「転換期の車載業界」 - エキスパートが車載エレクトロニクスを論じる
自動車業界の変革は、現在注目を集めているテーマです。技術の進歩は自動車業界のさまざまなトレンドや最新情報を生み出しています。そのトレンドはゼロエミッション車や自動運転のような大規模なものから、小型化やエネルギー貯蔵方法などのニッチなものまで、多岐にわたります。
現在、自動車にはかつてないほど多くのエレクトロニクスが搭載されています。消費者、運輸業者ともに高度な安全機能、インフォテイメント機能、先進のセキュリティ機能、乗客の利便性と快適性など、多くの機能を自動車に求めています。
自動車において(そしてその他の運輸モードでも)、進化の土台となっているのが電源と相互接続コンポーネントです。この記事では業界をリードするエレクトロニクス企業2社の車載部品のエキスパートが今日の自動車設計における進化の要因について議論しました。議論に参加したのはShawn Luke(DigiKeyテクニカルマーケティングマネージャ)、Matt McWhinney氏(Molex事業開発マネージャ)、Kirk Ulery氏(同社事業開発マネージャ)の3名です。
自動車メーカーによる自動車のスマート化、接続機能の強化が急速に進むにつれ、それに必要な電子部品の数は増え続けています。実際、Statistaの調査によると、2030年までに新車のコストの50%をエレクトロニクスが占めるようになると予想されています。
Ulery氏は、「自動車のエレクトロニクス部品が爆発的に増えることで、無限の可能性が広がります」と述べ、さらに「電気自動車やその推進システムの最終形態がどのようなものであれ、自動車の進化においてエレクトロニクスは何よりも重要な役割を担うでしょう」と語りました。
電動化が技術革新を生む
自動車の電動化により、車両設計は革新的な新しい時代を迎えました。電気自動車は従来型の内燃機関を搭載する必要がないため、自動車メーカーにとってバッテリや充電ポートの配置、乗客や荷物のためのスペース確保などの自由度が増しました。
EVの充電ポートの配置は、設計段階において多くの選択肢があります。(画像提供:Molex)
これにより、EV市場にメーカーが次々と新規参入し、さまざまなメーカーやモデルを提供するようになりました。それでも、まだ価格が高く、業界全体での標準化が遅れています。しかし、自動車メーカーが増えたことで消費者はこれまで以上にスタイルとカスタマイズを選択できるようになりました。そして技術進歩と量産効果により、自動車の生産コストも下がるでしょう。
McWhinney氏は、「電気自動車のデザインに共通のレイアウトが確立するまでには、もう少し時間がかかりそうです。しばらくは新しい技術とイノベーションをめぐる競争が続くでしょう」と予想し、さらに「自動車業界の設計は、従来から頑丈で信頼性が高く、実績を重視する傾向が強いですが、この急速な変化の時期には、コストが高い試作においてはまだ開発段階のプラットフォームが数多く存在します」と付け加えました。
メーカー、製造年、車種に関係なく、どの電気自動車においても、ソフトウェアを活用したリアルタイムの意思決定を可能にするために、信頼性の高い電力伝送と高速データ伝送が必要とされます。
車両システムの機能と動作を管理する「ソフトウェアデファインドビークル」プラットフォームの普及に伴い、自動車設計ではマイクロプロセッサが進化し、パラダイムシフトが起きています。ハードウェアへの依存度が低下するにつれ、モジュール性、柔軟性、コネクティビティが向上し、極めて複雑なシステムを管理するために必要な部品や配線が少なくなります。
Ulery氏は、「私たちは、車両にこれ以上配線を追加できなくなる転換期を迎えているのです」と語り、さらに「自動車産業はコンピュータ産業から技術を取り入れ始めています。ギガヘルツ帯で動作する2線式Ethernet規格が採用されたため、車両内の配線数を削減できるようになりました」と述べました。
また、「48ボルト(電気システム)も同様です。配線の細密化が可能になりました。さらに、ソフトウェアデファインドビークルのゾーンアーキテクチャを採用することにより、1つのコントローラとデバイスを同じバスで接続できるので1本の配線で済みます。銅製コネクタの採用量は減少するでしょうが、将来の自動車で求められる高いコネクティビティスピード要件に対応するため、車両はより高度な設計となり、性能の向上が進むとみられています」と付け加えました。
広がる電動化(またはハイブリッド化)
自動車メーカーがバッテリ式電気自動車(BEV)の生産に注力している一方で、米国の消費者は充電インフラや車両の航続距離が改善されるまで様子を見ている状況です。2023年のAP通信の報道によれば、米国におけるハイブリッド車の売上伸び率が76%増加する一方で、電気自動車の販売伸び率は停滞しています。
Ulery氏は、「北米における電動化推進には紆余曲折がありました」と述べ、さらに「一度に100マイル以上走るのであれば、充電インフラの改善が必要になります」と語りました。
またMcWhinney氏は、「多くのプラットフォームで最も人気のある選択肢はハイブリッド車です。電気自動車がこれからどれだけ普及するかは経済状況、そしておそらく政権によっても大きく左右されるでしょう」と付け加えました。
それでも、電気自動車は、乗用車以外の分野でも普及が進んでいます。企業や組織が保有車両の持続可能性に対する意識を高める中、ラストワンマイル配送車、公共交通機関、トラックヤード用の小型/中型車両の一部はバッテリ型やプラグイン型の電気自動車や水素自動車などの代替燃料車両に切り替わりつつあります。
Ulery氏は、「インディアナポリスで開催された2024 Work Truck Weekでは、セミトラックよりも小型の車両はほぼすべて電気モータを搭載しており、水素エンジンシステムを採用しているものも数多く見られました。水素エンジンはゼロエミッションなので環境面で優位です」と述べました。
自動車部品の仕様
現代の乗用車には平均80個のセンサ、100個の電子ユニット、そして大量の配線が使われています。天候や湿気、さまざまな路面状況、高温、振動など、厳しい走行環境下で優れた性能を発揮するためには1つ1つの部品が厳しい基準をクリアする必要があります。
スマート車両のエレクトロニクスは、過酷なEV環境で正常に機能するため、耐環境性能の厳しい基準を満たす必要があります。(画像提供:Molex)
Lukeは、「輸送分野において、堅牢性と信頼性は非常に重要です」と述べ、さらに「一部の車両部品は数十年の耐用年数が求められます。そのような時間軸を考慮すると、利用者が車や飛行機で移動する際に求めるUSB-C規格の充電ケーブルなどを企業や組織の保有車両全体に搭載するには時間がかかるかもしれません」と語りました。
自動車メーカーが使用する部品の基準を設定する認証機関としてはAutomotive Electronic Council(AEC)やUS Council for Automotive Research(USCAR)などが存在します。これらの組織は性能要件を定義し、走行環境での使用が想定された部品を慎重に審査、認証しています。
世界的に知られているAECの認定(AECQ)部品は一般的に品質、堅牢性、信頼性に優れており、路上での衝撃にも性能が低下しません。自動車設計で部品を選択する際の考慮事項には、次の点が挙げられます。
- モジュール性:必要時に所有者や修理工場が簡単に交換できるかどうか。
- コンタクト形状:部品を何回抜き差しできるか。要するに、コネクタとして本来の役割を果たすかどうか。
- 効率性:部品は、電力を効率的に使用しているか、余分な電力を消費していないかどうか。
- ユースケース:部品は、仕様を満足するように作られているかどうか。仕様を満たしていない部品は本来の機能を発揮するのではなく、ただ継続的に利用されるだけの状態になりうる一方で、品質が過剰に高い部品は設計時の自由度を制限することがあります。
- 組み立ての利便性:車両のどの位置に配置されるかを考慮したとき、組み立てラインでその部品を大量生産の規模で取り付けることが可能かどうか。
- 安全性:車両が動作時に部品の故障が発生した際に、事故防止のためにバックアップが用意されているかどうか。
McWhinney氏は、「自動車部品のリスク評価と仕様は表裏一体の関係です」と述べ、さらに「部品が継続的に使用されるだけでなく、機能性も求められる時代において、仕様の再定義や強化が必要になることがあります。一方で、その仕様が過剰で高コストを招いていたり、設計の柔軟性を制限している可能性があるということです。アーキテクチャの進化に伴い、仕様の最適化はますます重要になっています」と語りました。
Lukeは、「相互接続の手法の素晴らしい点は、交換可能なモジュール部品を作製できることです」と述べ、さらに「これは当然のことのように思われるかもしれませんが、自動車設計における相互接続性の重要性は過小評価されがちなのです」と語りました。
そして何よりも、自動車の設計においては安全性が最優先されなければならない、とエキスパートは口をそろえます。
Ulery氏は、「安全面の重要性はいくら強調してもしすぎることはありません」と述べ、さらに「コンピュータが動かないときは、再起動するだけで済みます。しかし、高速走行中にコンピューティングバスを動作させている自動車ではそれが不可能です。通常とはまったく異なるレベルの対策をあらゆる面において施す必要があるのです」と語りました。
また、「私たちは常に最新かつ最高の部品を求めています。つまり、最高の性能を発揮する最新機能をどうやって短期間で実装するかという考え方です。その一方で、私たちは人々の命に関わる製品を扱っていることを忘れてはなりません。信頼性で妥協は許されないのです」と付け加えました。
今後の道筋
今後の道筋を考えると、消費者は安全性と快適性の機能向上を求めるようになるでしょう。また、化石燃料への依存度が低い電気自動車やその他の交通手段のニーズも高まるはずです。
McWhinney氏は、「電動化の流れは止まりません。むしろ、速くなっています」と述べました。
McWhinney氏によると、自動車用電子部品は全般的に小型化への傾向が継続すると思われます。
McWhinney氏は、「マイクロエレクトロニクスの進歩により、車両に搭載されるマイクロプロセッサが増え、ソフトウェアデファインドビークルのプラットフォームへの転換が進んでいます」と述べ、さらに「自動車のすべての要素がソフトウェアによってダイナミックに直接制御されるようになるとは限りません。しかし、制御システムがその方向に再構築されていくことは大きな意味を持っています」と語りました。
特に自動運転など、エッジで非常に高速なデータ処理が必要とされる用途では車両に搭載されるマイクロプロセッサの数が増えることで、自動車の技術革新が加速することになるでしょう。まだ先のことですが、早ければ2030年までには自動運転車が普及する可能性があります。すでに多くの人が自動車のクルーズコントロールや飛行機の「オートパイロット」などの半自律機能に慣れ親しみ、安心感を抱いています。完全な自動運転が実現するまでの間は、人間のドライバーやパイロットが自分で処理し、操縦することになるでしょう。
今後も運輸産業と自動車産業では技術革新が行われ続けます。そして、この進展を加速するために必要な部品やサービスを提供し続けるのが、MolexやDigiKeyなどの企業なのです。
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