ウェアラブルのバッテリ長寿命化において非常に重要な低Iq LDO

静止電流(Iq)の低いリニア低ドロップアウトレギュレータ(LDO)を使用すると、ウェアラブルやワイヤレスIoT(モノのインターネット)デバイスのバッテリ寿命を長くすることはできますが、性能面でのトレードオフがあります。つまり、過渡応答、ノイズ性能、出力電力範囲などです。また、静止電流はシャットダウン電流またはディセーブル電流(Id)と混同されることがあります。これらは静止電流とは異なるため、良く比較する必要があります。また、当然ながら、システム全体の設計が低消費電力動作用に最適化されていなければ、IqやId を最適化してもあまり効果はありません。

ここでは、IqとIdを区別し、それぞれが消費電力に与える影響について簡単に説明します。次いでこれら性能のトレードオフのいくつかを説明し、最後にMicrochipTexas Instrumentsが提供する、デモボードなどのLDOの例を紹介します。

静止状態とシャットダウンの違い

静止状態は待機状態であるため、シャットダウンとは異なります。静止状態では、システムは稼働待ちの、低消費電力でアクティブな状態にあります。無効モードとも呼ばれるシャットダウン中では、システムはスリープ状態であり、即時稼働可能な待機状態にはなっていません。この違いは、待機時間(スタンバイ)が長く(99%以上)、待機時と稼働時の消費電流に大きな差があるワイヤレスロックなどのバッテリ駆動システムで特に重要です(図1)。静止電流は軽負荷時の電力を算出するために使用できるのに対し、シャットダウン電流は長期的なバッテリ寿命を算出するために使用することができます。

図1:このワイヤレスロックのように、多くのワイヤレスIoTデバイスは、稼働(アクティブ)時と待機(スタンバイ)時の消費電流に大きな差があります。(画像提供:Texas Instruments)

LDOのようなデバイスでは、IqとIdに大きな差が生じることがあります。たとえば、あるLDOでは、Iqが25nA(ナノアンペア)なのに対し、Idは3nAとなっています。別のLDOの例では、Iqが0.6μA(マイクロアンペア)なのに対し、Idが0.01μAとなります。もちろん、話はそれほど単純ではなく、以下のような複雑な仕組みになっています。

  • 動作温度がIqとIdに影響を与える可能性があります。このことは、高温で長時間使用されるデバイスにとって重要な注意ポイントとなります。
  • 低Iqのデバイスは、動的な負荷変動に対する応答時間が長くなる可能性があります。このファクターはLDOによってかなり異なります。
  • 低Iqのデバイスは内部ノイズが発生することがあるので、ノイズに敏感なアプリケーションでは使用を避ける必要があります。
  • LDOでもかなりの熱を発生するため、データシートのガイドラインに従ってレイアウトや熱管理を行うことが重要です。そうしないと、IqおよびId性能が低下する可能性があるからです。
  • Iqが一番低くなるのがベストな選択とは限りません。Iqとオン状態消費電流の差が2桁以上ある場合は、Iqの高い安価なLDOを選択するのが良いでしょう。

150mAの低Iq LDOとデモボード

1.4~6.0ボルトの入力と最大150ミリアンペア(mA)の電流出力を定格とするLDOが必要なリチウムイオンバッテリを1個搭載したシステムを設計する場合は、Microchip TechnologyのMCP1711などのLDOを検討対象とすることができます。このようなデバイスの標準値は、Iqが0.6µA、Idが0.01µAとなります。シャットダウンモードを有効にした場合は、MCP1711内の専用スイッチを使って出力コンデンサを放電させることで、出力電圧を素早くゼロにします。MCP1711の周囲動作温度は-40~+85℃です。

広い入力電圧範囲および負荷範囲におけるMCP1711の動作を調べるために、設計者は2つの電圧オプションと2つのパッケージオプションがあるデモボードADM00672を使用することができます。

  • 1.8Vout、3.2~6.0V入力範囲、5ピンのSOT-23に搭載
  • 3.3Vout、4.0~6.0V入力範囲、4ピンの1x1 UQFNに搭載

デモボードには2つの絶縁回路があり、それぞれ独立してテストすることができます(図2)。

図2:デモボードMCP1711には、1.8ボルト(上)と3.3ボルト(下)を供給する独立した2つの回路が搭載されています。(画像提供:Microchip Technology)

高速過渡応答と低Iq

高速過渡応答と低Iqを必要とするシステムには、Texas InstrumentsのTPS7A02が適しています。定格電流は200mAで、Iqは25nA、Idは3nAです。出力電圧範囲は0.8~5.0ボルトで、50ミリボルト(mV)単位でプログラム可能です。このLDOは、1mAから50mAへの負荷のステップ変動に対して100mVのアンダーシュートで、10マイクロ秒(μs)以下のセトリング時間という標準的な過渡応答を持っています。応答特性は、図3に示すように、負荷の増加時と減少時で異なります。TPS7A02の接合部温度は、-40~+125°Cと規定されています。

図3:TPS7A02の動的負荷応答特性は、負荷増加時(左)と負荷減少時(右)で異なります。(画像提供:Texas Instruments)

まとめ

Iqはバッテリ寿命が長くなるように設計する際に注意すべき重要な特性ですが、いくつかある注意要素のうちのひとつに過ぎません。デバイスの動作プロファイルや電力消費パターンによっては、Idも重要な注意ポイントとなります。IqとIdの両方に影響を与える要因には動作温度など様々なものがあります。このため、IqとIdには最適な範囲が存在します。少なければ良いというものではないわけです。

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