産業用Ethernetベースの電力およびデータネットワークを使用した過酷なIoTアプリケーション向けの設計

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

製造現場がインターネットにつながることで、効率や品質、生産性の向上が期待できます。たとえば、機械の遠隔プログラミングによる制御、機械やプロセスのデータの継続的分析によるプロセスのエラーやドリフトのチェック、遠隔からの微調整による、閉じたフィードバックループでの生産調整が可能です。長期的には、データを活用して、将来のスケーリングや新しい製造技術のより迅速な統合を計画することができます。

コネクティビティが重要であることは言うまでもありませんが、それをどのように実現するかは真剣に検討する必要があります。多くの選択肢がありますが、Ethernetは工場ネットワークとしてアクセスしやすくかつ実績のあるソリューションです。Ethernetは、ベンダーによるサポートが充実しており、クラウドとのシームレスな相互運用が可能なことから、世界的に最も広く利用されている有線ネットワークオプションです。さらに、データだけでなく電力を伝送するのにも対応しています(PoE:Power over Ethernet)。つまり、1本の配線で、ネットワークのサポートと、接続されているセンサ、アクチュエータ、カメラなどのデバイスへの通電を両方とも行うことができます。

しかし、標準的なEthernetでは、産業界での業務に対応できません。ハードウェアとして、高温、汚れ、振動の多い工場環境で確実に動作するように設計されていないためです。また、標準的なEthernetプロトコルは非決定性であるため、高速プロセスを管理するためにほぼリアルタイムの制御が必要となる工場環境のニーズには適していません。

産業用Ethernetには、標準的なEthernetのすべてのメリットがありますが、それらだけでなく、決定性を持ったソフトウェアと耐久性を持ったハードウェアが追加されています。産業用Ethernetは、プロセスデータをクラウドに送信できるだけでなく、遠隔地の管理者が製造現場のドライブ、PLC、I/Oデバイスに容易にアクセスできるなど、産業用オートメーションにおいて実績のある成熟した技術です。Ethernet規格の改訂版であるIEEE 802.3cgは、データ転送に1対のワイヤを使用するだけで、工場における配線の多さとコストを削減することができます。

本稿では、Ethernetと産業用Ethernetの違いを概説する前に、まず産業用アプリケーションのコネクティビティに関する課題について説明します。次に、PoEとシングルペアEthernet(SPE)技術の利用について考察した後、Amphenolの実際のハードウェアを紹介し、産業用Ethernetネットワークにどのように実装できるかを解説します。

産業界におけるEthernetの課題

消費者がインターネットに接続する方法としてはWi-Fiが最も一般的かもしれませんが、商用施設では通常、コンピュータやその他の機器をつなぐためにEthernetに接続されたローカルエリアネットワーク(LAN)技術が使用されています。

Ethernetの黎明期には、ネットワーク上のコンピュータは1本のバスで通信を行っておりました。このタイプのネットワークは構成として最も分かりやすく、安価で、簡単に設定できます。しかし、Ethernetは、接続されているコンピュータ同士で帯域を奪い合って輻輳やパケットの損失、帯域幅の著しい減少が起きるため、相対的に非効率です。

現在のオフィスネットワークが通常採用しているスター型、ツリー型、メッシュ型などのトポロジは、スイッチがネットワークへのアクセスを制御することで輻輳を抑制してスループットを維持します。スイッチがEthernetのトラフィックを制御する方法とは、ダイレクトメッセージをネットワーク全体にブロードキャストするのではなく、通信を行う必要のあるデバイス間だけで伝送するというものです(図1)。

画像:ネットワークへのアクセスを制御するEthernetスイッチ図1:Ethernetスイッチは、ネットワークへのアクセスを制御することで輻輳を制限し、スループットを維持します。(画像提供:Amphenol)

Ethernetは、常に改訂される標準規格(IEEE 802.3)をベースとしており、実績があり、安全で信頼性が高く、最大数百ギガバイト(Gbyte)のスループット速度を実現しています。なお、Ethernetは通常、ルーティングとトランスポートにTCP/IP(インターネットプロトコル(IP)スイートの一部)を使ってインターネットとのシームレスな接続を可能にしますが、これは標準規格には含まれていない機能です。また、Ethernetでは、数百のベンダーから提供されているケーブル、コネクタ、スイッチを使って簡単にネットワークを拡張することもできます。

Ethernetは、電力と通信を1本のEthernet CAT 3またはCAT 5ケーブルで伝送できるように進化してきたため、エンジニアは、電力伝送と通信伝送に別々のシステムを採用した設備に比べて、メンテナンスに手のかからないEthernet & 電力ネットワークを迅速かつ安価に構築できるようになったのです。この技術は、PoEというIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)規格として公的な地位を獲得しています。この技術の主な利点は、その単純さと、データソケットさえあればどこでも電力が利用できるという点です(参照:「Introduction to Power over Ethernet」)。

Ethernet規格の直近の改訂版であるIEEE 802.3cgでは、標準的なEthernetやPoEの多芯のCAT 3やCAT 5ケーブルではなく、シングルペアでデータを伝送する代替案、SPEが規定されています。SPEは、ファクトリオートメーションやビルオートメーション市場に携わる設計者が、産業用コントローラとセンサ間の長距離通信に、使い慣れたEthernetベースのプロトコルを使用できるだけでなく、配線量を大幅に削減できるため、産業用オートメーションアプリケーションに適しています(図2)。

画像:省スペースで安価なソリューションとして普及し始めているシングルペアEthernet(クリックして拡大)。図2:シングルペアEthernetは、省スペースで安価なEthernetとして、さまざまな産業用・商用アプリケーションで普及し始めています。(画像提供:Amphenol)

基本的に、Ethernetは製造現場と管理本部をつなぐことができる理想的な方法であり、ITネットワークとOTネットワーク間のギャップを効果的に埋めることができます。

製造現場では、Ethernetを導入する際に、さらにエンジニアリング上の課題が発生します。第一に、工場はデリケートなケーブルやコネクタ、スイッチにとって危険な環境です。工場は、そこで通常使用される100m以上のケーブルとは相容れない化学物質が多いほか、高温・多湿な環境です。その上、湿気や振動は導体やコンタクトに大きな影響を与えます。また、工場には大きなモータがたくさんあり、オン・オフを繰り返しているため、電圧過渡現象や電磁妨害(EMI)が発生し、Ethernet通信を妨害する可能性があります。

第二に、製造現場には動きの速いロボットや同期した機械が多く、リアルタイム制御が必要です。標準的なEthernetの非決定性通信メカニズムは、そのような制御能力を提供できる機能を備えていません。

産業用Ethernetのハードウェア

「産業用Ethernet」とは、工場での使用を想定したEthernetシステムの通称です。このようなシステムは、堅牢な物理層(PHY)と、ModbusTCP、PROFINET、Ethernet/IPなどの産業用プロトコルで特徴付けられます。さらに、標準的なEthernetの実装とは異なり、産業用Ethernetでは一般的にライントポロジまたはリングトポロジを採用しています。これは、ケーブルの引き回しを短くし(EMIの影響が抑えられる)、レイテンシを短くして、ある程度の冗長性を構築するのに役立つからです。

ケーブルはEMI対策としてシールドを施した堅牢なものを使用し、コネクタも同様に産業界の厳しい環境に耐えるものを使用しています。

メーカー各社は、製品の堅牢性をIP(侵入に対する保護)の分類体系に従って分類しています。IP定格は、製品が提供する保護等級を示すもので、国際規格EN 60529で定義されています。IP定格は2つの数字で構成されます。十の位は、電気伝導体に接触すると危険な工具や指、回路を損傷する可能性がある空気中の塵や埃など、固形物からの保護レベルを表しています。一の位は、さまざまな液滴、噴霧、水没に対する保護を設定しています。IP00(埃や水に対する保護なし)からIP69(埃や強力な高温水噴射に対する完全な保護)まで、広い範囲に対応しています。

産業用Ethernetコネクタは通常、IP67にまで準拠したさまざまな保護ハウジングに収納されています。この場合、6の定格は、8時間汚染物質に直接触れても有害な埃や塵が染み込んでこないことを意味します。7の定格は防水性能であり、最深1mの真水に30分間沈めても壊れないことを意味しています。

産業用EthernetのPHY、ケーブル、コネクタを選択する際、設計者は、データシートに以下のIECおよびEN規格がないかどうかをチェックすることで、電磁イミュニティ(EMI)があることを確認する必要があります。

  • IEC 61000-4-5:サージ
  • IEC 61000-4-4:電気的高速過渡現象(EFT)
  • IEC 61000-4-2:ESD
  • IEC 61000-4-6:伝導耐性
  • EN 55032:放射エミッション
  • EN 55032:伝導エミッション

産業用Ethernetシステムは、これらの規格の一部または全部に準拠していれば、工場環境におけるEMI性能が十分であると保証することができます。

堅牢なコネクタ

機械の制御パネル、Ethernetのスイッチまたはケーブルのいずれに組み込むコネクタも、産業用Ethernetシステムの性能を実現する上で欠かせない存在です。慎重に選定しないと、高速生産時のストレスで、たった一つのコネクタの故障が、100万ドルもする機械を誤動作させたり、停止させたりする可能性があります。

Ethernet、PoE、SPEの各用途向けに、実績と信頼性のある産業用Ethernetコネクタを提供するベンダーが複数あります。たとえば、Amphenolの長方形プッシュプルコネクタ & ケーブル ソリューション、Industrial IP6Xは、IEC 61076-3-124嵌合インターフェースを使用したCAT 6A Ethernet接続と、IP65、IP66、IP67規格に準拠した完全シーリング機能を備えています。特に、このコネクタは、環境保護が求められる産業用Ethernetアプリケーションでの使用を想定しており、屋内外のあらゆる過酷な環境にも対応します。

このファミリのメンバーとして、図3に示すパネルマウント型の長方形コネクタハウジングNDHN200 IP67があります。NDHN3A2の10極、多目的、はんだフリーのプラグコネクタ(図4)は、NDHN200と嵌合するように設計されています。このプラグコネクタは、ラッチロックとシールドモールドを備えています。定格は50ボルトACまたは60ボルトDC、1.5アンペア(A)で、最大250回まで嵌合/脱着が可能です。

画像:Amphenol NDHN200 IP67準拠の長方形コネクタハウジング図3:NDHN200は、産業用Ethernetアプリケーション向けのIP67準拠の長方形コネクタハウジングです。(画像提供:Amphenol)

画像:Amphenol製IP67プラグコネクタNDHN3A2図4:NDHN3A2は、ラッチロックとシールドモールドを備えたIP67プラグコネクタです。(画像提供:Amphenol)

また、Amphenolは、センサ、アクチュエータ、カメラなどの周辺機器のEthernet接続用に、最大1ギガビット/秒(Gbit/s)で動作するSPEコネクタをリリースしています。SPEフォームファクタを使用した方が、標準的なEthernetの場合を使用した場合よりも、サイズ、重量、およびコストが削減されます。このコネクタは、M12サイズの円形フォームファクタでIP67定格です。本コネクタは、フィールド終端プラグに嵌合し、ラッチ機能付きの完全シールド接続を提供します。60ボルトDC、最大4Aの電圧/電流処理能力により、1キロメートル(km)までの距離にわたってPoEをサポートします。一例として、2P2CのSPEコネクタであるMSPEJ6P2B02があります(図5)。

画像:Amphenol製のIP67準拠SPEコネクタMSPEJ6P2B02図5:IP67準拠のSPEコネクタMSPEJ6P2B02は、一般的なM12サイズの円形フォームファクタで提供されます。(画像提供:Amphenol)

また、Amphenolでは、IP67ではなくIP20に準拠し、プラグ形が長方形である、同様のSPEコネクタ群も提供しています。このソリューションは、M12シリーズと同じ電気的性能を持ちながら、より低い価格を実現しています。一例として、モジュール式のSPEコネクタであるMSPE-P2L0-2A0があります(図6)。

図:Amphenol製のIP20準拠・モジュール式のSPEコネクタMSPE-P2L0-2A0図6:モジュール式・IP20準拠のSPEコネクタMSPE-P2L0-2A0は、あまり危険ではない環境向けの費用対効果の高いオプションです。(画像提供:Amphenol)

産業用Ethernetのプロトコル

標準的なEthernetの通信メカニズムは、(小規模)事業所の比較的穏やかなトラフィックには十分に対応できます。しかし、このメカニズムは、切断やパケット損失の影響を受けやすく、結果としてレイテンシが大きくなるので、動きの速い同期化された生産ラインのほぼリアルタイムの要求には不向きです。このような環境では、前述のように、ネットワーク上の負荷が非常に多くても、機械からの命令が毎回、時間通りに着信するように保証する決定性プロトコルが必要とされます。

この課題を克服するために、産業用Ethernetのハードウェアは、同じく「産業用」となっているソフトウェアによって補完されます。つまり、Ethernet/IP、ModbusTCP、PROFINETなど、実績のある産業用Ethernetプロトコルがそれです。どのプロトコルも、産業用オートメーションアプリケーションの決定性を実現するように設計されています。

Ethernetソフトウェアと産業用Ethernetソフトウェアの違いは、ISO/OSIの7層抽象化モデル(「スタック」)を検討することで最もよく説明できます。このモデルは、PHY層、データリンク層、ネットワーク層、トランスポート層、セッション層、プレゼンテーション層、アプリケーション層から構成されます。標準Ethernetは、PHY層、データリンク層、ネットワーク層、トランスポート層(トランスポート層としてTCP/IPまたはUDP/IPを使用)から成り、効率、速度、汎用性を実現する通信機構と言うことができます。

一方、産業用Ethernetプロトコル、たとえばPROFINETは、産業用Ethernetスタックのアプリケーション層を使用します。PROFINETは、通信メカニズムとしては標準的なEthernetを使用していますが、オートメーション環境において機械とコントローラの間で情報を交換するために設計された通信プロトコルです(図7)。

画像:ISO/OSI 7層抽象化モデル図7:産業用Ethernetのソフトウェアスタックを表すISO/OSIの7層抽象化モデル。PROFINETなどの産業用Ethernetプロトコルは、アプリケーション層に位置します。(画像提供:Profinet)

また、産業用Ethernetソフトウェアは、クラウドへのデータ送信に特化して設計された他のプロトコルを活用することもできます。たとえば、MQTTやSNMPなどのプロトコルです。

まとめ

産業用Ethernetは、工場の過酷な環境とリアルタイム性を考慮して、スイッチ、ケーブル、コネクタなどの堅牢なハードウェアと産業用ソフトウェアを使用することで、工場のITネットワークとOTネットワークを高い信頼性で接続することができます。

これまで見てきたように、エンジニアは、産業用Ethernetを利用することで、高速産業用オートメーションのプログラミングと制御を簡単に行うことができるほか、製造オペレーションの強化と拡大に必要なディープデータを収集することも可能です。

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著者について

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Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

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