医療特有の要件を満たすのに最適なAC/DC電源の選択
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-05-12
電池技術の向上と低電力回路の進歩により、多くの設計においてポータブル電池駆動システムが実行可能な選択肢となりました。しかし、医療や家庭用ヘルスケアのようなアプリケーションでは、電池のみの無接続動作は実行可能でも、現実的でも、望ましいものでもありません。そのため、電池残量が少なくなっても確実に動作させるために、機器をACラインから直接動作させるか、ACコンセントを利用できるようにしておく必要があります。これらの場合において、AC/DC電源は、電圧/電流出力、静的/動的安定化、故障保護、およびその他の保護機能に関して、通常の電源性能を提供する必要があります。
加えて、医療システムの設計者にとっては、基本的な電源性能が唯一の懸念事項ではありません。さまざまな規制基準が存在しますが、最近の更新では、ガルバニック絶縁電圧、リーク電流、2つの患者保護手段(2×MOPP)など、あまり目立たない性能に関する要求も追加されました。これらは、電源や装置が故障した場合でも、給電している装置が操作者や患者を危険にさらさないことを保証するために設けられています。
性能、信頼性、規格要件の組み合わせに加え、コストや市場投入までの時間といったプレッシャーもあるため、電源をゼロから設計するのは難しい課題となります。そのため、設計者は、数ある既製オプションの中から最適なソリューションを慎重に選別する必要があります。
この記事では、医療機器環境におけるAC/DC電源のアプリケーションについて考察し、これらの電源に関する重要な規制基準を確認します。その後、CUI Inc.が提供する電源の例を紹介し、それぞれの特徴や医療システム用電源の課題を解決する方法について説明します。
ACラインと電池のどちらを使用するか
無接続の電池駆動ポータブルデバイスは、多くの民生用製品や商用製品において一般的で好まれるようにもなりましたが、電池駆動が現実的でない、あるいは望ましくない状況もまだ多く存在します。特に、一貫性、信頼性、即時入手性が重要な医療機器では、これが当てはまります。医療システムでACライン動作が好まれる、あるいは義務付けられる理由には、次のようなものがあります。
- 高い電力、電圧、電流要件のため、大型で重い高価な電池システムと充電管理回路が必要となる。
- 多くの医療現場では、患者スケジューリングにより、毎日12時間、18時間、さらには24時間のシフトを運用している。
- 1次電源や非常用バックアップとして充電式電池を使用できるシステムでも、システムの使用中に電池の充電が必要となるため、その時間はAC/DC電源から電力を供給する必要がある。
原則として、適切な電圧/電流定格を備えた、適切なサイズの標準的な既製品(OTS)のAC/DC電源であれば、このようなシステムにうまく適合するはずです。しかし、基本的な意味では十分ですが、医療用電源に課された付加的な基準は満たしていません。
安全性と性能に関するこのような付加的要求の根拠は、医療アプリケーションの特殊性および、コンポーネントやシステムの故障が患者や操作者に害を及ぼすという非常に現実的な可能性です。患者は、身体に直接電流を流すことのできるセンサ、プローブ、またはその他のトランスデューサと直接接触することが多く、偶然の接触よりもリスクが高くなるため、安全確保が特に困難となります。
安全の基本からスタート
通常、感電のリスクは高い電圧と関連付けられますが、間接的な相関しかありません。患者やユーザーの感電は、電流が体内を流れて電源に戻ることによって発生します。ただし、その電流にリターンフロー経路がない場合、人が高圧線に触れたとしても危険はありません。
非常に特殊な例外を除き、ライン動作のAC/DC電源は入力側に絶縁型トランスを備えており、これが次の2つの役割を果たします。
- DCに整流する前に、必要に応じてライン電圧を上昇/降下させる。
- 入出力の絶縁を提供し、電流がユーザーを経由して中性線に戻る経路をなくす。これは、ユニットの表面に電圧や電流が流れて、操作者や患者を経由するような故障が発生した場合に重要となります(図1)。
絶縁型トランスを設置した場合、絶縁型トランスにはACラインのニュートラルからアースへのワイヤ経路がなく、電流はユーザーを通過しないため、このような電流は発生しません。
図1:絶縁型トランスはニュートラルからアースへの電流経路を遮断するため、ユーザーのデバイスやシステムが露出したケースに誤って接続されても電流は流れません。(画像提供:Quora)
電流を懸念すべき理由
胸部のあたりに標準的なライン電圧(110/230V、50または60Hz)が1秒足らずかかるだけで、最小30mAの電流によって心室細動が誘発されてしまいます。心臓カテーテルまたは他の種類の電極などを経由して電流が心臓へ直接流れる場合、1mA(ACまたはDC)以下の低い電流でも心室細動を誘発します。
以下は、皮膚表面の接触によって人体を通過する電流としてよく言及される、標準的な閾値です。
- 1mA:ほとんど気づかない。
- 16mA:平均的な体格の人が保持したり解放したりできる最大電流。
- 20mA:呼吸筋が麻痺する。
- 100mA:心室細動が発生する閾値。
- 2A:心臓が停止し、内臓が損傷する。
これらのレベルは、電流経路と相関関係があります。つまり、胸部を横断または通過する、腕から脚まで、または頭の両側など、人体と接触する2点の位置にも関係するのです。
トランスの絶縁とリーク電流が重要
リーク電流とは、誘電体(絶縁体)を通過する電流のことで、絶縁体の不完全な性質による物理的な「漏れ」、または極めて良好な絶縁体をも横断する容量性電流が原因となります。リーク電流は決して望ましいものではありませんが、一部の医療用アプリケーションでは、はるかに深刻な懸念事項となっています。
図2に示すトランスの簡略化モデルは、1次側と2次側の間が完全にガルバニック絶縁(抵抗絶縁)されている様子を表しています。
図2:このトランスの基本モデルは、1次側から2次側への電流経路がないことを示しています。(画像提供:Power Sources Manufacturers Association)
コンポーネントや配線の故障で2次側に新たな電流経路が提供されたとしても、電流がACメインから駆動製品へと直接流れることはなく、ACメインに戻る完全な電流フローループが形成されます。しかし、実世界のトランスに完璧なものはなく、必ず1次/2次間の巻線間容量が存在します(図3)。
図3:より現実的なモデルは、1次側と2次側の間の基本的な巻線間容量(Cps1)を示しています。(画像提供:Power Sources Manufacturers Association)
さらに高度なモデルでは、図4に示すように、巻線間容量の発生源が追加されています。
図4:Cps1以外にも、トランス静電容量があります。(画像提供:Power Sources Manufacturers Association)
リーク電流を流すこの望ましくない静電容量は、ワイヤサイズ、巻線パターン、トランス形状といった多くの変数と相関関係があります。その結果、わずか1pFから数μFまでの値になる場合があります。トランスの容量漏れに加えて、プリント回路基板上のスペーシング、接地されたヒートシンクと半導体の間の絶縁、さらには他のコンポーネント間の寄生も、意図しない静電容量の発生源となります。
静電容量によるトランスのリーク電流だけが、医療規格電源の懸念事項ではありません。言うまでもなく、ACの基本的な安全性や絶縁も懸念事項となります。電圧や電力のレベルによっては、これらの電源には、1次絶縁バリアに加えて、独立した2次絶縁バリアも必要となる場合があります。
また、医療用製品の多くは信号レベルが非常に低い(例:人体センサではミリボルトやマイクロボルト単位)ため、発生する電磁妨害(EMI)や無線周波数妨害(RFI)(電磁両立性またはEMCと広く呼ばれる)も懸念事項となります。関連規格では、EMI/RFI生成の最大許容値とその許容差が定められています。
規格および保護手段(MOP)
医療用電子機器と安全性を規定する主要な規格は、IEC 60601-1 - 医療用電気機器 - 第1部:基礎安全および基本性能に関する一般要求事項および、その関連規格です。IEC 60601-1第3版では、患者を中心に考え、1つ以上の操作者保護手段(MOOP)と患者保護手段(MOPP)を組み合わせた総合的なMOPを要求するようになりました。
このように、故障を防ぐという第2版の基本的な規定はそのままに、第3版では、例えばオペレーターはコントロールパネルにアクセスできるのに対し、患者はプローブで「接続」されるなど、ユーザーによって見られる潜在的な危険性が全く異なることを認識しています。
第3版の規格では、故障の状態を特定および評価するリスクマネジメントファイルなど、ISO14971に記載されているリスクマネジメントプロセスを特に呼びかけています。最近活性化された第4版では、この規格がさらに進化しています。第1に、テクノロジーの変化を考慮に入れた更新が追加されています。第2に、リスク分析を発展させ、EMCが当該医療デバイスと周辺にある他のデバイスの両方に影響を及ぼすという相互的な懸念にも対処しています。つまり、「こうすべきだ」または「この方法でそれを行うべきだ」と言うだけでなく、関連リスクの評価と定量化および、その軽減方法まで求められているのです。
電源およびMOP
規制基準では、危険な電圧から操作者を保護する手段によって特徴付けられる製品の保護クラスが作成され、クラスIとクラスIIに指定されています。
クラスI製品では、導電性シャーシが安全アース(グランド)に接続されます。そのため、保護クラスIの製品では、安全アース(グランド)導体を備えた入力電源コードが必要となります。一方、クラスII製品では、入力電源コードに安全アース(グランド)導体がありません。その代わり、シャーシが接地されないため、操作者保護のために2層目の絶縁が含まれます(図5)。
図5:クラスIのデバイスは基本的な絶縁とシャーシの接地のみを必要としますが、クラスIIのデバイスには追加の絶縁モードが必要となります。(画像提供:CUI Inc.)
MOPには、IEC 60601-1の絶縁電圧、沿面距離、絶縁など、さまざまな要件があります。これには、MOOP向けの要件も、より厳しいMOPP向けの要件も含まれます(図6)。
図6:保護手段とレベルが異なると、絶縁電圧定格、沿面距離、絶縁に関する要件も変わります。(画像提供:CUI Inc.)
この規格では、さまざまなアプリケーションの状況において、どの分類が必要かが定義されています。たとえば、血圧計のように患者と物理的に接触する装置では、通常、2つのMOOPと1つのMOPPの両方の要件を満たす必要があります。
各パラメータの最大値はさまざまな要因に左右されるため、必要な数値を前もって決めることはできません。また、全体的な設計で1つまたは2つのMOPのどちらを使用するか、そのMOPがMOPPまたはMOOPのどちらであるかによっても定義されます。
IEC保護クラスでは、ユーザーを電気ショックから保護するために、電源の構造と絶縁が規定されています。IEC保護クラスⅡの電源は、2線式の電源コードを備え、ユーザーと内部通電導体の間に2層の絶縁(または単層の強化絶縁)が施されています。
1層目の絶縁は、電線に通常使用される絶縁のような「基礎絶縁」と呼ばれるものが一般的です。次に、2層目の絶縁は、多くの場合、壁掛け電源や卓上電源で使用されるプラスチックケースなどのように、製品を包む絶縁ケース(「二重絶縁」に分類されることもある)となります。
製作か購入かの選択
基本的な電源設計は、入手可能な多くのコンポーネント、アプリケーションノート、リファレンス設計などによってサポートされています。そのため、設計者は、アプリケーション要件とその優先順位に正確に合わせた独自の設計と構築を行いたくなるかもしれません。電源の要件が非常に特殊で、市販の電源がないため、「製作する」しかない場合ももちろんあるでしょう。
しかし、「製作する」ことは実現可能であっても、設計や認証のリスクが高く、市場投入までの時間もかかるため、強い反対論があります。さらに、「製作する」努力と比較した場合、供給ベンダーの豊富さは部品表(BOM)や組み立てコストの削減につながります。そのため、「製作する」ことは、規制要件がそれほど厳しくない非常に低い電力レベル(約10W未満)以外では、コスト節約にもなりません。
OTSユニット:幅広い電力レベルとフォームファクタ
医療アプリケーション用に認証され、規制認可を受けたAC/DC電源ついて理論的に話すのも良いですが、利用可能ないくつかのバージョンを見てみると、これらの要求を満たしても、使用上の柔軟性が制限されることはないとわかります。各ベンダーは、さまざまな電源ファミリを提供しており、各ファミリ内にも幅広い電圧/電流定格があるため、ほぼすべてのプロジェクト要件を満たすことができます。いくつかの例により、外付けアダプタ、オープンフレームモジュール、封止型ユニットで利用可能な選択肢の幅広さが示されます。
例1:SDM65-UDシリーズなどの外付けデスクトップアダプタには、24V/2.7AのSDM65-24-UD-P5が含まれています(図7)。このクラスIIの電源ファミリは、ノートパソコンなどの電源/充電によく使用され、90~264V、47~63Hzのユニバーサル入力範囲を提供します。
この公称65Wのユニットは、12V/5A~5V/1.36Aの範囲の出力を備え、約120 × 60 × 36mmの完全封止型絶縁パッケージに収納され、ユーザーにとって便利な「パワーオン」インジケータLEDを搭載しています。
図7:SDM65-24-UD-P5は、24V/2.7AのクラスII AC/DC電源で、給電するデバイスに外付けして使用することを意図しています。(画像提供:CUI Inc.)
このファミリの電源は、ユーザー供給のIEC320/C8 2線式ACコードで動作します。DC出力には150cmのコード(電源の出力電流に応じて16または18ゲージ)が付属しており、2つの極性方向のいずれかと、数多くの一般的な「バレル」プラグ終端の1つまたはストリップ/錫メッキワイヤのいずれかを注文できます(図8)。
図8:SDM65-UDシリーズの電源には、DC出力コネクタに対する多くの標準バレルコネクタオプションと、ストリップ/錫メッキリードが用意されています。(画像提供:CUI Inc.)
例2:VMS-550シリーズなどのオープンフレーム(またはトレイ)モジュールには、48V/11.5AのユニットであるVMS-550-48が含まれています。このファミリの電源は、最大550Wの連続電力を提供し、12V/42A~58V/9.5Aの出力範囲、業界標準の3 × 5インチのフットプリント、1.5インチの薄さを備えています(図9)。
図9:オープンフレームのVMS-550-48は、48V/11.5Aを供給し、3 × 5インチの標準フットプリントを備えています。(画像提供:CUI Inc.)
これらの電源は、この電力レベルの規制要件である力率補正(PFC)機能を搭載し、0.5W未満の待機時消費電力および、最大92%の効率を備えています。また、-40℃~70℃の温度範囲で動作し、ローカル冷却ファン用に別途12V/0.5Aの出力も備えています。このクラスIIユニットのAC接続は、電源の回路基板上のオスコネクタを経由し、嵌合メスコネクタで終端する2線式ケーブルを使用します。
データシートには、熱ディレーティング曲線と、冷却ベースプレートおよび取り付け用スタンドオフとネジの配置を示す有用な機械図面が含まれます(図10)。
図10:VMS-550-48電源に適した冷却板の寸法と取付位置を示す機械図面。(画像提供:CUI Inc.)
例3:VMS-450Bシリーズなどの封止型ユニットには、AC100~240Vの入力から24V/18.8Aを供給する450W電源であるVMS-450B-24-CNFが搭載されています。電源のサイズは127 × 86.6 × 50mm(約5 × 3.4 × 2インチ)で、EMI/RFIを低減しながら空気の流れを確保し、電源とユーザーの両方を物理的に保護する金属シールドが付属します(図11)。
図11:450WのVMS-450B-24-CNF AC/DC電源シリーズは、24V/18.8Aを供給し、保護エンクロージャが付属します。(画像提供:CUI Inc.)
このシリーズの電源は、12V/37.5A~56V/8Aを供給可能です。また、PFCと12V/600mAのファン用ドライブに加え、5V/1Aの補助DC出力も備えているため、多くのアプリケーションで別個の小型電源が不要になります。
まとめ
医療アプリケーション用のAC/DC電源は、基本的および付加的な安全要件を網羅する、複雑で厳しい多くの規制基準や要件に適合する必要があります。すべての関連規格を満たす電源が、幅広い電力定格および、外付けの「デスクトップ」型や最終製品に組み込む「ドロップイン」型などのフォームファクタで提供されています。システム設計者は、このような標準ユニットの1つを選択することで、電源設計、認証、最終承認、および製造に関連するすべての問題から解放されるのです。
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