環境発電を利用して大規模IoTに電力を供給する方法とタイミング

5Gの展開により、インダストリ4.0のワイヤレスセンサネットワーク、スマートロジスティクス、スマートシティ、スマート農業などの大規模IoTアプリケーションの数が爆発的に増加しています。この増加の過程には、ネットワークアーキテクチャの多くの側面(含む:新しい電源供給パラダイム)を再検討できる、またとないチャンスが設計者にあります。

数十億のワイヤレスノードにスケーラブルで信頼性の高い電源を供給することは困難な課題です。この課題を解決できなければ、大規模IoTの展開に支障をきたすことになります。使用する電池の数は、ただ増やせばいいというものではありません。インスタンスの数が増える中で、電池を追加するケースばかりではなく、電池を削減しなければならないケースも出てくるということです。そこで、大規模IoTの主要部分に電力を供給するために、電池の代わりに、様々な形態の環境発電(EH)が必要になります。設計者にとって幸いなことに、EHの技術は進歩し続けており、大規模IoTデバイスの電源供給手段としてますます魅力的な選択肢となっています。

本稿では、何十億個もの大規模IoTワイヤレスノードに電力を供給する際に生じる課題と、EHが実行可能なソリューションとなるかどうかを判断するための検討ポイントについて簡単に説明します。その後で、EM MicroelectronicやNowiの環境発電電源管理ICや、大規模IoTにおけるEHの評価を高める開発環境についてレビューしています。

大規模なIoTノードの電源供給方法を決定するための5つの検討ポイントを以下に挙げます。

  • データレート
  • 伝送距離
  • レイテンシ
  • 動作環境
  • 環境負荷と環境管理/物流

データレート、伝送距離、レイテンシは、採用するワイヤレス通信プロトコルに依存し、ノードのピーク電力と平均電力の需要に影響を与えます。たとえば、Bluetooth low energyを使用する場合、1辺が10センチメートル(cm)の正方形の太陽電池(PV)パネルで、およそ以下のデータレートでデータパケットを定期的に伝送することができます。

  • 小売店の店内照明レベルでは100ms(ミリ秒)毎
  • 一般的なオフィス環境の照明レベルでは200ms毎
  • 倉庫や工場の照明レベルでは2秒毎

また、動作環境は電池の適性やコストに影響します。小売店やオフィスなど比較的穏やかな環境では、安価な電池でそれなりの動作寿命が得られるため、EHは相対的にコスト高になります。ワイヤレスノードを過酷な産業環境または屋外環境に配置する場合は、より高価な電池組成が必要となるので、EHの魅力が相対的に高まります。

また、最後の検討ポイントとして、環境負荷や環境管理があります。1次電池は寿命が限られているため、必要な電池交換回数が増え、メンテナンスコストや管理/ロジスティクスコストが増大し、電池廃棄による環境負荷が発生します。これら様々な問題に対処する場面に応じて、設計者はいくつかのEH対応電源(供給)アーキテクチャの中から選択することができます。

  • 1次電池電源と補助的なEH:電池電源のメリットを維持しつつ、デメリットを低減させることで、電池寿命を延ばします。
  • 充電式電池とEHの組み合わせ:寿命を延ばし、電池交換を不要にします。
  • キャパシタまたはスーパーキャパシタとEHの組み合わせ:電池不要システムと長寿命を実現します。

EHコントローラと電源管理IC

アプリケーションで電源管理IC(PMIC)とEHコントローラを併用するメリットを享受するには、EM MicroelectronicのEM8500を使用することを設計者におすすめします。このPMICは、EH電源用の最大電力点追従(MPPT)機能と、様々なシステム機能に対応した4つの独立した出力電圧を提供します(図1)。マイクロワット(μW)~ミリワット(mW)の範囲の電力を発電する熱電発電機(TEG)やPVセル(太陽電池)など、様々なEH技術と接続することが可能です。EM8500は、1次または2次電池、従来のコンデンサ、あるいはスーパーキャパシタとも組み合わせて使用することができます。EM8500-A001-LF24B+モデルは、4 x 4mmの24ピンQFNにパッケージされています。

図1:EM8500 PMICは、EH電源用のMPPT機能を搭載し、システムに4つの出力電圧を供給します。(画像提供:EM Microelectronic)

EM8500開発キット

設計者は、EM8500を構成し、評価するのに、EMDVK8500開発キットを使用することができます(図2)。この開発キットには、EM8500の構成に必要なソフトウェアと、構成し終わったEM8500の性能を測定するためのツールが含まれています。

図2:EMDVK8500は、EM8500 PMICの構成と、構成し終わったEM8500 PMICの性能測定が可能です。(画像提供:EM Microelectronic)

EHコントローラICと評価ボード

完全な電源管理ソリューションを必要としない設計向けにおすすめするのは、NowiのNH2D0245です。これは、MPPT機能付きの小型高性能EHコントローラで、低電力アプリケーション向けであり、16ピンの3 x 3mm QFNパッケージに収納されています(図3参照)。NH2D0245は、PVセル、誘導電源、圧電電源などの様々なEH電源や、二次電池、スーパーキャパシタなどのエネルギー蓄積デバイスと一緒に使用することが可能です。MPPTのアルゴリズムは、特定の発電機に依存せずに動作し、1秒間隔で最大電力点を検出できるため、動的な環境下で効率を最大化することができます。

図3:MPPT機能を搭載したEHコントローラNH2D0245は、1辺が3mmの正方形である小型のQFNパッケージで提供されます。(画像提供:Nowi)

NH2D0245評価ボードは、NH2D0245の性能と機能を迅速にテストできるように設計されています(図4)。この評価ボードを使用するには、環境発電機、電池またはスーパーキャパシタ、およびマルチメータが必要です。圧電発電機(圧電ハーベスタ)のような、交流出力のEHを使用する場合は、EHと評価ボードの直流入力との間に整流器を追加する必要があります。

図4:NH2D0245評価ボードは、EHコントローラの機能と性能を迅速にテストすることが可能です。(画像提供:Nowi)

まとめ

5Gによって実現される大規模IoTの展開は、ワイヤレスノードの電源供給方法を再検討するエキサイティングな挑戦と機会を設計者に提供することになります。各アプリケーションに最適な電源(供給)アーキテクチャを決定するには、様々な技術的、環境的、経済的ポイントを検討する必要があります。電池の性能を高めるには、EHをベースにした様々なアプローチが必要になってきます。多くの場合、EHは、1次または2次電池、従来のコンデンサ、あるいはスーパーキャパシタと組み合わせて使用されます。

著者について

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ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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