最新のAIカメラを支えるPoE規格の将来性
PoE(Power over Ethernet)は、AI搭載カメラやインテリジェントエッジデバイスに対し、1本のケーブルでデータ接続とDC電源の両方を供給することで、セキュリティ設備の近代化を実現しました。しかしながら、システムの信頼性と性能を脅かす重大な電力不足が生じつつあります。
IEEE 802.3afやIEEE 802.3atといった従来のPoE規格は、8~30Wの電力を消費する初期のIPカメラの電力要件を満たしていました。しかし、AI機能を搭載した先進的なPTZカメラは、50W以上にも達する大幅な電力増を必要とします。
この電力不足の問題は、従来のPoEインフラと、機能豊富なセキュリティカメラへの需要の高まりとの間に生じた格差に起因しています。この電力の不一致は当初はささいな不便に過ぎないかもしれませんが、信頼性の高い運用とシステム機能にとって根本的な障害となる可能性があります。デバイスの実際の消費電力は決して固定値ではなく、その現時点での動作状況によって変化するものです。
この不一致に対する主な解決策は、ハードウェアのアップグレードであり、これには、監視技術の動的要求を満たせる高電力規格へネットワークインフラを移行することを意味します。電力不足に対処し、耐障害性の高い監視ネットワークを構築するため、技術者にはいくつかのハードウェアベースの解決策があります。具体的には、対象を絞ったPoE++インジェクタによるネットワークシャーシのアップグレードやケーブルソリューションの導入などが挙げられます。
旧式PoEインフラ向けのエンジニアリングソリューション
1.PoE++インジェクタの使用(図1)
たとえば、PoE++を前提とするAIカメラをPoE/PoE+ポートに接続した場合、電源がまったく入らなかったり、機能が制限されたモードで起動する可能性があります。一部のスマートカメラは、パワーネゴシエーションを行い、フル電力が供給されない場合、たとえば、IR照明器、ヒータ、エッジ処理を無効化して30Wの制限内に収まるように、拘束モードに移行します。
図1:Phihong USAのPOE60U-1BTE-RシングルポートマルチギガPoE(Power-over-Ethernet) IEEE802.3btパワーインジェクタ(60W供給可能)(画像提供:Phihong USA)
多くのアップグレードシナリオにおいて、電力不足ポートに対する最も簡単な解決策は、スイッチとデバイスの間に必要な802.3bt電力を供給するPoE++インジェクタ(ミッドスパン)を追加することです。小規模な導入環境においては、802.3bt対応ミッドスパンがポートあたり最大60W以上の電力を供給できるため、802.3af/atのみをサポートするスイッチが設置されたネットワークへ高電力カメラを後付けする際に、実用的な選択肢となります。
2.パワーバジェットの計画
インテグレータは、スイッチにおける総PoEパワーバジェットの制約に直面します。たとえば、全ポートで150Wのパワーバジェットを共有する従来のPoEスイッチは、接続された各カメラが5~10Wの電力を消費する場合に十分な電力を供給します。しかし、AIカメラ1台が25~50Wを消費する場合、旧式のデバイス向けに設計された電源では、わずか数台で容易に最大消費電力に達してしまいます。計画なしに高消費電力のカメラを追加すると、電力制限に抵触し、一部のポートがシャットダウンする可能性があります。
これらのパワーバジェットを管理する技術者は、重要なポートの優先順位付け、負荷分散の実施、全ポートが同時に最大容量に達するのを防ぐための予備電力容量の割り当てを行うために、PoE対応のネットワーク管理が必要です。
3.ケーブルセットアップのアップグレード
また、既存のケーブをそのまま使用することも、弱点を露呈する可能性があります。ほとんどのCCTV設備で使用されている標準的なCat5e/Cat6ケーブル(図2)は、技術的にはPoE++給電が可能ですが、高負荷時には電圧降下が生じ、発熱が顕著になります。カメラに高ワット数を供給する長距離ケーブルは、数ワットの熱損失が発生し、抵抗の影響も受けます。
図2:Bel Inc.のBM-6ASG001F Ethernet Cat6Aモジュラーケーブル(画像提供:Bel Inc.)
インテグレータは、既存のインフラのケーブル仕様を考慮する必要があります。場合によっては、高電力デバイス向けに、ケーブルの再配線やCat6aなどのより太いゲージのカテゴリケーブル、あるいは専用のPoEケーブルの使用が推奨されることがあります。
こうした課題から、単に最先端のカメラを購入するだけでは不十分であることは明らかです。それを支えるネットワークも、同時に進化させなければなりません。多くのセキュリティインテグレータは、PoE 対応能力に関するサイト監査を実施する必要があります。スイッチ、ミッドスパン、ケーブル配線、パッチパネルなど、チェーンの各リンクを点検し、新しいデバイスのPoEクラスと消費電力に対応できることを確認する必要があます。
まとめ
電力マージンに余裕を持たせて設計し、最新のPoE規格を採用することで、インテグレータは、インテリジェント監視システムの将来性を確保し、新しいセキュリティソリューションの導入において電力が制約要因となることを防ぐことができます。高電力PoEインフラへの投資は、AIカメラだけではなく、IoTシステムの電源管理と信頼性向上にも寄与するため、多大な利益をもたらします。
Have questions or comments? Continue the conversation on TechForum, Digi-Key's online community and technical resource.
Visit TechForum
