コンポーネントベースの分散型電源アーキテクチャをロボティクスに使用する理由とその方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2020-11-19
電池駆動ロボットの使用は、ファクトリオートメーション、農業、キャンパスや消費者への配送、倉庫の在庫管理など、さまざまな用途で増加しています。充電間の動作時間を最大化するために、これらの電池システムの設計者は、パワー変換効率だけでなく、サイズと重量について常に考慮する必要がありました。
しかし、負荷容量が増加し続け、ビジョン、レンジング、近接、位置などのセンシング機能や安全機能が設計の複雑さと物理的重量を増大させるにつれて、これらの懸念事項はより重要になってきています。同時に、追加で必要とされる電子機器の操作も多くの電力を消費します。
これらの新たな課題に直面する中で電池寿命を最大化するために、設計者はモータ、CPU、および他のサブシステムに給電するコンポーネントベースの分散型電力分配アーキテクチャを利用することができます。このようなアプローチでは、個々のDC/DCパワー変換コンポーネントをポイントオブロード(POL)で配置して、高効率、小型化(高電力密度)、および全体的な性能を最適化することができます。このアプローチは電源システム全体の軽量化につながり、電池駆動ロボットシステムのさらなる性能向上を実現できます。ロボットの電力需要の増加に合わせてパワー変換コンポーネントを並列接続して簡単に拡張できるため、柔軟性も強化されます。また、さまざまなサイズのロボットシステムのプラットフォーム全体に同じ電源アーキテクチャを展開することができます。
この記事では、農業の収穫、キャンパスや消費者への配送、および倉庫内の在庫移動など、いくつかのロボティクスアプリケーションの電力需要について簡単に説明します。次に、コンポーネントベースの分散型電源分配アーキテクチャ を使用する利点を確認し、VicorのサンプルDC/DCコンバータソリューションの例を紹介します。また、設計者が作業を開始するのに役立つ評価ボードや関連ソフトウェアも紹介します。
ロボットの電源要件
特定のタイプのロボットの電源要件は、用途によって決まります。
- 農業用収穫ロボット:視覚認識センサ、複数の環境センサ、土壌分析センサを使用して、自動運転車の誘導によって、農産物(果物、野菜、穀物)の植え付け、手入れ、収穫を行います。これらの大型ロボット車両は、通常、400V以上の高電圧DC電源から給電されます。
- 配送ロボット:ラストマイルの消費者やキャンパスへのさまざまなアイテムの配送。ペイロードのサイズや重量はさまざまですが、これらのロボットは通常48~100V電池で駆動し、倉庫内で在庫移動するようなロボットよりも長いランタイムが必要です。
- 倉庫内の在庫移動ロボット:大規模な倉庫環境内での在庫管理と注文処理タスクを実現します。このようなロボットは、通常、24~72Vのバッテリ電源から給電され、必要に応じて充電が行われます。
ロボティクス向けコンポーネントベース分散型電源アーキテクチャ
このセクションでは、760Vバッテリパックを搭載した農業用収穫ロボットの15.9kWシステムから48Vバッテリパックを使用する倉庫内の在庫移動ロボットの1.2kWシステムまで、ロボット用のコンポーネントベース分散型電源アーキテクチャの4つの例を評価してみます。これらのうち、3つのアプリケーションに共通する機能は、ロボット全体に電力を分配する比較的高電圧のメインバスです。その後に、サブシステムに必要な電力を提供する1つ以上の電圧降圧セクションが続きます。高電圧電力分配バスにより、効率性の向上や電力分配電流の低減を実現します。これにより、小型で軽量の低コスト電源ケーブルを使用できます。4番目のアプリケーションでは、48Vバッテリシステムを使用することにより、小型のロボットで簡素化が実現できることがわかります。
農業用収穫ロボットの電力供給ネットワーク(PDN)は、760Vのメイン電源バスで構成されています(図1)。これは、入力電圧の1/16の出力電圧を備えた一連の固定比(非安定化)絶縁型DC/DCコンバータ(左のBCMモジュールとして表示)によりサポートされています。これらのコンバータは並列に使用されるため、特定の設計のニーズに応じてシステムのサイズ変更が可能です。
図1:低電圧コンバータ(DCM、PRM、NBM、および降圧)のネットワークをサポートする760Vの分配バスで構成されている15.4kW農業用収穫ロボット用PDN(画像提供:Vicor)
さらに、ネットワークの内部には、一連の固定比(NBM、上部中)、安定化されたバックブースト(PRM、中央)、降圧コンバータ(下)の電源が、必要に応じて下流側の低電圧レールに供給されます。この設計では、サーボは追加のDC/DC変換なしで48Vの中間電源バスから直接駆動されています。
キャンパスおよび消費者配送ロボット用PDNは、低いメイン電源バス電圧(この場合は100V)を採用し、メイン電源分配バス上の絶縁型DC/DCコンバータ(DCM)にレギュレーションを追加して、48Vの中間バス電圧を生成することにより簡素化され、中型電源システムを実現できます(図2)。
図2:モータ用のダイレクトドライブや残りのサブシステムに給電するための中間バスが含まれるキャンパスおよび消費者配送ロボット用PDN(画像提供:Vicor)
このアプローチにより、非絶縁型バックブーストおよび降圧DC/DCコンバータを使用して、さまざまなサブシステムに給電することができます。さらに、メイン電源バスで低い電圧を使用することにより、モータドライブをメインバスに直接接続できます。一方、サーボは48Vの中間バスに直接接続できます。小規模なキャンパスや消費者配送ロボットは、24Vの中間バス電圧および24Vまたは48Vのサーボを内蔵することができますが、全体のアーキテクチャは類似しています。
67Vバッテリパックを使用する倉庫ロボット用PDNの特長は、メイン電源バスでバックブースト非絶縁型DC/DCコンバータ(PRM)を使用できることです(図3)。これらのコンバータは、96~98%の効率性を提供し、電力需要の増加に応じて並列接続することができます。このアーキテクチャは、GPUに給電するための固定比非絶縁型DC/DCコンバータ(NBM)、およびロジック部分に給電する非絶縁型の安定化された降圧コンバータも備えています。
図3:67Vのメイン電源バスと48Vの中間電力分配バスを組み合わせた倉庫ロボット用PDN(画像提供:Vicor)
48Vバッテリを使用する小型ロボット設計では、中間バス電圧を生成する必要がないため、設計が簡素化されます(図4)。さまざまな非絶縁型DC/DCコンバータを使用するダイレクトコンバージョンにより、負荷はバッテリ電圧から直接給電されます。パワートレイン内で中間バスを排除することにより、システム効率が向上し、電源システムが軽量化され、コストも軽減されます。
図4:48Vバッテリパックを使用するため、中間電源バスが不要となり、設計が大幅に簡素化された倉庫ロボット用PDN(画像提供:Vicor)
分散型電源アーキテクチャ設計の考慮事項
上記のように、ロボティクス用のコンポーネントベースのPDNを最適化するため、設計者はさまざまな電源システムを選択する必要があります。「ワンサイズですべてに適合する」アプローチはありません。一般的に、大型ロボットはバッテリ電圧が高くなるため、電力分配効率が向上し、電力分配バスが小型化、軽量化されるというメリットがあります。
絶縁型か、非絶縁型か、どちらのDC/DCコンバータを使用するかは、全体のシステム効率の最適化やコストの最小化をする際の重要な考慮事項です。DC/DCコンバータが低電圧負荷に近ければ近いほど、最適な選択肢は低コストの非絶縁型電源コンポーネントになる可能性が高くなり、全体のPDN効率が向上します。適切な場合には、低コストの固定比(非安定化)DC/DCコンバータを使用することで、PDN効率を向上させることもできます。
Vicorは、前述の4つを含む幅い広いコンポーネントベースの分散型電力分配アーキテクチャにおいて設計者のニーズをサポートできるDC/DCコンバータを提供しています。以下では、図2が示すキャンパスおよび消費者配送ロボットについて説明したものと同様の電力供給システムで使用できる特定のデバイスに焦点を当てて説明します。
ロボット電源システム用のDC/DCコンバータ
DCM3623TA5N53B4T70は、100Vバッテリ電源から48V中間バス電圧を生成できるDCM絶縁型および安定化DC/DCコンバータの例です(図5)。このコンバータは、ゼロ電圧スイッチング(ZVS)技術を使用して、90.7%のピーク効率と立方インチあたり653Wの電力密度を提供します。これは入力と出力間で3,000VのDC絶縁を提供します。
図5:100Vバッテリ電源から48V中間バス電圧を生成できるDCM3623TA5N53B4T70絶縁型および安定化DC/DCコンバータ(画像提供:Vicor)
VicorのChiP(Converter-housed-in-Package)パッケージング技術の熱的および密度の利点を活用して、DCMモジュールは非常に低い上部および下部側の熱インピーダンスを備えた柔軟な熱管理オプションを提供します。ChiPベースのパワーコンポーネントにより、設計者は、これまで達成できなかったシステムサイズ、重量、効率性を備えたコスト効率の高いパワーシステムソリューションを、迅速かつ予測可能な形で実現することができます。
DCM3623TA5N53B4T70の機能の検証を開始するために、設計者はDCM3623EA5N53B4T70評価ボードを使用できます(図6)。DCM評価ボードは、アプリケーション要件に応じたさまざまなトリミングモードを実行するだけでなく、さまざまな有効化方式および障害監視方式のために構成することができます。
図6:DCM3623TA5N53B4T70 DC/DCコンバータの機能を検証することができるDCM3623EA5N53B4T70評価ボード(画像提供:Vicor)
DCM3623EA5N53B4T70は、スタンドアロン構成またはモジュールのアレイとしてDCMを評価するために使用できます。また、さまざまなイネーブル、トリム、および障害監視オプションの評価もサポートしています。
イネーブルオプション:
- オンボード機械的スイッチ(デフォルト)
- 外部制御
トリムオプション:
- 固定トリム動作(デフォルト):TRピンは初期起動時にフロートすることが許可されます。DCMは出力トリミングを無効化し、出力トリムは公称定格VOUTにプログラムされています。
- 可変トリム動作、オンボード可変抵抗器:トリムピン電圧は供給電圧に比例しており、加減抵抗器でDCM内部のプルアップ抵抗に逆らってVCCに対して動作します。
- 可変トリム動作、オフボード制御:トリムピン電圧は外部プログラミング制御により制御されています。これは、システム内の特定のDCMの–INを基準としています。
障害監視オプション:
- オンボードLED:FTピンは、障害状態の視覚的フィードバックのために可視LEDを駆動します。
- オンボードオプトカプラ:FTピンはオンボードオプトカプラを駆動して、1次2次絶縁境界全体に障害状態をもたらします。
VicorのPI3740-00バックブーストDC/DCコンバータは、LED投光照明および高解像度(HD)カメラ用のそれぞれ44Vおよび24V電源を供給できます。これは、高効率で入力/出力範囲が広いZVSコンバータです。この高密度システムインパッケージ(SiP)は、コントローラ、電源スイッチ、およびサポート部品を内蔵しています(図7)。これは、最大96%のピーク効率や優れた軽負荷効率が特長です。
図7:キャンパスおよび配送ロボット用PDNのLED投光照明およびHDカメラに給電するために使用できるPI3740-00バックブーストDC/DCコンバータSiP(画像提供:Vicor)
PI3740-00には、完全なバックブーストレギュレータを形成するために、外付けインダクタ、抵抗分圧器、および最小限のコンデンサが必要です。1MHzのスイッチング周波数により、外付けフィルタの部品が小型化され、電力密度が向上し、電源ラインや負荷の過渡状態への高速かつダイナミックな応答が可能になります。
PI3740-00を使用した設計を開始するために、VicorはVOUTが8Vを超える定電圧の用途でPI3740-00を評価するためのPI3740-00-EVAL1を提供しています。このボードは、8~60V DCの入力電圧で動作し、最大50V DCの出力電圧をサポートしています。この評価ボードには、以下の機能が含まれています。
- ソースおよび負荷接続用の入力/出力ラグ
- スルーホール入力アルミ電解コンデンサを配置するための場所
- 入力源フィルタ
- 正確な高周波数出力/入力電圧測定用のオシロスコーププローブジャック
- 信号ピンテストポイントおよびワイヤコネクタ
- すべてのPI3740ピン用のケルビン電圧テストポイントおよびソケット
- ジャンパ選択可能なハイサイド/ローサイド電流センシング
- ジャンパ選択可能なフロート電圧
最後に、VicorのPI3526-00-LGIZ降圧レギュレータを使用すると、PDNのコンピュータおよびワイヤレスサブシステム用に12V電源を提供することができます(図8)。このDC/DCコンバータは、最大98%の効率を実現し、高速および低速の電流制限機能を含むユーザー調整可能なソフトスタートおよびトラッキングをサポートしています。これらのZVSレギュレータは、SiP構成でコントローラ、電源スイッチ、およびサポート部品を統合しています。
図8:キャンパスおよび配送ロボット用PDNのコンピュータおよびワイヤレスサブシステムに必要な12V電源を提供することができるVicorのPI3526-00-LGIZ降圧レギュレータ(画像提供:Vicor)
VicorのPI3526-00-EVAL1評価ボードは、スタンドアロンまたはリモートセンス構成でPI3526-00-LGIZ降圧レギュレータを実験できるように構成できます。素早いプロービングとバルク入力コンデンサの配置を可能にするソケットが提供されています。評価ボードには、ラグ、入力/出力接続用の下部レイヤのバナナジャックフットプリント、信号コネクタおよびテストポイント、および正確な電源ノード電圧測定のためのケルビン・ジョンソンジャックが用意されています。
結論
ロボットの負荷容量、視覚認識、およびユーザー機能が複雑化するにつれて、ロボットシステムのパワー変換ニーズはより困難になってきています。既存のパワーソリューションは、サイズ、効率、重量、および拡張性の観点で性能の制約の影響を受ける可能性があり、ロボティクス用途にはあまり適していません。ロボティクス用途では、設計者は、モータ、CPU、および他のサブシステムに給電するコンポーネントベースの分散型電力分配アーキテクチャを利用することができます。
前述のように、このアプローチは電源システムをより軽量化でき、電池駆動ロボティクスのさらなる性能向上を実現できます。電力需要の増加にともなってパワー変換コンポーネントを並列接続して簡単に拡張できるため、柔軟性も強化されます。これにより、さまざまなサイズのロボットシステムで構成されるプラットフォーム全体にわたって同じ電源アーキテクチャを展開することができます。
お勧めの記事
免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。


