ラックを活用して作業台を整頓する利点

一般的にエンジニアでない人は、典型的な設計エンジニアの作業場は雑然としている、というステレオタイプなイメージを持っていることでしょう。回路基板とボックスは、ネズミの巣のようにすべてを接続するケーブルとごっちゃになって、作業台の周りに半ば無造作に散らかっています。プロトタイプのテストベンチの場合は、適度に整理整頓されていることが多いものの、それでもこのステレオタイプのイメージは一理あります。特に開発が進行するとそれは真実味を増します。

エンジニア達の作業台はなぜそんなに乱雑なのでしょう?エンジニアリングの質問と同様、「何にでもあてはまる」共通の答えはありません。私はこれを、高度なプロジェクトに取り組んでいる間、何十人という電気技師の現場に足を運んだ元ハンズオンエンジニアとして言います。散らからないように設計チームが最善を尽くすつもりでいても、プロトタイプの作業台は遅かれ早かれ、乱雑になるものです(図1)。

図1:エンジニアが使う作業台もいろいろです。このワークベンチには、基板、テスタ、その他の機器やテストリード線が数えるほどしかないので、比較的見通しがよくきれいです。(画像提供:Wikipedia)

これは、より多くの機器とテストリード線が必要となることからそうなってしまうのです。入力と動作条件をシミュレートするために、一時的に即興のフィクスチャが使用されます。長時間のテストには、より大きなバッテリパックが追加されます。そして、ドキュメント類(データシート、ユーザーマニュアル、手書きのメモとリマインダー、それと「触るな」の警告書き)が山積みになります。

乱雑さは製品開発を害するか?

この無秩序な状態は、非効率な製品開発、デバッグ、評価を招くでしょうか?その答えは、「そのとおり」から「私には問題ではない」までさまざまでしょうが、これらの論争を裏付ける例があります。

現在Analog Devicesの一部となったLinear Technology社にジム・ウィリアムズ(Jim Williams)という優秀なアナログ電子技術者がいましたが、彼の晩年の作業台を見てください。非常に雑然としていますが、生産性は高かったのです(図2)。2011年に彼が早逝した翌年の2012年、カリフォルニア州マウンテンビューのコンピュータ歴史博物館で開催された特別展示で、彼の伝説的な作業台が、完全に元のままで展示されました。1

図2:伝説的なアナログ回路設計者の天才ジム・ウィリアムズ。Linear Technology社の彼の有名な非常に乱雑なワークベンチからこちらに向かって顔を上げる。(画像提供:Mercury News)

彼は、無造作に散らばったコンポーネントと計装の貯蔵庫のような場所で、絶えず革新的な回路とシステムを開発しました。ジムが亡くなる数か月前に私が彼を訪ねたとき、それを正当化するかのように、ジムはいたずらっぽくウインクするだけでした。彼は、こうした混乱の中で事をするのが好きだったのです。そしてまた、ジムの同僚には、ジムからテスト機器を「一時的に」借用しようという考えを思いとどまらせました。

それでもやはり、ジムの作業台は例外的かもしれません。多くのエンジニアやプロジェクトにとって、作業領域は病的なまでに整然としている必要はなくとも、好きか嫌いかに関係なく整頓された作業領域の必要性が高まっています。たとえば、2MHz DC/DCスイッチングコンバータやマルチギガヘルツRF回路など、控えめな回路でも周波数がこれまでになく高くなっているため、ワイヤとコネクタを空中に吊るしっぱなしにしておくと、プロトタイプとブレッドボードの段階のすべてのフェーズで問題が発生します。

簡単な解決策ここにあり

こんなとき、簡単で手間のかからないローテクな問題解決策があると便利です。ベンチトップ機器の無秩序に対しては、1つの対応策があります。それは、19インチラックです。

もちろん、エンジニアリングの世界では、ラックの使用は何ひとつ新しいことではありません。これは、たとえば、大規模な自動試験装置(ATE)のセットアップによく使用されます。オシロスコープ、波形ジェネレータ、スペクトラムアナライザなどのほぼすべての測定器は、直接ラックマウントできるか、少々のアドオンキットでラックに収納できます。

にもかかわらず、これらの測定装置がエンジニアの作業台ラックに収まっている姿をめったに目にすることはありません。これにはいくつかの理由が考えられますが、次のいずれかでしょう。まず、乱雑さの漸進的な成長特性の結果。または、サブリミナルではあるが時期尚早な「ほぼ終了しました」というメッセージを経営陣に送りたい場合。あるいはまた、近くにラックがあると、ラックと評価中のプロトタイプの間に多数のケーブルを張る必要があり、これは多くの場合不便である。

しかしラックには、これらの懸念を払拭できるさまざまなタイプと構成があります。たとえば、Hammond ManufacturingC2F197823LG1フルハイトラック(図3)などの、頑丈なダブルフレームの86インチハイラックがあります。

図3:このダブルフレームのフルハイト19インチラックは、設計者の作業台から大量のテスト機器を収納できます。(画像提供:Hammond Manufacturing)

また、Bud IndustriesRR-1264-BTなど、総荷重を軽くするためのシングルフレームユニットもあります。これは70インチのC2F197823LG1とほぼ同じ高さで、搭載機器への前後からのアクセスがいくぶん簡単です(図4)。

図4:シングルフレームのフルハイトラックは、取り付けたユニットの前面と背面に簡単にアクセスできると同時に、テストベンチをきれにすることもできます。(画像提供:Bud Industries)

これらのフルハイトの床置きラックは、ベンチトップ系の開発シナリオには過剰かもしれません。が、魅力的な別の手段があります。より背の低いHammond ManufacturingのRCHV1900817BK1などの11インチ高のラックは、実験台の隣りではなく卓上の一角に置くことができます(図5)。

図5:作業台の一角に直に置かれる高さ11インチの控えめなラックでさえ、雑然としたものを取り除き、卓上に規律をもたらします。(画像提供:Hammond Manufacturing)

ラックは、ベンダーやサプライヤの計装ユニットを取り付けるためだけのものではありません。何年も前の話ですが、私は大型の電気機械式テストフレーム用コントローラの設計に携わっていました。そこには、ピストンの可動域が設定値を超えると、トリップしてしまうフレーム取り付けのスイッチがいくつかありました。最初のテストではリミットスイッチの閉鎖をエミュレートする必要がありましたが、実際のフレームに電力を供給したくありませんでした。

しかし、簡単な解決策がありました。私たちのチームのエンジニアの1人が、幅約7インチ、高さ2½インチの軍用余剰品の無線トグルスイッチアレイを持っていたのです(図6)。このスイッチアレイ(トグル動作がこれまで遭遇した中でも最もスムーズ)を使用して、ソフトウェアエンジニアがキーボードに向かっているときにリミットスイッチイベントを簡単に開始できるようにしました。そして、このセットアップはうまく機能したのです。

図6:軍用余剰品のこのトグルスイッチアレイは、進行中の製品開発プロセスの中で負荷フレーム上のリミットスイッチの動作をシミュレートするために使用されました。(画像提供:Bill Schweber氏)

しかし、プロジェクトが進行するにつれ、作業台の上にはより多くの機器、リード線、電源、備品が増えていき、そうこうしているうちに、トグルスイッチのセットを見つけるのが難しくなり、すべてに絡まるようになりました。解決策は単純でした。実験台の一角に19インチの卓上ラックを置き、社内のモデルショップにトグルスイッチアレイ用の切り欠きのある幅狭ラックパネルを作成してもらい、これで固定した「家」ができ上がりました。このラックに他のいくつかの小さな機器を取り付けることで、新しいラックをさらに活用しました。また、全幅の棚をいくつか追加したので、簡単にラックにマウントできない小さな基板を置く場所ができました。その結果、効率が向上し、つまらないミスが減り、目を離した隙に消えるアイテムも減りました。

ラックの話には長い歴史があります。よく書かれたウィキペディアの記事「19インチラック」によると、私たちが知っている19インチラックは約100年前に開発されました。ウィキペディアの投稿内容は必ずしも絶対的なものではなく、またいつでも完全に正確であるとは限りませんが、多くの場合、有用な出発点となります。この記事は、由緒あるBell System Technology Journalの1922年の記事「Telephone Equipment for Long Cable Circuits」(長いケーブル回路用の電話機器)を参照しています。この参照記事はスキャナー取り込みされており、Internet Archive(インターネットアーカイブ)で入手できるので、一次資料からラック開発の合理性と詳細を確認できます。

20世紀前半、設計、製造、研究、設置に関して Bell Telephone Systemの市場での地位と技術的専門知識は非常に支配的でした。Bellは事実上、業界標準を設定することができ、実際にしばしばそうしました。

計装機器の初期導入にラックマウントキットが含まれていなかった場合でも、プロジェクトを進める際にはそれを検討する価値があります。基本的なスモールフォームファクタ電源ユニット(PSU)でさえ、卓上から近くのラックに移せます。たとえば、XP Power PLS600シリーズのベンチトップPSUは、ベンダー提供のPLS600ラックマウントキットを使用して簡単にラックに入れることができます。このキットを使えば、PSUを2つを並べてマウントすることができます(図7)。

図7:XP Power PLS600ラックマウントキットを使用すると、標準のシャーシ機器ラックに単一のPLS600ユニットまたは隣り合わせのペアユニットを簡単に設置できます。(画像提供:XP Power)

アインシュタインの機知で、生産性を妥協させてはいけない

図8のようなポスターで、アルベルト・アインシュタインが語ったとされる「冴えた」格言を見たことがあるかもしれません。

図8:アルベルト・アインシュタインの格言とされるこの引用(乱雑な机が乱雑な思考を意味するなら、整然とした空っぽの机は何を意味するのか?)は、必ずしも製品の設計、開発、デバッグに当てはまるわけではありません。(画像提供:Quora)

おそらくそれは、先進物理の場面には当てはまるでしょうが、作業台にかじりつく実践的なエンジニアにとってはそうではありません。これは、『Debugging: The 9 Indispensable Rules of Finding Even the Most Elusive Software and Hardware Problems』(デバッグ:最もとらえどころのないソフトウェアとハードウェアの問題を見つけるための9つの必須ルール)(図9)という優れた本で非常に明快に説明されています。この不可欠な作業では、著者のデビッド・J・アガンス(David J. Agans)が、明瞭なドキュメント付きで整理された作業領域を持つことの多くの利点について詳しく説明しているので、何を処理し、何をしたかがよくわかります。

図9:デバッグは習得するのが最も難しいエンジニアリングスキルの1つです。この本は、ハードウェアとソフトウェアのデバッグの戦略と戦術に関する深い洞察に満ちたリソースです。(画像提供:Amazon)

非効率的で誤解しやすい実験台の上でバグを見つけて修正しようとしたり、問題がプロトタイプではなくテストセットアップにあったことを発見したりするのに、数時間、数日、あるいは数週間を無駄にするという苦い経験は何度もしたくないものです。だからこそ、きれいにしておきましょう。系統的に整理された作業台はあなたのパートナーであり、ローテクなラックがそれを実現するのを助けます。

 

リファレンス

1 – Mercury News、「ジム・ウィリアムズの作業台は彼の人生とシリコンバレーを物語る」

https://www.mercurynews.com/2011/11/17/cassidy-jim-williams-workbench-captures-his-life-and-silicon-valley/

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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