堅牢なマルチバンドアンテナを使用したモバイル接続の課題の解決
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-03-15
スマートフォンやモノのインターネット(IoT)デバイスと並んで、モバイルワイヤレス接続のもう1つの大きな推進要因は、鉄道、トラック、資産追跡などの輸送アプリケーションです。これらのアプリケーションでは、振動、衝撃、極端な温度、雨、湿度、広い帯域幅やマルチバンドで動作する必要性など、システムアンテナに独自の重要な要求事項があり、しかも安定した性能を提供する必要があります。
適切なアンテナをゼロから設計して製造することは可能ですが、要求の厳しいアプリケーションの場合はほぼ例外なく、適切に設計済みの、頑丈で、完全に特性化され、すぐに入手可能な標準的ユニットを使用することが最も理にかなっています。これにより、最終設計の信頼性を高めながら、コストの節約と開発期間の短縮を実現できます。
この記事では、輸送用アンテナの設計に関連した諸問題について考察します。次に、基本的な「箱」や、場合によっては露出した移動車両など、エンクロージャの表面に取り付けるように設計されたTE Connectivityの2つのマルチバンドアンテナを紹介します。
アプリケーションが推進する実装
アンテナは、電子回路と自由空間における電磁(EM)場の間の重要なトランスデューサであるため、多くの場合、設計上最も露出度の高い要素です。さらに、アンテナは、システム全体の設計に適合するフォームファクタを使用して、厳しい環境条件でも望ましい電気的性能とRF性能を発揮する必要があります。
貨物システムと特に高速旅客鉄道のアンテナでは、風の抵抗を最小限に抑えて厳しい環境条件から保護できる、空気抵抗が少ないエンクロージャに簡単に組み込めることも求められます(図1)。全地球航法衛星システム(GNSS)信号を受信するためにアンテナを露出させる必要がある資産追跡の場合にも、同様の制約が適用されます。
図1:電車などの移動高速設備では、さまざまな規格および帯域を使用するモバイル接続が期待されていますが、風の抵抗や環境耐久性による課題を抱えています。(画像提供:TE Connectivity)
最適なアンテナとは、望ましい放射パターン、適切なインピーダンス整合、低電圧定在波比(VSWR)、機械的完全性、エンクロージャ適合性、電気接続の容易さなど、アプリケーション固有の特性を慎重に組み合わせたものです。また、多くの場合、低雑音増幅器(LNA)を内蔵したアクティブアンテナを使用して信号経路を強化し、フロントエンドの信号対ノイズ比(SNR)を最大化する必要があります。
すべての部品と同様に、ほとんどすべてのアンテナ設計および設置を特徴付けるために使用される最上階層のパラメータと、特定の状況下で多かれ少なかれ重要となる他のパラメータが存在します。アンテナにとっては、放射パターンと指定された帯域での性能が主要な考慮事項になります。
アンテナ原理の実装
輸送や資産追跡に使用されるアンテナの方向は、ランダムであり、変化もするため、課題となります。そのため、アンテナが指定された帯域全体でトップビューとサイドビューの一貫した全方向パターンを持つことが重要となります。
たとえば、TE Connectivityの1-2309605-1 M2M MiMo LTEデュアルアンテナは、698~960MHzと1710~3800MHz帯の両方に対応し、2G、3G、4G、セルラー、GSM、LTEアプリケーションを対象にしています(図2)。アンテナは、伝送する特定の信号形式やサポートする規格に関係なく、主に周波数、帯域幅、電力によって設計が定義されるため、1つのアンテナでこれらの規格に対応することができます。
図2:TE Connectivityの1-2309605-1は、698~960MHz動作用と1710~3800MHz動作用の独立した2つのアンテナからなる単一モジュールです。(画像提供:TE Connectivity)
「デュアル」アンテナは「デュアルバンド」アンテナと同じではないことに注意してください。1-2309605-1のようなデュアルアンテナは、1つのハウジングに2つの独立したアンテナを備え、それぞれに独自のフィードがあります。デュアルバンドユニットは、1つのフィードを持つ1つのアンテナで、2つ(またはそれ以上)の帯域をサポートするように設計されています。
1-2309605-1の低帯域アンテナを見ると、放射パターンは、トップ方向およびサイド方向とも、約700MHzの下限から約900MHzの上限周波数までの帯域幅にわたって均一になっています(図3)。
図3:1-2309605-1の700、800、900MHzにおけるサイドゲインプロット(左)とトップゲインプロット(右)(それぞれ上段、中段、下段)は、かなり均一な放射パターンを示しています。(画像提供:TE Connectivity)
700MHz(周波数帯の下限)では、等方性アンテナに対するデシベル単位のゲイン(dBi:アンテナ指向性を示す標準指標)は1.5dBiと、かなり均一な放射パターンを示しています。この均一性と均等性が、アンテナの方向に関係なく、安定した性能を発揮することに貢献しています。さらに、900MHzの上限周波数の放射パターンも4.5dBiと、かなり均一なゲインになっています。
もう1つの重要なアンテナパラメータはVSWRです。これは、正式には最大電圧と最小電圧の比、または無損失伝送線路における電圧定在波の伝送と反射の比として定義されます。理想的なシナリオでは、VSWRが1:1です。これを実現するのは難しい場合が多いですが、通常、一桁台前半のVSWRで作業することが許容されています。
最大20Wの送信電力に対応する1-2309605-1 M2M MiMo LTEデュアルアンテナの場合、3mのRG174ケーブルで測定した最大VSWRは片側で約3:1、ほとんどの動作帯域で1.5:1近くになっています(図4)。一般に、対象となるアプリケーションの多くでは、これは十分に低い値です。
図4:3mのRG174ケーブルで測定した1-2309605-1 M2M MiMo LTEデュアルアンテナのVSWR(縦軸)は、アクティブ周波数範囲全体(x軸)で低い値を示しています。(画像提供:TE Connectivity)
図4では、緑が低周波素子#1、赤が高周波素子#2、黒が自由空間での素子#1および#2、青が400 x 400mmのグランドプレーン上の素子#1および#2です。
共架式アンテナ
複数の帯域をカバーするために、2つ以上の個別アンテナを共同設置することも可能です。しかし、これにはいくつかの潜在的な問題があります。まず、明白な問題として、パネルなどの表面に必要なスペースと取り付けハードウェア、それに伴う設置コストが挙げられます。第2に、アンテナ間の電磁相互作用がパターンや性能に影響を与えることが懸念され、アンテナ同士の配置方法に制約があることです。この相互作用はアンテナアイソレーションとして測定され、アンテナが別のアンテナからの放射をどの程度拾うかを定義します。
この問題を解決するには、複数のアンテナを1つのハウジングまたはエンクロージャにまとめた単一アンテナユニットを使用します。機械的には、これは全体的なサイズの縮小、設置やアンテナケーブルの配線の簡素化、すっきりとした外観を実現します。
電気的には、アンテナ間のアイソレーションを事前に測定して指定することができるため、予期せぬ相互作用の懸念を最小限に抑えることができます。1-2309605-1 M2M MiMo LTEデュアルアンテナの場合、アイソレーションは少なくとも15dBで、ユニットが対応する両帯域の中心に向かって増加しています(図5)。
図5:2309605-1 M2M MiMo LTEデュアルアンテナモジュール内の2つのアンテナ間のアイソレーション(y軸、dB)は、周波数(x軸、MHz)の関数として測定すると、15dB以上になります。(画像提供:TE Connectivity)
アクティブ受信アンテナ機能
1-2309605-1デュアルアンテナがカバーする2つの帯域に加えて、資産追跡などの多くのアプリケーションでは、位置やタイミング情報のためにGPS(米国)、Galileo(欧州)、Beidou(中国)のGNSSシステムからの信号も受信する必要があります。このタスクを簡素化し、別の外部ディスクリートアンテナを設置しなくていいように、TEは1-2309646-1を提供しています。これは、デュアルアンテナユニットの2本のアンテナに、1562~1612MHzのGNSS信号用の3本目の受信専用アンテナを追加するものです。
しかし、GNSS信号を受信する必要があることで、システム設計者は別の課題に直面し、送信対受信機能という基本に立ち戻ることになります。送信に使用される場合、アンテナとそのフィードラインは決定論的状況にあります。アンテナは、トランスミッタのパワーアンプ(PA)から、明確に定義され、制御された、既知の信号を受け取り、それを放射します。その信号の内部ノイズ、帯域内干渉、PAとアンテナ間の帯域外信号についての心配はほとんどありません。
すべてのアンテナに適用される相互依存原理により、送信に使用する物理アンテナと同じものを受信にも使用することができます。しかし、受信の動作条件と送信の動作条件は大きく異なります。アンテナは、帯域内、さらには帯域外の干渉やノイズが存在する中で未知の信号をキャプチャしようとしています。つまり、目的とする受信信号には多くのランダムな特性があるため決定論的なものではありません。
加えて、受信信号強度が低く(マイクロボルトから数ミリボルトのオーダー)、SNRも低くなります。GNSS信号の場合、受信信号電力は1ミリワット(dBm)に対して-127~-25dB、SNRは10~20dBが一般的です。この脆弱な信号は、アンテナとレシーバフロントエンドを結ぶケーブルの損失により減衰されます。また、伝送ケーブル内の熱などの不可避なノイズによりSNRも劣化させます。
これらの理由から、1-2309646-1では、3番目の受信専用GNSSアンテナのもう1つの特徴として、LNAを搭載しています。LNAは、GNSS信号に対して42dBのゲインを提供し、受信信号強度を大幅に向上させることができます。LNAの使用を容易にするため、定評のある重畳技術を使用し、増幅されたRF信号の同軸ケーブルを介して、その電力(3~5V DC、20mA以下)を受け取ります。
レシーバユニットとLNB間のケーブルでDC電力が送られます(図6)。LNA(V1)用のDC電力は、小型の直列コンデンサ(C1、C2)により、無線ヘッドユニット(フロントエンド)に到達しないようにブロックされます。これらのコンデンサにより、アンテナ(ANT1)からの増幅されたRF信号が、無線ヘッドユニット(OUT)へと通過できるようになります。同時に、増幅されたRF信号は、直列インダクタ(チョーク)L1およびL2により、電源V1へ逆戻りしないようにブロックされます。こうして、LNAへのDC電力と、LNAから無線ヘッドユニットへの増幅されたRFは、同じ相互接続同軸ケーブルを共有することができます。
図6:アンテナLNAへのDC電源は、DC電力とRF信号を両端で分離・絶縁するインダクタとコンデンサを巧みに配置して、アンテナ/LNA出力を伝送するケーブルに重畳させることができます。(画像提供:Electronics Stack Exchange)
物理的な接続
アンテナやアンテナ素子のアセンブリは、信頼性が高く、便利で、電気的および機械的に安全な方法で接続し、それらが使用される無線フロントエンドから切断する必要があります。さらに、アンテナアセンブリ全体を環境から保護し、設置面への影響を最小限に抑えながら簡単に取り付ける必要があります。
これらの目的を達成するために、2帯域の1-2309605-1と3帯域の1-2309646-1の各帯域には3mのRG-174同軸ケーブルが装着され、標準SMAプラグで終端されています(図7)。その結果、1つ以上のアンテナの接続や切断が容易になり、工場でのシステム組み立て時や、フィールドでのアドオンとして簡単に実行することができます。
図7:1-2309605-1および1-2309646-1の各アンテナには、SMAプラグ終端を備えたRG-174同軸ケーブルがあり、設置、取り付け、テスト、分解を必要に応じて簡単に行うことができます。(画像提供:TE Connectivity)
さらに、18mmの内蔵取り付けロッド1本と、アンテナハウジングの下端周辺にアクリル製粘着パッドを使用することで、システム表面へのマルチアンテナモジュールの取り付けが簡単になりました。アンテナは短時間で取り付けが可能です。ハードウェアは露出したままにならないので、錆びたり、緩んだり、間違ったトルクが加えられるようなこともありません。
これらのアンテナのハウジングは、モバイルの高速モーションアプリケーションに最適化されています。流線形ユニットは、幅45mm、長さ150mmで、自動車のルーフにある「シャークフィン」のような丸みを帯びたエッジにより、抵抗係数と風の抵抗が最小限に抑えられます。さらに、エンクロージャにはUV安定化素材を使用しているため、太陽光にさらされてもハウジングが経年劣化することはありません。
まとめ
輸送向けのモバイル高速マルチバンドワイヤレス接続には、電気的、環境的、機械的に厳しい条件を満たすアンテナアセンブリが必要です。TE Connectivityの2アンテナおよび3アンテナモジュールは、低帯域、高帯域、およびオプションのGNSS帯域アンテナを提供し、3アンテナモジュールには内蔵LNAを搭載しています。これらのユニットは、各アンテナ用の個別の同軸ケーブルとコネクタを装備し、シンプルな表面またはパネルマウント配列により、取り付けを容易にし、重要な環境耐久性を提供します。
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