雨による自律走行車の性能低下

イーロン・マスク氏は、Teslaがカメラだけで先を見通す自律走行を実現する計画であると語っています。Teslaのアプローチは、自動車産業の他メーカーが行っていることとは対照的です。自律走行システムの多くは、カメラ、レーダ、ライダなどを組み合わせて、車両の進路を把握する仕組みになっています。このマルチセンサ化の背景には、特定のセンシング技術では分かりにくい状況も、複数のセンサ技術であれば分かるという考え方があります。

カメラセンシングに関するTeslaの立場を考えると、長年のテストと研究にもかかわらず、自律走行車のセンサについて悩みの種となっているいくつかの問題を見直すことに興味を惹かれます。まず、カメラについて考えてみましょう。車載カメラで問題となる典型的な例として、夕日が沈む丘に車両が登るときが挙げられます。明るい日差しは、人間の運転手の場合と同じように、カメラの視界を一瞬曇らせます。坂を下って暗い谷間に入ると、カメラが相対的な暗さに慣れるのに時間がかかるため、一瞬目がくらんだ状態になることもあります。

また、他のセンサとは異なり、カメラでは混乱しやすい「エッジケース」があります。人工知能の用語であるエッジケースとは、機械学習アルゴリズムがまだ遭遇していない、現実社会で起こる奇妙な状況のことです。カメラセンサを誤動作させる典型的なエッジケースの例として、トラックの荷台に描かれた風景が挙げられます。トラックの後ろを走る車に搭載されたカメラは、その風景がただの絵であることを認識できないかもしれません。

カメラ技術だけで、そのような困難を回避する方法があるかもしれません。たとえば赤外線カメラを追加することで、より効果的に対応できるかもしれません。しかし、カメラやその他の自律走行車センサの悩みの種となるもう1つの障害が悪天候です。

(画像提供:Littelfuse

レンズの上に水滴(または雪片)を意図的に配置すると、カメラを無力化できる場合があります。レンズに当たらない雨粒でも、画像や動画のフレームに強度のばらつきが生じ、障害物の特定作業が複雑になることがあります。特に雨粒は、視界に入る物体から反射される光の一部を遮ってしまうのです。また、雨の筋は、シーン全体のコントラストを低下させます。数年前にミシガン州立大学で行われたテストでは、カメラベースのアルゴリズムが小雨の中で20%もの物体を検出できないことがわかりました。雨が強くなると、視覚アルゴリズムの失敗率は40%にも跳ね上がります。

カメラベースのシステムが物体を検出するために設計された雨対応のアルゴリズムがあります。しかし、今のところうまく機能していません。理由の1つは、これらのアルゴリズムが、実際よりもはるかに単純な合成の雨のシーンで主にテストされていることです。

レーダやライダも、雨や雪の中での走行時に独自の問題があります。その理由は簡単です。どちらも、物体から跳ね返ってくる反射を頼りに、前方を認識する仕組みだからです。雨粒や雪片で反射して戻ってくると、雪や雨の向こうに何があるのかわからなくなります。

小雨の場合は、ライダに大きな影響がないことがわかりました。しかし、大雨になると雨粒が塊になり、ライダセンサが障害物と判断してしまうことがあります。さらに、雨上がりに他の車両から飛散する水しぶきによって、ライダのターゲットが誤検出される場合があることもテストで確認されています。(この問題を体験したい読者は、高速道路で雷雨の中、18輪トラックをしばらく追跡してみるとよいでしょう。)雪についても同様です。雪中でのライダの挙動に関するテストデータは少ないのですが、雪が降る中ではライダが物体を認識できなくなったり、誤った応答が発生したりする場合があることが指摘されています。たとえば、フィンランドとスウェーデンで行われたあるテストでは、前の車によって発生する雪の渦がライダの測定値を乱すことがあるとわかりました。

雨や雪の中では、ライダよりもレーダの方が有利です。湿った雪が一番問題を起こすようです。雨天時のレーダの最大の欠点は、歩行者のようなレーダ断面積の小さい物体を検出する能力が低下することだと考えられます。

もちろん、悪天候時の自律走行センシングはまだ研究課題です。現在検討されているのは、1つのセンサではなく、2つのセンサを使って物体を検出する方法です。一方のセンサが物体を検知し、もう一方が検知しない場合は、高度な計算によってどちらが正しいかを判断します。この方式では、車両に搭載するセンサの数が増えるため、自動車メーカーはあまり乗り気でないかもしれませんが、他のアプローチも注目されています。

いずれは、自動車メーカーがあらゆる天候に対応できるようになる可能性があります。その結果、少なくとも自動車に関しては、古いことわざをもじった「悪天候というものはない、ただ運転時のさまざまな天候があるだけだ」という言葉が当てはまるようになるかもしれません。

著者について

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Lee Teschler氏は、ウェブサイト、オンラインリソース、刊行物のネットワークであるDesign Worldのエグゼクティブエディターです。Leland (Lee) Teschler氏は、Penton Mediaで37年間働いています。1977年に『Machine Design』の編集スタッフとしてキャリアを開始し、2006年に同誌のチーフエディターに就任しました。Penton Mediaの前は、連邦政府の通信エンジニアとして活躍していました。Teschler氏は、ミシガン大学で工学の学士号と電気工学の学士号を取得し、クリーブランド州立大学でMBAを取得しています。

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