テザー式UAV向けの効率的なモジュラー電力供給ネットワークの設計方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2023-02-17
無人航空機(UAV)または「ドローン」は、軍事、消防、農業用の地上偵察など、ヘビーデューティのアプリケーションに使用されることが多くなっています。これらのアプリケーションやその他の多くの用途では、ドローンが長時間空中にあることが求められるため、バッテリは選択肢に入りません。その代わり、ドローンは飛行中、テザーケーブルを通じて電力が供給されます。
しかし、テザーには新たな課題があります。太いテザーは電気抵抗が低いものの、ドローンにかかる負荷が大きく、積載量に限界があります。ケーブルが細いと電気抵抗が大きくなり、ドローンテザーの一般的な長さでは許容できない電力損失や電圧降下が発生します。エンジニアは、テザー電圧を800Vまで上げることで、ケーブルの細さに伴う損失を克服しようとしています。このような電圧の増加は、必要な電力に対する電流を下げるのに役立ちます。
そこで課題となるのが、ドローン内の高電圧の処理です。ドローンの配電ネットワークは、高電圧を処理し、UAVのシステムが必要とする低電圧まで効率的に降圧できるものでなければなりません。電源管理ソリューションは、ドローンの積載量への影響を最小限に抑えるため、軽量かつコンパクトである必要があります。
この記事では、テザードローン向けの高電圧供給システムのメリットについて解説します。次に、テザー式UAVアプリケーションの配電ネットワークを設計する際に、高効率で高電力密度のバスコンバータモジュール(BCM)とゼロ電圧スイッチング(ZVS)降圧電圧コンバータが優れた選択肢である理由を説明します。また、VicorのBCMとZVS降圧コンバータの例を取り上げ、軽量でかつ効率的な電源ネットワークの設計方法を紹介します。
高電圧により、ケーブルの軽量化が可能
テザーは、バッテリがドローンに与える制約から設計者を解放します(図1)。地上からの電力供給が可能であれば、UAVは長時間空中に留まることができます。これにより、観測プラットフォームや視界外の無線リレーなどの用途で運用することが可能です。しかし、ドローンは重いケーブルを吊り上げなければならないため、航続距離とカメラや無線機器などの積載量が制限される可能性があります。
図1:ドローンは、テザーで供給される電力で長時間上空に留まることができます。(画像提供:Vicor)
商用ドローンでは、さまざまなシステムに複数のDC電圧が必要です。たとえば、モータには48Vが一般的で、センサ、アクチュエータ、制御電子機器には12V、5V、3.3Vが一般的に使用されています。薄型・軽量のテザーは、ドローンへの重量負荷を制限するのに役立ちます。しかし、ケーブルの抵抗が高いため、48Vの電源を使用する場合、長いケーブルの配線で許容できないほど高い電圧降下と電力損失が発生する可能性があります(ケーブルの断面積が小さくなると抵抗は大きくなります。高電圧降下とは、ケーブルの遠端で電圧が電源電圧より3〜5%以上降下した場合をいいます。)
ケーブルの電圧降下と電力損失は、電圧ではなく、流れている電流に比例します。たとえば、1.5キロワット(kW)の一定電力を48Vの電源で供給する商用ドローンの場合、1500/48 = 31.25アンペア(A)の電流が必要になります。同じ電力を供給するには、電圧を上げ、電流を下げればよいのです。その結果、電圧降下と電力損失を抑えることができます。たとえば、800Vの電源を使用する場合、必要な電流はわずか1500/800 = 1.9Aです。このような電力供給により、設計者は軽量なケーブルを安全に使用することができます。
ドローン向け電力供給ネットワーク
高い電圧供給と軽量のテザーを利用するために、エンジニアは適切な配電ネットワークを設計しなければなりません。このような配電ネットワークでは、テザーで伝達される高電圧を、ドローンのシステムに必要な使用電圧まで安全かつ効率的に降圧することができます。
図2はそのようなネットワークの1例です。このネットワークは、VicorのBCMとZVS降圧コンバータを使用して構築されています。
図2:テザードローン向け配電ネットワーク。地上システムで使用されている48Vのバスが、テザーを通して800Vに昇圧され、ドローン側で48Vに再び降圧されています。(画像提供:Vicor)
この例では、ドローンの地上コンピュータシステム向けにBCMが3相208V AC電源を48V DCに変換しています。ZVS降圧コンバータは、48Vの電源を、個々の地上デバイスが使用する12V、5V、3.3Vに低減します。48V DC電源は、2番目のBCMによって800Vに昇圧され、テザーでの電圧降下と電力損失を最小限に抑えます。
ドローンでは、3番目のBCMが電圧を48Vに再び降圧します。ドローン内の配電ネットワークにはさらなる降圧コンバータがあり、これらの降圧コンバータがカメラ、センサ、ロジックデバイスに適切な電圧を供給します。
このアプリケーションに推奨されるBCMをご紹介します。最初の208V ACから48V DCへの変換には、VicorのBCM4414VD1E5135C02が、48V DCから800V DCへ & 800V DCから48V DCへの変換にはBCM4414VH0E5035M02がおすすめです。
BCM4414VD1E5135C02は、260~400Vのバスで動作し、32.5~51.3Vのローサイド出力を提供します。このデバイスは、最大35Aの連続したローサイド電流、最大49W/cm3の電力密度、97.7%のピーク効率を実現します(図3)。
図3:Vicorのバスコンバータモジュールは、広いローサイド電流範囲で優れた効率を実現します(TCASE = 25˚C)。(画像提供:Vicor)
BCM4414VH0E5035M02は、500~800Vのバスで動作し、ローサイド出力は31.3~50.0V、最大連続出力は1.5kWです。連続的なローサイド電流、電力密度、ピーク効率は姉妹品と同じです。このBCMは110.5 x 35.5 x 9.4mmのケースで提供され、重量は145gです。
また、Vicor BCMは、上面と下面の熱インピーダンスが非常に低く、柔軟な熱管理オプションを提供します。これらのデバイスを使用することで、電源システムの設計者は、テザーだけでなく、地上電源やドローンも小型・軽量化することができます。
VicorのBCMはDC/DC電源であるため、図2の最初のBCMの前に、最初の3相208V AC入力をDCに変換する必要があります。AC整流に適したデバイスは、AIM1714VB6MC7D5C00などのVicor AC入力モジュール(AIM)です(図4)。このAIMデバイスは85~264V AC入力で動作し、最大電流5.3Aと最大電力450Wの整流AC出力を提供することができます。
図4:BCMは整流されたAC入力が必要です。Vicorの3相AIMモジュールのようなデバイスが解決策を提供します。(画像提供:Vicor)
高い電力密度と柔軟性を備えた降圧レギュレータ
地上局やドローンのBCMが48V DCに電圧を安定化したら、ZVS降圧コンバータが必要です。これらの降圧コンバータは、電圧をさらに降圧して各種システムに電力を供給するために使用されます。特にドローンでは、降圧コンバータに高電力密度、高効率が求められます。これは、降圧コンバータが小型・軽量な電源を構成する必要があるためです。ZVS降圧レギュレータは、この要件を満たしています。
従来の電圧レギュレータのMOSFETにおけるスイッチング損失は、非効率の主要な原因であり、電力密度に悪影響を与えます。ZVSはこれらの損失に対応し、比較的高い電圧入力で動作する降圧コンバータに特に有効です。
ZVS(別名「ソフトスイッチング」)のメカニズムは複雑ですが、MOSFETのオン時間中に従来のパルス幅変調(PWM)電力変換を行いながら、「共振」したスイッチング遷移を行うと定義するのが最も適切でしょう。出力電圧の安定化は、実効デューティサイクル(つまりオン時間)を調整し、スイッチングレギュレータの変換周波数を変化させることで行います。
ZVSスイッチオフ時間中、レギュレータのL-C回路は、スイッチにわたる電圧をゼロからそのピークまで横断して共振し、スイッチを再アクティブ化できる時に再びゼロに戻ります。その際、動作周波数や入力電圧に関わらず、スイッチングレギュレータのMOSFETの遷移損失はゼロで、大幅な省電力化と効率向上を実現します。(「ゼロ電圧スイッチングおよび電圧安定化の重要性に関する考察」を参照してください。)
Vicorは、制御回路、パワー半導体、サポート部品を統合したさまざまなZVS降圧レギュレータを製造しています。これらのレギュレータは、高密度LGA、BGAパッケージ、システムインパッケージ(SiP)で提供されます。スイッチング電圧レギュレータは、ドローンの配電回路の他の部分に使用されているBCMを補完するものです。ZVS降圧レギュレータは、優れた電力密度と柔軟性により、高効率なポイントオブロード(PoL)DC/DC安定化を実現します。48Vのバスを3.3、5、12Vに効率よく降圧して、他のドローンサブシステムに使用することができます。
ZVS降圧レギュレータの例として、PI352x-00ファミリがあります。PI352x-00レギュレータは、外付けインダクタ1個、電圧選択抵抗2本、最小限のコンデンサだけで完全なDC/DCスイッチモード降圧レギュレータを構築することができます。すべてのレギュレータは、30〜60Vの入力で動作します。このファミリには次のデバイスがあります。公称3.3V出力(2.2~4V範囲)& 最大22Aを提供するPI3523-00、公称5.0V出力(4~6.5V範囲)& 最大20Aを提供するPI3525-00、公称12V出力(6.5~14V範囲)& 最大18Aを提供するPI3526-00の3種類です。これらのデバイスは、10 x 14 x 2.56mmのLGA SiPで提供されます。
ZVSレギュレータを電力密度ネットワークに追加する
ドローン配電ネットワークにおけるZVS降圧レギュレータの性能を最適化するために、いくつかの設計作業が必要です。図5に、PI352x-00ファミリの各製品に必要な外付け部品を示します。
図5:VicorのZVS降圧レギュレータは、外付けのインダクタ、出力電圧を設定するための抵抗分圧ネットワーク、フィルタリング用のコンデンサが必要です。(画像提供:Vicor)
これらのデバイスには、それぞれ外付けのインダクタが必要です。Vicorは、エネルギー蓄積デバイスの効率を最大化するために、インダクタンス値を算出しました。PI3523 & PI3525レギュレータでは、230ナノヘンリー(nH)のインダクタを推奨し、P13526では480nHのインダクタを推奨しています。
PI352x-00ファミリの製品は、それぞれのBCMからの48V DC入力を直接扱うことができます(降圧レギュレータの入力範囲は30~60V DCです)。ただし、出力電圧を設定するには、抵抗分圧ネットワークをともに形成する出力抵抗(REA1とREA2)を選択する必要があります。
出力電圧に関係なく、最高のノイズ耐性を実現するために、REA2は1キロオーム(kΩ)に設定する必要があります。そして、REA1の値は次の式から算出することができます。

インダクタの値に加えて、Vicorは、パワー段の適切なスタートアップと高周波デカップリングを確保するために、CINおよびCOUTコンデンサの値も推奨しています。PI352x-00ファミリは、メインのハイサイドMOSFETが導通している時、低インピーダンスのセラミックコンデンサからほぼすべての高周波電流を消費します。そして、MOSFETがオフの間、コンデンサにソースから電荷を補充します。表1にコンデンサの値、リップル電流 & 電圧を示します。
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表1:公称ライン電圧と公称トリムでのVicor P1352x入出力コンデンサの推奨値。(表提供:Vicor)
PI352x-00ファミリで最適な効率と低電磁妨害(EMI)を確保するには、トレース抵抗と大電流ループリターンを最小限に抑え、かつ部品を適切に配置することが不可欠です。図6にレギュレータと外付け部品の推奨レイアウトを示します。PI3526-00-EVAL1 PI352x-00評価ボードで採用されているレイアウトです。
図6:Vicor ZVSレギュレータ、インダクタ、入出力コンデンサの最適なレイアウト。(画像提供:Vicor)
図6の青いループは、レギュレータの高いACリターン電流のために、入出力コンデンサ(およびVINとVOUT)の間の狭い経路を示しています。この狭い経路が効率化に役立っています。
まとめ
ドローンの航続距離と積載量を最適化するために、エンジニアは高電圧のテザーに注目しました。これらにより、ケーブルの電力損失や電圧降下を最小限に抑えることができます。しかし、高いテザー電圧は、バス電圧に合わせて安全かつ効率的に安定化しなければなりません。このバス電圧は、ドローンの電子システムが求める電源電圧までさらに下げる必要があります。
Vicorの高電力密度 & 高効率BCMは、地上局、テザー、ドローン間の電圧を降圧し昇圧する簡単に実装可能なソリューションです。このBCMは、スイッチング損失の少ないZVS降圧コンバータとともに使用されます。このZVS降圧コンバータは、バス電圧をドローンの各種サブシステムに必要な3.3、5、12Vに降圧する際に、97%の効率を実現します。
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