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MEMS加速度計を使用したIIoTベースの予知保全向けセンサを素早く展開

著者 Richard A. Quinnell(リチャード・A・クィネル)氏

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

振動センサを使用した機械の状態モニタリングは、産業用モノのインターネット(IIoT)(またはインダストリ4.0)の予知保全の目標達成における重要な要素です。このモニタリングにより、応急修理を行いながら、生産停止の原因となる可能性がある壊滅的な機能停止が発生する前に、製造設備で機械的な問題を特定および解決することができます。設計の面では、圧電(PE)振動センサを使用する従来型のアプローチは、部品表(BOM)のコストに加えて配線の費用がかかり、導入が複雑であることから展開が制限される可能性があります。

コストを低減して展開を単純にするには、従来のアプローチに代わる容量性マイクロメカニカルシステム(MEMS)センサの使用が、設計者にとっての検討候補となるでしょう。こうしたセンサは最近の性能向上によってPEセンサと匹敵する水準に到達しているにもかかわらず、コストは安く、統合性に優れ、CMOSを基盤としているため、産業上の耐性についての利点を備えています。こうした向上には、統合型A/Dコンバータ(ADC)、フィルタ、内蔵の機械学習用構成ブロックなどが含まれます。これらの向上によってデバイスのコスト効率が高められ、幅広い導入が進むことになりました。

この記事では、振動モニタリング用途でのMEMS容量性加速度計の利点について取り上げます。また、Analog DevicesおよびSTMicroelectronicsのデバイスを例として紹介し、こうしたデバイスを、産業機械を対象とした包括的でコスト効率がよい予知保全センシングを目的とした広範なセンサネットワークとして、素早く展開するための方法について説明します。

振動を予知保全に利用する理由

振動は、産業機械の状態モニタリング、診断、そして予知保全の指標として長らく使用されています。たとえば、適切に処理されている正常なセンサは、負荷の不均衡、ミスアライメント、ボールベアリングの障害、振動の周波数のさまざまな振幅など、別の種類の障害モードが発生している可能性を示す問題の検出に使用することができます(図1)。

振動のさまざまな振幅および周波数のグラフ図1:正常なセンサおよび適切な処理により、負荷またはモータの不均衡やボールベアリングの障害のような問題および、別の種類の障害モードが発生していることを表している可能性がある振動を検出することができます。(画像提供:Analog Devices)

幸いなことに、振動モニタリングで使用されるセンサシステムを対象とした規格がすでに確立されています。その主な例が、ISO 2954:2012規格である「Mechanical vibration of rotating and reciprocating machinery-Requirements for instruments for measuring vibration severity(回転および往復型機械の機械的振動-振動シビアリティの測定用機器に対する要件)」です。このような機器の主要コンポーネントは加速度計です。ただし、一般的な設計ではセンサの信号が直接使用されるわけではありません。

現在のシステムでは、振動モニタリングの最初のステップは、ADCを使用して、加速度計の信号をデジタルドメインに取り込むことです。デジタル化されると、加速度計の測定は電気的ノイズに対する感度が大幅に下がり、精密なアナログ信号調整を行う必要がなくなります。振動モニタリングでは、次に未加工の加速度計データをフィルタリングおよび事前処理し、ノイズを削減して診断に有用な情報を抽出するための複数のステージが必要です。

加速度計の信号の事前処理要件

加速度計の信号は、まずハイパスフィルタ処理を行い、センサバイアスや重力効果などのDC要素を取り除く必要があります。フィルタリングされた信号は、2つの方法で使用することができます。1つ目は加速情報を直接処理する方法、2つ目は経時的にフィルタリングされた信号を統合することによって得られた振動速度を使用して処理する方法です。結果の速度信号もやはりハイパスフィルタ処理を行い、速度情報を分析する際に、システムの初期速度(積分定数)を把握する必要性を回避する必要があります(図2)。

バイアスを除去するために事前処理された、未加工の加速度計データの図図2:未加工の加速度計データは事前処理してバイアスを除去し、さらに振動速度の測定結果を得られるように統合することで、有用なモニタリングおよび診断情報を抽出できるようになります。(画像提供:リチャード・A.・クィネル氏)

アプリケーションによっては、さまざまな分析技術をこれらの加速および速度信号に適用して、機械の状態に対する有用な情報を抽出することができます。非常に一般的で広く使用されている技術には、振動の根二乗平均速度(RMS速度)を計算して、傾向を経時的に把握するという手法があります。機械が摩耗するにつれ、動くための空間は増えていき、振動の速度が上がる原因となります。RMS速度の傾向を監視して摩耗の指標を提供し、その指標を事前に設定した閾値と比較することで、保守が必要かどうかを判断できます。

加速度も、事前設定された閾値と比較することで、機械(特に回転機械)での屈曲や破損を検出することができます。このような瑕疵は、一般に信号の定期的な「スパイク」の形で現れます。加速度の経時的な増加や不安定な加速状況という傾向も、摩耗や損傷の指標です。

スペクトル分析でさらに詳細な情報を入手

高速フーリエ変換(FFT)を使用して、加速および速度のデータを時間の領域から周波数の領域へと変換することにより、機械の状態をさらに詳細に分析できるようになりました。たとえば、回転機械において、回転率に関する1つの周波数で強力な信号が見られるということは、屈曲シャフトで不均衡が発生していることを示しています。また、一般に発生する緩みやギアトゥースの破損は、高調波が多い信号に影響を与えます。低い周波数によって変調される振幅を表す強力な信号は、ギアメッシュの分析のための強力な診断手段になります。

こうした各種の診断技術を適切に使用するには、ソースデータを供給する加速度計がさまざまな要件に対応している必要があります。たとえば、帯域幅には、基本的なモータの回転に対する変調に加えて、高次の高調波を簡単にキャプチャできるだけの広さが必要です。通常、3600rpmで回転する同期ACモータおよびDCモータの範囲は10rpm~7000rpm以上にできるため、適切なセンサの帯域幅は、機械の設計に応じて0.1Hzの低さまたは5~10kHzの高さにすることが推奨されます。

また、感度も重要です。センサのサイズによっては、移動機械の状態モニタリングに利用できる取り付けポイントがハウジングのみにあり、振動の実際の発生源である機械内部から離れてしまうことがあります。この距離は、振動を減衰させ、信号を弱める原因になります。その結果、センサの信号と、センサからADCへの経路の両方について、ノイズを極力低くして、電気干渉(モータ巻線からのものなど)によって対象の信号が無力化されないようにする必要があります。

振動モニタリングセンサには、時間の経過や温度範囲に対して優れた安定性があることが求められます。診断手段としてRMSの速度を利用する場合、安定性は特に重要です。経時的な加速の読み取りまたは温度における変化は速度データを生成する統合の間に蓄積されていくため、傾向の測定精度が低下します。

こうした性能に対する要求に加えて、システム設計の観点から重要なセンサの特性も複数あります。監視対象の機械の配置に対する選択肢を最大化するために、センサは極力小型にする必要があります。機械の振動特性に大幅な影響を与えないようにするために、センサが軽量であることも重要です。

コストが高くノイズが少ない同軸ケーブルを使用してアナログセンサをデジタイザに接続する必要性を最低限にするために、産業の状態モニタリング用加速度計の大半では、ADC、通信回路、場合によってはデジタル信号処理がセンサモジュールに組み合わされています。このようなモジュールでは、小さなサイズと低電力の両方によってバッテリおよびワイヤレス動作を利用できるようになるため、配置がさらに単純になり、配線のコストや複雑性が軽減されます。センサモジュールの総コストを最小限にすることで、状態モニタリングのコスト効率性が向上され、予防的なメンテナンスを採用できる機会が増えます。

性能、コスト、統合の課題に対応するMEMS加速度計

CMOSの設計および製造技術の進歩により、MEMS容量性加速度計は、さまざまな産業用の状態モニタリングを対象とした性能やシステム設計の特性に対応できるようになっています。MEMS加速度計はCMOS集積回路の製造に対応したプロセスに従って製造されているため、従来の圧電加速度計に比べると大きな利点があります。MEMSデバイスでは、フルセンサモジュールの機能の多くをチップサイズのパッケージに統合することができるのです。

注意:ここで、非常に高い温度許容差が必要だったり、振動が50gを超えるようなアプリケーションでは、圧電センサが引き続き幅広く使用されていることを認識しておくことが重要です。

STMicroelectronicsのIIS3DWBTR3軸MEMS加速度計が良い例です(図3)。このデバイスでは、3つの超広帯域幅(6kHzへのDC)加速センサとADC、ユーザーが構成可能なデジタルフィルタチェーン、温度センサ、3キロバイトのFIFO、SPIシリアルインターフェースのすべてが、わずか2.5 x 3 x 0.83mmの大きさの面実装パッケージに組み込まれています。このデバイスは低電力で、2.1~3.6Vで稼働し、フル稼働中に消費されるのはわずか1.1mAです。5µAのスリープモードは、アクティビティが検知されると自動的に解除されます。また、このデバイスは堅牢で、動作温度範囲は-40°C~+105°C、耐衝撃性は10,000gです。感度を選択できるため(±2、±4、±8、または±16g)、さまざまなアプリケーションの要件に合わせて調整できます。

STMicroelectronicsのIIS3DWBTR CMOS MEMSの画像図3:CMOS MEMS技術により、STMicroelectronicsのIIS3DWBTRのような加速度計は、統合されたADC、デジタルフィルタ、FIFOメモリなどを小型で低電力のパッケージに組み込んで、振動モニタリングのコストを最小限に抑えることができます。(画像提供:STMicroelectronics)

IIS3WDBのようなデバイスの登場により、振動状態モニタリングを利用できる機会の範囲が変化しています。センサモジュールのあらゆる重要な特性を低いコストポイントで統合することで、このデバイスはBOMコスト全体を最小化して、さまざまな用途でのモニタリングのコスト効率を高めます。小さなサイズの3軸センシング(特定の方向付けの必要なし)により、機械内部に組み込むなど、センサの配置に関する選択肢が広がります。デジタルインターフェースにより、データの収集および分析用のホストプロセッサへセンサを接続するための配線がシンプルになると同時に、統合化された前処理とFIFOバッファによって、ホストとの通信に対する要求が少なくなります。電力に対する要求が少なくなることにより、バッテリ駆動が可能になります。

MEMSデバイスの設計により、統合面での可能性が広がります。たとえば、IIS3WDBTRとパッケージサイズが同じであるSTMicroelectronicsのISM330DHCXTRには、3軸の加速度計と6種類の角度でのモーションセンシングのための3軸ジャイロメータ、そしてIIS3DWBTRのすべての機能がパッケージされています。さらに、このデバイスはI2Cインターフェース、センサハブ性能、9キロバイトのFIFO、データ処理用のプログラム可能な有限ステートマシン、機械学習のためのコアブロックも備えているため、独自の設置環境に合わせて動作を適応させることができます。

モジュールとデータ処理の統合

条件がさらに厳しい用途では、処理能力を内蔵したMEMSセンサモジュールを、非常にコンパクトな形式で利用できるようになっています。たとえば、Analog DevicesのADIS16228CMLZ振動センサモジュールは完全な3軸対応で、ADCが統合された±18gのMEMS加速度計、周波数領域での振動分析のための512ポイントのFFTを備えており、それらすべてが15 x 24 x 15mmのハウジングに組み込まれています(図4)。このデバイスには6つのスペクトル帯域用のプログラム可能なアラームも用意されており、これらの帯域のエネルギーレベルに応じて信号に関する警告や故障の検出を行うことができます。

Analog DevicesのADIS16628 MEMS振動センサの画像図4:MEMS振動センサモジュールは内蔵のFFT処理機能および周波数ベースの故障検知(Analog DevicesのADIS16628と同様)を備えており、堅牢でコンパクトなハウジングで利用できます。(画像提供:Analog Devices)

MEMS技術により、±50 gまでに対応できる包括的なセンサシステムが実現されています。たとえば、Analog DevicesのADCMXL3021BMLZのセンサ帯域幅は10kHzであり、220キロサンプル/秒のADC、デジタルフィルタ、そしてユーザーが構成可能な時間およびFFTベースの条件付きアラームを備えています。こうした処理能力を内蔵しているにもかかわらず、このデバイスで一般に必要とされるのは3.3Vで30mAのみです。

このような包括的な振動センサシステムモジュールには、ユーザー構成可能な多数のオプションが用意されています。たとえば、事前処理のフィルタ帯域幅、FFT窓関数、周波数帯域の閾値、一時的な統計などの機能です。こうした機能を効果的に使用するために、ユーザーはシステムの特性と、利用する可能性がある多数の振動分析技術について詳細に理解していなければなりません。同様に、IIS3DWBやISM330DHCXのようなチップセンサを使用して独自の振動モニタリングシステムを作成しようとしている開発者は、対象となるシステムの特性と、使用する処理のオプションについて理解していることが要求されます。

評価キットで開始

このようなバックグラウンドの構築を開始するためには、STMicroelectronicsのSTEVAL-STWINKT1のような開発キットを開始点として使用するとよいでしょう(図5)。このキットモジュールには、IIS3DWBとISM330DHCXの両方に加えて、その他多数のセンサ、および追加処理に対応するための浮動小数点ユニットを備えたArm® Cortex®-M4プロセッサが用意されています。また、このモジュールには同梱のLiイオンバッテリから電源を供給することができ、内蔵のBluetooth Low Energy無線、そしてワイヤレス接続のためのWi-Fi拡張カードが用意されています。そのためこのキットは、現場環境でスタンドアロンの状態モニタリングセンサとして使用するのに最適です。

STMicroelectronicsのSTEVAL-STWINKT1開発キットの画像図5:STEVAL-STWINKT1のような開発キットは、開発者に対して評価のための加速度計やその他のMEMSセンサを提供するだけでなく、産業モニタリング用のスタンドアロンですぐに入手可能なモジュールとしての役割も果たします。(画像提供:STMicroelectronics)

このキットは、状態モニタリングおよび予知保全アプリケーションを開発するための包括的なファームウェアのセットによって完全にサポートされています。たとえば、時間の領域(RMS速度や加速のピーク)や周波数の領域における振動分析用のミドルウェアなどが含まれます。このソフトウェアは、センサデータおよびデバイスの状態をモニタリングするための、同社のDSH-PREDMNTのWebベース予知保全ダッシュボードとも互換性があります。開発者には、ソフトウェア設計作業のロードマップとして使用できる、サンプルの実装が提供されています。

結論

極端な温度への耐性が要求されたり、振動領域が50gを超えるアプリケーションでは電圧センサが広く使用されており、専用のADCおよび事前処理用のハードウェア(配線のコストと複雑さが伴う)のサイズと必要性は、従来は価値の高い機器のモニタリングの用途範囲に限定されていました。

設計者は、MEMS加速度計を小型でコスト効率のよい代替手段として使用することで、展開をシンプルにし、振動モニタリングの用途範囲を広げることができます。このようなデバイスの性能は強化され続けているため、MEMS加速度計を利用することにより、設計者は振動状態のモニタリングの利点と予知保全の利点を、あらゆるサイズの機械ですぐに利用することができます。

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著者について

Richard A. Quinnell(リチャード・A・クィネル)氏

Richard Quinnell氏は、エンジニアおよびライターとして45年の長きにわたり活動を続けており、さまざまな出版物でマイクロコントローラ、組み込みシステム、通信などのテーマを扱っています。技術ジャーナリストになる前は、ジョンズホプキンス大学の応用物理学研究所(JHU/APL)などで企業向けの組み込みシステム設計者およびエンジニアリングプロジェクトマネージャーとして10年以上を過ごしました。氏は電気工学と応用物理学の学位を取得しています。また、大学院では通信、コンピューター設計、量子エレクトロニクスを研究しました。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者