インダストリ4.0の要件に対応する適切なモータ制御設計の選択と実装

著者 Bonnie Baker(ボニー・ベイカー)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

インダストリ4.0や産業用モノのインターネット(IIoT)の時代には、ローカライズされたインテリジェンスとコネクティビティを機械とコンピュータの間、そしてインターネットへと提供することで、システムがよりスマートになっています。このコネクティビティの理由の1つは、生産システムやサブシステムを監視および制御できるようにして、効率性、信頼性、安定性を向上させることです。この時代には、自動化設備のエネルギー資源の多くを占め、その故障が生産ライン全体を停止させる可能性のある産業用モータに密接な関係があります。

そのため、特にモータのダイナミックレンジに大きな影響を与える速度とトルクに関して、モータを効果的に制御することが重要になります。これら2つのパラメータを効果的に制御するには、高度なフィードバック精度が必要となります。この精度を実現するために、設計者は電流センシングをローサイド、ハイサイド、インラインの中から慎重に選択し、最適な回路を実装する必要があります。

この記事では、これら3つの電流センシングオプションについて簡単に説明してから、インラインモータ電流センサの理想的なアンプが真の電流位相情報をどのように提供するかを示します。その後、パルス幅変調(PWM)除去機能を備えたMaxim Integratedの双方向電流センスアンプ(CSA)を使用して、より効率的な動作を実現する三相モータシステムを構成する方法を紹介します。

ローサイド、ハイサイド、インラインの電流センシング

ローサイド、ハイサイド、インラインという3つのセンシングオプションは、実装に大きな違いがあります(図1)。ローサイドモータ電流センサの設計では、グランドに近いセンス抵抗とアンプを使用します(左下)。

ローサイド、ハイサイド、インラインの回路オプションを示す図図1:モータの速度とトルクを検知するためのローサイド、ハイサイド、インラインの回路オプション。(画像提供:Analog Devices)

3つのオプションの中では、ローサイドの電流センシング回路が最も直感的で簡単です。これは、コスト効率がしばしば主要な設計要件の1つとなる民生用アプリケーションに適します。

ローサイドセンシング回路は、グランドの近くにアンプを備え、各レグの電流を順次取り込みます。この回路は、ゲート駆動用FETスタックの下部に汎用の安価なオペアンプと、コモンモード電圧がグランドに近いセンス抵抗(RS)を備えています(図2)。100Aに達する大きな負荷電流の場合、小さなセンス抵抗(RS)は通常、プリント基板のトレース抵抗となります。

ACモータローサイド電流センシング回路の図図2:このACモータローサイド電流センシング回路ではCMOSアンプを使用し、コモンモード電圧がアンプの負電源に到達します。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)

図2では、負荷電流が1つのACモータのFETスタックの導通を示します。この回路では、アンプのコモンモード入力範囲がグランドへと広がる必要があります。アンプ回路は、RSの電圧をゲインし、負荷電流(IL)の大きさの電圧読み取りを提供します。この電圧は、(1 + RF / RG)に等しいゲイン、すなわち約50Vでアンプの非反転入力に供給されます。

アンプとしては、Analog DevicesAD8691を使用できます。これは、帯域幅10MHzの安価な汎用オペアンプです。そのCMOS入力トランジスタは、0.2pAの標準入力バイアス電流と、負電源電圧を-0.3V下回るコモンモード範囲を提供します。

アンプの出力は、A/Dコンバータ(ADC)に供給されます。マイクロコントローラやその他のプロセッサは、デジタル化された信号を使用して、モータの状態を判断できます。

プリント基板の要件

ローサイド電流センシング回路の設計がシンプルであることは、混乱を招く可能性があります。プリント基板を使用してRSを生成すると、意図せずにセンス抵抗値が増えてしまい、測定エラーが発生しやすくなります。RS値を正確にするために、RSの上部または正端子から非反転オペアンプの端子へ直接接続する必要があります。また、RSの下部(負)端子には、グランドを直接接続する必要があります。この2番目のプリント基板設計要件により、センス抵抗の負端子とアンプのゲイン抵抗(RG)の下部が直接接続されるようになります。

プリント基板のグランドプレーンに電流が流れ、電圧差が発生することに注意してください。通常の場合、これは問題になりません。ローサイドセンサ回路では、低いRS抵抗を使用することで、回路がプリント基板上のグランド電圧降下に対して非常に敏感になります。

銅の抵抗温度係数は約0.4%/℃であるため、Rsの値を温度によって大きく変化させることができます。温度変化の大きいシステムでは、プリント基板の抵抗が温度依存の誤差を生じさせ、ある程度の不安定性をもたらします。RS誤差を最小化するために、長いトレースは避けるのが賢明です。さらに、ローサイドセンサ設計におけるセンス抵抗の使用により、望ましくない動的電圧降下が発生し、電磁干渉(EMI)ノイズの問題を引き起こします。

ハイサイド電流センシング

ハイサイドモータ電流センサは、抵抗器の動的AC電圧とEMIの影響を最小限に抑えます。しかし、この設計では、高電圧に対応した堅牢なアンプが必要になります。

ローサイド電流センサ回路では、3つのシングルオペアンプを使用して、ACモータの各レグの電流を検知します。この方法では、プリント基板の寄生抵抗による誤差や、RS電圧グランド誤差とも呼ばれるグランドに近い測定誤差の影響を受けやすくなります。

ハイサイド電流センサ回路には、コモンモード電圧が電源に近い差動アンプを使用しています。ローサイド電流センサ回路の一部の制限とは対照的に、この構成はグランド妨害の影響を受けず、負荷短絡を検出することができます(図3)。

ACモータハイサイド電流センシング回路の図図3:ACモータハイサイド電流センシング回路では、コモンモード電圧がアンプの正・負電源を越えて到達する2つのPNP入力段を備えたアンプを使用しています。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)

このオペアンプには、レールツーレール型入力と、RS端子でVSUPPLYと同等以上の大きなコモンモード電圧が必要になります。センスアンプには少なくともVSUPPLYと等しい拡張電圧源が必要となるため、これは困難です。したがって、ハイサイドセンシング構成では、アンプの入力コモンモードを電源電圧(VSUPPLY)と同じ高さにする必要があります。

このようなアプリケーションに対し、設計者はAnalog DevicesのADA4099-1を利用できます。これは、堅牢で高精度な単一のレールツーレール型入出力オペアンプで、入力はV-からV+、またはそれ以上の範囲で動作します。後者の機能は、データシートではOver-The-Topと呼ばれています。

このデバイスは、40μV未満のオフセット電圧、10nA未満の入力バイアス電流を特長とし、3.15~50Vの範囲の単一またはスプリット電源で動作します。ADA4099-1は、1チャンネルあたり1.5mAの静止電流を消費します。

抵抗のマッチング

図3のハイサイド電流センシング回路では、外付け抵抗(R1、R2、R3、R4)の精度によって測定精度が直接決定されます。図3の差動ゲインの計算には、式1を使用します。

式1 式1

図3のコモンモードゲイン誤差の計算には、式2を使用します。

式2 式2

図3の出力電圧の計算には、式3を使用します。

式3 式3

R1~R4が1%抵抗の場合、誤差全体の最悪ケースの許容誤差は5%以上となります。この5%の誤差のために、高価で許容誤差の厳しい抵抗器を使用する必要が生じます。この方法の主な弱点は、コモンモード電圧の上昇による誤差感度を克服するために、R4/R3とR2/R1の比の値に対して厳しい許容誤差を備えた精密抵抗器が必要となり、コストが増加することです。

インライン電流センシング

他の解決策も有効ですが、望ましい方法はインライン(または直巻)モータ電流センサです。この方法で真の電流位相情報が得られるため、高速なセトリング時間とコモンモード過渡の高い除去が可能になります。インライン測定に最適なアンプは、これらの課題を解決するためのPWM除去機能を備えた双方向CSAです。このアンプは、高速セトリング時間と高帯域幅を備え、コモンモード過渡を除去します。

効率的なモータ動作を実現するために、システムプロセッサは、3つのモータ位相すべてのあらゆる瞬間の電流データを保持しています(図4)。

モータ制御のためのインライン電流センシングの図(クリックして拡大)図4:モータ制御のためのインライン電流センシングでは、プロセッサが3つのモータ位相すべてのあらゆる瞬間の電流データを保持しています。(画像提供:Analog Devices)

図4では、MCUがAnalog DevicesのMAX40056双方向CSAでモータの3つのレグすべてを同時にサンプリングし、各レグの励起の位相関係を維持しています。理想的なインラインアンプは、PWMのコモンモード過渡を除去しながら、モータの各レグの差動信号をゲインアップします。強力なPWM除去によって最速のセトリング時間と高精度を実現するため、設計者はPWMのデューティサイクルを最小化して、0%に近いまま維持できるようになります。

MAX40056は、単一電源、高精度、双方向のCSAであり、-0.1V~+65Vの高いコモンモード入力範囲を備えています。その入力段は、-5V~+70Vの電圧スパイクと誘導性キックバックに対する保護を提供します。±5μV(標準)の入力オフセット電圧と0.05%(標準)のゲイン誤差は、システム誤差の低減に寄与します(図5)。

Analog DevicesのMAX40056 CSAの外乱抑制機能を示す図図5:高速PWM除去回路によるMAX40056 CSAの外乱抑制機能は、モータ巻線のような誘導性負荷の同相電流の監視によく適しています。(画像提供:Analog Devices)

図5では、モータ制御アプリケーションで一般的な高速PWM信号の外乱を抑制するよう、入力段が特別設計されています。したがって、MAX40056は、PWM信号で駆動するモータ巻線やソレノイドなど、誘導性負荷の同相電流の監視によく適します。MAX40056は、-40°C~+125°Cの全温度範囲と、+2.7V~+5.5Vの電源電圧で動作します。

MAX40056は、500V/マイクロ秒からの500ナノ秒のPWMエッジ回復と、より高速なPWMエッジを備えています。MAX40056と他社製品のベンチデータは、PWMのコモンモード耐性に大きな違いがあることを示しています(図6)。

PWMエッジ除去を使用した他社製品比較の画像図6:50VのPWMサイクルのPWMエッジ除去を使用した他社製品比較では、MAX40056がPWMコモンモード過渡耐性に関して明らかに優位であることが示されています。(画像提供:Analog Devices)

図6では、MAX40056 CSAのアナログ出力に小さなバンプが示され、500ナノ秒以内に回復しますが、競合デバイスは回復に約2マイクロ秒を要しています。CSAが持つ特許取得済みのPWM除去入力は、過渡を抑制し、クリーンな差動信号測定を提供するのです。

まとめ

インダストリ4.0とIIoTはいずれも、個々のモータのレベルまで到達する必要がある、より高いレベルの生産効率と信頼性を重視しています。速度とトルクをもたらすACモータドライブシステムを構築して、安定性、信頼性、エネルギー効率を確保するのに適した回路設計を見つけることは、困難な場合があります。

上述したように、理想的なアンプを使用したインラインモータ電流センサのアプローチは、真の電流位相情報を提供します。このアプローチと、PWM除去機能を備えたMAX40056双方向CSAの使用により、設計者はトルクと速度を正確に測定する3相モータシステムを構成し、モータの効率、信頼性、安定性を確保できるようになります。

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著者について

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Bonnie Baker(ボニー・ベイカー)氏

Bonnie Baker氏は、アナログ、ミックスドシグナル、シグナルチェーンの経験豊富な専門家であり、電子技術者です。Baker氏は、業界の出版物で技術記事、EDNコラム、製品特集など、数百本の署名記事や著書を執筆してきました。『A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers』(ベイカーの12の教え:デジタル設計者のためのリアルアナログソリューション)を執筆し、他にも数冊の書籍を共著する傍ら、Burr-Brown、Microchip Technology、Texas Instruments、Maxim Integratedで設計者、モデリングエンジニア、戦略マーケティングエンジニアとして働いてきました。Baker氏は、アリゾナ大学ツーソン校で電気工学の修士号を取得し、北アリゾナ大学(アリゾナ州フラッグスタッフ在)で音楽教育の学士号を取得しています。彼女はまた、ADC、DAC、オペアンプ、計装アンプ、SPICE、IBISモデリングなど、様々なエンジニアリングトピックに関するオンラインコースの企画・執筆・発表に携わってきました。

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