新世代のPLCハードウェアで産業用オートメーションの課題に対処

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

産業用モノのインターネット(IIoT)を基盤とするオートメーションは、市場投入までの時間の短縮、生産性の向上、安全性の向上、コストの削減、品質の向上を約束します。とはいえ、まだ障害はあります。アップグレードが困難なレガシーシステム、過度に保守的なエンジニアリング部門、閉鎖的なシステム、専門知識の不足などは、インダストリ4.0革命を阻む問題の一部です。

適切な標準ベースの技術でコネクテッドファクトリのバックボーンが形成される一方で、多くのレガシー、つまり「主力製品」であるプログラマブルロジックコントローラ(PLC)のハードウェアとソフトウェアの機能は限られています。このため、IIoTを最大限に活用するのに必要な工場全体のアップグレードは、迅速に実装することが困難な課題となっています。さらに問題を複雑にしているのは、高価な工場アップグレードを実施する際の基盤となる技術が、今後新しい技術の導入によって時代遅れになったり、サポートされなくなったりするリスクがあることです。

他のIoTの分野から得られる教訓があります。たとえば、スマートホームでは、オープンシステム、共同プラットフォーム、アクセス可能なソフトウェアによって、将来性の高いインテリジェントなソリューションの実装が容易になっています。産業用オートメーションメーカーは、こうした経験や知識を活用しています。

この記事では、IIoT技術を展開する際の課題について簡単に説明し、オープンシステムとファクトリオートメーションハードウェアの進歩がどのようにソリューションを提供するかを説明します。また、Phoenix Contactの次世代PLCハードウェアおよびソフトウェアの実装例を紹介し、データの収集とクラウドへの送信を簡素化して分析と自動意思決定を行う方法を示します。

PLCの重要性

工場の主役はPLCです。PLCは、以前のリレー論理システムに代わるものとして1960年代後半に発明されたデジタルデバイスです。PLCは、厳しい環境でも何年も故障することなく動作するように設計されています。この信頼性の鍵は、シンプルさへのこだわりです。まれに何かが故障した場合でも、PLCはトラブルシューティングを行い、問題を修正するように設計されているため、大量生産を迅速に再開することができます。

このユニットは、入力モジュール(キーボード、スイッチ、リレー、センサなどのデジタルおよびアナログ入力デバイスからデータを受信)、電源、関連メモリを備えたプログラム可能なCPU、およびコネクテッドデバイスに情報を送信する出力モジュールで構成されています(図1)。

Phoenix Contactの堅牢で信頼性の高いPLCの画像図1:堅牢で信頼性の高いPLCは、ファクトリオートメーションのバックボーンです。(画像提供:Phoenix Contact)

従来のPLCは、IEC 61131-3で定義された5つの言語のいずれかを使用してプログラムされています。それらの言語には、インストラクションリスト(IL)、シンボリックフローチャート(SFC)、ラダー図(LD)、機能ブロック図(FBD)、ストラクチャードテキスト(ST)が含まれます。最も人気が高いのはLD(ラダー論理)で、リレー、シフトレジスタ、カウンタ、タイマ、数学演算などの機能を示すためにシンボルを使用します。シンボルは、望ましいイベントの順序に従って配置されます。

PLCメーカーは、産業用Ethernetの実装によって進歩したファクトリオートメーションに急速に対応し始めています。産業用Ethernetは、IP相互運用が可能な、最も広く使用されている有線ネットワーキングオプションで、ベンダーが幅広くサポートしています。産業用Ethernetは、堅牢なハードウェアと産業用標準ソフトウェアを特徴としており、ファクトリオートメーションにおいて実績のある成熟した技術です(図2)。ハードウェアは、Ethernet/IP、Modbus TCP、PROFINETを含む産業用Ethernetプロトコルによって補完されています。どのプロトコルも、産業用オートメーションアプリケーションの高度な決定論性を確保するように設計されています。(「産業用Ethernetベースの電力およびデータネットワークを使用した堅牢なIoTアプリケーション向けの設計」を参照)。

近代的な工場の通信バックボーンを形成している産業用Ethernetの画像図2:産業用Ethernetは、近代的な工場の通信バックボーンを形成しています。(画像提供:Phoenix Contact)

現在のPLCの多くは、Ethernetコネクティビティを内蔵しています。非Ethernetインターフェースを備えたレガシーデバイスの場合、EthernetインフラストラクチャとPLCの間の溝はゲートウェイによって橋渡しされます。(「従来のファクトリオートメーションシステムを中断することなくインダストリ4.0に接続する方法」を参照)。

次世代のPLC

最新システムとレガシーシステムが混在する工場では、インダストリ4.0で約束される利点を技術者がフル活用することが難しくなります。しかし、スマートホームやロジスティクス分野など、IoTの他の分野からわかったことがあります。それは、オープンシステム、共同プラットフォーム、アクセス可能な標準ベースのソフトウェアによって、将来性の高いインテリジェントなソリューションの実装が容易になるということです。

このような他の分野から得られた知識によって、PLCと関連システムのメーカーは、レガシーのハードウェアとソフトウェアの制約にとらわれることなく、従来のPLCと同様に動作する新世代の製品を導入しようと考え始めています。この新世代の1例が、Phoenix ContactのPLCnext Controlテクノロジーです。

ソフトウェアの観点から見ると、Phoenix Contactの1069208 PLCnextコントローラのような製品は、IoTの他の分野で主流になりつつあるオープンソリューションへの大きな一歩となります。たとえば、PLCnextはさまざまなソフトウェアと互換性があるため、スマートフォンのアプリのように、革新的なファクトリオートメーションアプリをインターネットから簡単にダウンロードしてPLCにインストールできます。

PLCnextはLinuxオペレーティングシステム(OS)を使用します。IEC 61131-3で定義された言語を使用してプログラムすることもできますが、Linuxを使用すると、技術者はより高度な言語であるC++、C#、Java、Python、Simulinkを使用してPLCを簡単にプログラムできます。これらの使いやすい言語によって、さらに多くの技術者が最新のファクトリオートメーションを利用できるようになりました。加えて、PLCnextは異なるソースからのプログラムルーチンをレガシーPLCコードとして実行できるタスク処理を備えており、高度な言語プログラムは自動的に決定論的になります(図3)。

タスク処理を備えたPLCnextの画像図3:PLCnextは、異なるソースからのプログラムルーチンをレガシーPLCコードとして実行できるタスク処理を備えています。(画像提供:Phoenix Contact)

コネクティビティは産業用Ethernetハードウェアを介して実行されます。制御システムはIP相互運用可能なPROFINETプロトコルで動作し、クラウドコンピューティングのサポートにPROFICLOUD IoTプラットフォームを使用します。PLCは、http、https、FTP、SNTP、SNMP、SMTP、SQL、MySQL、DCPなど、他のオープン標準プロトコルもサポートしています。

ハードウェアは、1.3GHzで動作するIntel Atomマイクロプロセッサをベースにしています。PLCは、1GBのフラッシュメモリと2048MBのRAMを備えています。IEC 61131ランタイムシステムは、12MBのプログラムメモリと32MBのプログラムデータストレージを搭載しています。このユニットは、最大63個のローカルバスデバイスをサポートし、最大消費電流504mAの24V電源を必要とします(図4)。

Phoenix ContactのPLCnext PLCの画像図4:PLCnext PLCはLinuxオペレーティングシステムを使用し、IEC 61131-3で定義されたレガシー言語に加え、より高度な言語もサポートしています。(画像提供:Phoenix Contact)

Phoenix ContactのPLCnextシリーズには、PLCのほか、通信モジュールや管理スイッチなど、産業用オートメーションシステムの重要な要素が含まれています。具体例としては、2403115通信モジュールや2702981管理型ネットワークアドレス変換(NAT)スイッチがあります。通信モジュールは、PLCにギガビット対応の産業用Ethernetインターフェースを追加します。このモジュールは独立したMACアドレスを持ち、PROFINETをサポートし、Ethernetインターフェースと論理間の電気的絶縁を備えています。

管理スイッチは、Ethernet転送情報の保存と転送に使用され、4つのEthernet RJ45ポート、2つの小型フォームファクタプラグ式(SFP)ポート、2つのコンビネーションポート(RJ45/SFP)を備えています。このスイッチはPROFINET適合性クラスB製品です。

工場における意思決定の改善

製造業では精密さと再現性が要求されるため、工場生産の最適化は不可欠です。高い精密度と再現性を確保するための鍵は、プロセス制御です。最新の工場では、IIoTセンサやカメラが機械を監視し、完成した部品を測定することで、製品のわずかな偏差を拾い上げ、それに応じてプロセスを修正することができます。他のセンサは機械の健全性を追跡し、摩耗した機械が故障する前にメンテナンス要件を予測します。さらに多くのセンサが工場の温度、湿度、空気質を追跡しています。

PLCnext Controlの主な特長は、従来のPLCとは異なり、この工場データを利用できることです。Phoenix Contactによると、PLCをシステムのアナログおよびデジタル入出力(I/O)のわずか3~5%に接続するだけで、製造プロセスを包括的に、しかも大きな介入なしにマッピングできます。

PLCnext Controlは、Phoenix ContactのProficloud.io、AmazonのAWS、MicrosoftのAzureなど、あらゆるクラウドサービスに接続できます。結果として、工場システムは強力なコンピューティングリソースを利用できるようになり、業務管理とメンテナンスプロセスが可能な限り効率的に実行されるようになります。その結果、生産性が向上し、製品の品質が向上し、コストが削減されます。

PLCnextの使用方法

PLCnextコントローラと関連ユニットの操作は比較的簡単です。PLCプログラミングプロジェクトの開始を支援するために、Phoenix Contactは1188165 PLCnextテクノロジスターターキットを発表しました。このキットは、2404267 PLCnext制御モジュール(PLC)、モジュールキャリヤ、アナログまたはデジタルモジュール(選択)で構成されます。

スターターキットを使用するには、まずPLCとアナログ/デジタルモジュールユニットを24VDC電源に接続する必要があります。次に、PLCとPCの間にEthernetケーブルを接続し、PCのIPアドレスを設定します。それから、PLCのIPアドレスをPCのブラウザウィンドウに入力します。ユーザーがユーザー名とパスワードでログインすると、PLCが動作するようになります。さらなる指示は、ウェブベースの管理システムから提供されます。PLCのプログラミングは、PLCnext Engineerソフトウェアを使用して行います。このソフトウェアにより、技術者はオートメーションソリューション全体を構成、診断、視覚化することができます。

PLCnext Engineerでは、IEC 61131-3で定義されたレガシー言語を使用したプログラミングと構成が可能です。また、C++やC#などのより高度な言語でプログラミングするのも簡単です。PLCnext Engineerに加えて、EclipseやMicrosoft Visual Studioなどの他の一般的な統合開発環境(IDE)でもコードを構築できます。次に、このソフトウェアをライブラリとしてPLCnext Engineerにインポートして、互換性のあるPLCで使用できます(図5)。

PLCnext Engineerのレガシー言語の図(クリックして拡大)図5:PLCnext PLCは、PLCnext Engineerのレガシー言語、IDEのより高度な言語、またはモデルベースの設計システムを使用してプログラムできます。(画像提供:Phoenix Contact)

PLCnextテクノロジーの主な利点は、複数の開発者が異なるプログラミング言語を使用していても、1つのPLCプログラムで個別に並行して作業できることです。これにより、複雑なアプリケーションの迅速な開発が可能になり、レガシー言語のスキルを持つ開発者とより高度な言語のスキルを持つ開発者が力を合わせて取り組むことができます。

まとめ

IIoTは工場の変革を約束します。しかし、技術者が産業用Ethernetを導入している一方で、限られたコネクティビティと時代遅れのソフトウェアを提供する従来のPLCによってファクトリオートメーションは最大限の能力を発揮できずにいます。Phoenix ContactのPLCnextテクノロジーは、オープンシステム、共同プラットフォーム、アクセス可能なソフトウェアをベースにしています。レガシー言語でコード化されたルーチンと、より高度な言語で記述されたルーチンを組み合わせることで、産業用オートメーションの道を切り拓き、生産性の向上、歩留まりの向上、製品品質の向上、コストの削減を実現する将来性の高いソリューションへと発展させることができます。

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著者について

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Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

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