設計者のためのkHz水晶振動子選択ガイド

著者 Poornima Apte氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

計時機能を搭載した製品はほぼどこにでも存在すると言ってよいほど、現代社会の一側面となっています。高精度の計時を実現するためには、正確な周波数で発振する水晶振動子などのデバイスと、それを制御する集積回路(IC)が必要です。クロックモジュールパッケージには通常、水晶振動子と制御ICの両方が含まれています。電子発振回路は、キロヘルツ(kHz)からメガヘルツ(MHz)までの周波数範囲で製造可能です。

kHz水晶振動子は、スタンドアロンとして販売することも、水晶発振器(CXO)、デジタル温度補償水晶発振器(DTCXO)、リアルタイムクロック(RTC)などの他の製品に組み込むこともできます。

kHz水晶振動子の選択に影響する要素

サイズと周波数要件は用途に適したkHz水晶振動子を選ぶ際に考慮すべき最も重要な要素ですが、適切な回路設計のためには他にもいくつか重要なパラメータがあります。

それらの要素は、以下のとおりです。

  • 周波数許容偏差、安定性、経時変化
  • 負荷容量(CL)
  • 等価直列抵抗(ESR)
  • 励振レベル(DL)
  • 動作温度

kHz水晶振動子には通常、必要なパラメータの値を示す特定用途向け集積回路(ASIC)要件が伴います。ASICの情報は、回路設計の出発点として非常に有効です。電子回路の小型化がトレンドとなっている今日、コンポーネントのサイズと高密度パッキングが水晶振動子の特性と性能に影響を与える可能性があるため、設計者は上記の要素に特に注意を払う必要があります。ただし、フォトリソグラフィを使用した製造プロセスでは、水晶発振器回路の小型化によって効率的な動作に必要なパラメータが損なわれないように配慮されています。

周波数許容偏差、安定性、経時変化

水晶振動子には特定の周波数が仕様規定されますが、製造時のひずみや日常的な動作で表面に発生するひずみによって周波数偏差が生じる可能性があります。規定された周波数値からの偏差は、周波数許容偏差、周波数安定性、経時変化という3つのパラメータを評価することにより、その概要を把握できます。

周波数許容偏差は、水晶振動子の実際の周波数と+25°Cでの公称周波数との差と定義されます。周波数安定性は、設定温度範囲にわたって発生する可能性のある、温度変化による最大の周波数偏移です。水晶振動子の精度を高めるには、温度による周波数変化(図1)を考慮に入れて変化分を補正するkHz XOを使用することをおすすめします。最後に、経時変化とは、時間の経過に伴う周波数のドリフトです。気密封止を行うと経時変化の影響は軽減されますが、サイズが大きくなる可能性があります。

温度による発振周波数の変化のグラフ図1:発振周波数は温度によって変化するため、過酷な環境で使用される場合は特に選択プロセスで考慮に入れる必要があります。(画像提供:EpsonがIEEEを通して提供)

負荷容量(CL)

水晶振動子の2端子間の静電容量が負荷容量です。設計者は、周波数ドリフトを引き起こす可能性のある外部浮遊容量を考慮に入れる必要があります。

物理的に小さい水晶振動子は静電容量の変化の影響を受けやすいため、小型水晶振動子を使用する場合は特に、CLと回路の静電容量の不整合に注意を払うことが重要になります。低CL水晶振動子も特に周波数に敏感です。狭いスペース向けの小型回路を設計する場合、設計エンジニアは通常、CLの大きい水晶振動子を選択します。

励振レベル(DL)

DLは、構造の損傷を最小限に抑えながら安定した発振を維持するために必要な電流量です。周波数の信頼性の低下や早期故障を避けるために、回路の励振レベルの要件を満たすか超えるDLの水晶振動子を選択することをおすすめします。

動作温度

温度は、周波数安定度の規定値を超えて周波数に影響します。設計者は回路全体の動作温度を念頭に置く必要がありますが、回路内の水晶振動子の位置も考慮する必要があります。一部の領域では他の領域よりも温度が上昇しやすい可能性があるからです。さらに、回路と水晶振動子が小型であればあるほどコンポーネントが高密度になり、システム全体で温度が上昇します。そのような場合には、DTCXO製品やRTC製品などの温度範囲に対して適切に較正された水晶振動子を使用することをおすすめします。DTCXOモジュールとRTCモジュールは、小型設計の他、高い安定性や低電力が優先される場合に適しています。

kHz水晶振動子と関連モジュール

Epsonは、DTCXOモジュールやRTCモジュールだけでなく、多数のkHz水晶振動子も製造しています。そのうちのいくつかを、仕様とともに以下で紹介します。

FC3215ANシリーズは、低ESR 35kΩの小型パッケージ32.768kHz水晶振動子で、ポータブルエレクトロニクスやスペース制約のある用途に最適なデバイスです。FC3215ANシリーズは、ワイヤレスモジュール、IoT、医療、産業、セキュリティ監視装置、スマートメータ、民生用電子機器、低電力MCUなど、さまざまな用途に最適です。-40°C~+105°Cの拡張動作温度範囲に対応し、3.2mm x 1.5mm x 0.9mmのパッケージで提供され、標準的なピン配列を備えています。

FC2012ANシリーズ 32.768kHz水晶振動子は、FC3215ANシリーズに類似した仕様で、標準のピン配列を備えた2.05mm x 1.2mm x 0.6mmの小型パッケージで提供されています。同様に、FC2012SNシリーズ 水晶振動子(図2)は、ウェアラブルやMCUの他、IoT、医療、産業、セキュリティ、スマートメータなどのワイヤレスモジュールといったさまざまな用途に最適です。

EpsonのFC2012SNシリーズ 水晶振動子の画像図2:EpsonのFC2012SNシリーズは、2.05mm x 1.2mmの小型パッケージに収納され、-40°C~+105°Cの温度範囲を特長としています。(画像提供:Epson)

EpsonのRX8901CEとRX4901CEは、スマートメータ、セキュリティ装置、スマート照明の用途に最適な、低消費電力で汎用性を備えた高精度モジュールのリアルタイムクロックです。最大3つのイベント入力を備えた統合システムを使用してイベントを検出し、MCUがスリープモードの状態にある場合はタイムスタンプを記録することで、システムの消費電力を削減してバッテリ持続時間を延ばすことができます。このモジュールは、FIFOまたは直接モードで32イベントのタイムスタンプを記録できます。これらの製品は、3V電源からわずか240nAしか消費せず、電源スイッチング回路を内蔵しているため、外付けダイオードが不要でその損失がありません。このモジュールは1/1024秒までの時間分解能を備え、-40°C~+105°Cの動作温度範囲全体で安定しています。RX8901CEにはI²Cインターフェースが用意され、RX4901CEには3線式または4線式SPIが用意されています。

RX8804シリーズ RTC(図3)はDTCXOテクノロジーを活用し、-40°C〜+85°Cまたは-40°C〜+105°Cの範囲で、それぞれ±3.4ppmまたは±8ppmの精度を実現します。

EpsonのRX8804シリーズ 低電力RTCの画像図3:EpsonのRX8804シリーズ 低電力RTCは幅広い温度範囲での高精度が特長です。(画像提供:Epson)

標準0.35µAと非常に低電力のRX8804シリーズは、3.2mm x 2.5mm x 1.0mmの面実装セラミックパッケージで、水晶振動子を内蔵しています。

最後に、EpsonのTG-3541CE 32.768kHz DTCXOは、IoT、ウェアラブル、モバイル、センサ、GPS/GNSS、ユーティリティメータ、デジタルヘルス/ウェルネスなどの民生用、産業用に適した精密周波数リファレンスです。特にIoTアプリケーションの場合、TG-3541CEの正確な時間精度により、デバイスのスリープ時間を大幅に延長し、起動頻度を減らしてバッテリ持続時間を延長できます。さらに、このスタンドアロンDTCXOは、ソフトウェアを変更することなくMCUまたはRTCのタイミングを大幅に改善できるため、設計者は時間とリソースを節約できます。TG-3541CEは消費電力がわずか1.0µAと低電力で、3.2mm x 2.5mm x 1.0mmの面実装セラミックパッケージで入手できます。

まとめ

水晶振動子、発振器、RTC、DTCXOは、周波数制御アプリケーションの重要なコンポーネントです。ワイヤレスモジュール、IoT製品、個人用医療デバイス、産業用装置のいずれの用途においても、Epsonの提供製品は用途固有の要件を満たすソリューションを実現します。

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著者について

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Poornima Apte氏

Poornima Apte氏はエンジニアからテクノロジーライターに転身しました。専門は、エンジニアリング、AI、IoT、オートメーション、ロボティクス、5G、サイバーセキュリティなど、技術的なトピック全般です。Poornima氏は、インド経済の好景気を受けてインドに移住するインド系アメリカ人に関する独自の報道で、南アジアジャーナリスト協会から賞を受賞しました。

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