DC/DCスイッチングレギュレータにおけるPWM信号生成向けの電圧および電流モード制御

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

Electronic Products の提供


スイッチングDC/DC電圧コンバータ(「レギュレータ」)は、コントローラとパワー段の2つの要素から構成されます。 パワー段はスイッチング素子を組み込み、望ましい出力に入力電圧を変換します。 コントローラは、出力電圧を安定化させるために、スイッチング動作を監視します。 これら2つは、誤差電圧を得るために、望ましい出力と実際の出力電圧を比較するフィードバックループによってリンクされています。

コントローラは、電源の安定性や精度に重要であり、実質的にあらゆる設計は、安定化のためにパルス幅変調(PWM)技術を使用します。 PWM信号を生成する主な2つの方法として、電圧モード制御と電流モード制御があります。 電圧モード制御が最初にもたらされましたが、負荷変動への遅い応答や、入力電圧により異なるループゲインなどのその短所により、技術者による代替の電流ベースの方法開発が促されました。

今日、技術者は、どちらかの制御技術を使用して広範なパワーモジュールを選択することができます。 これらの製品は、前世代製品の主な不足点を克服するために技術を組み込んでいます。

この記事では、スイッチング電圧レギュレータにおけるPWM信号生成向けの電圧および電流モード制御技術、および各アプリケーションが最適な用途について説明します。

電圧モード制御

電源構築の作業に携わる設計者は、ディスクリート部品(TechZoneの記事「DC/DC電圧レギュレータ:ディスクリートとモジュラー設計間の選択方法」を参照)、別々のコントローラおよびパワーコンポーネント、またはシングルチップに両方の要素を組み込む電源モジュールからユニットを構築することができます。

しかし、いずれの設計技術が採用されたとしても、安定化が(一般的に)固定周波数のPWM技術を採用する可能性が高くなります。 (一定のスイッチング周波数は、電源によって生成される電磁妨害(EMI)を制限するため、望ましいです。)

電圧モード制御レギュレータにおいて、PWM信号は、制御電圧(VC)を1つのコンパレータ入力に、そして固定周波数ののこぎり波状電圧(Vramp)(または「PWMランプ」)をもう1つのコンパレータ入力に適用することで、生成されます(図1)。

Texas Instrumentsが提供する、スイッチング電圧レギュレータ向けのPWMジェネレータの画像

図1:スイッチング電圧レギュレータ向けのPWMジェネレータ。 (Texas Instrumentsの提供)

PWM信号のデューティサイクルは、制御電圧に比例し、スイッチング素子が伝導する時間のパーセンテージを決定し、したがって出力電圧を決定します(TechZoneの記事「低負荷でのスイッチングDC/DCレギュレータ効率向上のためのPFMの使用」を参照)。 制御電圧は、実際の出力電圧と、望ましい出力電圧(または基準電圧)との差から得られます。

変調器ゲインFmは、0~100%へのデューティサイクルの変化をもたらす制御電圧の変化として定義されます(Fm = d/VC = 1/Vramp)。1

図2は、一般的なスイッチングレギュレータの構成ブロックを示します。 パワー段は、スイッチ、ダイオード、インダクタ、(絶縁型設計用の)トランス、および入力/出力コンデンサから構成されます。 この段は、入力電圧(VIN)を出力電圧(VO)に変換します。 電圧レギュレータの制御部分は、1つの入力で(望ましい出力に等しい)基準電圧と、もう1つの入力で分圧器からの出力を使用する誤差アンプから構成されます。 分圧器は、出力からのフィードバックトレースから給電されます。 誤差アンプからの出力は、PWMコンパレータへの1つの入力を形成する制御電圧(VCまたは「誤差電圧」)を提供します。2

Microsemiが提供する、制御部分およびパワー段の画像

図2:電圧モード制御スイッチングレギュレータの制御部分およびパワー段。 (Microsemiの提供)

電圧モード制御の利点には、設計および回路解析を容易にするシングルフィードバックループ、安定した変調プロセス向けに良好なノイズマージンを提供する大きな振幅ランプ波形の使用、そして複数の出力電源向けに優れたクロスレギュレーションを提供する低インピーダンス電力出力が含まれます。

しかし、その技術には、いくつかの明らかな短所があります。 たとえば、負荷の変化は、出力変化として最初に検出され、その後、フィードバックループによって補正される必要があり、この結果、遅い応答となります。 出力フィルタは回路補償を複雑にし、入力電圧によりループゲインが異なるという事実により、回路補償はさらに困難になる可能性があります。

電流モード制御

1980年代初期において、技術者は、電圧モード制御方法の不足点に対処する代替のスイッチング電圧レギュレータ技術を考え出しました。 電流モード制御と呼ばれるこの技術は、インダクタ電流をフィードバックする第2ループを追加することで、PWMランプを得ます。 このフィードバック信号は、ACリップル電流と、インダクタ電流のDCまたは平均値の2つの部分から構成されます。 信号の増幅形態が、PWMコンパレータの1つの入力に送信される一方で、誤差電圧はもう1つの入力を形成します。 電圧モード制御方法と同様に、システムクロックはPWM信号周波数を決定します(図3)。

Texas Instrumentsが提供する、電流モード制御スイッチングレギュレータの画像

図3:電流モード制御スイッチングレギュレータ。 ここで、PWMランプは、出力インダクタ電流から得られた信号から生成されます。 (Texas Instrumentsの提供)

電流モード制御は、電圧モード制御の遅い応答に対処します。これは、入力および出力電圧間の差によって決定されるスロープでインダクタ電流が上昇し、したがってラインまたは負荷電圧の変化にすぐに応答するためです。 さらなる利点として、電流モード制御により、電圧モード制御方法の短所である、入力電圧によるループゲインの変動がなくなることがあります。

さらに、電流モード制御回路において、誤差アンプが電圧ではなく出力電流を要求するため、回路応答での出力インダクタの影響が最小化され、補償が容易になります。 その回路はまた、電圧モード制御デバイスと比べてより高いゲイン帯域幅を示します。

電流モード制御のもう1つの利点には、誤差アンプからの要求制限による、固有のパルスごとの電流制限や、複数の電源ユニットが並列で採用されている時の簡素化された負荷分割が含まれます。

しばらくの間、電流モード制御は、電圧モード制御を歴史に委ねるように思われていました。 しかし、技術者は、電流モード制御レギュレータがそれ自身の設計上の課題をもたらすことに気づきました。そうした課題が明らかになるのに時間がかかりました。

主な短所は、レギュレータのトポロジは現在2つのフィードバックループを含むため、回路解析が困難であることです。 2つ目の困難な問題は、50%を超えるデューティサイクルで(インダクタ電流信号を提供する)「内部」制御ループの不安定性です。 さらなる課題は、インダクタ出力電流から制御ループが得られるため、パワー段からの共振がこの内部制御ループにノイズをもたらす可能性があるという事実から生じています。3

50%未満のデューティサイクルに電流モード制御レギュレータを制限することで、デバイスの入力電圧に重大な制約が課されます。 幸いなことに、不安定性の問題は、内部ループに少量のスロープ補償を「注入する」ことで解決できます。 この技術は、PWMデューティサイクルのすべての値に対して安定した動作を確保します。

スロープ補償は、誤差アンプの出力から(クロック周波数で実行する)のこぎり波状電圧波形を減算することで達成されます。 あるいは、インダクタ電流信号に補償スロープ電圧を直接追加することができます(図4)。

Texas Instrumentsが提供する、電流モード制御レギュレータの画像

図4:スロープ補償を備えた電流モード制御レギュレータ。 (Texas Instrumentsの提供)

数学解析は、電流ループの安定性を保証するために、補償ランプのスロープは、電流波形のダウンスロープの2分の1よりも大きい必要があることを示しています。4

市販の多くの電流モード制御レギュレータがあります。Microsemiは、たとえば、電流モード制御を備えたNX7102同期整流式降圧(「バック」)レギュレータを提供しています。 このチップは、4.75~18Vを受け入れることができ、最小0.925Vの調整可能な出力を提供します。最大出力電流は3Aで、ピーク効率は、入力電圧に応じて90~95%の間です。

Texas Instrumentsは、広範囲にわたる電流モード制御レギュレータを提供します。 その1例として、TPS63060があります。この製品は、同期整流式降圧/昇圧(「ブースト」)2.4MHzレギュレータで、2.5~12V電源で(最大1Aで)2.5~8Vの出力を提供します。 このデバイスは最大93%の効率を提供し、ポータブルコンピュータおよび産業用計量装置などのモバイルアプリケーションを対象としています。

STMicroelectronicsはまた、STBB2を含む各種の電流モード制御デバイスを供給しています。 これは、同期整流式降圧/ブースト2.5MHzレギュレータで、2.4~5.5V入力で2.9または3.4Vの出力を提供します。 このデバイスは、90%の効率で最大800mAを供給することができ、ボールグリッドアレイ(BGA)パッケージで提供されます。

電圧モードの復活

いくつかのシリコンベンダーのカタログを見ることで、電圧モード制御レギュレータが廃れていないことが明らかになります。 この理由は、前世代のデバイスの主な短所が、電圧フィードフォワードと呼ばれる技術の使用によって対処されたためです。

電圧フィードフォワードは、入力電圧に比例する電圧を持つPWMランプ波形のスロープを変更することで達成されます。 これにより、フィードバックループに独立して、対応する正しいデューティサイクル変調が提供されます。

この技術は、入力フィルタの存在に対する感度を排除しながら、ラインおよび負荷過渡への回路応答を向上させます。 電圧フィードフォワードはまた、もはや入力電圧により異ならないように、ループゲインを安定化させます。 小さな短所は、入力電圧を検出するのにセンサが必要なため、追加の回路の複雑性があることです。

技術者は、主要なサプライヤの広範な電圧モード制御レギュレータを選択することができます。 たとえば、Maximは、MAX5073を含む同社の製品ラインナップで多くの電圧モード制御デバイスを提供しています。 このスイッチングレギュレータはバック/ブースト2.2MHzデバイスで、5.5~23V電源で動作し、0.8~28Vの出力を生成します。バックモードで、このレギュレータは、最大2Aを供給することができます。

同様に、Intersilは、電圧モード制御を特長とする2.5MHzのスイッチングレギュレータであるISL9110Aを提供します。 このデバイスは、1.8~5.5Vの入力電圧範囲で動作し、最大1.2Aおよび95%の効率で3.3Vの出力を提供します。

International RectifierIR3891を供給します。この製品は電圧モード制御バックレギュレータで、1~21Vの広い入力範囲、および0.5~18.06Vの出力範囲を備えています。このチップは、300kHz~1.5MHzのスイッチング周波数範囲を有し、最大4Aを供給することができます。IR3891は2つの出力を特長としています。

技術の選択肢

実質的にあらゆるスイッチング電圧レギュレータは、スイッチング素子向けにPWM制御を採用しています。 PWM信号は、電圧モードレギュレータ向けにクロック周波数で実行されるのこぎり波形と組み合わされた、(基準電圧から出力電圧を減算して得られる)制御電圧から生成されるか、または電流モードタイプ向けにインダクタ電流をフィードバックする第2ループを追加することで生成されます。 現代のデバイスはほぼ、電圧制御設計向けの電圧フィードフォワードや、電流モードユニット向けのスロープ補償などの技術を採用することで、より古い設計の主な短所を克服しています。

こうした革新の結果、技術者には、両タイプのトポロジの広範な選択肢があります。 広い入力ラインまたは出力負荷変動の可能性がある時、(安定したPWM動作には、電流モード制御ランプスロープが浅すぎる時の)軽負荷下で、(パワー段からのノイズが電流モード制御フィードバックループに入り込む時の)ノイズがあるアプリケーションで、そして良好なクロスレギュレーションで複数の出力電圧が必要とされる時、電圧モード制御スイッチングレギュレータが推奨されます。

電源出力が高電流または非常に高い電圧である、特定の周波数で最速のダイナミック応答が必要である、入力電圧変動が制限されている、そしてコストやコンポーネント数を最小化する必要があるアプリケーションで、電流モード制御デバイスが推奨されます。

この記事で扱っている部品の詳細については、このページにあるリンクを使用して、DigiKeyウェブサイトの製品情報ページにアクセスしてください。

リファレンス:
  1. 電流モード制御理論の理解と適用 - 固定周波数、連続伝導モード動作向けの実用的設計ガイド」、Robert Sheehan、National Semiconductor、2007年10月。
  2. 電圧モード、電流モード(およびヒステリシス制御)」、Sanjaya Maniktala、Microsemi、TN-203、2012年。
  3. スイッチング電源トポロジ電圧モード対電流モード」、Robert Mammano、Unitrode、DN-62、1994年6月。
  4. 電流モードコンバータのモデリング、解析および補償」、Texas Instruments、U-97、1999年。

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著者について

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Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

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