ソレノイドおよびステッピングモータのドライバを産業用アプリケーションに適応させる方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2024-02-07
工場現場の制御システム、自動車、実験装置などのエッジデバイスアプリケーションでは、低レイテンシでの意思決定、高性能、低コスト、安全性と生産性の向上を実現するために、モノのインターネット(IoT)と人工知能(AI)の機能をますます活用するようになっています。ソレノイドとステッピングモータ用のドライバは、この急速に進化する環境への統合を促進し、精度、信頼性、閉ループ制御、コスト、フットプリント、使いやすさをさらに向上させるために、より多くのオンボードセンシングとインテリジェンスを組み込んで進化する必要があります。
この記事では、ソレノイドとステッピングモータの基本的な動作をまとめ、インテリジェントエッジ向けに設計されたドライバICの利点を概説します。その後、Analog Devicesのサンプルドライバを使用して設計を開始する方法を紹介し、詳しく説明します。
ソレノイドとステッピングモータ:似て非なるもの
ソレノイドとステッピングモータは、電磁石として機能する巻線コイルを介して電流を物理的な動作に変換します。外観や機能には違いがありますが、コイルが共通であるため、状況によっては両方のアクチュエータに同じドライバICを使用することができます。
ソレノイドは比較的単純な部品で、電流を流すと直線的な機械的動作を行います。この部品は、円筒形チューブに巻かれた電気コイルと、コイル本体内で自由に動く中空コアにある強磁性アクチュエータ(プランジャまたはアーマチュアとも呼ばれる)で構成されます(図1、左)。
対照的に、ステッピングモータでは、モータ本体の円周上に複数のステータコイルを配置します(図1、右)。また、モータのローターには永久磁石が取り付けられています。
図1:ソレノイド構造は、巻線コイルと内部のスライド式プランジャで構成されています(左)。ステッピングモータはより複雑で、ローターに永久磁石、ステータに電磁コイルが配置されています(右)。(画像提供:Analog Devices、Monolithic Power Systems)
ソレノイドの場合、プランジャの動作は、電流が印加されてプランジャがその極端な位置まで閉じられたときに発生する単一の「パンチ」衝撃です。電源を切ると、ほとんどのソレノイドはスプリングを使用してプランジャを公称静止位置に戻します。
最も基本的な駆動方式では、鮮明なオン/オフ電流パルスによってソレノイドが制御されます。これはシンプルで直接的な反面、衝撃力、振動、可聴ノイズ、電気ノイズが大きい、電気効率が悪い、プランジャの動作や戻りをほとんど制御できないといった欠点があります。
ステッピングモータの回転動作は、ステータコイルが順番に通電され、その結果生じる回転磁界がアーマチュアマグネットを引っ張ることで作動します。シーケンシングを制御すれば、ステッピングモータのローターを連続回転、停止、または逆回転させることができます。
タイミングを考慮する必要のないソレノイドとは異なり、ステータコイルでは特に、正しいパルス幅で順次通電する必要があります。
限界を克服し、性能を向上させるスマートドライバ
インテリジェントドライバは、ソレノイドやステッピングモータのコイルを駆動する電流を、波形プロファイル形状、上下ランプレート、その他のパラメータを含めて注意深く制御することで、以下のような多くの利点を提供します。
- チャタリングを最小限に抑え、よりスムーズな動作と回転を実現
- 特にソレノイドの振動と衝撃を低減
- ステッピングモータの始動/停止/逆転動作のためのより正確な位置決め
- 安定した性能と一時的または変動的な負荷条件への対応
- 効率の改善
- 物理的な摩耗の低減
- 可聴ノイズと電気ノイズの発生減少
- IoT設置に不可欠な監視プロセッサとの容易なインターフェース接続
Analog DevicesのMAX22200は、統合型シリアル制御ソレノイド/モータドライバで、洗練されたドライバがソレノイドに対して何ができるかを示すものです(図2)。この36ボルトICにある8個の1Aハーフブリッジドライバは、パラレルにして駆動電流を2倍にすることも、フルブリッジとして構成して最大4個のラッチバルブ(双安定バルブとも呼ばれる)を駆動することもできます。
図2:Analog DevicesのMAX22200は、さまざまな構成で配置できる8個のハーフブリッジドライバを備えた統合型シリアル制御ソレノイド/モータドライバです。(画像提供:Analog Devices)
このドライバは、電圧駆動安定化(VDR)と電流駆動安定化(CDR)という2つの制御方式をサポートしています。VDRでは、デバイスはパルス幅変調(PWM)電圧を出力し、そのデューティサイクルはSPIインターフェースを使用してプログラムされます。出力電流は、特定の電源電圧とソレノイド抵抗のプログラムされたデューティサイクルに比例します。CDRは閉ループ制御の一形態で、統合されたロスレス電流センシング回路が出力電流を感知し、内部のプログラム可能な基準電流と比較します。
単純化された電流ソースドライバとは異なり、MAX22200は電流駆動プロファイルを調整することができます。ソレノイド駆動アプリケーションの電源管理を最適化するために、励磁駆動レベル(IHIT)、ホールド駆動レベル(IHOLD)、励磁駆動時間(tHIT)をチャンネルごとに個別に設定することができます。また、以下のような複数の保護機能や障害関連機能も備えています。
- 過電流保護(OCP)
- オープン負荷(OL)の検出
- サーマルシャットダウン(TSD)
- 不足電圧ロックアウト(UVLO)
- プランジャ移動の検出(DPM)
最初の4つの機能は標準的なもので、よく理解されています。DPMにはさらに説明が必要です。たとえば、ソレノイド制御のバルブでソレノイドが作動したときにバルブが正常に動作する場合、電流プロファイルは単調ではありません(図3、黒い曲線)。その代わりに、プランジャの動きによって発生する逆起電力(BEMF)による降下が見られます(図3、青い曲線)。
図3:ソレノイドを駆動する場合、MAX22200は、ソレノイドが開始電流(ISTART)から最終励磁駆動レベル(IHIT)まで駆動されるときに、予想されるBEMF駆動電流降下対閾値(IDPM_TH)を調べることで、スタックしたソレノイドまたはバルブを検出できます。(画像提供:Analog Devices)
ソレノイド用にセットアップして使用する場合、MAX22200のDPM機能は励磁フェーズ中のBEMF降下の存在を検出します。降下が検出されないと、FAULTピンと内部フォールトレジスタに表示がセットされます。
プロセスを容易にする評価キット
さまざまな静的および動的要求と負荷条件下でのシステム性能に関する問題を解決するために、Analog DevicesはMAX22200用ソレノイド制御電源管理評価ボードMAX22200EVKIT#を提供しています(図4)。この評価キット(EVK)により、MAX32625マイクロコントローラを介して、オンボードUSB~SPIインターフェースによるMAX22200のシリアル制御と障害監視が可能になります。MAX22200 ICの機能を実行するためのWindows互換のグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)が含まれており、完全なPCベースの評価システムとなっています。
図4:MAX22200用ソレノイド制御電源管理評価ボードMAX22200EVKIT#は、WindowsベースのGUIを使用して、ICとその負荷の完全な実行を容易にします。(画像提供:Analog Devices)
このフル実装のテスト済みボードは、ハイサイド/ローサイドソレノイドとして、またラッチバルブ(ソレノイドで駆動されることが多い)やブラシ付きDCモータ用として構成可能です。
ステッピングモータ:制御の自由度の向上
ステッピングモータはソレノイドよりも複雑で、制御要件も多くなります。これは、Analog DevicesのTMC5240の機能に表れています(図5)。これは、シリアル通信インターフェース(SPI、UART)、広範な診断機能、組み込みアルゴリズムを備えた統合型の高性能ステッピングモータコントローラ/ドライバICです。
図5:TMC5240高性能ステッピングモータコントローラ/ドライバICは、ソレノイドやステッピングモータで最適な性能を発揮するための高度なアルゴリズムを内蔵しています。(画像提供:Analog Devices)
このICは、柔軟な8点ランプジェネレータを組み合わせ、自動ターゲット位置決めにおけるジャークを最小限に抑えます。ジャークは加速度の変化率であり、過度のジャークは多くのシステム問題や性能問題を引き起こす可能性があります。このステッピングモータドライバは、0.23Ωのオン抵抗と非散逸統合電流センシング(ICS)を備えた36ボルト、3AのHブリッジを内蔵しています。TMC5240は、5 × 5mmの小型TQFN32パッケージと、露出パッド付きで熱的に最適化された9.7 × 4.4mmのTSSOP38パッケージで提供されます。
TMC5240は、高精度、高エネルギー効率、高信頼性、スムーズな動作、クールな動作を可能にする独自の高度な機能を実装しています。これらの機能には以下が含まれます。
- StealthChop2:モータの動作音や停止音が聴こえないようにするためのノイズのない高精度チョッパアルゴリズムにより、さらにシンプルなStealthChopよりもモータの加速と減速を高速化
- SpreadCycle:最高にダイナミックな動きを実現する高精度なサイクル毎の電流制御を実現
- StallGuard2:SpreadCycle用のセンサレスストール検出と機械的負荷測定を提供
- StallGuard4:StealthChop用のセンサレスストール検出と機械的負荷測定を提供
- CoolStep:StallGuard測定を使用して、モータ電流を最適な効率に調整し、モータとドライバの発熱を最小化
これらの機能はあらかじめ設定し、モータの運転サイクル中に呼び出すことができます。さらに、トルクを加速度と連動して制御することで、効率的でスムーズな加減速を行いながら、望ましい値を得ることができます。
たとえば、3つの加減速セグメントのセットは、低い速度でより高い加速値を使用することによってモータのトルク曲線に適応させる、または1つの加速セグメントから次の加速セグメントに移行する際のジャークを低減させるという、2つの方法で使用することができます。この両方に対応するため、TMC5240の8点モーションプロファイルジェネレータは、コントローラが等速セグメントを維持しながら、希望する目標位置がリアルタイムで変化できるようにします。これにより、バンプレスモードの転送を実現します(図6)。
図6:TMC5240は、8点のランプ波形でオンザフライの目標位置変更をサポートし、バンプレスモードの転送を実現します。(画像提供:Analog Devices)
このドライバICの柔軟性、汎用性、複雑さを考えると、TMC5240-EVAL評価ボードはありがたい付属品です(図7)。ICの標準的な回路図を使用し、ソフトウェアにはいくつかのオプションが用意されているため、設計者はさまざまな動作モードをテストすることができます。
図7:TMC5240-EVAL評価ボードと関連のGUIを使用することで、設計者はTMC5240の性能を調査し、特定のアクチュエータと負荷の組み合わせに対して調整することができます。(画像提供:Analog Devices)
評価や設計の要件がそれほど複雑でない設計者向けに、Analog DevicesはTMC5240-BOBも提供しています。この基本的なICブレイクアウトボードは、TMC5240の物理的なピン接続を、ユーザーがアクセス可能なヘッダ列へと導きます。
まとめ
ソレノイドやステッピングモータのドライバにインテリジェンスを追加することで、より優れた制御と障害検出を提供し、リアルタイムの意思決定が可能になります。さらに、より高度な制御やAIベースの生産性システムとの通信を実現できます。Analog DevicesのMAX22200やTMC5240のような高度に統合されたドライバにより、ユーザーはソレノイドやステッピングモータの性能をアプリケーションに最適化するための高度なアルゴリズムを素早く立ち上げて実行することができます。
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