8ビットおよび12ビットの各オシロスコープの基礎と最新の12ビットオシロスコープの使用法

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

設計者やテスト/測定技術者が、振幅の大きな信号が存在する状況で微小信号を観察するために、ダイナミックレンジの広い測定をすることが必要な用途が多数あります。電源の安定性保証、レーダやソナーなどの音響定位および測距システム、核磁気共鳴(NMR)や磁気共鳴撮像(MRI)などの医療用撮像システム、超音波を利用した非破壊検査は、そうした種類の用途に含まれます。

オシロスコープは、もちろんシステム開発や試作の段階でこれらの測定を行う場合に頼りになる装置ですが、主としてオシロスコープのフロントエンドの垂直分解能によって制限されます。たとえば、8ビットオシロスコープのダイナミックレンジは256:1であるため、1Vのレンジでの理論上の最小信号は3.9mVです。3.3Vバス上のミリボルトレベルのリップル信号を観察する場合には、さらに高い感度と広いオフセットレンジが必要です。また、回路への負荷を防ぐために減衰の大きなプローブを使う場合は、オシロスコープの入力が減衰するため、計測器が高分解能でなければ測定が困難になります。

問題は、大きな信号やオフセットの存在する状況で高い感度を得るには高分解能のオシロスコープが必要であり、そのような装置、とりわけ入力ノイズが小さく高品質の製品は高価であることです。高分解能でもノイズフロアが低くなければ使い物になりません。

設計者や開発者が必要とするのは、フロントエンドのノイズフロアが低く、手頃な価格の12ビットオシロスコープです。フロントエンドが低ノイズで高分解能、そして低価格というこのニーズに対する1つの解決策は、Teledyne LeCroyが提供するWaveSurfer 4000HDシリーズの高分解能オシロスコープです。この記事では、ハイダイナミックレンジ測定の難しさと高分解能オシロスコープの役割、そしてハイダイナミックレンジ測定に高分解能オシロスコープを効果的に使う方法を説明します。

オシロスコープの垂直分解能

オシロスコープの垂直分解能とは、オシロスコープが扱える最大の入力信号と検出可能な最小の信号振幅との比のことです。分解能は、一般にA/Dコンバータ(ADC)のビット数で数値化されます。分解能は、2のビット数乗に等しくなります。したがって、8ビットADCの分解能は、28 (= 256) :1です。12ビットADCの分解能は4096:1であり、これは8ビットADCの16倍です。

長年、デジタルオシロスコープの広帯域幅オシロスコープは8ビット分解能でした。これは、ビット数で表した分解能がADCの最大サンプリングレートに反比例するという、ADCにおける設計上のトレードオフのためです。およそ8年前、Teledyne LeCroyは、高分解能(HD、High Definition)オシロスコープと称した12ビットオシロスコープを業界に先駆けて発売しました。同社は最近、このHD製品のラインナップにWaveSurfer 4000HDシリーズを加えました。このシリーズには、帯域幅が200MHz、350MHz、500MHz、1000MHzという4種類のオシロスコープが含まれています。全機種とも、毎秒5ギガサンプル(GS/s)でサンプリングを行います。これは12ビットオシロスコープとしては非常に優れた値です。混合信号の内部デジタル入力、DVM、ファンクションジェネレータ、周波数カウンタのオプションが用意されており、多機能計測器として使用することが可能です。本ファミリでは、これらすべてを12ビット分解能と手頃な価格で提供しています。

もちろん、オシロスコープの分解能を上げるには、単なるADCの変更だけでは済みません。高感度のADCがノイズでいっぱいにならないように、オシロスコープのフロントエンドの信号対ノイズ比(SN比)を高めることも必要です。フロントエンドが8ビットの12ビットオシロスコープは、8ビットオシロスコープでしかありません。しかし、WaveSurfer 4000HDのオシロスコープ ファミリは、HDのコンセプトを見事に実現しています。12ビット垂直分解能と低ノイズフロントエンドの組み合わせにより、実世界において、あらゆる振幅レンジで実際に8ビットオシロスコープの16倍の感度を持つ12ビット性能を発揮します。

12ビット測定と8ビット測定

HDオシロスコープは、ハイダイナミックレンジの波形が発生する測定用途向けです。これらは、振幅の大きな信号成分と小さな信号レベルが同時に含まれる測定です。超音波距離計のような用途を考えてみましょう。大振幅のパルスを送信し、目標からの小振幅のエコーを待ちます。大振幅の信号によって、オシロスコープに必要な垂直アンプの電圧レンジが決まります。分解能とシステムノイズによって、測定可能な最小のエコー信号が決まります(図1)。

12ビットおよび8ビットの各垂直分解能による超音波信号の画像図1:12ビットおよび8ビットの各垂直分解能による同一の超音波信号。一番上の出力は、2種類の分解能による各信号の全体のオーバーレイ表示。下の2つの出力は、上の波形の一部を拡大したもの。振幅の大きな信号成分を見ても差はほとんどありませんが、小さな信号では12ビットの利点が明確になります。(画像提供:DigiKey)

一番上のグリッドは、12ビットと8ビット両方の分解能による取得信号を重ねて表示しています。オーバーレイ表示した2つの波形では、差がほとんど見分けられません。真ん中のグリッドは、12ビット波形を縦軸と横軸の両方向に拡大表示しています。一番下のグリッドは、8ビット波形の同じ部分です。8ビット波形における低レベル信号の細部の喪失は明らかです。12ビット波形の信号には各ピークに明瞭な差があり、それらが8ビット波形で失われてしまっていることにも注意してください。

ハイダイナミックレンジ測定アプリケーション

ハイダイナミックレンジ測定には、レーダ、ソナー、LiDARなど、すべての反響定位および測距のアプリケーションが含まれます。NMRやMRIなど、多くの医療用撮像技術は同様の手法に基づいています。高レベルの送信パルスを人体で反射させ、エコーまたは送信信号による誘導放射を収集、解析します。同様に、非破壊検査(NDT、Non-Destructive Testing)などの超音波を使った技術では、反射した超音波パルスを利用して固体材料の亀裂や欠陥を発見します。

電源安定性の測定では、1~48Vまたはそれ以上のバス電圧におけるノイズやリップルのような小さなミリボルトレベルの信号を測定しますが、やはりハイダイナミックレンジのオシロスコープが必要です。

さらにシンプルな超音波距離計、つまり電子メジャーからの測定信号を考えてみましょう(図2)。この超音波距離計は、約16.8ms間隔で各測定用に5つのパルスを発します。Teledyne LeCroy製12ビットオシロスコープのWaveSurfer 4104HDは、これらのパルス間のデッドタイムを測定するのではなく、オシロスコープのメモリをユーザー選択のセグメント数(この例では5つ)に分割するシーケンスモード取得を行います。

Teledyne LeCroy製オシロスコープWaveSurfer 4104HDの画像(クリックして拡大)図2:40kHz超音波距離計の信号取得に使用した、Teledyne LeCroy製オシロスコープのWaveSurfer 4104HD。最上部に、約16.8ms間隔の測定用パルス5つを表示しています。(画像提供:DigiKey)

各セグメントは1つの送信パルスを取得し、トリガ時点のタイムスタンプを記録します。上側の出力波形は、セグメントごとに区切った取得波形です。ズーム波形(下のグリッド)は、選択したセグメント(この例では1番目のセグメント)を表示します。画面一番下の表は、各トリガの時間、セグメント1からの時間、セグメント間の時間を示すタイムスタンプです。送信パルスのピークツーピーク振幅は362mVですが、反射エコーのピークツーピーク振幅はわずか21.8mVです。これがハイダイナミックレンジ測定であるのは、この振幅の差のためです。この図では、画面上で確認できるエコー振幅を使っていますが、図1で確認したように、オシロスコープのピクセルレンダリングより振幅の小さなこの信号を12ビット分解能で捉えています。

電源安定性の測定を行う場合にも、ハイダイナミックレンジを備えたオシロスコープが必要です。リップル電圧の測定には、電源バスに乗ったミリボルトレベルの信号を測定できる必要があります。図3の例では、上側の出力波形で5Vバスのリップルを測定しています。リップル電圧は45mVpeak-to-peakで、4.98Vのバス電圧に乗っていることが、それぞれWaveSurfer 4104HDの測定パラメータP2およびP1で直接読み取れます。下側の出力はリップル電圧を高速フーリエ変換(FFT)したもので、基本成分が982Hzで高調波成分の多いスペクトルを示しています。

ドーターカード用5Vバスの電源安定性測定の画像(クリックして拡大)図3:ドーターカード用5Vバスの電源安定性測定で表示された、リップル電圧とリップルのFFT。(画像提供:DigiKey)

この用途では、高分解能であることに加え、十分なオフセットレンジのあるオシロスコープが必要です。この例のオシロスコープには、10mVスケールに±8Vのオフセットレンジがあります。オフセットレンジはオシロスコープの垂直レンジに伴って変化します。さらに大きなオフセットレンジが必要な場合、Teledyne LeCroyはオフセットレンジが30VのレールプローブRP4030を提供しています。レールプローブは、特に低インピーダンスの電源レールのプロービング用に設計されています。大きな組み込みオフセット、高入力インピーダンス、低減衰、低ノイズが特長です。このプローブは、帯域幅が4GHz、減衰が1.2、入力インピーダンスが50kΩです。

HDオシロスコープは、スイッチモードパワーコンバータ(SMPC)などの場合に必要となる、さらに高電圧の測定も行えます。SMPCには、電源、インバータ、産業用コントローラなどが含まれます。これらは、スイッチ波形のデューティサイクルまたは周波数の調整によって電力を制御します。電源測定には、パワースイッチングデバイス、通常は電界効果トランジスタ(FET)の両端電圧および通過電流が含まれます。SMPC測定を行う開発者を支援するため、Teledyne LeCroyはアプリケーションに応じたソフトウェアおよび電圧/電流プローブを提供しています。典型的な測定を図4に示します。

SMPCの損失特性評価の画像(クリックして拡大)図4:SMPCの損失の特性評価には、パワースイッチデバイスの電圧および電流の測定と、パワースイッチングサイクルの各段階における電力損失の計算が必要。(画像提供:DigiKey)

この電流(ピンクの出力)は、Teledyne LeCroy製電流プローブのモデルCP030Aを使用して測定したものです。このクランプオンプローブは、最大電流入力が30A、帯域幅が50MHzです。電圧波形(ベージュの出力)は、Teledyne LeCroy製高電圧差動プローブのHVP1306を使用して測定したものです。このプローブの定格は、120MHzの帯域幅でCATIIIの最大電圧が1000Vです。どちらのプローブもWaveSurferシリーズのオシロスコープが認識して、プローブのゲインおよび測定単位に合わせて測定波形の表示を自動的に調節します。

パワー測定ソフトウェアは、最も一般的なSMPC測定を自動化します。図4の黄色の出力は、計算したデバイス消費電力を示しています。これは、スイッチングサイクル全体の電流と電圧の波形から求めたものです。測定パラメータにより、取得波形に基づいてターンオン、導通、ターンオフ、オフ状態損失を区別し、各ゾーンをカラーオーバーレイで明確に区切って表示します。また、全ゾーンの総損失およびスイッチング周波数も表示します。図示したデバイス測定に加えて、他の測定機能で制御ループの動態、ラインパワー、効率などの性能特性を評価できます。

12ビット分解能は、パワーFETのドレインソース抵抗(Rds)を計算する場合のパワー測定にも有効です。これには、波形上の1~2V程度の電圧と、400V程度のピークツーピーク振幅の測定が必要です。WaveSurfer 4000HDシリーズは、そのオシロスコープの帯域幅範囲に適合するすべてのTeledyne LeCroy製プローブに対応します(図5)。

Teledyne LeCroy製オシロスコープWaveSurfer 4000HDの画像図5:Teledyne LeCroy製オシロスコープのWaveSurfer 4000HDは、ここに示すパワー測定関連プローブを含む同社プローブの広範なラインナップに適合します。(画像提供: Teledyne LeCroy)

「主力の」オシロスコープに、より高い基準を設ける各種アプリケーション

WaveSurfer 4000HDシリーズは、ハイダイナミックレンジの用途に限られるわけではありません。それ自体で優れたオシロスコープであり、「主力の」オシロスコープのさらに高い基準となる可能性があります。低速シリアルデータのトラブルシューティングに対する優れた選択肢であり、シリアルバス(SPI、I2C、UARTベースのリンクなど)、さらには車載用バス(LIN、CAN、FLEXRAYなど)に対応した解析パッケージおよびプローブが提供されています。

シリアルバスの解析には、バスプロトコルの取得およびデコードと、データ内容の読み取りができる必要があります(図6)。色分けされたオーバーレイにより、各パケットを示しています。赤のオーバーレイはアドレスデータを示し、青のオーバーレイはデータパケットを示します。アドレスおよびデータの内容は、オーバーレイ内に表示されます。デコード情報は、2進、16進、またはASCIIの形式で表示できます。ディスプレイ最下部の表は、トリガを基点とした時間、アドレス長、アドレス、方向(読み出しまたは書き込み)、パケット数、データ内容を示す取得トランザクションの要約です。トリガは、アクティビティ、アドレス、データ内容、またはアドレスとデータの組み合わせに基づいて行うことができます。

Teledyne LeCroyのアクティブ差動プローブZD200は、シリアルデータを測定するための優れた選択肢です。この10:1プローブは、入力インピーダンスが1MΩ、帯域幅が200MHzであり、差動電圧20Vまで、コモンモード電圧50Vまで対応できます。CANなどの差動バスに特によく適しています。

I2Cバスの低速シリアルトリガおよびデコードの画像(クリックして拡大)図6:I2Cバスの低速シリアルトリガおよびデコードには、バスのデータ内容を読み取れることが必要。画像は、読み書き両方の動作におけるI2Cバス信号の取得およびデコードをしているところ。(画像提供:DigiKey)

まとめ

8ビットオシロスコープの活躍の場がなくなることはありませんが、高分解能(HD)でダイナミックレンジの広い本物の12ビットオシロスコープの使用が望ましい用途はたくさんあります。しかし比較的高価であるため、多くの設計者やテスト技術者には手が届きませんでした。Teledyne LeCroyが提供するWaveSurfer 4000HDシリーズのオシロスコープは、はるかに低い価格により、そうした問題に対処する上で大きく役立ちます。

同シリーズは、12ビットの垂直分解能、5GS/sの最大サンプリングレート、低ノイズフロアにより、HD測定が可能です。Teledyne LeCroy製のプローブおよび解析ソフトウェアパッケージにも適合します。つまり、同シリーズは、コスト効率の良いハイダイナミックレンジ測定への扉を開き、従来のように研究室だけでなく、技術者の作業台や工場フロアでもそれを可能にする製品なのです。

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著者について

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Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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