低EMIスイッチングレギュレータを使用した高効率電源設計の最適化

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

バッテリ駆動または分散型電力システムを実装している設計者にとって、低ドロップアウト(LDO)レギュレータとスイッチングレギュレータのどちらを使用するかは悩みの種です。スイッチングレギュレータは、特にバッテリ駆動の製品には常に望ましい高効率を実現します。主なトレードオフは電源の高速スイッチングトランジスタからのEMIです。これは、高度に統合されたコンパクトな設計でますます解決が難しくなる可能性のある問題です。

入出力フィルタ回路はEMIの影響を軽減しますが、コスト、回路のフットプリント、および複雑さが増大します。これらの問題は、性能や効率を損なうことなく、組み込まれているさまざまな方法でEMIを抑えることができる新世代の統合型モジュール式スイッチングレギュレータで解決できます。

この記事では、ポータブル設計におけるスイッチングレギュレータの利点とフィルタ回路の重要性について簡単に説明します。その後、Allegro Microsystems、Analog Devices、およびMaxim Integratedが提供している、EMIフィルタが組み込まれたスイッチングレギュレータの例と、スイッチングレギュレータを使用して電力供給を簡素化する方法を紹介します。

ポータブル設計でスイッチングレギュレータを使用する理由

LDOではなくスイッチングレギュレータを選択する重要な理由として、高効率、低消費電力(熱管理の問題を緩和する)、および高電力密度があります。商用スイッチングレギュレータモジュールの効率性(出力電力/入力電力 x 100)は通常、ほとんどの負荷範囲に対して90%~95%ほどです。これは、同等のLDOの効率よりもはるかに優れています。さらに、スイッチングレギュレータは、昇圧、降圧、および電圧反転できるため、LDOよりも柔軟性に優れています。

スイッチングレギュレータの中心は、エネルギー蓄積用の1つまたは2つのインダクタとペアになっている1つまたは2つの金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)で構成されるパルス幅変調(PWM)スイッチング素子です。レギュレータの動作周波数によって単位時間あたりのスイッチングサイクル数が決まり、PWM信号のデューティサイクルによって(VOUT = D × VINから)出力電圧が決まります。

高効率はポータブル設計の利点ですが、スイッチングレギュレータには多くのトレードオフがあります。トレードオフにはコスト、複雑さ、サイズ、負荷過渡への低速応答、低負荷での効率の悪さなどがありますが、最後の項目は改善しています。他の設計上の主要な課題として、パワートランジスタのスイッチングより起こる電磁干渉(EMI)への対処があります。スイッチングにより回路の他のコンポーネントで電圧と電流のオーバーシュートが発生し、スイッチング周波数(およびその倍数)で入出力電圧リップルと電流リップル、および過渡エネルギーのスパイクが発生します。電圧リップルはPWMが「オン」の期間の終わりにピークになります(図1)。

スイッチング電圧レギュレータの出力電圧リップルの画像図1:スイッチング電圧レギュレータの出力電圧リップルのトレースに、EMIの主原因である過渡スパイクが示されています。(画像提供:Analog Devices)

EMIの管理

レギュレータでのパワーFETのスイッチングによって生じたEMIを確実に抑えるには、抵抗コンデンサ(R-C)スナバ回路を入出力に追加します。これらの回路を使用すると、エネルギーのスパイクをフィルタし、電圧リップルと電流リップル、そしてEMIを減衰することができます。出力が2~5Vの適切に設計されたスイッチング電源に適した目標は、10~50mVのピークピーク電圧リップルと最小過渡スパイクです。

フィルタ回路のコンポーネント、特に入出力バルクコンデンサの選択は、ピークピーク電圧と電源リップル、およびEMIの軽減に対してコンポーネントのサイズとコスト(およびレギュレータの過渡応答とループ補償に対する影響)のトレードオフがあるため、慎重に行わなければなりません。

最初に、重要な式に基づいて確立された手法を使用することをお勧めします。入力電圧リップルは、(入力コンデンサの放電により生成される)ΔVQと(入力コンデンサの等価直列抵抗(ESR)により生成される)ΔVESR)から成ります。入力で指定された最大ピークピーク電圧リップルについては、式1と式2からバルクコンデンサに必要な入力静電容量(CIN)とESRを推定することができます。

式1式1

および

式2式2

式の要素の意味は次のとおりです。

ILOAD(MAX)は最大出力電流です。

ΔIp-pはピークピークインダクタ電流です。

VINは入力電源電圧です。

VOUTはレギュレータ出力電圧です。

fSWはスイッチング周波数です。

同様に、出力で指定された最大ピークピーク電圧リップルの場合、バルクコンデンサの静電容量とESRはそれぞれ式3と式4から算出できます。

式3式3

および

式4式4

ΔVESRとΔVQは相互に位相がずれているため、直接付加されない点に注意することが重要です。設計者がセラミックコンデンサ(通常はESRが低い)を選択すると、ΔVQが優先されます。電解コンデンサ用に選択する場合は、ΔVESRが優先されます。

選択した出力静電容量とESRの値は、高速負荷過渡時の目的の出力からの出力電圧の許容偏差にも影響を受けます。具体的には、出力コンデンサは、PWMデューティサイクルを増やしてレギュレータのコントローラが応答するまでの過渡状態のときに負荷の電流をサポートできなければなりません。負荷ステップ時の最小出力偏差に必要な出力静電容量とESRを計算するには、式5と式6をそれぞれ使用します。

式5式5

および

式6 式6

式の要素の意味は次のとおりです。

ISTEPは負荷ステップです。

tRESPONSEはコントローラの応答時間です。

ただし、これらの計算は、電圧リップル、電流リップル、および過渡スパイクの管理に適したコンポーネントの選択を絞り込むのに役立ちますが、設計者はコンデンサの消費電力(PCAP)も考慮する必要があります。これは以下の式から算出できます。

式7

ここで、IRMSはRMS入力リップル電流です。

この式は、指定されたESRで、内部温度の上昇がリップル電流の二乗に比例していることを示しています。デバイスを使用して大きなリップル電流を減衰させると、デバイスは著しく加熱され、その熱をすぐに放散できない場合、コンデンサの電解液が徐々に蒸散し、性能が低下して最終的に障害が発生します。このような結果にならないよう、技術者は必要以上に表面積の大きい大型でコストのかかるデバイスを選択して熱放散を促進する必要があります。

低EMIレギュレータオプション

入出力フィルタリングによって電圧リップルと電流リップルは抑えることができますが、仕様を満たすと同時にピークピークリップルの高さを最小化できるスイッチングレギュレータを選択するのが設計上のベストプラクティスです。この方法により、消費電力によるフィルタコンデンサへのストレスが軽減され、小型で低コストのデバイスを利用できるようになります。

電圧および電流リップルを最小化する方法の1つが、電圧モード制御スキームを採用することです。このスキームでは、制御電圧を一方のコンパレータ入力に印加し、固定周波数のクロック生成のこぎり波状電圧(「PWMランプ」)をもう一方に印加することでPWM信号が生成されます。この方法は代替の電流モード制御スキームよりもEMIを最小化するのに優れています。電流モード制御スキームでは、パワー段からのノイズが通常制御フィードバックループにたどり着くため、EMIが悪化する傾向にあります。(DigiKeyの記事ライブラリ「DC/DCスイッチングレギュレータにおけるPWM信号生成向けの電圧および電流モード制御」を参照)。

電圧モード制御の検討に加え、複数のシリコンベンダーが、電圧および電流リップルの大きさを内部で抑えるアプローチを多数提供しています。その1つの例がAllegro MicrosystemsのA8660同期降圧コンバータです。これは、車載用AEC-Q100認定を受けたハイエンドデバイスです。このレギュレータは0.3V~50Vの入力(VIN)で動作し、可変出力電圧範囲は3~45Vです。このデバイスの特長は、200kHZ~2.2MHzのプログラム可能な基準周波数(fOSC)です。A8660は、VOUTのオーバーシュートおよび不要な電圧の急上昇を排除するためのドロップアウトからのソフト回復など、幅広い保護機能も備えています。

レギュレータでEMIを最小化するために重要なのは、PWM基準周波数ディザリングと呼ばれる手法です。この機能をアクティブにすると、内部で設定された「ディザリング掃引」によって、fOSCが体系的に±10%変化し、スイッチング周波数にエネルギーが分散されます。ディザリング変調周波数(fMOD)は、12kHzで動作している三角パターンを掃引します。

ディザリングを有効または無効にしたときのA8660の伝導性エミッションと放射性エミッションの比較を図2に示します。2つのテスト設定の外部コンポーネントとプリント基板のレイアウトは同じです。

放射性エミッションの比較グラフ図2:固定の基準周波数を使用するスイッチングレギュレータ(赤)と周波数ディザリングを使用するレギュレータ(青)からの放射性エミッションの比較動作パラメータ:fOSC = 2.2MHz、VIN = 12V、VOUT = 3.3V、負荷 = 3A。(画像提供:Allegro Microsystems)

AM無線帯域を下回る動作周波数(fOSC < 520kHz)を使用する設計では、A8660の同期入力を使用してfOSCとその高調波をシフトし、EMIをさらに最小化できます。これは、外部クロックをSYNCINピンに接続し、A8660の基準周波数を1.2から1.5 × fOSCに増やして実行します。

Analog DevicesのLT8210IFE同期整流式降圧/昇圧コントローラは、三角波周波数変調スキームも備えています。この場合、LT8210IFEは、fSWを公称設定周波数からその値の112.5%まで緩やかに拡散して、また戻ります。

また、このデバイスはスイッチングを一時停止する「パススルー」を備えているため、スイッチング損失を排除してEMIを抑え、効率を向上させることができます。レギュレータの入力範囲は2.8~100Vで、出力は1~100Vです。出力電圧の精度は±1.25%で、最大-40Vの逆入力保護機能があります。

パススルーモードがアクティブな場合、レギュレータの降圧および昇圧安定化ループが個別に機能します。個々のエラーアンプを使用して、降圧安定化用にプログラミングされた出力電圧VOUT(BUCK)を、昇圧用にプログラミングされた出力電圧VOUT(BOOST)よりも高く設定することでパススルー範囲を作成します。出力電圧リップルに対するパススルーモードの影響を示します(図3)。

出力電圧リップルを抑えるAnalog Devices LT8210レギュレータのグラフ図3:パススルーモードのLT8210レギュレータは、ノイズの多い入力源(赤のトレース)からの出力電圧リップル(青のトレース)を抑えます。(画像提供:Analog Devices)

VINがVOUT(BOOST)とVOUT(BUCK)の間にある場合、出力電圧は入力に追従します。VOUTがVINに近い値に安定すると、LT8210は低電力状態(パススルー)となり、スイッチAとDがオンの状態を継続し、スイッチBとCがオフになります。VOUTがVINを設定した割合だけ超えると、スイッチA、CおよびDがオフになり、VINとほぼ同等の電圧まで放電された後にのみ出力が再接続されます。パススルー範囲内(非スイッチング)で正のライン過渡状態が起こり、VINがVOUTを設定した割合だけ超えると、スイッチングが再開してインダクタ電流に大振幅のリンギングが生じるのを防ぎます。出力はソフトスタートと同様の方法で入力電圧に駆動され、VOUTが安VINに近い値に安定した後、スイッチAとDは再びオンの状態を継続します。図4はスイッチングトポロジを示しています。

Analog Devices LT8210レギュレータのスイッチの図図4:LT8210レギュレータのスイッチ。パススルーモードでは、スイッチAとDがオンの状態を継続し、BとCはオフになります。(画像提供:Analog Devices)

Maxim Integratedの低EMI製品は、MAX15021ATI+T降圧スイッチングレギュレータです。このレギュレータは2.5~5.5V入力で動作し、それぞれが0.6Vから入力電源の大きさまで調整可能な2つの出力があります。レギュレータの基準周波数は、単一の抵抗器を使用して500kHz~4MHzの範囲に調整できます。

電圧モード制御スキームをサポートして電圧リップルを制限できるのに加え、MAX15021では、180°位相差クロックを使用してレギュレータを操作できます(図5)。最大4MHzの周波数で切り替えるオプションと、この機能を併用することで、RMS入力リップル電流を大幅に抑えることができます。その結果、ピーク入力電流が下がり(リップルの周波数は増加する)、必要な入力バイパス静電容量が減り、必要なコンデンサのサイズも小さくなります。

Maxim MAX15021のデュアルレギュレータの図図5:MAX15021のデュアルレギュレータは180°の位相差で動作してEMIを抑えます。(画像提供:Maxim Integrated)

まとめ

モジュール式スイッチングレギュレータは、高効率が最優先される電圧安定化に最適なオプションです。ただし、LDOなどの代替ソリューションと比較すると、電圧リップルと電流リップルに加え、レギュレータのスイッチング素子により生じる過渡電圧の急上昇などのトレードオフがあります。フィルタされていないこのノイズによって、EMIが起こり、レギュレータの近くにある敏感なチップが影響を受ける可能性があります。

入出力フィルタ回路を使用するなど、確立されている設計手法を使用してEMIを減衰することができますが、大きな過渡スパイクとリップルに対応するには大型のコンデンサが必要です。また大量の電力が消費され、コンポーネントの過熱を招く可能性があります。

技術者は、この方法の代わりに、電圧リップルと電流リップル、および過渡スパイクを下げる組み込み機能を備えた次世代のモジュール式スイッチングレギュレータを使用して、フィルタ回路が追加される前であってもEMIを抑えることができます。これらのレギュレータを設計に利用することで、技術者は入出力バルクコンデンサのサイズを小さくし、フィルタ回路のサイズとコストを抑えることができます。

DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Image of Steven Keeping

Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者