環境モニタリング用スマート空気質センサの使用方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-10-11
スマート空気質センサを使用した環境モニタリングは、スマートホーム、ビル、都市から、従来車や電気自動車(EV)、バッテリエネルギー貯蔵システム(BESS)まで、さまざまなアプリケーションで利用されています。スマートホーム、ビル、都市では、空気質センサは、空気質の低下に関わる空中浮遊粒子やガスをモニタし、早期火災警告のための煙検出を行うことで、健康と安全の確保に貢献します。車室内では、健康への影響が懸念される揮発性有機化合物(VOC)や高濃度のCO2を検出することができます。EVやBESSでは、セルの第1段階のガス抜き後にバッテリエンクロージャ内の圧力上昇と高濃度の水素を検出することが可能です。これにより、バッテリ管理システム(BMS)が反応して、バッテリシステム全体の第2のガス抜き事象や熱暴走を防ぐことができます。
これらのアプリケーションで使用されるセンサは、コンパクトで低電力であることが求められます。また、セキュアブート、セキュアファームウェアアップデートをサポートしなければなりません。さらに、多くの場合、複数のセンサを搭載し、幅広い空気質モニタリングを行う必要もあります。このような機能をコンパクトで低電力のユニットに統合することは、困難なプロセスとなる場合があります。また、再起動を繰り返し行うことで、結果として高コストなソリューションとなり、製品化までの時間を遅らせる可能性があります。
製品化までの時間を短縮し、コストを抑制するために、設計者は、工場で較正され、セキュアブート、セキュアファームウェアアップデートをサポートするセンサモジュールを選ぶことができます。このようなセンサモジュールは、クラウドへのデータ送信やローカル接続用のCANバスなどの接続オプションも提供します。
この記事ではまず、光学粒子計数器、スクリーン印刷型電気化学センサ、マルチパラメータセンサの各技術を比較します。Sensirion、Metis Engineering、Spec Sensorsの空気質センサソリューションと開発プラットフォーム、Infineon Technologiesのコンパニオンデバイスを紹介します。また、開発プロセスを加速するための提案も提示しています。
粒子状物質(PM)センサは、PM2.5とPM10(それぞれ直径2.5ミクロンと10ミクロン)など、特定のサイズの粒子数を提供します。また、特定のアプリケーションに必要な他のサイズの粒子数も提供します。光学粒子計数器(OPC)では、特定のPM技術を使用して、測定される空気が測定セル内を移動します。測定セルはレーザーと光検出器を内蔵しています(図1)。空気中の粒子がレーザーの光を散乱させ、検出器がその散乱光を測定します。散乱光の測定値は、1立方メートルあたりのマイクログラム(μg/m3)での質量濃度に変換されます。この測定値は、1立方センチメートル(cm3)あたりの粒子数を提供します。OPCを使用した粒子のカウントは簡単ですが、その情報を質量濃度数値に変換するのはより複雑です。変換に使用するソフトウェアは、粒子の形状や屈折率などの光学パラメータを考慮する必要があります。その結果、OPCの精度は、重量に基づく直接測定技術など、他のPMセンシング方法よりも低い可能性があります。
図1:OPCは、レーザーとフォトダイオードを使用して空中浮遊粒子をカウントします。(画像提供:Sensirion)
OPCはどれも同じというわけではありません。高精度で高価な実験室用OPCは、測定セル内のすべての粒子をカウントすることができます。エアロゾル粒子の約5%だけをサンプリングし、ソフトウェアベースの推定技術を使用して全体の「測定値」に到達する、低コストの商用グレードのOPCが利用可能です。特に、PM10のような大きな粒子は一般的に密度が非常に低く、低コストのOPCでは直接測定することができません。
粒子サイズが大きくなると、ある粒子質量に含まれる粒子の数が急激に減少します。PM1.0エアロゾル粒子に比べ、PM8エアロゾル粒子の数は質量比で約500分の1となります。大きな粒子を小さな粒子と同じ精度で測定するためには、低コストのOPCでは数時間にわたるデータを統合して推定値を算出する必要があります。幸い、エアロゾルは現実の環境では大小の粒子の分布がかなり一定しています。適切に設計されたアルゴリズムを使用すれば、PM0.5、PM1.0、PM2.5粒子の測定値を用いて、PM4.0やPM10などの大きな粒子の数を正確に推定することが可能です。
アンペロメトリックガスセンサ
アンペロメトリックセンサは、粒子数を測定するのではなく、ガス濃度を測定します。電気化学的な装置で、測定するガスの体積分率に直線的に比例した電流を発生させます。基本的なアンペロメトリックセンサは、2つの電極と電解質で構成されています。ガス濃度はセンシング電極で測定されます。このセンシング電極は、測定するガスの反応を最適化する触媒金属で構成されます。ガスは毛管拡散バリアを通してセンサに入った後、センシング電極と反応します。対向電極はハーフセルとして機能し、回路を完成させます(図2)。外部回路で電流を測定し、ガス濃度を決定します。設計によっては、基本的なアンペロメトリックセンサの安定性、信号対ノイズ比、応答時間を改善するために、第3の「リファレンス」電極が含まれます。
図2:アンペロメトリックセンサは、電解質で隔てられた2つの電極を使用して、ガス濃度を測定します。(画像提供:Spec Sensors)
バッテリパック用マルチパラメータセンサ
空気質のモニタリングは、EVやBESSのバッテリパックを保護するセンサの機能の1つに過ぎません。これらのセンサは、圧力、気温、湿度、露点、絶対含水量に加え、メタン(CH4)、エチレン(C2H4)、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)などの揮発性有機化合物(VOC)をモニタします。一般的なリチウムイオン電池は、ニッケル、マンガン、コバルトでできたカソードを含んでいます。バッテリのガス抜きの第1段階では、ガス生成物の化学組成は既知です(図3)。水素の爆発下限界濃度である4%に近づくと、爆発や火災の可能性があるため、水素濃度は非常に重要です。セルが熱暴走するのを防ぐための措置を講じる必要があります。圧力センサは、ガス抜きによって生じるバッテリパック内部のわずかな圧力上昇を検出することができます。圧力の上昇を他のセンサの測定値と照合することで、誤検出を回避することができます。
図3:バッテリのガス抜きの第1段階は、特定の混合ガスが特徴です。(画像提供:Metis Engineering)
このマルチパラメータセンサは、冷却しすぎの運転状態もモニタしています。EVやBESSの大型バッテリパックには、多くの場合、充放電時にバッテリパックの過熱を防ぐためのアクティブ冷却が搭載されています。冷却しすぎると内部温度が露点を下回り、パック内に結露が発生し、セルがショートして熱暴走を起こす可能性があります。露点センサは、バッテリ端子に結露がたまる前にBMSに警告を発します。
レーザーAQセンサ
暖房、換気、空調(HVAC)システム、空気清浄機などの設計者は、SensirionのSPS30 PMセンサを使用して屋内または屋外の空気質をモニタすることができます。SPSセンサは、PM1.0、PM2.5、PM4、PM10の質量濃度、PM0.5、PM1.0、PM2.5、PM4、PM10の粒子数を測定します。質量濃度精度は±10%、質量濃度範囲は0~1000μg/m3、動作寿命は10年以上です。SPS30には、短い接続用のI2Cインターフェースと、20cmより長いケーブル用のUART7が搭載されています。
また、あらかじめ設定した間隔で自動ファンクリーニングを行うことで、安定した測定が可能です。ファンクリーニングでは、10秒間ファンを最大回転数まで加速し、溜まった埃を吹き飛ばします。ファンクリーニング中は、PM測定機能はオフラインです。クリーニング間隔は週1回がデフォルトですが、アプリケーション要件に応じて他の間隔を設定することも可能です。
開発キットとセキュアブート
SEK-SPS30は空気質モニタセンサ評価ボードです。この評価ボードを使用すると、SPS30をPCに接続して、このPMセンサの機能を評価することができます。さらにDigiKeyは、Sensirionの空気質センサとInfineonのPSoC 6 MCUを組み合わせたプラットフォームを提供しています。このプラットフォームでは、次世代のインテリジェントな空気質モニタリングシステムの開発が可能です。プライバシーが重視されるスマートビルシステム向けに、PSoC 6はセキュアブートとセキュアファームウェアアップデートをサポートしています(図4)。
図4:SensirionとInfineonのこの開発キットは、セキュアブートとセキュアファームウェアアップデートを実装することができます。(画像提供:DigiKey)
バッテリパックセンサ
EVとBESSバッテリパックの設計者は、Metis EngineeringのCANBSSGEN1をバッテリの安全性モニタリングに使用できます。これは、セルのガス抜きによる初期不良を検出するように設計されています。このセンサはCANバスをベースにしています。交換可能なエアフィルタを搭載しており、特にEVで役立ちます(図5)。オプションの加速度センサは最大24Gの衝撃と衝撃継続時間をモニタできるため、バッテリパックが安全レベルを超える衝撃にさらされたことを特定できます。次の数値を測定可能です。
- 0.2~5.5Barの絶対圧
- -30°C~+120°Cの気温
- ppb単位でのVOC、等価CO2(eCO2)、H2
- 1立方メートルあたりの水蒸気のミリグラム(mg/m3)単位での絶対湿度
- 露点温度
図5:このバッテリセーフティモニタセンサは、交換可能なエアフィルタ(中央の白丸)を搭載しています。(画像提供:Metis Engineering)
CANセンサ開発キット
DEVKGEN1V1開発キットは、Metis CANセンサを使用する際のシステム統合時間の短縮に貢献します。このセンサは、CANバスの速度やアドレスを構成できるほか、DBC CANデータベースを搭載しています。このDBC CANデータベースは、CANバスを持つほぼすべての車両への統合をサポートしています。基本的な開発キットは拡張が可能で、開発者はCANネットワークにさらに多くのセンサを追加することができます。
室内空気質センサ
室内と車両内の空気質モニタリングシステムの設計者は、Spec Sensorsの110-801を使用することができます。110-801は、スクリーン印刷型アンペロメトリックガスセンサです。アルコール、アンモニア、一酸化炭素、各種臭気ガス、硫化物など、空気質の低下に関わる幅広い種類のガスを検出できます。これらのセンサの応答は、測定するガスの体積分率に直線的に比例するため、システムの統合が容易になります(図6)。このセンサ(20 x 20 x 3mm)のその他の特長は次の通りです。
- ppmの感度
- 10マイクロワット(μW)未満のセンサ電力
- -10°C~+40°Cの動作温度範囲(連続動作では0°C~+40°C)
- さまざまな汚染物質の存在下でも堅牢で安定した動作を実現
図6:このスクリーン印刷型アンペロメトリックガスセンサは、さまざまなガスを測定することができます。(画像提供:Spec Sensors)
アンペロメトリックガスセンサの統合
ポテンショスタット回路は、アンペロメトリックガスセンサの作用電極の電位を制御し、電極電流を出力電圧に変換します(図7)。オペアンプU1のピン2の電圧で、リファレンス電極の電圧を設定します。作用電極の電位は、オペアンプU2のピン6で設定されます。また、オペアンプU2は、センサから出力される電流を電圧信号に変換します。同時に、オペアンプU1は、作用電極電流と等しい電流を、対向電極に供給します。
図7:アンペロメトリックセンサによるガス検出のための簡易型ポテンショスタット回路。(画像提供:Spec Sensors)
まとめ
このように、環境モニタリングシステムを設計する際に、設計者はさまざまな空気質センサ技術を選択することができます。OPCは、屋内外で潜在的に危険な微粒子レベルをモニタするために使用することができます。CANベースのマルチセンサシステムは、EVやBESSのバッテリパックにおける第1段階のガス抜きをモニタすることができます。また、熱暴走や火災・爆発の可能性を防止するのにも役立ちます。低電力のスクリーン印刷型アンペロメトリックガスセンサは、空気質低下の原因となるさまざまなガスを検出することができます。
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