ヘッドフォンリードに2つの機能を持たせるために
「アンテナは、マクスウェル方程式で定義される自由空間の電磁エネルギーと、導体や導波管に閉じ込められている高周波電圧・電流の間における双方向のトランスデューサである」と考えると、分かりやすくなります。ところで、エンジニアは常に、1本のパスや相互接続を別の無関係な機能に役立てようと努力しているものです。その好例が、シールドされていないヘッドフォンのワイヤをFMアンテナとして兼用することです。
初期のAM/FMポータブルラジオは、低周波のAM帯域(550~1600kHz(キロヘルツ))用にフェライトコアに巻いた内部ロングワイヤと、FM帯域(88~108MHz)用の約1~2メートル(m)の「ホイップ」アンテナの、2種類のアンテナを使っていました。ラジオが小型化し、携帯可能にまでなると、ユーザーがヘッドフォンや有線イヤフォンを使用することを想定して、内蔵スピーカを完全になくしたベンダーも出てきました。
その結果、ラジオ内のヘッドフォンジャックの接続を再利用することでFMホイップをなくすという、シンプルな技術も実現されました。その後、同様のアプローチは、FMラジオの機能を搭載したMP3プレーヤにも適用されました(図1)。この技術は、FMラジオを搭載した多くの小型電子機器の設計者によって現在でも採用されています。
図1:MP3プレーヤSanDisk Clip Jamは、寸法がわずか55mm × 35mm × 10mmで、1回の充電で20時間動作します。内蔵のFMラジオは、同梱のヘッドフォンリードをアンテナとして使用しています。(画像提供:Lifewire)
基本的な非シールドヘッドフォンケーブルは、3本の導線で構成されています。左右のオーディオチャンネルがヘッドフォンアンプによって左右のオーディオ導体上に駆動されるのに対し、一般的なオーディオ導体はオーディオのリターンパスに使用されます。同じケーブルが、インダクタを使ってグランドからの高周波を遮断する一方で、オーディオ信号のグランドリターンを可能にすることで、FMアンテナとしても機能します。図2に示す回路は、Skyworks SolutionsのSi47xx AM/FMレシーバをベースにしています。
図2:ヘッドフォンワイヤをFMアンテナとして機能させるための基本的な配置は、わずかな受動部品の追加で実現できます。(画像提供:Skyworks Solutions)
小さなコンデンサが、アンテナ入力からのオーディオをブロックすると同時に、アンテナ高周波をレシーバフロントエンドに通過させることができます。フェライトビーズは、ヘッドフォンアンプとヘッドフォンの間の、低インピーダンスのオーディオパスと高インピーダンスの高周波パスとなります。
実際の回路はもう少し複雑なため、保護や電圧放電を行ったり、信号があるべきところにしか行かないようにしたりするための部品を追加する必要があります。図3の設計では、この役割を果たすように構成されたTexas Instruments製ヘッドフォンパワーアンプLM4910と、必要に応じたアンテナ信号接続/分離回路を使用しています。
図3:このヘッドフォンアンプLM4910は、いくつかの受動部品を追加することで、ヘッドフォンリードをFMアンテナとして使用できるようにアレンジされています。(画像提供:Skyworks Solutions)
3線式の左右のオーディオヘッドフォンジャックは、増幅されたオーディオ信号をLM4910から受け取ります。ヘッドフォンシールド/グランドでピックアップされた分離FM信号は、100ピコファラド(pF)コンデンサを介してレシーバフロントエンドにルーティングされます。ダイオードD1、D2、D3は、ヘッドフォンアンプとレシーバの定格を超える静電気放電(ESD)が発生した場合に、それに対する保護を行います。
この技術は、FM帯域の放送信号(88~108MHz)だけでなく、AMラジオ(550~1550kHz)にも応用できると考えられます。理論的には、ヘッドフォンワイヤの長ささえ合えば、AM帯域でも使えるはずです。この技術がFM帯域に有効である理由は、1~1.5mの長さのヘッドフォンケーブルが放送用帯域のFM信号の約半分の波長となるため、その帯域で共振して効果を発揮するからです。AM帯域の場合は、ヘッドフォンワイヤの長さが約100m必要となるので、明らかに非現実的です。
まとめ
エンジニアは常に、ケーブルなどの利用可能リソースを複数の用途に活用する道を探し求めてきました。ヘッドフォンリードをFMアンテナとして兼用するのは、その最たる例です。上記で見てきたように、その兼用のために必要なのは、適切に構成されたパワーアンプ、ルーティング用のわずかな受動部品、保護用のダイオードだけで良いのです。
リファレンス
Skyworks Solutions、AN383、「Si47XXアンテナ、回路図、レイアウト、および設計ガイドライン」
Have questions or comments? Continue the conversation on TechForum, Digi-Key's online community and technical resource.
Visit TechForum