シングルボードコンピュータを使用したIIoTエッジコンピューティングプラットフォームの製作

著者 Barry Manz(バリー・マンズ)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

クラウドベースのデータセンターは産業用モノのインターネット(IIoT)にとって重要なリソースであり、スケーラブルな大容量ストレージ、処理、解析、セキュリティに対する定期的な注意、継続的な機能更新を提供します。しかし、クラウドにすべてを頼ることにはいくつかの短所もあります。たとえば、プロセスやモーション制御などのミッションクリティカルな機能には、クラウド/エッジ間の遅延が大きすぎる場合があります。また、データがハッカーに見られる恐れがあり、大量のデータ伝送はすぐに通信リソースの負担になりかねません。これらの問題に対する解決策は、できるだけ多くの処理と解析をエッジで行うことです。

このIIoTエッジ処理に向けて、シングルボードコンピュータ(SBC)を利用したコンピューティングプラットフォームが、設計者にとってコスト効率が良くサポートの行き届いたソリューションとして多数登場しています。組み込みシステムのメーカーは、この新市場に高速メモリ、ソリッドステート大容量ストレージ、複数のオペレーティングシステム、高度なセキュリティ、数十本のGPIOピン、その他多くの機能をサポートした64ビットプロセッサSBCを投入しています。

この記事では、エッジにおけるSBCの必要性と、IIoTの自社エッジコンピューティングのための選択および組み込み方法について検討します。次に、AdvantechDigiUDOOVersaLogic各社のSBC、およびRaspberry Piを紹介し、これらを使用して設計者がIIoTエッジ環境に合わせたコンピューティングソリューションを作成する方法を示します。

IIoTにSBCを使う理由

IIoT設計者にとってのSBCの大きな利点は、プラットフォーム全体構成の柔軟性と、その時点で必要なものだけを選択し、かつ専用設計PCによくあるプラットフォーム全体の解体なしにスケーリングすることが可能であることです。もう一つの利点は、システムをゼロから設計することによって、将来、さらに多くのコンピューティングリソースのニーズが拡大するにつれて不可欠になる知識を獲得できることです。

SBCには、対象として設計されているアプリケーションと同様にさまざまなものがあります。たとえば、防衛および航空宇宙のシステムには、3Uおよび6UのフォームファクタのSBCが使用されることが多く、通常はOpen VPX規格に基づいています。それらのホストプロセッサは通常、ハイエンドのIntel製プロセッサであり、ハードウェアアクセラレータとしてXilinxVirtexファミリのFPGAまたはGPU(Graphics Processing Unit)、さらに12ビットおよび16ビットのA/Dコンバータ(ADC)とD/Aコンバータ(DAC)、大容量DDR4メモリを備えています。また、バックプレーンはPCIe Gen 4の多数のレーンと、Rapid IOやPCIeなどのスイッチファブリックで構成されています。もちろん、これらの機能にはコストがかかります。

規模の点で対極にあるのは、DIY向けまたは「工作者」向けSBCであり、Raspberry Pi、Arduino、その他のプラットフォームの大人気により世界中で数百万台売れています。こちらははるかに安価ですが、それでも一連のセンサをSBCに接続し、適度な処理を実行して、その結果を1台以上の高性能SBCを使用したオンサイトまたはエッジのコンピュータに送信します。このことでシステムの部品点数は明らかに増えますが、エッジセンサデバイスのクラスタにインテリジェントな能力を加えることで、エッジコンピュータを局所的に使うだけでなくエッジでなんらかの意思決定が可能になるため、元が取れる場合があります。

防衛/航空宇宙用とDIY用の中間には産業用アプリケーション向けのSBCが位置し、これらはRaspberry PiおよびArduinoをサポートしている場合もありますが、Arm® Cortex®ファミリまたはミッドレンジのIntel製Coreモデルの製品であるホストプロセッサを搭載し、非常に優れた性能と堅牢な環境特性を備えています。これらは6平方インチ(in2)未満の基板サイズでミッドレンジのラップトップコンピュータと同等の性能を有し、DDR3またはDDR4のメモリ、あるいは設計者が選択するメモリが搭載されます。

他の標準機能には、SPIおよびSPXのサポート、ギガビットEthernet、LVDS(Low-Voltage Differential Signaling)およびPCIe、TPM(Trusted Platform Module)を含む多種のセキュリティ、オーディオおよびビデオの入出力、8~12個のUSBポート、2チャンネルおよび4チャンネルのSATA 3.0ストレージのサポートなどがあります。代表的なアクセサリは、クーラーやケーブルおよび各種の取り付け具などです。多くの製品は、ボードが非対応の通信規格に対応したドーターカードを接続でき、4Gセルラーの場合もあります。それらのメーカーは、開発ボードや試作キットなどの充実した技術リソースも提供しています。

AdvantechのAIMB-581WG2-00A1Eは、Intel製プロセッサを採用したSBCの好例です(図1)。この9.6in2のボードは、最上位でXeon E3-1275およびCore i7-2600のIntel製プロセッサを搭載し、最大32GBのDDR3メモリをサポートしています。もう1つの例であるUDOOのSC40-2000-0000-C0-Vは4.72in2のボードで、AMDのクワッドコアで2GHzのRyzen Embedded V1605B CPUをベースとし、AMDの8GPUグラフィックアクセラレータRadeon Vega 8で補完されています。最大32GBのDDR4-2400メモリと、各種大容量ストレージのオプションをサポートできます。

Advantech製シングルボードコンピュータAIMB-581WG2-00A1Eの図図1:AdvantechのSBCであるAIMB-581WG2-00A1Eは、SBCが極小フットプリントでどのように重要機能と拡張性を兼ね備えているかを示しています。(画像提供: Advantech)

他の多くの産業用SBCとは異なり、VersaLogicのLiger VL-EPM-43SCP-08では、Windowsオペレーティングシステムと同様にLinuxを使用しています(図2)。スタッキングボードで機能を追加するPC/104-Plus 4.2 x 3.7インチのフォームファクタに準拠しており、PC/104のそれ以前のバージョンとは異なりISAバスだけでなくPCIバスにも対応しています。VL-EPM-43SCP-08は、2.8GHzのIntel製CPUであるCore i7-7600Uを搭載し、8GBのDDR3メモリ(16GBまで拡張可能)とSATA 3.0大容量ストレージが対応しています。他のインターフェースとしては、1つのmicroSDスロット、1つのI2Cインターフェース、選択可能なRS-232、RS-422、RS-435、2つのmini DisplayPort、1つのHDMI出力などがあり、表示解像度は最大4096 x 2304です。このボードは、衝撃および振動に関するMIL-STD-202G要件も満たしています。

VersaLogicのVL-EPM-43SCP-08 SBCの画像図2:VersaLogic製SBCのVL-EPM-43SCP-08は、WindowsとLinuxが動作でき、PC/104-Plusのフォームファクタに準拠しています。(画像提供: VersaLogic)

Digiは少々異なるアプローチを取り、同社のConnectCore 6というシステムオンモジュールを使用しています。これは、アプリケーションプロセッサをArm Cortex-A7コアと共に単一のデバイスに統合したNXP Semiconductorsi.MX6UL-2プロセッサ系列がベースになっています(図3)。

DigiのConnectCore 6 SIM(システムインモジュール)の図図3:ConnectCore 6 SIM(システムインモジュール)はSBCのほぼすべての機能を単一のデバイスに統合したもので、NXPのアプリケーションプロセッサiMX6UltraLiteがベースになっています。(画像提供: Digi)

ConnectCore 6 SIMのCC-SB-WMX-J97Cバージョンは、4.7in2のサイズでBluetooth 4およびWi-Fi、同社のDigi XBee無線(IEEE 802.15.4規格準拠)、オプションのセルラーコネクティビティを提供し、ギガビットEthernetと多数のディスプレイ、カメラ、拡張コネクタをサポートしています(図4)。

DigiのCC-SB-WMX-J97C SIMの画像図4:CC-SB-WMX-J97C SIMは多数の無線規格ならびに同社のXBee無線をサポートしており、サイズは4.7in2です。(画像提供:Digi)

SBC選択の考慮事項

既存のIIoTシステムの場合、設計工程の最初のステップは、企業のエッジにおける現在のニーズとそれが将来どれだけ増加する可能性があるかを評価することです。将来については、リソースが必要になる速さを正確に知ることは不可能であるため、事実の言明というよりは想定です。とはいえ、IIoTを実装したほとんどの企業の経験によれば、ニーズの把握は当初になされるため、最善のアプローチは時の経過に伴う要件の拡大を想定することです。

次のステップは、有線、無線のコネクティビティ、大容量ストレージのサポートに加え、ディスプレイやオーディオ、ビデオの駆動に必要な入出力、パネル照明、スピーカなどに必要な基本的リソースを決定することです。IIoTに必要な性能を持ったSBCは通常、これらの機能をすべて備えているため、これは一般的に難しくありません。

もう1つの考慮すべき要因は、拡張ボードによってボードに機能を追加できることです。たとえば、一般にWi-FiおよびBluetoothのトランシーバがボードに搭載されていますが、多くのIIoTシステムではZigbee、あるいは他の近距離無線規格、さらには無線キャリアによって提供されるLoRaWAN、Sigfox、ナローバンドIoT(NB-IoT)などのLPWAN(Low-Power Wide Area Network)技術を使用します。

ソフトウェア側については多くのオペレーティングシステムの選択肢があり、それらのほとんどはRaspberry Piの公式OSであるRaspbianまたはLinuxの各種バージョンがベースです。Arduinoの統合開発環境(IDE)は、Windows、macOS、Linuxに対応しています。Windows 10はRaspberry Piに対応していないため主流ではありませんが、最近になってIIoT向けにこのオペレーティングシステムに対する関心が高まっています。

最後に、システムを設置する環境の条件を考慮しなければなりません。堅牢なエンクロージャ、あるいは防水性および汚れや衝撃、振動に対する耐性が必要な場合があります。

SBCクラスタへの移行

これらのSBCは有用ですが、設計者がシングルボードで達成できることには限界があります。しかし、アプリケーションの規模が拡大するにつれて、ボードも対応させることができます。SBCのクラスタは、ロスアラモス国立研究所とNASAおよび他の機関によって、マイクロスーパーコンピュータを製作するために構築されました。SBCクラスタは、40ノードのRaspberry Pi 3 Model Bクラスタで実証されたように、IIoT設計者にとって手の届かないものではありません(図5)。この40ノードクラスタは40台のRaspberry Pi 3 Model Bを使用しており、20GBのメモリを備え、最大12TBの大容量ストレージをサポートできますが、サイズはわずか9.9 x 15.5 x 21.8インチです。

40台のRaspberry Pi 3 Model Bを使用した40ノードクラスタの画像図5:この40ノードクラスタは40台のRaspberry Pi 3 Model Bを使用しており、20GBのメモリを備え、最大12TBの大容量ストレージをサポートできますが、サイズはわずか9.9 x 15.5 x 21.8インチです。(画像提供: LikeMagicAppears!)

このようなシステムは組み込みシステム開発者の関心を引きつけるはずであり、Raspberry Piおよび他のアーキテクチャを土台としてIIoTエッジコンピューティング向けの強力でスケーラブルなSBCクラスタがどのように構築できるかを示しています。このアプリケーションに対しては、Raspberry Pi Model 3B+が良い出発点になります。従来のクラスタと比べてSBCクラスタは、非常に小型、低コストで消費電力が控え目であり、エッジの制約に適しています。

さまざまな手法が、限られたスペースで超高性能を達成するために実証されました。たとえば、Pi Stack技術はDC電源を単一点からクラスタに導入して、クラスタ全体に電力を分配します(図6)。そうすることでケーブルを削減し、より多くのRaspberry Piボードを所定のフットプリントに収めることができます。ノード間の通信は、SBCが備えているEthernetインターフェースを使って実現されています。

Pi Stackの構成手法で構築されたSBCクラスタの図図6:Philip Basfordらによって示されたPi Stackの構成手法で構築されたSBCクラスタ。(画像提供:Future Generation Computer Systems)

SBCクラスタに関して最も特筆すべき点は、低コストですぐに入手可能なSBCと電源および種々の周辺機器を使用して、極めて高度な性能を実現できることかもしれません。IIoT向けエッジコンピューティングにおいて、このコンセプトは比較的新しいものですが、真剣に検討するに値します。

結論

IIoTアプリケーション向けに設計されてますます増加しているSBCは、エッジコンピューティングプラットフォームの構築を課せられた設計者にとって非常に魅力的なソリューションです。電源、エンクロージャ、いくつかの周辺機器と組み合わせると、非常に小さなフットプリントで多様な動作環境のニーズにコスト効率よく合わせ、規模を調整できます。

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著者について

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Barry Manz(バリー・マンズ)氏

Manz Communicationsの創設者であるBarry Manz氏は、27年以上にわたって電子機器分野でライター活動を続けています。氏の提供する記事や他のさまざまな解説は、高度に技術的なメッセージを伝え、多くの企業に先行きの見通しを示唆しています。執筆範囲は、製品関連の技術的見解、アプリケーションタイプの記事、データシート、パンフレット、カタログ、その他の資料と多岐にわたっています。

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