ツェナーダイオード、PINダイオード、ショットキーダイオード、バラクタダイオードの基礎と応用

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

シリコンまたはゲルマニウムを使用した従来のダイオードは、大部分のエレクトロニクス用途における整流素子およびスイッチング素子として十分に機能しますが、電子同調や、電子減衰、低損失整流、基準電圧生成のような機能には、ほとんどの場合対応しきれません。元来、こうした機能の実現には、もっと旧式でコストがかかり、かさ張る「力づく」の手段が採られてきました。そうした手段は現在、バラクタ(可変静電容量)ダイオードや、PINダイオード、ショットキーダイオード、ツェナーダイオードなど、より洗練された特殊目的ダイオードに取って代わられています。

このような種類のダイオードはそれぞれ、ダイオードのユニークな特性を強化することにより、低コストのダイオード構造でニッチな用途に対応できるように設計されました。これらの特殊目的ダイオードは、上述の用途における従来のソリューションよりも、サイズ、コスト、非効率性を低減することができます。代表的な用途としては、スイッチモード電源、マイクロ波およびRF用アッテネータ、RF信号源、トランシーバなどがあります。

この記事では、まず特殊目的ダイオードの役割と動作について説明します。次に、それらの典型的な特性をSkyworks SolutionsおよびON Semiconductorの例を使用して見ていき、最後に効果的な使用方法を回路例で示します。

ツェナーダイオードを利用した基準電源

ツェナーダイオードは、逆バイアスをかけた場合にダイオード端子間の電圧を一定に維持するように設計されています。この機能を利用して、電源の重要な動作である既知の基準電圧を提供します。また、ツェナーダイオードは波形をクリップまたは制限するためにも使われ、電圧制限値の超過を防止します。

ツェナーダイオードは、高度にドープされたpn接合を使用して製造されているため、空乏層が非常に薄くなっています。そのため、その領域の電界は低い印加電圧でもきわめて強いものになります。このような状況では、2つの機構のどちらかによってダイオードの降伏現象が起き、大きな逆電流が流れます。

  • 1つめの条件では、5ボルト未満の電圧でツェナー降伏が起きます。これは電子の量子トンネル現象の結果です。
  • 2つめの降伏の機構は、電圧が5ボルト以上の場合です。この降伏はなだれ降伏、つまり衝突電離によるものです。

どちらの場合もダイオードの動作は似ています(図1)。

ツェナーダイオードの回路図記号を示す図図1:ツェナーダイオードの回路図記号と電圧-電流特性曲線。ツェナーダイオードの電圧-電流特性には、通常の順方向伝導域がありますが、逆バイアスをかけた場合、ダイオード端子間電圧がある一定値になると降伏が起きます。(画像提供:DigiKey)

ツェナーダイオードは順方向バイアスをかけた場合、通常のダイオードのように振る舞います。逆バイアス下では、逆バイアスレベルがツェナー電圧レベルVZを超えると降伏現象を示します。このとき、ツェナーダイオードは、陰極および陽極間の電圧をほぼ一定に維持します。このダイオードをツェナー降伏域に維持する最小電流は、IZminで、このダイオードの定格消費電力によって決まる最大電流は、IZmaxです。電流は外部抵抗器で制限して加熱および損傷を防ぐ必要があります。これを、ON Semiconductorの1N5229Bツェナーダイオードを使用した基本的な電圧レギュレータの回路図で示します(図2)。

ツェナーダイオードを使用した基本的な電圧レギュレータの回路図の画像(クリックして拡大)図2:ツェナーダイオードを使用した基本的な電圧レギュレータの回路図と負荷安定化応答。(画像提供:DigiKey)

1N5229Bツェナーダイオードの公称ツェナー電圧4.3Vにおける最大消費電力は500mWです。75Ωの直列抵抗(R1)により無負荷時の消費電力を455mWに制限しています。消費電力は負荷電流の増加に伴って減少します。負荷抵抗値200Ω~2,000Ωに対する負荷安定化曲線が示されています。

電圧の安定化に加えて、ツェナーダイオードはバックツーバック配線により電圧をツェナー電圧値、および順方向電圧降下値で制御された電圧制限ができます。4.3Vのツェナーリミッタの場合は、±5Vで制限します。電圧制限の応用は、より一般的な過電圧保護回路に拡張できます。

ショットキーダイオード

ショットキーダイオード、またはホットキャリヤダイオードは金属と半導体の接合を基にしています(図3)。接合の金属側は陽極になり、半導体側は陰極になります。順方向にバイアスをかけると、ショットキーダイオードの順方向電圧降下は、順方向電流とダイオードの種類に応じて0.2~0.5Vになります。この順方向電圧降下が小さいことは、ショットキーダイオードを電源と直列に使用した場合に電力損失を低減し、逆電圧保護回路などで非常に有効です。

ショットキーダイオードの物理構造を示す図図3:ショットキーダイオードの物理構造は金属とN型半導体の接合が基になっており、順方向電圧降下が小さく、スイッチング時間がきわめて短くなります。(画像提供:DigiKey)

このダイオードのもう1つの顕著な特性は、スイッチング時間がきわめて短いことです。通常のダイオードでは、ON状態からOFF状態へスイッチングする場合に空乏層から電荷を除くのに時間がかかりますが、ショットキーダイオードには金属半導体接合に関わる空乏層がありません。

ショットキーダイオードはシリコン接合ダイオードに比べて、ピーク逆電圧定格が制限されます。このため、一般的に用途は低電圧スイッチモード電源に限られます。ON Semiconductorの1N5822RLGは、40Vというかなりのピーク逆電圧(PRV)定格を持ち、最大順方向電流が3Aです。スイッチモード電源の複数の領域に応用できます(図4)。

ショットキーダイオードの代表的な応用の図図4:ショットキーダイオードのスイッチモード電源での代表的な応用例には、逆電力保護(D1)と過渡現象の抑制(D2)の用途があります。(画像提供:DigiKey)

ショットキーダイオードを利用して、レギュレータ回路を偶発的な逆極性の入力から保護することができます。図中のダイオードD1が、この目的を果たしています。この応用におけるショットキーダイオードの主な利点は、順方向電圧降下が小さいことです。ショットキーダイオードのさらに重要な機能(この場合はD2)は、インダクタL1を流れる電流の戻り経路を提供することで、このときにスイッチがOFFになります。この機能を果たすには、短くインダクタンスの小さい配線に接続するD2は高速なダイオードでなければなりません。ショットキーダイオードは、低電圧電源の場合のこの応用で最高の性能を発揮します。

また、ショットキーダイオードはRF設計にも応用されます。スイッチングが高速で順方向電圧降下および静電容量が小さく、ディテクタやサンプルアンドホールドスイッチに有効だからです。

バラクタダイオード

可変容量ダイオードは、ときにバリキャップダイオードとも呼ばれますが、可変静電容量を提供するように設計された接合ダイオードです。pn接合に逆バイアスをかけると、印加するDCバイアスの変化でこのダイオードの静電容量を変えることができます(図5)。

バラクタダイオードの静電容量が可変であることを示す図図5:バラクタダイオードは印加する逆バイアスに応じて静電容量が変化し、 バイアスレベルが高いほど静電容量は小さくなります。(画像提供:DigiKey)

バラクタダイオードの静電容量は印加DCバイアスに反比例します。逆バイアスが大きいほどダイオードの空乏層の幅が広くなり、静電容量は小さくなります。この変動はSkyworks Solutionsの超階段接合バラクタダイオードSMV1801-079LFの逆電圧-静電容量グラフで明確に確認できます(図6)。

Skyworks SolutionsのバラクタダイオードSMV1801-079LFの静電容量を示すグラフ図6:Skyworks SolutionsのバラクタダイオードSMV1801-079LFの静電容量は逆バイアス電圧の関数になっています。(画像提供:Skyworks Solutions)

これらのダイオードは降伏電圧が高く、28Vものバイアス電圧が使えるため、広い同調範囲にわたって適用できます。制御電圧は、次段のバイアスを乱さないようにバラクタダイオードに印加する必要があります。通常は、図7に示すように容量性結合します。

バラクタダイオードをAC結合するバラクタ同調発振器の図図7:バラクタ同調発振器では、コンデンサC1を介してバラクタD1を発振器にAC結合します。 制御電圧は抵抗R1を介して印加します。(画像提供:DigiKey)

バラクタダイオードは大容量コンデンサC1を介して発振器のタンク回路にAC結合します。こうすることでバラクタD1とトランジスタのバイアス電圧を相互に遮断します。制御電圧は隔離抵抗R1を介して印加します。

バラクタダイオードは、他のアプリケーションにおける可変コンデンサの代わりに使うことができます。例としては、同調RFまたはマイクロ波フィルタ、周波数変調器、位相変調器、位相シフタ、周波数逓倍器があります。

PINダイオード

PINダイオードは、RFおよびマイクロ波の周波数におけるスイッチまたはアッテネータとして使用されます。このダイオードは、従来のダイオードのP型層とN型層の間に抵抗値の大きな真性半導体(Intrinsic semiconductor)の層をはさんで形成します。これがその名称PINの由来で、このダイオードの構造を反映しています(図8)。

無バイアス時または逆バイアス時、このダイオードのI層には電荷がありません。これが、スイッチングアプリケーションのOFF状態です。I層を挿入したことによってダイオードの空乏層の有効幅が広がった結果、静電容量が極めて小さく、降伏電圧が高くなります。

PINダイオードの構造図図8:PINダイオードの構造では、陽極のP型物質と陰極のN型物質の間に真性半導体物質の層があります。(画像提供:DigiKey)

順方向バイアス状態では正孔と電子がI層に注入されます。これらのキャリヤは互いに再結合するのにある程度の時間がかかります。この時間をキャリヤ寿命(t)と呼びます。I層の実効抵抗を最小抵抗値RSまで下げる平均蓄積電荷が存在します。順方向バイアス状態では、このダイオードはRFアッテネータとして使用されます。

Skyworks SolutionsのPINダイオードアレイSMP1307-027LFは、5MHz~2GHzの周波数範囲でRF/マイクロ波アッテネータとして使用するため、4個のPINダイオードを共通パッケージに収めています(図9)。

Skyworks SolutionsのPINダイオードアレイSMP1307-027LFの図図9:Skyworks SolutionsのPINダイオードアレイSMP1307-027LFを使用した、PINダイオードアッテネータ回路。グラフは、制御電圧をパラメータとした周波数-減衰特性を示しています。(画像提供:Skyworks Solutions)

このPINダイオードアレイは、低歪みのΠ型およびT型構成アッテネータ用に設計されています。実効抵抗値RSは、キャリヤ寿命1.5µsにより、1mA時に最大の100Ω、10mA時に10Ωです。これはTV信号分配用途向けです。

まとめ

これらの特殊目的ダイオードは、従来、既に旧式化してしまった技術で実現されていた重要な機能に対するエレガントなソリューションを提供し、電子回路設計の頼みの綱となっています。ツェナーダイオードは低電圧の基準電圧を実現できます。ショットキーダイオードは電力損失を低減し、高速スイッチングが可能です。バラクタダイオードは電子同調を可能にし、かさ張る機械的可変コンデンサにとって代わります。そしてPINダイオードは高速動作のRFスイッチングによりエレクトロメカニカル式RFスイッチにとって代わります。

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著者について

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Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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