ラムダ波、SAW、BAWなどMEMSフィルタの仕組みとは

モノのインターネットは常に拡大し続けており、スマートフォン、タブレット、コンピュータなど、ますます多くのモバイルデバイスや、テレビ、さらには冷蔵庫や洗濯機までもが、情報伝達のために波長を奪い合っています。これらのデバイスは、ほぼすべてがマルチバンドであり、できるだけ効率的な方法で通信するためにさまざまな伝送規格に対応しています。そのため、空気を介して伝送される膨大な量の無線周波数に囲まれた環境下に常にあります。これにより、今日の無線通信における主な課題の1つが生じています。それは、受信信号に干渉やノイズがない大量のデータフローを実現することです。この目的のため、信号の送受信を行うすべてのデバイスには、無線レシーバに何らかの形態のRFフィルタが接続されています。

RFフィルタ

RFフィルタを正式に使用できる、広く認められた周波数範囲があるわけではありません。しかし、RFフィルタの適用対象となる下限は、デジタル信号処理によって妥当なレベルで維持される最大限度として選択されています。現在のIoTの世界では、この限度は100MHzから始まり、上限は10GHz程度になります。それ以上の周波数になると、マイクロ波の領域にまともに入ってしまいます。100MHz~6GHzの範囲は、一般的な都市環境で使用され、この環境のあらゆる用途に十分な帯域幅です。しかし、テレビ放送サービス、モバイルサービス、WLAN、さらには政府/軍事用途でも周波数が使用されるため、膨大な数の放送信号が使用されています。このため、ごくありふれたデバイスであっても、非常に選択的なRFフィルタを使用する必要があります。これらのフィルタが「選択的である」ということは、極めて高いQ値と低い損失を要求することを意味します。

前述のアプリケーションに使用されるRFフィルタのタイプは、一般的にバンドパスフィルタの形態であり、そのようなフィルタは、すばらしい不思議なトポロジで接続された一連のインダクタとコンデンサを使用して作成できることが分かっています。しかし、これらのフィルタは、インダクタやコンデンサの固有損失のために高く評価され、非常に適応性があるとしても、500MHz以上のアプリケーションには不向きです。用途に応じた精度が得られるほど十分にQ値が高くならないためです。

RF MEMSフィルタ

上記の説明により、必要とされる10,000をはるかに上回るQ値を実現するには、水晶共振子や音叉型共振子などの機械共振子を利用する必要があることが分かります。水晶共振子は、水晶が圧電材料であることから、圧電共振子とも呼ばれます。つまり、この材料は、電荷を加えると機械的な動きを発生させ、逆に、機械的応力が加わると電荷を発生させます。

これらの機械的な圧電共振子のQ値と共振周波数は、一般的に幾何学的・材料的な制約によって決まります。したがって、これらの共振子が動作できる周波数範囲を広げるには、異なる材料とMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)プロセスを採用して、必要な周波数で動作する共振子を製造する必要があります。圧電材料の中で、主にその性能に対する製造効率から注目されているのが窒化アルミニウム(AlN)です。

BAW共振子とSAW共振子

ここで検討する共振子には、主にバルク弾性波(BAW)共振子と表面弾性波(SAW)共振子の2種類があります。

BAW共振子

BAW共振子は、2つの金属電極の間に圧電フィルムを配置したものです。これらの電極が引き起こす音響波は、圧電フィルムの「バルク」に沿って垂直方向に伝搬し、電極間に定在波を形成します。

その波が基板へ逃げないようにするために、BAWフィルタの構成には、膜型共振子(MTR)、薄膜バルク音響共振子(FBAR)、音響多層膜共振子(SMR)など、いくつかの種類があります。

FBARデバイスやMTRデバイスは、アクティブ領域の下の空洞を使用して、懸架メンブレンを形成します。空気の音響インピーダンスは、一般的な固体材料に比べて10^5倍も低いため、空気中に放射されるエネルギーは極めて少なく、エネルギーの99.995%が反射されます。

SMRデバイスの場合、音響ブラッグ反射器は、波が基板に逃げないように、反射率の異なる材料を交互に何層にも重ねて作られています。

高インピーダンス層と低インピーダンス層の界面では、波の大部分が反射されます。各層は、λ/4の間隔で配置されているため、正しい位相で加算されます。3組のミラー層を使用するため、層間のインピーダンス比(z = Z1/Z2)が高ければ、実用上十分な反射率が得られます。厚さλ/4の層がN組ある鏡の反射率の一般的な関係は、r = 1 − z2Nとなります。

  • 設計特性(前述の共振子を設計するために重要な要素):
  • BAWデバイスを作成する際には、いくつかの材料パラメータを考慮する必要があります。

    • 圧電結合係数Keff2は、デバイスのエネルギー変換効率を物理的に表し、直列共振ピークと並列共振ピークの間の距離で定義されます。カップリングが低すぎる圧電層では、携帯電話アプリケーションに必要な帯域幅のフィルタを作成することができません。
    • 上記の式では、直列共振周波数(fs)と並列共振周波数(fp)を使用して、有効結合係数を算出しています。
    • 比誘電率εr。共振子のインピーダンスレベルは、共振子の大きさ、圧電層の厚さ、比誘電率によって決まります。比誘電率εrを高くすると、共振子のサイズを小さくできます。
    • 音響速度:音響速度が低い材料は、圧電層が薄くなるため、デバイスを小さくできます。
    • 温度係数:温度が変化したときの周波数偏移量を表します。
    • BAW共振子では、性能指数(FOM)が最も重要なパラメータの1つであり、FOM = Keff2 × Qと定義できます(Keff2は有効結合係数、QはQ値)。Keff2が大きいと、5Gバンドで望ましい広帯域幅が得られます。
  • 共振特性
  • フィルタの共振周波数は、圧電フィルム内の音響速度と圧電フィルムの厚さによって決まります。

    ここで、vは音響速度、dは圧電フィルムの厚さです。電極の厚さも共振周波数に影響し、電極の厚さを変えると周波数偏移を発生させることができます。周波数偏移は、フィルタのパスバンドを制御するために使用できます。

SAW共振子

BAWフィルタとは異なり、SAWフィルタでは、音響波とエネルギーが基板の単一「表面」に沿って伝搬します。その結果、SAW共振子の特性は、BAWフィルタほど基板の形状や厚さに依存しません。

SAW共振子は、1ポートSAW共振子と2ポートSAW共振子の2種類に大別されます。入出力IDT(インターデジタルトランスデューサ)の両側にリフレクタを配置することで、波を空洞内に封じ込め、共振を発生させます。

  • 設計特性(前述の共振子を設計するために重要な要素):
  • SAWフィルタの設計特性は、結合係数と音響速度が出力に大きく影響する点で、BAWフィルタと非常によく似ています。しかし、より詳細に見れば、SAWデバイスの共振周波数に影響を与える方法は、大きく2つに分かれます。共振周波数を増やすには、IDTバーの線幅と周期的な間隔を小さくします。これには、紫外線や電子ビームリソグラフィなどの高精度なリソグラフィ技術が使用されます。もう1つの方法は、音響速度がより速い基板を使用することです。

  • 共振特性

    ここで、「pitch(ピッチ)」は2本のIDTフィンガーの間の距離です。

ラムダ波共振子

ラムダ波共振子では、SAW共振子とFBAR共振子を組み合わせた構造を使用するため、両者の利点を生かすことができます。この構造により、高いQ値と大きな位相速度が可能になります。

フローティングエッジリフレクタまたはグレーティングを使用し、音響波を反射して封じ込めます。

  • 設計特性(前述の共振子を設計するために重要な要素):
  • 境界条件には大きく分けて、オープン-オープン、ショート-オープン、ショート-ショートの3種類があります。ここでは、メタライゼーションの機械的な影響を無視しています。つまり、メタライゼーションは無限に薄いと仮定しています。メタライゼーションは位相速度をわずかに低下させますが、簡略化のため通常は無視されます。

しかし、ダブルIDTは製造がはるかに複雑で、その分コストも高くなります。そのため、最も広く使用されている構成は、厚いAIN層を備えたシングルIDTタイプ、または薄いAIN層を備えたIDTフローティングBEタイプです。

  • 共振特性
  • ラムダ波共振子の共振周波数は、波モードの位相速度と波長の比になります。すなわち、

まとめ

SAWフィルタは、約2GHz以下の周波数において、パスバンド周波数範囲全体にわたって振幅応答をフラットに保ちながら、不要な信号を良好に除去します。BAWフィルタは、1.5GHz未満の周波数、さらにはSAW部品の周波数範囲でも使用できるように製造できますが、低周波数ではBAW部品のサイズが大きくなるため、圧電ウェハーあたりの部品収益が低く、SAWフィルタに対してコスト競争力を持つことが難しくなります。

しかし、SAW共振子は、周波数が高くなるにつれてIDT構造の寸法が小さくなるため、高周波数に対応するにはIDTの寸法が十分に小さいSAW部品を製造しなければならないという難題が生じるので、非実用的になります。そのため、SAWフィルタは、5Gの周波数ではBAWフィルタに比べてコスト効率が悪く、5Gアプリケーションには使用されません。現在、5Gアプリケーションでは、FBARフィルタが使用されています。100MHz~10GHzの範囲で動作するからです。FBARは0.3~0.5dBという低い挿入損失を特長とし、消費電流の大幅な減少が可能になります。その結果、携帯デバイスのバッテリ使用時間を長くできるのです。

この記事は共振子フィルタを包括的に説明するものではありませんが、MEMS RFフィルタの概要と、それが実世界で機能するための基礎理論を大まかにでもご理解いただくお役に立ったことを願っています。

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