的なNC D2EW-B02Lなどのノーマリオープン(NO)およびノーマリクローズ(NC)スイッチのD2EWファミリ(図2)で革新的なアプローチを採用しました。これらの小型のシール形スイッチは、複数の方向と角度で操作することができます。
図2: 革新的な設計により、超小型シール形スイッチのD2EWファミリを複数の作動角度から操作することができます。(画像提供:Omron Corp.)
Omronのチームは、三角形のボタンを使用することで、スペースを必要とするレバーなしで水平方向の操作が可能になることに気づきました。そして、ボタンの傾きの最適な角度を決定し、上から確実に押せる形状を実現しました。これにより、傾斜した水平カムとそれに伴うスペースや複雑さが無くなり、最小限のストローク移動で開閉できるようになりました。
このボタン設計により、レバーなしで複数の角度から操作することができます。わずか数ミリメートルのストロークでコンタクトを水平方向に開閉でき(図3(上))、垂直方向から押しても操作できます(図3(下))。
図3:D2EWスイッチのボタンは、サイズとストローク距離を最小限に抑えるように設計されており(上)、上から、斜めから、左右から操作することができます(下)。(画像提供:Omron Corp.)
IP67規格に対応
当然のことながら、この新しいボタンの形状は新たな問題を引き起こしました。三角形の変わった押ボタンを気密封止することは非常に困難でした。従来の丸型押ボタンは、熱カシメ加工が施されており、樹脂リブがボタン側に傾斜し、ゴムキャップに食い込ませて締め付けられます。しかし、D2EW押ボタンは丸型押ボタンの約4倍の体積があるため、ゴムキャップのサイズも大きくなり、樹脂壁を設けるスペースがありません。
解決策は分析と試行錯誤を組み合わせるものでした。設計者は、ケースとゴムキャップをスナップフィットで密閉することにしました。ゴムキャップは、IP67の要件を満たすのに十分な圧力でケースとカバーの間に挟み込まれます。しかし、圧力をあらゆる方向に均一にかけることができる円形のキャップとは異なり、このキャップの楕円形の底面形状により、密閉性にばらつきが生じました。これを克服するために、チームはボタンの軸をできるだけ円形に近づける形状を考案しました。また、荷重のばらつきを補正するために、ゴムキャップの形状とゴムの厚みを調整しました。数か月にわたる試行錯誤の末、最適な形状にたどり着きました。
内部にも変化があります。D2EWデバイスには、底面にスライダ付きの押ボタンがあり、ボタンを押すとスライダが横にスライドします。これは、一体で動く従来の押しボタンとスライダとは異なります。接触面を一体化することで、部品点数を最小限に抑えながら、接触面を開閉できる組み立てやすい構造を実現しました。
まとめ
D2EWファミリのボタンキャップと内部設計は独自かつ革新的であり、わずか数ミリメートルの作動距離にもかかわらず、真直ぐな押し込みだけでなく、あらゆる角度からの押し込みにも対応しています。この設計により、今日のより薄く、より複雑化した自動車のドアに最適なだけでなく、同時にドアが勢いよく閉じられたり、過酷な状況にも耐えることができます。
Have questions or comments? Continue the conversation on TechForum, Digi-Key's online community and technical resource.
Visit TechForum

