低電力な常時オンウェアラブル機器の設計方法:パート1 - マイクロコントローラの最適化

著者 Bill Giovino

DigiKeyの北米担当編集者の提供

編集者の注釈:この記事は、常時オンの電池駆動型ウェアラブル電子機器の設計について、主に電力を最適化する3つの領域に焦点を当てる3部構成シリーズのパート1です。今回のパート1では、電池寿命を延長して充電を減らすためのマイクロコントローラの構成方法について説明します。パート2では、電池を適切にメンテナンスして充電間隔を延ばす方法について説明します。パート3では、ウェアラブル機器のワイヤレスネットワーキングと、ワイヤレスコネクティビティを維持しながら電池の消耗を最小限に抑える方法を検証します。

電池駆動型ウェアラブルデバイスの人気が高まるにつれて、ウェアラブル機器メーカーは機能を追加することで競争力を維持しています。その代表的な製品は、肌身離さず使用するフィットネスウォッチでしょう。この機器は常に電源オンの状態に維持され、ユーザーはいつも新機能と性能の向上を求めています。

しかし、より優れた機能を追加するには、より高度なマイクロコントローラを採用しウォッチの機能を制御、監視する必要があります。これには、より頻繁な充電が必要になることで電池の寿命が短くなるという欠点もあり、ユーザーエクスペリエンスも低下しかねません。

この記事では、常時オンのウェアラブル機器向けマイクロコントローラ特有のニーズについて検討します。また、常時オンのウェアラブル機器向けマイクロコントローラの構成方法について、低電力モードや自律的なペリフェラルなどを交えながら説明します。次に、Texas Instrumentsの16ビットマイクロコントローラとMaxim Integratedの32ビットマイクロコントローラを取り上げ、それらの主な特長によるメリットをウェアラブル機器の設計に活かす方法を紹介します。

常時オンのウェアラブル機器に使われるマイクロコントローラ特有のニーズ

ウェアラブル機器では、充電間隔を延ばす電池寿命の長さがエンドユーザーにとって最も重要な機能とも言えます。ウェアラブル製品のオンラインレビューでは精度と機能が高く評価されますが、充電間隔の長さも1つ星の残念なレビューと5つ星の高い満足度のレビューの差を生む要素になるかもしれません。

電池寿命の短さには、頻繁な充電という不便さとは別の重要な問題もあります。リチウム2次電池は頻繁な充電によって総容量が失われ、長期間にわたり電池を正常な状態に保つのが難しくなります。ウェアラブル機器用の電池については、このシリーズのパート2で説明します。

また、充電に使用されるコネクタの多くは堅牢ですが、コネクタの抜き差し回数には限界があるため充電のたびに摩耗してしまいます。

ウェアラブル電子機器には他の民生機器とは異なる電力ニーズがありますが、これはウェアラブル機器が常にオン状態にあり、マイクロコントローラへの電力供給が常に必要になるためです。通常は、常に通信可能な状態にあることが必須のBluetooth Low Energy(BLE)接続があり、コンパニオンモバイルデバイスといつでも通信できます。なおウェアラブル機器のワイヤレスコネクティビティについては、このシリーズのパート3で説明します。

一方で、接続可能な環境ではウェアラブル機器はモバイルデバイスとデータを同期できるものの、使用目的によっては、数時間から数日間にわたるモバイル接続なしのスタンドアロン動作にも備える必要があります。

スマートウォッチなどのウェアラブル機器の主な機能には、時刻を知らせる他に、I2CやSPIなどのシリアルポートに接続された外部センサからの入力を常に監視し記録するということがあります。たとえば、歩数計などで歩数をカウントできる特殊な加速度計や、位置追跡およびナビゲーション機能向けのGPS無線、さらに心拍数モニタなどです。これらのセンサの大半はユーザーが個別にオン/オフを切り替えられますが、優れた技術者であれば全センサがオン状態という最悪シナリオに合わせたシステム設計を行うはずです。

これらのセンサから集めたデータは、常時記録する必要があります。モノのインターネット(IoT)の多くまたは民生用モバイルデバイスでは、ログに記録されたセンサデータはフラッシュやEEPROMなどの不揮発性メモリに保存されます。ただし、フラッシュやEEPROMへの書き込み処理では大量の電流を消費するため、ウェアラブル機器内の小型電池はすぐに消耗する可能性があります。その対策としてより効果的と言えるのが、SRAMへのセンサデータ保存です。

SRAMへの書き込みでは、消費する電流が不揮発性メモリへの書き込みより大幅に少なくなります。マイクロコントローラは常に給電されるので、ウェアラブルの電源をオフにするかユーザーが充電し損ねて電池が消耗しない限り、SRAMセンサデータは常に維持され安全です。保存したセンサデータをワイヤレスで転送してモバイルデバイスに保存すれば、電源を切ってもセンサデータは失われません。

マイクロコントローラの電力消費を最小限に抑えるための重要な機能となるのが、自律的なペリフェラルです。厳密にどの程度自律的かは、マイクロコントローラ製品ファミリによって異なります。電力節約のもう1つの一般的な機能となるのが、マイクロコントローラの他の部分とは独立した形で未使用ペリフェラルへの電力を無効にすることです。これは電力レジスタのビットを設定またはクリアすることで行います。

ウェアラブル機器向けのマイクロコントローラ低電力モード

常時オンのウェアラブル機器に使われるマイクロコントローラ特有のニーズを理解したところで、次に重要なのは、便利な機能とそうでない機能など、低電力モードでの機能を決めることです。

言うまでもありませんが、ウェアラブル機器の最低電力モードは機器がオフのときです。大半のウェアラブル機器は、ソフトウェア制御のモーメンタリ押ボタンを所定の時間押し続けることでオン/オフを切り替え、不慮の電源シーケンスを防ぎます。これはメカニカルスイッチよりも優れています。メカニカルスイッチはコスト効率が低いだけでなく誤ってトリガするおそれもあります。ただし技術者は、ウェアラブル機器の電源が切られることは滅多にないと想定する必要があります。つまりウェアラブル機器では、「機器は決してオフにならない」「機器は時折オフになることもある」という、一見矛盾する2つの想定に立った設計が必要になります。

通常、電源管理チップは、電池の充電を制御し、マイクロコントローラとセンサへの電源のオン/オフのシーケンスを行います。電源管理については、本シリーズのパート2で説明します。電源管理チップがウェアラブル機器をオフにすると、リアルタイムクロック(RTC)への別個の電源を除き、マイクロコントローラへの主電源がゲートオフされます。この場合、CPU、RAM、および大半のペリフェラルへの外部電源によって機能するマイクロコントローラが無効でRTCのみが実行していることが必要になります。

ウェアラブル機器がオフの状態でマイクロコントローラのRTCを実行させ、正しい時刻を維持する必要があるため、マイクロコントローラにはRTC用に別個の電源ピンが必要になります。RTCは、ナノアンペア単位の電流しか消費しない32.768kHzの低周波数発振器によってクロックされます。電源を切ったとき時刻が機能しなくなるスマートウォッチではユーザーの使い勝手は悪いため、RTCを機能停止にする低電力モードはウェアラブルには適用できません。

電力節約のために未使用のペリフェラルとともにCPUを無効にすることは可能です。RAMの内容は常に維持しなければならず、RAMアレイ全体の機能を無効にする低電力モードもウェアラブルには適用できません。

マイクロコントローラの構成

ウェアラブル向けに最適化されたマイクロコントローラの1つの例として、強誘電体ランダムアクセスメモリ(FRAM)を備えたTexas InstrumentsのMSP430FR2676TPTR 16MHzマイクロコントローラがあります(図1)。これは、Texas InstrumentsのMSP430FR2676 16ビットMSP430™ CapTIvate™静電容量式タッチセンシングマイクロコントローラに属する製品で、このマイクロコントローラは、厚いガラスを通してタッチを検出する低電力ペリフェラルを備えています。ウェアラブルで使用するガラススクリーンは、気兼ねせずに使えるように厚く堅牢である必要があるので、CapTIvateテクノロジがタッチスクリーン式のウェアラブル機器に適しています。

Texas InstrumentsのMSP430FR2676TPTR超低電力16ビットFRAMマイクロコントローラの図(クリックして拡大)図1:Texas InstrumentsのMSP430FR2676TPTR超低電力16ビットFRAM(強誘電体ランダムアクセスメモリ)マイクロコントローラは幅広いペリフェラルを備えており、最小限の外付け部品でシンプルなウェアラブル機器を制御できます。(画像提供:Texas Instruments)

MSP430FR2676TPTRは、Texas InstrumentsのFRAM(強誘電体ランダムアクセスメモリ)プログラムメモリ64KBを備えており、フラッシュマイクロコントローラよりも低電力でより高度な読み書き性能を発揮します。8KBのSRAMと、I2C、SPI、UARTを含むペリフェラルのセットを完備しておりセンサとの接続が可能です。また、32 x 32ハードウェア乗算器により乗算が高速化され、消費電力を低減します。

MSP430FR2676TPTRのRTCは、マイクロ秒から数時間単位の間隔でマイクロコントローラをウェイクアップするように構成できます。これは、一定間隔でセンサデータを処理したりそのデータをワイヤレスでモバイルデバイスに送信したりするタスク実行のためにCPUをウェイクアップするのに便利です。

MSP430FR2676TPTRの発振器およびクロックシステムは、システムのコストを減らし低消費電力を実現できるように設計されています。このマイクロコントローラは、4つの内部生成クロックソースと2つの高精度な外部クロックソースをサポートします。これらの発振器とクロックは、選択した低電力モードとファームウェア構成に応じて、ファームウェアの制御によって有効/無効にできます。また、ペリフェラル実行のために、MSP430FR2676TPTRは2種類のクロックを備えています。1つはシステムクロック周波数と同じ速度で実行できる高速サブシステムマスタークロック(SMCLK)、もう1つは低速40kHz補助クロック(ACLK)です。

MSP430FR2676TPTRは、CPUなどすべての機能が有効なアクティブモードのサポートに加えて、構成可能で複雑な低電力モードもサポートします。所定のMSP430低電力モードでアクティブなオンチップペリフェラルは、ファームウェアにより電源をオフにできます。電源をオフにすることで、カスタムの低電力構成が可能になります。MSP430FR2676TPTRをウェアラブル機器に応用する場合、以下の低電力モード(LPMx)を適用できます。

  • LPM0では、CPUを除く全機能を実行できます。これは、CPUの介入なしに自律的なペリフェラルをアクティブにしてフルスピードで実行する必要がある場合に便利です。
  • LPM3は、CPU、高速発振器、SMCLKを無効にします。有効なすべてのペリフェラルは、省電力型の40kHz ACLKで実行できます。これは、ウェアラブル機器がアイドル状態でボタンが押されないときに便利です。I2CやSPIなどのシリアルペリフェラルが自律的に実行してセンサデータを収集しながら、ダイレクトメモリアクセス(DMA)がRAMにデータを転送できます。RTCはデバイスをウェイクアップしてあらゆる必要なタスクを実行できます。
  • LPM4は、RTCを除く全機能をオフにします。SRAMの電源もオフになります。これは、ユーザーがウェアラブル機器をオフにするときに便利です。

MSP430FR2676TPTRは1.8~3.6Vで動作できるので、3.6Vリチウム電池での使用に適しています。RTCを実行してペリフェラルを最小限にした状態では、マイクロコントローラの消費電流は5μA未満にもなります。メインの発振器の実行時は、MSP430FR2676TPTRの消費電流は135μA/MHz(標準)となります。

より高性能なウェアラブル機器向けに、Maxim IntegratedではMAX32660GWE 32ビットマイクロコントローラを提供しています(図2)。このデバイスは、浮動小数点ユニット(FPU)を備えたArm® Cortex®-M4コアをベースにしています。MAX32660は256KBのフラッシュと96KBのSRAMを備えており、SRAMは4つのセクタに分かれています。どのセクタも、読み書き用を有効にする設定、ライトスリープにして読み書きを無効にしながらコンテンツを保持して節電する設定、または完全に無効にしてそのセクタの電力を落とす設定が可能です。

Maxim IntegratedのMAX32660の図図2:Maxim IntegratedのMAX32660は常時オンのウェアラブル電子機器専用に設計されています。節電のために、ペリフェラル数をウェアラブルアプリケーションの外部センサへのインターフェース接続に必要なものだけに最小化しています。(画像提供:Maxim Integrated)

MAX32660は最大96MHzで動作し、すべてのペリフェラルが動作した状態での消費電流はわずか85μA/MHzです。消費電流を最小限に抑えチップサイズを縮小するために、2つのSPI、2つのI2C、2つのUARTなど、ウェアラブル機器で使用される最小限のペリフェラルセットを備えています。

このデバイスは2つの内蔵発振器をサポートしています。1つはファームウェアにより無効にできる96MHz高速内部発振器で、もう1つは低電力モードに関わらず常時オンの低電力8kHzリング発振器です。32.768kHz発振器は外部水晶振動子を使用し、RTCに使われます。これら3つの発振器のいずれも、CPUとペリフェラルのクロックによる動作に使用できます。

どのペリフェラルもファームウェアで電源をオフにできます。さらにファームウェアはそのペリフェラルに対するクロックを無効にして、貴重なナノアンペアを節約することもできます。

ウェアラブル機器の要件に準じて、RTCはアクティブモードの際にファームウェアにより意図的に無効にされない限り、すべての低電力モードで常にオンになります。RTCとクロックは「常時オン領域」という別セクションにあります。この領域はマイクロコントローラの他の部分から隔離されているので、ファームウェアの誤動作や改ざんが生じてもRTCは影響を受けません。

アクティブモードに加えて、MAX32660はウェアラブル電子機器専用にカスタマイズされた以下の3種類の低電力モードをサポートします。

  • スリープモード。この場合CPUはオフになる一方で、どの有効なペリフェラルも自律的に実行できます。これは、ウェアラブルがアイドル状態でセンサデータがDMAに記録、保存される場合に便利です。どのアクティブなペリフェラルもCPUをアクティブモードにウェイクできます。
  • ディープスリープモード。この場合、RTCへの32.768kHzクロックを除き、CPUとペリフェラルへのすべての内部クロックがゲートオフされます。ディープスリープになると96MHz内部クロックが自動的にオフになるように、ファームウェアによって設定できます。データSRAMや全ペリフェラルレジスタなどすべてのRAMの内容が保持されます。これは、節電のためにウェアラブル機器を電源オフにしても再度オンにするときは必ずオフの時点から再起動する、ソフトオフモードが必要な場合に便利です。
  • バックアップモード。これは最低電力モードです。CPUと全ペリフェラルへのクロックと電源が、RTCを除いてゲートオフされます。デフォルトではSRAMへの電源がすべて無効になっています。これは、ユーザーがウェアラブルの電源をオフにしたときSRAMの内容を保持せずに節電する場合に便利です。ただしこのモードでは、オプションで4つのSRAMセクタのいずれかをライトスリープのままにしてメモリの内容を保持することもできます。これは、電流消費の増加をほんのわずかに抑えて最低限の状態を維持する必要があるウェアラブルに便利です。

1.71~3.63Vを必要とするMAX32660では、3.6Vリチウム電池による動作が可能になります。このマイクロコントローラは自己完結型電源管理ユニットも備えており、外部コンポーネントをなくすことでピン数を減らしています。またバッテリゲージもサポートするので、外部バッテリを監視しバッテリの充電状態を正確に読み取ってウェアラブル機器のユーザーインターフェース上に表示できます。

まとめ

技術者にとって、常時オンのウェアラブル電子機器には特有の課題があります。電源オフの状態に見えても、ウェアラブル機器では多少の電力が消費されています。しかし、これまで述べたように、機能性と便利な特長を製品設計に加えて構成可能な低電力モードを使用することで、電池寿命を維持し延長することができます。

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著者について

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Bill Giovino

Bill Giovino氏は、シラキュース大学のBSEEを持つエレクトロニクスエンジニアであり、設計エンジニアからフィールドアプリケーションエンジニア、そしてテクノロジマーケティングへの飛躍に成功した数少ない人の1人です。

Billは25年以上にわたり、STMicroelectronics、Intel、Maxim Integratedなどの多くの企業のために技術的および非技術的な聴衆の前で新技術の普及を楽しんできました。STMicroelectronicsでは、マイクロコントローラ業界での初期の成功を支えました。InfineonでBillは、同社初のマイクロコントローラ設計が米国の自動車業界で勝利するように周到に準備しました。Billは、CPU Technologiesのマーケティングコンサルタントとして、多くの企業が成果の低い製品を成功事例に変えるのを手助けしてきました。

Billは、最初のフルTCP/IPスタックをマイクロコントローラに搭載するなど、モノのインターネットの早期採用者でした。Billは「教育を通じての販売」というメッセージと、オンラインで製品を宣伝するための明確でよく書かれたコミュニケーションの重要性の高まりに専心しています。彼は人気のあるLinkedIn Semiconductorのセールスアンドマーケティンググループのモデレータであり、B2Eに対する知識が豊富です。

出版者について

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