革新的なエンコーダは、トレードオフなしで耐久性と高精度を実現
2015-11-03
ロータリエンコーダは、モータシャフトの位置に関する重要な情報を提供するため、回転方向、速度、加速度に関する情報を提供します。それらは、産業、ロボット、航空宇宙、エネルギー、およびオートメーションアプリケーションのモーション制御帰還ループにおいて不可欠なコンポーネントです。これらの取り付けにおいて、エンコーダは、埃、汚れ、グリース、変動する温度、激しい振動を含む過酷な状態下で多くの場合に動作しているにもかかわらず、長期の信頼性、耐久性、そして高性能を提供することが求められています。高精度のモーション制御を必要とするアプリケーションの増加により、エンコーダの必要性は飛躍的に高まっています。
設計技術者の課題は、光学と磁気の2つの最も一般的なエンコーダ技術のトレードオフ間で選択することです。光学アプローチは、最高の精度を提供しますが、信頼性が低下します。磁気アプローチは、より高い耐久性を提供するものの、精度が低下します。いくつかの設計はエンコーダの使用を完全に回避できる一方で、現実的には、圧倒的多数の制御/帰還ループにおいてエンコーダは不可欠なコンポーネントです(付録1「センサレス設計について」を参照)。
トレードオフを必要とするエンコーダ技術
ほとんどのアプリケーションが800~1024パルス/回転(ppr)を必要とする中で、標準のエンコーダは一般的に、48~2048パルス/回転(ppr)を提供します。より高いpprは、精度の向上を提供するように思われる一方で、付加的な計算と処理の負荷を、ループをクローズしているシステムコントローラまたはデジタルプロセッサにかけるため、より高価でかつ複雑です。実際に、過度の精度は、不要であることに加えて、シャフトの位置におけるノイズ、振動、およびジッタにより有害なものとなる可能性があります。
ほとんどのシャフトエンコーダは、光学または磁気の原理に基づいています。光学方法は、外縁に2つのセットのウィンドウを持つガラスまたはプラスチックのディスクを使用します(図1)。LED光源および光検出器は、ディスクの反対側に配置されます。ディスクが回転すると、ウィンドウを通り抜ける光のオン/オフ通過は、標準の矩形波AおよびB直交パルスを提供します。
図1:光エンコーダは、シャフトが回転する時にウィンドウを通り抜ける光をセンシングすることで動作します。
この光学アプローチは、使用に成功する一方で、いくつかの短所を持っています。堅牢性に関して、アセンブリ中やフィールドでの時間の経過によって発生する、汚れ、油およびその他汚染物質などの要因は、ディスクやスロットに容易に干渉し得るため、エンコーダ出力に干渉する可能性があります。汚染物質にさらされることを軽減する従来のアプローチは、ベルハウジングにエンコーダを配置することです。残念なことに、このアプローチは、環境汚染物質にさらされることを完全に排除しません。加えて、温度上昇やアプリケーションコストの増加を含む新しい要因がもたらされます。
さらに、光エンコーダでのLEDは、寿命が限られており、その輝度は、10,000~20,000時間(約1年から2年)内で半減する可能性があり、最終的に寿命が尽きてしまいます。コスト削減策としてディスクがプラスチックから製造される場合、温度範囲が限られ、いかなる歪みまたは反りも精度に影響を及ぼします。
磁気エンコーダの設計は、光線の代わりに磁気が使用されているという点を除いて、光エンコーダに類似しています。スロット付きの光学ホイールの代わりに、磁気式では、磁気抵抗性のセンサアレイ上で回転する磁気ディスクが搭載されています。ホイールが回転するとこれらのセンサが反応し、この反応が信号を調整するフロントエンド回路に送られてシャフト位置が決定されます。磁気エンコーダは、耐久性は高いのですが、精度がやや劣っており、また電子モータ、中でも特にステッピングモータからの磁気干渉を受けやすい性質があります。
光および磁気エンコーダに加えて、位置エンコーディングにホール効果センサを使用することができます。それらは、効果的で信頼できる一方で、シャフト位置の比較的低い精度/分解能の決定のみに適しています。
実績ある設計をベースにする革新的なアプローチ
高精度で正確、かつ堅牢なロータリ位置エンコーディングの必要性を考慮して、Same Skyは、使用可能なその他の電子的技術を模索しました。ソリューションは、30年以上も前にノギス向けに開発されたように、標準リニア位置エンコーダの静電容量式センシングの動作原理を適応させることでした(付録2「ノギスからエンコーダへ」を参照)。その結果、 AMTとして知られる耐久性が高く、高精度のロータリエンコーダプラットフォームが実現しています。
静電容量式センシングはバーまたはラインのパターンを使用し、一方を固定要素、もう一方を可動要素に設定し、一対のトランスミッタ/レシーバで構成される可変コンデンサを形成します(図2)。エンコーダが回転すると、アプリケーション特定集積回路(ASIC)がラインの変化をカウントし、補間して、エンコーダの正確な位置と回転の方向を見つけます。
図2:静電容量式エンコーダは、シャフトが回転する時に静電容量の変化をセンシングすることで動作します。
設計により、エンコーダASICの電気出力は、光および磁気エンコーダに100%対応します。この非接触エンコーダの実装には、ユーザーにとって次のいくつかの大きな利点があります。
- 埃、汚れ、または油の影響を受けないため、本質的に光学アプローチよりも信頼できる
- 熱および冷たさの影響を受けにくいため、より信頼でき、一貫性がある
- ガラスのディスクよりも、振動の影響を受けにくい
- 輝度が減少する、または寿命が尽きるLEDがない
- エンコーダが必要な動作電流はわずか6~10mAで、この値は、光学ユニットの20~50mAをはるかに下回ります。これにより、モバイルおよび電池駆動アプリケーション向けに効率的なコンポーネントとなります。
AMTエンコーダファミリは、LEDまたは見通し線が不要なため、多くの場合に既存のエンコーダでは不十分なアプリケーションで使用されています。ある事例では、ベーキングオートメーション機器のメーカーが、主要な生産ユニットで光エンコーダに影響を及ぼすフロアの埃やその他汚染物質により、顧客の現場で繰り返される頻繁なダウンタイムを経験しており、毎月のシャットダウン、交換、再ゼロ化を必要としていました。光学ユニットが静電容量式ユニットで置き換えられた時、この問題は解消しました。もう1つの事例では、沖合掘削機器のメーカーが、アプリケーションに伴う高圧により、モータアセンブリの全体が油に浸される必要がありました。油などの非導電性流体で継続的に動作できることから、静電容量式エンコーダが選択されました。
比例積分微分(PID)制御ループを微調整する設計者にとって、あまり明白ではないものの、もう1つの利点があります。この利点は、エンコーダを変更する必要なく、性能を最適化するようにエンコーダのpprカウントを調整できるという点です。分解能を動的に変更できることで、システムの最適化プロセスが大幅に簡素化されます。このプロセスは通常、コードへの調整を介して、またはエンコーダのラインカウント(分解能)を変更することで行われます。光エンコーダの使用で、この後者のプロセスは、異なるエンコーダの購入および取り付けを必要とするため、全体のコストが増加し、設計サイクルが長くなります。静電容量ベースのエンコーダの使用で、制御エンジニアは、望ましい制御ループの結果が得られるまで、エンコーダのラインカウントパラメータの変化を指示するだけで済みます。
取り付けや生産においても、静電容量式エンコーダは他の利点をもたらします。機械的に、その取り付け穴は、他のエンコーダタイプに適合しているので、適合しかつ機能するユニットになります(図3)。したがって、アダプタスリーブを使用するだけで、異なる直径のシャフトに単一のエンコーダを適合することができ、生産でのSKU(最小在庫管理単位)数や修理用在庫の数を低減することができます。
図3:AMTエンコーダの取り付け穴は、対応する非静電容量式エンコーダに適合します。
静電容量式トランスデューサおよびカスタムASIC電気インターフェースから構築されるエンコーダの汎用性は、Same SkyのAMT11によって示されています(図4)。37mmの直径と10.34mm厚のプロファイルを備えたこの小型ユニットは、+5Vの単電源で動作します。この製品は、従来の光または磁気エンコーダ信号に電気的に対応するシングルエンドCMOSインクリメンタル位置直交(90°)と差動ラインドライバ出力の両方を提供します。加えて、48~4096pprの範囲のプログラム可能分解能の広範な選択肢や、1回転につき1回のインデックスパルスが提供されます。-40°C~105°Cの動作温度範囲でさらなる耐久性を実現するとともに、アプリケーション要件に応じてアキシャルおよびラジアル接続方向が利用可能です。
図4:Same SkyのAMT11エンコーダ。
すべての電子トランスデューサや関連する回路と同様に、静電容量ベースのエンコーダには、電気ノイズおよび干渉(EMI)の影響を受けやすい、という可能性のある懸念事項があります。ASICインターフェース回路を注意深く設計し、エンコーダ復調アルゴリズムを微調整することで、これらの問題を軽減しています。また、ASICは、よりインテリジェントなエンコーダおよびサブシステムの一部として、エンコーダのメカニズムおよびASIC自体の性能を検証するために、組み込みのオンボード診断を設計に加える今後の機会を提供します。
静電容量式センシングの原理をベースにする、フィールドでテスト済みのエンコーダの入手性により、もはや、設計技術者は、短期および長期の信頼性に対する出力精度といった、光および磁気エンコーダが強いる属性の間で困難な選択を行う必要がありません。両方において静電容量式エンコーダは秀でており、また、機械的取り付け、在庫、pprの選択、読み取り値のゼロ化、消費電力においてさらなる利点をもたらします。これらはすべて、標準出力に完全に対応します。
付録1:センサレス設計について
BLDCモータの使用とともに、シャフト位置を示すエンコーダが不要なセンサレス設計の使用という、もう1つのより小さな傾向があります。これらのモータは、フィールド指向制御(FOC、ベクトル制御とも呼ばれる)を含むさまざまなアルゴリズムによって制御されます。
エンコーダの必要性を排除するのは確かに理論的に魅力的ですが、FOC方法には、センサベースの設計ほど正確ではない、位置を失う可能性があり、リセットが必要となる、トルク範囲でいくつかのポイントで制御の問題がある、システムプロセッサによる多くの計算労力が必要となる、といった複数の短所があります。結果として、民生用電気製品(洗濯機、乾燥機)などの、シャフト位置においてより高い精度および一貫性や速度が重要でないアプリケーションに主に使用されます。しかし、大半の産業用アプリケーション向けに、エンコーダの明らかな「コスト」は、性能要件を考慮すれば非常に価値があります。
付録2:ノギスからロータリエンコーダへ
静電容量式センシングは、コンデンサの第2のプレートとしてユーザーの指が機能するタッチスイッチに一般的に使用されます。静電容量のすべての変化は、インターフェース回路によってセンスされるため、従来の電気機械式押ボタン機能をエミュレートします。それらは、多くの場合、エレベータや横断歩道などの「オープンな」または公共のアプリケーションで使用されます。タッチスイッチは、内部で可動部品がなく、取り付け面と同一平面の小さな金属タブが唯一の露出部品であるため、汚れ、水、全体的な乱用に対する耐性で知られています。
静電容量式センシングの使用は、(単一のユニットとして、またはアレイでの)基本的なオン/オフスイッチを超えており、大量市場の1例として、広くあちこちに存在するデジタルノギスがあります。ストックホルムにあるIM Research Instituteの電気技術者であるIngvar Andermo氏は、30年以上も前に静電容量式技術を使用した請求書読み取りアプリケーションに取り組んでいました。C.E. Johanssonは、磁気抵抗性技術を使用したデジタルノギスの開発についてAndermo氏に提案しましたが、Andermo氏は、そのアプローチはあまりにも複雑であると考え、静電容量式センシングの経験を使用することを決意しました。
Johanssonによる初のノギス(Jocal)は、シカゴでの1980年の展示会に初めて登場しました。Johanssonは後に、日本のMitutoyoにその技術のライセンスを与え、数年後、Mitutoyoが、この技術を使用した初のデジタルノギスを発売しました。それ以降、数百万のこうしたノギスが世界中で販売されています。
図5:Mitutoyoのデジタルノギス。
Andermo氏は最終的に、オレゴン州のテュアラティンに拠点を置くSame Skyと連携して、同じ技術を使用し、今度は高速回転測定に適用されるAMTシリーズ 静電容量式エンコーダを開発しました。高周波数トランスミッタ、正弦波メタルパターンでエッチングされたローター、レシーバボードの3つのエレメントが存在します。ローターは、トランスミッタとレシーバボードの間に配置されます。ローターが回転すると、その正弦波メタルパターンは、予測可能な方法で高周波数信号を変調します。レシーバボードは、これらの変調を読み取り、独自のASICはそれらを、最大4,096ステップ/回転のエンコーダ分解能で回転運動のインクリメントに変換します。
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