自動車における電動化の動き
自動車業界では従来の機械式駆動システムから電気コンポーネントや電気システムに置き換える電動化が進行しており、今日の自動車設計が大きく変わりつつあります。その範囲は内燃機関からマイルドハイブリッド、完全な電気自動車まで多岐にわたります。
鉄道の電動化は、年月をかけて段階的に進められてきました。(画像提供:Getty Images)
これまで、キャブレターや単純な排気システムが精密な燃料噴射装置、排気システム、トラクション/ブレーキ制御システムへと進化してきたように、電動化においても、新しいアーキテクチャ、電動モータ用コンポーネント、バッテリパック、先進的なパワーエレクトロニクスなどで同様の進化が見られます。こうした進化が積み重なった今、エンジニアたちは自動車の設計と運転のあり方を根本から見直し、効率性、信頼性、安全性を最大限に高める必要に迫られています。
この記事では業界をリードするエレクトロニクス企業2社のエキスパートが電動化の現状を明らかにし、自動車業界の未来に向けた主な考察項目について議論しました。議論にはMatt McWhinney氏とKirk Ulery氏(Molex事業開発マネージャ)、Shawn Luke(DigiKeyテクニカルマーケティングエンジニア)の3名が参加しました。
自動車モデルの勢力図
注目度の高いEVやハイブリッド車の需要は増加の一途をたどっていますが、EVの新車の売上は市場や公共政策などさまざまな要因から、この数か月鈍化しています。業界の専門家は値段の高さと米国内の充電インフラ不足の2つを主要な要因として挙げています。
「北米における電動化は断続的に進んできました」とUlery氏は述べ、「一度に100マイル以上走行する場合、充電インフラの整備が不可欠であることは明白です」と語りました。
一方、ハイブリッド車はEVの販売台数を上回っています。Edmundsのデータによると、米国におけるハイブリッド車の販売台数は2023年に最高の増加を記録し、2022年の75万台超から2023年には100万台を突破しました。
もうひとつの新しいカテゴリがマイルドハイブリッドで、これはバッテリ駆動の電気モータを採用してガソリンやディーゼル燃料の使用を補うものです。ほとんどのマイルドハイブリッド車は48Vの電気系統で走行しますが、これは従来の内燃機関式の自動車の電気系統よりも高い電圧です。48Vシステムは、エンジンに依存しないコンポーネントに電源を供給し、より優れた運転効率を可能にします。
自動車設計の技術革新が急速に進む中でも、ガソリン車は依然として道路を支配しています。Edmundsの調査によると、現在米国で販売されている新車の82%はガソリン車です。しかし、電動化の流れは、従来の車両から最先端の高性能電気車両まで、幅広く着実に進んでいます。
エンジンルーム内のコンポーネントの電動化
Ulery氏は次のように指摘しています。「私たちが目にする1つの傾向は、電動化の進展です。機械システムは、効率向上を主な理由として、あらゆる車両で電動化が進んでいます。」
その一例が、ストップスタート技術で、車両が停止するとエンジンが停止し、ドライバーがブレーキを離すかアクセルを踏むと自動的に再始動します。この機能は一部の部品に余分な負荷をかける可能性がありますが、燃費の向上と温室効果ガスの排出量の削減を目的としています。
エンジンルーム内の電動化の例としては、ラジエーターファン、パワーステアリング、HVACシステム、冷却ポンプなどがあります。これらのシステムは従来、内燃機関(ICE)からベルトで駆動されていました。電動ウォーターポンプは、より効率的な性能のために機械式ラジエーターポンプに取って代わりつつあり、電気冷却による正確な制御により、これらの部品の寿命を延ばすことができます。また、バッテリ管理が拡張されている場合、バッテリパック、電気モータ、パワーエレクトロニクスの温度を調整するために、車両全体に冷却液を循環させることもできます。
電動式モジュール(パワーステアリングポンプなど)への切り替えにより、システムがエンジンに依存しなくなるため、寄生負荷が減り、より多くの馬力が利用可能になります。これにより、自動車メーカー各社は一部の車両に小型エンジンを搭載しつつ、同じ走行性能を維持しながら効率向上と排出ガス削減を実現できます。
「電動化は革新的な新車設計への可能性を開きました」とルークは指摘し、さらに「電気自動車は従来型の内燃機関に接続したベルト駆動のアーキテクチャを搭載する必要がないため、自動車メーカーにとってバッテリや充電ポートの配置の自由度が増し、乗客や荷物のためのスペースを増やせるようになりました。」と述べました。
全体として、電動化は従来の機械式システムを、より効率的な精密電気制御システムに置き換えています。ソフトウェア制御の進歩と組み合わせることで、最新の車両はよりクリーンでエネルギー効率が高く、乗用車と商用車の両ドライバーに性能と持続可能性を提供しています。
自動車用バッテリの進化
この10年間で、自動車用バッテリは12Vから24V(特に商用車用)、そして現在は48Vへと高電圧化する傾向を見せており、一方で車両の軽量化、加速性能と燃費の向上を達成しています。
48VでのEV充電には、より安全で信頼性の高い充電ステーションの電源能力が求められます。(画像提供:Getty Images)
米国と欧州では新車の排出ガス削減に向けて法整備が進められています。規制と市場動向の組み合わせが、統合型スタータージェネレータを含むマイルドハイブリッドアーキテクチャへの移行が進んでいます。48Vシステムはマイルドハイブリッドだけでなく、ICEプラットフォームにも導入される可能性が高いとされています。
48Vアーキテクチャへの移行は、単にシステム電圧を上げるだけではありません。また、電気システムの基盤自体も変更する必要があります。機能豊富で高性能な車両は、高密度モデルと同等の電気効率を実現する軽量で小型のコンポーネントに依存しています。
「共通点は、12Vシステムと48Vのシステムの両方が、従来の機械式機能をサーペンタインベルトから一連の電気モーターに移行していることです。」とUlery氏が述べています。彼は、機械エネルギーをパワーステアリングに利用する大型ピックアップトラックの例を紹介しました。多くの車両でこの機能が電動化されています。さらに「パワーステアリングに必要なエネルギーはエンジンの馬力を奪うため、パワーステアリングを別の電気系統に移すことで、ドライバーは駆動系を通じてより大きなパワーを維持することができます。」と語りました。
自動車業界におけるシステムの高電圧化は、設計や製造プロセスに大きな影響を与えるため、緩やかに進んでいます。メーカーは製品、技術的な成熟度、顧客のニーズに左右されるため、各社で移行スピードが異なります。しかも、使用する技術に関する以下のような基準や設計手法を遵守する必要があります。
- ISO 21780:公称電圧48Vで動作する電気系統を搭載し、路上を走行する車両の電気コンポーネントおよび電子コンポーネントに関する要件と試験を定めた規格です。
- VDA推奨320は、ZVEI(ドイツ電気・電子工業連盟)によって発行および維持されています。この推奨事項は、48V電源の開発を目的として、自動車用電気および電子コンポーネントに関する幅広い仕様と試験要件を定めています。
この規格に準拠してスマートバッテリ管理を適切に行うことは48Vシステムを実現させる上で、非常に重要です。適切な設計プロセスを採用することで、自動車メーカーは非効率的な電力貯蔵、コスト増加、ドライバーへの潜在的な安全リスクを回避することができます。
安全性を最優先する相互接続の基本事項
高度化する電気系統のサポートに多くの電力を必要とするため、信頼性の高い48Vシステム用コネクタ設計には自動車の性能と安全基準を満たすいくつかの基本的な要因があります。
「車両の安全性を確保するにはエレクトロニクスとインフラの相互接続が重要です」とMcWhinney氏は述べます。
48Vシステムは(12Vよりも)高い電圧で動作するため、コネクタと電気系統に堅牢な材料と適切な絶縁材を使用し、安全性で信頼性の高い性能を実現する必要があります。電圧が48Vより高ければ、これはさらに重要になります。
コネクタの不具合は、車両システムの誤動作や安全上の問題を引き起こす可能性があります。コネクタの外れを防止するため、ロック機構とストレインリリーフを設けるとともに、定期的な点検と保守チェックを行う必要があります。
「電気系統の安全性と監視制御はこれまで以上に重要になっています」とMcWhinney氏は述べます。
高電圧アプリケーションでは、信号品質の維持が極めて重要です。信号の完全性が不十分だと誤動作を引き起こす可能性があるため、コネクタはシールドケーブルで信号損失と干渉を最小限に抑え、適切な接地と戦略的な配置が必要です。これらの考慮事項に対応するには、技術革新と専門知識が不可欠であり、ここで高度なコネクタソリューションが重要な役割を果たします。
「相互接続が重要なのは当然と思われるかもしれませんが、自動車設計、特に安全性においては相互接続性の重要性は過小評価されています。」とLukeは付け加えました。
変化への対応と部品の認証
安全要件を満たすことは最優先事項ですが、McWhinney氏によると、自動車の電気系統の要件が流動的である今の状況が問題を難しくしており、そのため、各メーカーはコネクタやその他のコンポーネントを常に見直し、対応する必要に迫られています。
製造メーカーは、米国自動車研究評議会(USCAR)にいつでも問い合わせをし、性能要件を確認し、自動車業界における安全基準を満たしたコンポーネントを慎重に評価、検証できます。
USCAR/LV214または類似の規格に準拠する部品は、通常、高品質で耐久性を有する信頼性の高い部品であり、路上での過酷な使用条件下でも性能を損なうことなく耐えることができます。たとえば、MolexのMX150コネクタシリーズは、過酷な環境下で使用される車両向けに設計されたコンポーネントで、極端な温度、振動、および湿度に対する耐久性を備えています。
ここに示されているのは、サイバートラックに搭載されたMolexコネクタです。(画像提供:Molex)
ルークは次のように指摘しています。「車両設計における技術革新の機会が増えたことで、より多くの自動車メーカーが電動化の手法を取り入れています。超高速のイノベーションサイクルのため、この分野には標準的なプラットフォームがほとんど存在しません。しかし、自動車メーカーが増えたことで消費者はこれまで以上のスタイルとカスタマイズを選択できるようになりました。そして技術進歩と量産効果により、自動車の生産コストも低下することでしょう。」
商用車の考慮事項
乗用車については多くの議論が交わされていますが、この記事で述べた内容はすべて、商用車(CV)分野では、はるかに長い間続いてきたことです。商用車は、ディーゼルエンジンおよび一部の電気システムを駆動するため、12ボルトから24ボルトシステムへ急速に移行しました。これにより、過去にはより小型のスターターを使用することが可能でした。CV車における電気式HVACにも長い歴史があり、特にバス、建設用車両、農業用車両、大型トラックなどにおいて広く採用されています。
商用車は、所有者/事業主のビジネスをサポートするために設計されており、したがって信頼性の高い動作が求められます。乗用車に比べて商用車では信頼性が高く求められることが多いため、強力な密閉性および耐久性を必要とします。
乗用車にせよ、商用車にせよ、現代のエンジニアは乗用車ユーザーと商用車ユーザーのニーズに対応し、かつ効率性、耐久性、安全性に優れた、複雑で多くの電力を消費するシステムと機能を数多く設計しなければなりません。幸い、テクノロジーサプライヤは、こうした技術革新の問題を解決する技術を生み出すという挑戦に取り組んでいます。
自動車エンジニアが輸送の未来を変革している一方で、MolexなどのサプライヤやDigiKeyなどのディストリビュータは、この変革の実現を可能にする高品質のコンポーネント、サービス、専門知識を提供しています。
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