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医療用電源ソリューション – 標準による安全性の確保

著者 Florian Haas(フロリアン・ハース)氏、TRACO Power Groupマーケティングディレクター

人と電力は上手くつきあえないというのは、特に医療施設で治療を受けている患者、あるいは自宅で療養している患者にとっては一層真実であると言えます。患者と医療関係者両方の安全性を確保するため、医療ビジネスは、標準に基づいた幅広い要件と関連製品試験によって厳しく規制されています。

標準体制の中心となるのはIEC 60601です。IEC 60601は医療で使われる電気機器と電子機器に特化した一連の要件で構成されています。IEC 60601は40年前に公開されてから、業界の変化に合わせて進化してきました。

この技術関連の記事では、IEC 60601の基本原則のいくつかを、電源の実装と、リスク評価の必要性などのいくつかの新しい要件と関連付けて調べていきます。また、医療機器メーカーが利用できるサポートなど、標準準拠を実現するための実用的な方法を確認します。

はじめに

医療機器の安全性に関する主な問題の1つは、患者が機器に電気的に接続されることがよくあるという点です。例の1つとして、心電計の導電性パッドがあります。IEC 60601では、これらを「装着部」(AP)として定義しています。これは、医療製品の全体的な要件を定義する際の標準内の重要な定義です。

患者(APを使って接続されている場合)とオペレータの両方を、故障状態になっても電気ショックから保護するために、医療機器には少なくとも1つの保護手段(MOP)が組み込まれる必要があります。MOPは、安全機構、保護接地、定義済みの沿面距離、空隙、その他の保護インピーダンスを通じて、またはこれらの手法の組み合わせを実装して実現できます。

標準では、オペレータと患者の扱いが異なるため、「オペレータ保護手段」(MOOP)と「患者保護手段」(MOPP)に分類されています。この違いの理由の1つとして、患者はAPを介して物理的に接続され、故障が発生しても気づかないことがあります。このリスクによって、MOPP要件の方が厳格になっています。各手段は、分離電圧、沿面距離、および絶縁レベルに関して定義されています。

分類別の第3版要件
分類 分離 沿面 絶縁
MOOP 1つ 1500VAC 2.5mm ベーシック
MOOP 2つ 3000VAC 5mm ダブル
MOPP 1つ 1500VAC 4mm ベーシック
MOPP 2つ 4000VAC 8mm ダブル

図1:IEC 60601のMOOPとMOPPの定義(画像提供:TRACO Power)

標準の進化

IEC 60601は、40年ほど前に公開されて以降、進化してきました。電源とモジュールは、それ自体は医療機器ではないため、標準が直接適用されることはありません。しかし、医療機器メーカーは、医療用途を考慮して設計された電源ソリューションなしでは標準準拠を実現できません。

最近まで、医療機器は病院や診療所など専用の医療施設でのみ使用されるものと見なされていました。このような施設では、最も敏感な医療機器で使用される専用のクリーン電力を提供していました。現在、患者は利便性を求めており、医療施設のリソースが限られることから、医療機器を自宅で利用する機会が増えてきています。BluetoothやWi-Fiのような技術の普及により、電磁両立性(EMC)などの問題の重要性が増しています。このため、標準の最新バージョン(第4版)では、EMCの試験手順と許容レベルを変更しています。

もう1つ重要な点は、ISO 14971に従ってリスク評価を実行する要件が導入されたことです。リスク評価は医療機器の規制準拠を実証する際の重要な要素です。ISO 14971では、医療機器のライフサイクルの全段階における最適な実践方法を定義しています。

医療機器指令がさらに標準準拠の負担に加わり、メーカーはISO 13485に準拠する品質管理システム(QMS)の実装が求められています。第1の要件は、組織(電源メーカーなど)が顧客要件と規制要件の両方を常に満たす能力を実証できることです。

医療用として認可された2 x MOPP定格DC/DCコンバータで柔軟性を提供

IEC 60601準拠を実現するための一般的な方法は、医療用として認可されたAC/DC電源を使用することです。しかし、BF定格用途では、2 x MOPP定格を満たすAP装置も必要です。現在販売されている医療用として認可された多くのAC/DC電源には2 x MOPP定格がなく、BF準拠が必須の用途のスタンドアロン電力ソリューションとして適していません。このような場合、IEC 60601承認の2 x MOPP定格DC/DCコンバータが、APでのBF準拠をサポートします。もう1つの一般的な例として、バッテリバックアップ機能を実装し、AC故障時には2 x MOPP定格に対応する必要のある医療器具があります。

医療器具には、提供されているメインシステムのDC電圧とは異なる、AP装置を駆動するさまざまなDC電圧が必要なことがよくあります。カスタムのAC/DC電源のソーシングを避けるため、IEC 60601、2 x MOPP定格DC/DCコンバータをITE 60950定格AC/DC電源などと組み合わせることでこの状況を回避できます。そうでない場合、選択したAC/DC電源がIEC 60601で承認されていても、2 x MOPP、AP装置用医療グレードDC/DCコンバータの使用を保証することでエンジニアリングの信頼が上がります。

2 x MOPP(図1)の主要な要件は、4000VACの分離、8mmの沿面距離、およびダブル絶縁です。最も普及しているDC/DCコンバータ(EN60950承認に対応するコンバータを含む)は、500VDC~約1600VDCの分離を提供するため、医療用途には適しません。ただし、特殊なDC/DCコンバータは、標準の既製電源と組み合わせて使用することでAPの要件を満たすことができます。

最大5000VACの分離、ダブル絶縁、および8mmの沿面距離をガルバニック絶縁トランスを通じて提供することで、DC/DCコンバータでAC/DC主電源が故障した場合でも患者を保護することができ、主電源の電圧レベルが患者のAPポイントに現れるのを回避できます。

DC/DCコンバータを使用した2 x MOPP保護の実現を示す図

図2:DC/DCコンバータを使用した2 x MOPP保護の実現(画像提供:TRACO Power)

TRACOの医療用安全電源ソリューションのアプローチ

医療業界に国際レベルの電源ソリューションを提供するTRACOのアプローチの中心となるのは、そのトランス技術です。長期にわたって開発、改善されてきたその独自のアプローチにより、必要な分離と絶縁を可能にすると同時に、DC/DCコンバータの効率的な動作を可能にする十分なカップリングを実現します。

トランスの一次巻線と二次巻線の間の低カップリング容量は、保護実装の重要な側面です。10~15pFの低い値は、絶縁分離でごくわずかな電流の転移が生じることを示します。そのため、IEC 60601の要件に対応する患者保護を提供します。

TRACOではISO 13485に従ってQMSも実装しています。これは、設計と製造両方のプロセスに対応します。また、標準の要件に他の手法も加えることで、製品の品質と安全性を高いレベルに保っています。

産業用グレードコンポーネントを選択、供給して、最終的な製品の耐久性を確保しています。その結果、IT機器での使用を目的とした機器は内部TRACOポリシーによって除外されています。ワークマンシップは、国際標準IPC-A-610に準拠することで保証されています。TRACOはワークマンシップの最高レベルであるレベル3で運用しています。これらの基準を結合することで、TRACOは一部の製品について最大5年間の製品保証を提供することができます。

医療機器ではなく電源ソリューションメーカーであるTRACOは、リスク評価データを提供する必要はありません。しかし、TRACOはISO 14971に準拠し、絶縁破壊、逆転時の使用、ファンの故障の影響、可燃性、機械的衝撃などの重要な分野に関するリスク評価ファイルを顧客に提供しています。このデータの提供は、顧客の最終的な医療製品のリスク評価に大いに活用することができ、設計プロセスにおいて時間とコストの両方を削減できます。

包括的な製品の提供

TRACOでは医療用途向けにAC/DCとDC/DC両方のソリューションを提供し、それらはすべて2 x MOPP要件を満たしています。IEC 60601-1のEMC要件(第4版)に準拠するこれらのソリューションは、装着部医療機器(BF準拠)に接続されるすべての患者に適しています。 AC/DC製品は、小型の5W PCB実装モジュールから、多様なミッドパワーオープンフレームデザイン、最大450Wの電力レベルを実現する密閉型電源まで幅広く用意されています。

TRACOのTPP 40シリーズの図

図3:TRACOのTPP40シリーズはオープンフレームと密閉型の両方が用意されています。(画像提供:TRACO Power)

すべてのPSUは、100Wを超えるアクティブな力率補正(PFC)を備えたユニバーサル電源入力(85~264VAC/120~370VDC)を提供します。シングル、デュアル、トリプル出力があり、ほぼすべての用途の要件に対応します。

TRACOのDC/DCコンバータには、電力レベルが2W~30WのPCB実装モジュールがあります。機器は、5V、12V、24Vおよび48Vの公称入力に対応する2:1と4:1の両方の範囲を提供します。シングル出力とデュアル出力は、3.3VDC~±15VDCから提供されます。

TRACO PowerのTHMシリーズ PCB実装医療用DC/DCコンバータの図

図4:15ワットTHMシリーズは、PCB実装医療用DC/DCコンバータです。(画像提供:TRACO Power)

TRACOの医療用として承認されたすべてのDC/DCコンバータは、250VACrms作動電圧の定格5000VACrms入出力絶縁を提供します。この製品は、2μAを下回るリーク電流とともに、セーフティクリティカルな医療用途では未承認のAC/DC PSUと併せて使用するのに最適です。

まとめ

医療市場は急速に拡大、変化しています。それに伴い、IEC 60601などの適用可能な標準は常に進化しています。患者および製品オペレータの安全性を確保する最終的な責任は医療機器メーカーにあります。ただし、経験豊富な電源サプライヤと連携することで、課題やリスクは大幅に軽減される可能性があります。これらのメーカーは、TRACOのチームを利用して、高品質で信頼性と安全性に優れた製品、および現在の医療標準に関連する包括的で豊富な知識を提供するサポートを利用できます。

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著者について

Florian Haas(フロリアン・ハース)氏、TRACO Power Groupマーケティングディレクター

Florian Haas氏は、医療機器業界で10年以上の経験があります。氏はさまざまな製品管理の役割を担当し、製品開発にあたっては、技術者とヘルスケア専門家の両方の要件(および要望)を技術部門に「橋渡し」しています。TRACO Power(電力変換製品のリーディングカンパニー)では、氏とそのチームが製品管理、マーケティング、広報を担当しています。

TRACO Powerでマーケティングを担当する前は、内視鏡検査の再処理と滅菌に特化した病院用機器の先端医療技術会社Belimed社(スイスおよびノースカロライナ州チャールストン)で製品管理チームを率いていました。氏は、Ziemer Ophthalmic Systems(スイス)でグローバル製品マネージャを務めていたこともあり、同社で眼科手術用の2つのフェムト秒レーザーシステムの開発と市場導入を担当していました。

Haas氏は2つの学位を取得しています。経営管理学では、マーケティング/広報を専門にしました。また、ルツェルン大学(スイス)で情報技術の学位も取得しています。