スイッチモード電源の音響ノイズ抑圧
2020-03-02
自動車に乗っているときにエンジンノイズを感じるのは、まったく普通のことです。エンジンルームの内部には可動部品を持つ機械が入っているわけですから。このノイズをとても心地よいものと考える人もいるでしょう。それどころか自動車や他の製品のメーカーには、全体として心地よいサウンドをあれこれ研究する(そして生みだす)ことを専門とする研究部門が実際にあります。
とはいえ、スイッチモード電源(SMPS)の場合は事情が異なります。ハム音やかん高い音などのノイズは、警告信号と解釈されることもあるかもしれません。電源は多数の電子部品で構成されていますが、動作時に運動しているものはありません。したがって、いかなるノイズもあってはならないのですね。
AC電源からの耳障りなノイズで最も一般的な原因から通常発生するのは、100Hzや120Hzという低周波数のハム音です。電源は複雑さや構造が変化したため、それらが発する音波の範囲も変わりました。しかし、ほとんどの可聴ノイズは懸念すべき事柄の原因ではないはずです。
知覚と影響
人間は16Hzからおよそ20kHzの周波数範囲の音波を聞くことができます(図1)。しかし、音で気が散ったりイライラするかどうかは、発生環境におけるその音の知覚にも依存します。
図1:人間の耳による可聴周波数範囲。(画像提供:TRACO)
可聴ノイズを発生する産業用電源装置は、おそらく人間にとっての実際的な問題にはなりません。それはその周囲のほとんどの人が、工場で働くことのなんでもない一部として他の背景ノイズがある状況で可聴ノイズを経験するためです。他のノイズは、その周波数および音量のため、電源が発する周波数を覆い隠してしまう場合もあります。これは音響心理学で研究される効果であり、MP3のオーディオ圧縮に使われています。そのような電源は閉じ扉の付いた制御パネルに組み込まれることが多く、扉は発生する可聴ノイズを聞こえにくくするのにも役立ちます。
オフィスなど異なる環境では、電源ノイズに対する反応が大幅に異なります。電気装置からのかん高い音やブーンという音は、耳障りなものとして知覚されやすく、装置の安全性に関する不安を引き起こすことさえあります。
原因および背景
磁界
電流が流れている導体が磁界内にある場合、一般に力を受けます。この力の効果は、電流と磁界の方向が90°の角度をなす場合に最大となります。その場合、影響を及ぼす力は電流と磁界の向きに対して垂直です。右手の3本の指を使って、フレミングの右手の法則でこの力の向きを求めることができます(図2)。
図2:右手の法則と左手の法則。(画像提供:TRACO)
トランスと何らかのインダクタが関わる状況では、鉄芯は、1842年にジェームズ・ジュールによって初めて認められた磁気ひずみと呼ばれる効果の影響も受けることがあります。この効果は、部品の導体部分を流れる電流によって強磁性材料が磁化されるときに形状や寸法の変化を引き起こします。摩擦加熱を引き起こすことに加えて、材料体積のこうした微小な変化も可聴ノイズを発生させることがあります。
トランスには、鉄の電気抵抗を増加させるケイ素をさまざまな量だけ含有したFe-Si鋼(ケイ素鋼とも呼ばれる)がよく使われています。6%ケイ素鋼は磁気ひずみを最適レベルに低減しますが、これは脆性が増すことと引き換えです。
圧電効果
圧電効果で生じるノイズのさらに深い原因「圧電(piezo)」という語は、圧力を表すギリシャ語に由来しています。1880年にジャック・キュリーとピエール・キュリーは、水晶などのさまざまな結晶に圧力を加えると電荷が発生することを発見しました。彼らはこの現象を「圧電効果(piezo effect)」と呼びました(図3)。後に彼らは、電界で圧電材料を変形させられることに気がつきました。この効果は「逆圧電効果」と呼ばれています。
図3:水晶などの材料で示される圧電効果。(画像提供:TRACO)
逆圧電効果は、これらの材料に電圧が加えられた場合に長さの変化を引き起こします。このアクチュエータ効果により、電気エネルギーが力学的エネルギーに変換されます。電圧の変化は、セラミックコンデンサの幾何学的質量も変化させ、その結果として周囲に圧力波を発する微小なスピーカのように作用させます。
スイッチングトポロジとフィードバックループ
かつてない高効率なパワー変換を求める動きは、スイッチングトポロジが最もシンプルな電源製品にも組み込まれつつあることを意味しています。そのような設計で選択される1次側スイッチング周波数はたいてい、人間の知覚限界よりも上になるように選択されます(>20kHz)。しかしながら、変化する負荷と入力電圧への適応をスイッチング周波数の変更に頼るスイッチングソリューションの場合、スイッチング周波数は最適な変換効率を維持するために可聴範囲内に低下することがあります。
固定周波数ソリューションの場合は、サイクルスキップやバーストモードのような機能により、スイッチング周波数自体が20kHzより上であるにもかかわらず、可聴範囲内に低下するスイッチングパターンを生じる可能性があります。このソリューションで、規則的なスイッチングパルスが不規則に途切れて2つ以上のパルスがスキップされる期間ができる場合、これは帰還回路に問題があることを示しています(図4)。ここで、帰還回路の部品と、オプトカプラの動作領域を確認することは有益です。
図4:固定周波数スイッチング設計において帰還回路に問題があると、不規則にパルスなしの期間を生じる場合があります(下のグラフ)。(画像提供:TRACO)
可聴ノイズの問題の判別と解決
かつてないほど高い電力密度の追求によってSMPSがますます小型化しているため、どの部品が可聴ノイズ源であるかを正しく判別することさえ難しい場合があります。設計が電気的な面で正しく動作している場合、1つの方法はデバイスの動作中に回路基板上の個別部品に対し、箸などの不導体を使って軽い圧力を加えることです。特にセラミックデバイスや磁気デバイスなどの主な候補部品でノイズの変化や減少が認められれば、よい出発点になる場合があります。
安全な不導体の器具がない場合でも、1枚の紙で簡単なラッパ形補聴器が作れます。円錐形に巻き、小さな端の開口部を疑わしい部品の方に向けて、ノイズ発生源であるかを判断します。
変化率の大きなスイングをしているセラミックコンデンサが可聴ノイズを発生していることが判明する場合が多くあり、出力段だけでなくクランプ回路やスナバ回路でも見つかる傾向があります。ノイズ源であるかどうかを調べるためには、それらを金属皮膜など代わりの誘電体を使用したコンデンサで置き換えるか、直列抵抗を大きくする方法があります(図5)。可聴ノイズが低減すれば、変更した部品をそのままにすることを検討すべきです。
図5:スナバ回路のコンデンサは金属皮膜タイプに交換でき、あるいはより大きな抵抗を試すこともできます。(画像提供:TRACO)
ツェナーダイオードを使うようにクランプ回路を変更することも有効な場合があります。疑わしい出力段のコンデンサを他の誘電体コンデンサと入れ替えることや、スペースが許せば値の等しい並列セラミックコンデンサと交換することも考えられます。
磁性部品がノイズ源である場合は、まず入力電圧と出力負荷が常に仕様の範囲内にあるようにします。入力電圧がときどき低下しすぎる場合は、入力側の静電容量を増やすとよい場合があります。トランスの含浸や、含浸およびポッティング処理済みインダクタを使うことも、ノイズ低減の一法です。コアの長いトランスも、コアが短いものよりも音の大きな共振を起こしやすくなります。可能な場合は、必要な巻線数を満たすことのできる、代わりの短いコアへの変更を検討します。
特に挙げたすべての可能な方法について、確認と生産テストの繰り返しが必要になる場合が多いことを念頭においておくべきです。
まとめ
磁界内で電流の流れる導体に対して働く力の影響と、コンデンサの逆圧電効果の両方が、電源装置から発せられる可聴ノイズの主原因です。シミュレーションの進歩にも関わらず、通常、可聴ノイズは設計を物理的に製作してはじめて、またときには試作のために特定数量の電源を用意してはじめて明らかになります。
電源のほとんどの可聴ノイズは、機能または安全性の観点で懸念事項の原因になることはあまりありませんが、耳障りでお客様からは品質上の問題と見なされかねません。この記事で示したいくつかの簡単な助言に従えば、ノイズ源となっている部品を迅速に特定し、推奨されている方法で交換、固定、または変更することで、余計な音を最小化または根絶することができます。
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