LabsLandによるエンジニアリングラボの向上

はじめに:現代の工学教育における実験室のジレンマ

すべての講師は、学生には実践的な実験室での実習が必要だと考えています。しかし、実際に現代の工学コースでそれを実現することは可能でしょうか?そこで事態は複雑になります。

実践的な実習を企画することは、従来から困難で不便な作業でした。どの学生も、高価なハードウェアが置かれ、その機器を完璧な状態に維持および管理することが困難な、実際の実験室に行く必要があります。機器の故障が活動を妨げることはよくあり、学生が希望する時間に実験室を開けて監督することができず、その他の数多くの課題が、効果的に実施できる実践の数を制限したり、理論と密接に連携させることを困難にしています。

その結果、実践的な実習を誰もが重要視しているにもかかわらず、実施が困難で活用が不十分な状況となっています。

現在、この問題を軽減する新たなツールが技術によって提供されています。リモートラボ、これはインターネットを通じて学生が実際の実験装置にアクセスできるシステムです。リモートラボは、その名前とは裏腹に、従来の実験室に取って代わることを目的としているわけでも、遠隔教育向けのものでもありません。リモートラボは、実践的な工学教育をより柔軟かつ効果的にするための強力なツールとして設計されています。

LabsLandとは

LabsLandは、インターネットを通じて実際の教育用工学機器にアクセスできるプラットフォームです。これらはシミュレーションではなく、実際のハードウェアです。これにより、講師は、従来の物理的な実習の制約を受けることなく、便利かつ効果的な実践的経験を提供することができます。

これは単なる遠隔教育の手段ではありません。実践的な実習を強化するための汎用ツールです。講師はさらに実践的な授業を取り入れることができ、理論的な授業と組み合わせることもできます。学生は数多くの実際のデバイスにアクセスでき、いつでもどこでもすぐに利用可能です。もはや物理的な実験室の場所や限られたスケジュールに縛られる必要はありません。

重要な点は、LabsLandではすべてが実際のデバイスに基づいており、ソフトウェアのエミュレーションやシミュレーションではないことです。学生は世界中にある物理的にホストされているコードを実行し、機器やデバイスにアクセスできます。

LabsLandは工学教育のために開発されました。学生が機器を破損することなく安全に実験できることを保証するセキュリティレイヤを組み込み、学習分析とアクセス制御を提供し、すべての主要なLMSプラットフォームと統合されています。

DigiKeyは、戦略的パートナーとして、工学教育のための効果的なソリューションの創造と提供を大規模に支援しています。

遠隔教育だけではない

一見すると、リモートラボは遠隔教育のためにあるように思われるかもしれませんが、そうではありません。リモートラボは、あらゆる種類の工学コースやトレーニング向けに設計されたツールであり、実際に、対面式の大学もリモートラボの一般的なユーザーです。

従来の物理的な実験室が利用できる場合でも、講師はリモートラボをツールセットに追加することで、学生がより幅広い機器にアクセスできるようにし、実験室へのアクセスを理論的な授業にシームレスに統合し、学生が制限なくいつでも(24時間365日)実験室にアクセスできるようにすることができます。

リモートラボは必ずしも従来の実験室に取って代わるものではなく、補完するものです。講師は、利便性を高め、ボトルネックを減らし、より少ない手間で一貫して信頼性の高い実験室での時間を提供することができます。

図1. UPNAの学生がLabsLandのリモートラボを使用して、実際のFPGAにリアルタイムでアクセスしてプログラミングしています。(画像提供:LabsLand)

リモートラボはシミュレーションではない

リモートラボはシミュレーションではありません。学生は、物理的なデバイスの動作や現実を模倣したソフトウェアにアクセスするだけではありません。彼らは、実際の100%本物のハードウェアとやり取りをしているのです。

多くのツールは、シミュレートまたはエミュレートされたデバイスを提供しています。これらのツールは本当に便利なものであり、LabsLandはこれらに取って代わることを目的としているわけではありません。しかし、ある時点で、学生たちは実際の信号やコンポーネントを扱う必要があり、それこそがLabsLandが提供するものです。

シミュレーションは常にプログラマの仮定を介して行われます。それらは、誰かがそうすべきだと決めた通りに動作します。つまり学生は、現実世界で起こる予期せぬ結果、境界ケース、またはハードウェアの特性を見逃す可能性があります。そして、それらが最も価値のある学習の機会となることがよくあります。そしてそれは技術者にとって非常に重要なことです。なぜなら、最終的に彼らの解決策は、正に現実世界の条件に直面しなければならないからです。

LabsLandでは、インターフェースはシンプルで、ブラウザからアクセス可能です。学生は、わずか数秒でサイトを開き、完全に設定済みの機器を使い始めることができます。しかし、その下では本物のハードウェアとのやり取りがあり、学習が現実に基づいていることがわかります。

図2. リモートラボの機器を実際に見学する学生たち。(画像提供:LabsLand)

従来のラボと同等の効果

複数の実証研究により、LabsLandが提供するリモートラボは、従来の実践型実験室と同等、またはそれ以上の教育効果があることが確認されています。ワシントン大学の研究では、FPGAハードウェアを使用してデジタル回路設計を学ぶ学生を、遠隔と対面の両方で比較しました。ブルームの分類法に基づいた結果、リモートラボの学生は分析を要する課題において著しく高いパフォーマンス示し、概念の理解や応用といった他のレベルでの学習効果も低下しませんでした。同様に、デウスト大学でVISIRリモートラボ(現在は、以下に説明するLabsLand Hiveに置き換えられています)を使用した実験では 、複数の教育機関や学生レベルにおいて、テスト前とテスト後のスコアに統計的に有意な改善が確認され、コーエンの効果量も1.0と大きな値を示し、学習に強いプラスの効果があることが示されました。

さらに、マレーシアのモナシュ大学が主導した研究では、LabsLandのリモートFPGAラボを利用した学生は、1学期で20,000回以上の利用があっただけでなく、以前の対面式授業と比べて、より頻繁に機器にアクセスし、より高いエンゲージメントと満足度が報告されています。フィードバックデータは、コースの学習成果との一致が改善されたことを示し、リモートラボを利用した学生は、アクセスしなかった学生と比較して、全体的な学習体験が向上したと報告しました。これらの結果は、リモートラボが単なる代替手段ではなく、工学教育における教育学的に強固で拡張可能な強化手段であることを示しています。

FPGAラボ:どこでもデジタル設計

LabsLand FPGAラボ(LCAL0001LCAL9001LCAL9002ライセンスに含まれます)は、世界中の大学や企業にあるTerasic DE1-SoCDE2-115などの実際のFPGAボードにアクセスできる環境を提供します。これらのボードは、LED、スイッチ、7セグメントディスプレイ、内部クロックなどの実際の周辺機器に接続されており、VHDL、Verilog、SystemVerilogを使用してプログラミング可能です。

しかし、基本機能に加え、このラボは高度な周辺機器にも対応しています。一部のボードは、VGAディスプレイ、オーディオ出力、さらにはスマートパーキングシステムや任天堂コントローラのような現実世界のセットアップにも接続されています。これらのデバイスは、FPGA上で実行されている学生の論理回路によって遠隔制御が可能です。学生はHDLコードを記述してアップロードすると、実際のボードや周辺機器にアクセスでき、すべてをリアルタイムで操作できます。

ビデオ1:Altera Terasic DE1-SoCをリモートで操作する学生:左側にリアルタイムのカメラ映像、右側に10個のスイッチ、4つのボタン、仮想NFSコントローラを含む操作部が表示されています。(ビデオ提供:LabsLand)

入門レベルでは、Digital TrainerやBoole Designerといったツールが用意されており、論理ゲート、組み合せ回路、ブール代数などの基本概念を、すべて実際のハードウェアを使用して学ぶことができます。

図 3.LabsLand Prism4は、4台のAltera DE1-SoC FPGAへのリモートアクセスを提供しています。視認性を高めるため、半透明のカバーを取り外しています。複数のケーブルが接続され、ビデオとオーディオの処理、および周辺機器の追加接続が可能です。(画像提供:LabsLand)

STM32ラボ:組み込みシステム

LabsLand STM32ラボ(LCAL0004、LCAL9001、LCAL9002ライセンスに含まれています)は、実際のSTMicroelectronics Nucleo WB55RGボードへのリモートアクセスを提供し、ハードウェアのセットアップを必要とせずに、組み込みシステム、IoT、またはマイクロコントローラプログラミングの教育と実践を可能にします。

このラボは、WebベースのLabsLand IDE、Keil Studio Cloud、ARMのオンラインMbedコンパイラ、STM32CubeIDEやGCCベースのオフラインツールチェーンなど、複数の開発環境をサポートしています。この柔軟性により、講師は入門コースと上級コースの両方で同じラボを使用することができます。たとえば、このリモートラボを使用したUdemyコースをご覧ください

ボードは、LED、RGB LED、サーボモータ、LCDスクリーン、スイッチ、ボタン、ポテンショメータなど、さまざまな実際の周辺機器やエミュレートされた周辺機器に接続されています。また、電流監視もサポートしているため、学生はさまざまな条件下での消費電力を分析できます。これは、エネルギー効率の高いコンピューティングや低消費電力のIoTシステムを扱うコースで役立ちます。

ビデオ2:STM32 Nucleoリモートラボラトリでスイッチ、ボタンを使用し、SPI制御のディスプレイ、LED、サーボモータ、UARTを確認する様子、および学生が実際のボードでGPIOを使用してシミュレートされた駐車場を制御する実際のアプリケーション。(ビデオ提供:LabsLand)

また、駐車自動化システムなどの、ボードをインタラクティブな仮想環境に接続する高度な設定もあります。これらのシナリオは、組み込みシステムとシステムレベル論理やシミュレーションを組み合わせる場合に特に有効です。

図4. Prism4ユニットへの統合準備が整った、4台のSTM32 Nucleo WB55RG開発ボードをリモート化するプレート。各セットアップには、スクリーン、サーボモータ、LED、および追加の周辺機器へのアクセスが含まれます。(画像提供:LabsLand)

アナログエレクトロニクスラボ:実際の回路の構築と測定

LabsLandのアナログエレクトロニクスラボ(別名Hive)(機器の購入品番:LPEQ0001、またはライセンスLCAL0003、LCAL9001、LCAL9002に含まれます)は、学生がリモートで実際のアナログ回路を構築し測定できる環境を提供します。このラボは、入門レベルの電子回路やアナログに特化したコースを対象としており、抵抗器、コンデンサ、ダイオードなどの主要コンポーネントが含まれています。

ビデオ3:Hiveの動作:画面上部に、実際の機器(この場合はドルトムント工科大学(ドイツ))から送られたオシロスコープのデータが表示され、使用されたコンポーネントが確認できます。(ビデオ提供:LabsLand)

学生は視覚的なインターフェースを使用して回路を組み立てますが、その裏ではリレーベースのスイッチングマトリクスを使用した物理的な接続が行われています。すべての測定は、オシロスコープ、ファンクションジェネレータ、マルチメータ、電源などの実際の実験用計測器を使用して行われています。

ラボでは、抵抗ネットワーク、RLCフィルタ、ダイオード、その他の標準的な設定など、あらかじめ定義された回路の大規模なカタログをサポートしています。回路はカタログから選択するか、サポートされているコンポーネントを使用して手動で作成することができます。安全性と実用性を確保するため、システムは物理的に構築可能な回路を制限していますが、エレクトロニクス教育で一般的な使用例を幅広くカバーしています。

シームレスなキューイングシステムと高速測定処理により、ラボは高い並列処理能力をサポートし、数十人から数百人の学生がほぼ遅延なく利用可能です。

図5:アナログ電子回路を構成するリレーベースの基板が積み重ねられて接続され、3色のステータスLEDが点灯しています。(画像提供:LabsLand)

図6.さまざまな国に設置されたLabsLand HIVEユニット。上部には2台の小型リアルタイムカメラが配置されています。(画像提供:LabsLand)

いつでも、どこからでも利用可能

LabsLandのリモートラボの主な利点は、いつでも、どこからでも利用できることです。特定の時間帯を予約したり、事前に予約したり、特定の実験室に移動したり、大学のスケジュールに縛られたりする必要はありません。

生徒は自宅や教室から接続できます。多くの講師は、理論的な講義の間にラボでの使用を説明し、実際のデバイスを授業に活用し、実践的な実習と理論をより密接に結び付けています。

学生はより多くの実習を、自分にとって最適な時間とペースで便利に行うことができます。

ハードウェアのセットアップおよびメンテナンス不要

LabsLandとそのパートナーが、インフラストラクチャを管理します。これにより、教育機関はハードウェアのセットアップや設定、メンテナンス、較正、管理について心配する必要がありません。ラボの複数コピーが世界各地に配布されています。

そのため、講師はロジスティクスや機器の故障による中断、技術的な問題に対処する必要がなく、授業に集中することができます。学生は、時間や地理的な制約を受けることなく、いつでも、どこからでも、数秒で接続することができます。

また、実験設備の不使用や、購入、メンテナンス、管理に伴う諸経費が大幅に削減されるため、数倍もコスト効率の高いサービスを提供できます。

柔軟なモデル:サブスクリプションまたはホストティング

LabsLandラボの利用開始は簡単で、機関はネットワークに加入するだけです。ライセンスは通常、学生数と学期ごとに支払うため、非常に低コストです。ハードウェアの購入は不要で、すぐに利用可能な教育コンテンツと専門家によるガイダンスが用意されているため、講師はラボをコースに迅速に組み込むことができます。

大学がローカル展開、カスタマイズ、自前の設備を保有する機関への優先アクセスを希望する場合、LabsLandはDigiKeyとの協業を含む多くの製品を含む、最先端のリモートラボを販売しています。これらのラボは各機関で容易に展開可能であり、機関はプロバイダとしてネットワークに参加できます。

自前の設備を保有する機関は、より高い制御権、システムへの優先アクセス、より低コストな利用、およびグローバルなブランド認知度を得ることができます。

シームレスなLMS統合

ラボへのアクセスは、統合プラットフォームを通じて管理および提供されます。Moodle、Blackboard、Canvas、Sakaiなどのほとんどの学習管理システムと統合されています。これにより、学生はラボや実践的な活動へのアクセスがシームレスになり、すべてを1か所にまとめることができ、自動評価やその他のLMS機能も活用することができます。

LabsLandプラットフォームには、学習分析へのアクセス、使用状況の監視などのツールも搭載されています。

主要な機関からの信頼

LabsLandは、世界中の大学で既に利用されています。その中には、ワシントン大学やミシガン大学などの有名な教育機関もあり、両大学ともキャンパス内にLabsLandの機器を設置しています。

このプラットフォームは、ドイツ、スペイン、コスタリカ、南アフリカなどの大学を含む、幅広い教育現場でも活用されています。たとえば、フォートハレ大学では、工学教育へのアクセスを拡大する取り組みの一環として、LabsLandを採用しています。ヨーロッパ最大級の大学の1つであるUNEDも、いくつかのプログラムでLabsLandを使用しています。

これらの大学の多くは、ラボを利用するだけでなく、その開発にも貢献しています。一部のラボでは、独自の機器をホストし、ネットワークを通じてそれを共有することで、教室で使用しているのと同じ実習を世界中の学生に提供しています。

南北アメリカ大陸、ヨーロッパ、アフリカ、アジアの他の数十の大学もLabsLandのネットワークに参加しています。このモデルは、さまざまな言語、教育方法、コース構成を超えてすでに大規模に機能しており、リモートラボが単なる理論的なアイデアではなく、実際の教室ですでに活用されている実用的で信頼性の高いツールであることを示しています。

始め方

LabsLandを始めるのは簡単です。ラボの内容をご覧になりたい、ご自身のコースにどのように活用できるかを確認したい、またはオプションについてもっと詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせには、設定や購入は一切必要ありません。将来的にサブスクリプションやホスティングを検討されている方でも、ご自身の状況に合った利用方法についてご説明いたします。

お問い合わせやご質問は、https://labsland.com/en/contactまでご連絡ください。

DigiKeyでは、LabsLandの共同創設者によるウェビナーもご用意しています。遠隔教育向けリモートラボについて詳しく解説しています。ウェビナーに参加するには、ウェビナーブログの最後にある登録用リンクをクリックし、必要な情報を入力してください。

著者について

Luis Rodriguez-Gil is CTO, co-founder of LabsLand, a global network of remote laboratories where companies, universities, and schools can access remotely real laboratories from other institutions.

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