データセンターのパフォーマンスを最適化する光相互接続の使用方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2023-03-02
クラウドなどのデータセンターにおける信頼性の高い低遅延通信の要求をサポートするために、高速、低消費電力、堅牢な光ファイバ相互接続のニーズが高まっています。光ファイバトランシーバは、データセンターの特定のニーズに合わせて最適化することができ、400ギガビット/秒(G)の伝送速度に対応することができます。光ファイバによるデータセンター通信で重要なモジュール規格には、プラグ式小型フォームファクタ(SPF)、SPF+、プラグ式クワッド小型フォームファクタ(QSFP)などがあります。SPF、SPF+、QSPFの違いの1つに、定格通信速度があります。しかしそれは、トランシーバを選択する際の1つの要因に過ぎず、消費電力と熱管理、必要な伝送距離、動作温度範囲、統合診断機能などの要素を総合的に判断する必要があります。さらに、ネットワークエンジニアは、光トランシーバの伝送距離と受信感度を効果的にテストする方法を必要としています。
この記事では、まず光ファイバトランシーバを選択する際の重要な検討事項を確認し、SPF、SPF+、QSFP、QSFP-DD(倍密度)が提供するハードウェアインターフェースオプションを比較し、 Intel Silicon Photonics、 II-VI 、Cisco Systemsのトランシーバモジュールを紹介します。最後に、 ColorChip の400Gデバイス用ループバックモジュールや Multilane の次世代800Gトランシーバ用評価ボードなど、光ファイバデバイスのテストについて紹介します。
シングルモードとマルチモード
データ通信用の光ファイバは、屈折率の異なるガラスコアをガラスクラッドで包んだ構造になっています。一般的なマルチモード(MM)ファイバは50μmのコアを持ち、750nmから850nmの波長で動作します。一方、シングルモード(SM)ファイバは9μmのコアを持ち、一般的に1310nmから1550nmの波長で動作します。MMファイバの場合、光の波長がカットオフ波長よりも短いため、複数のモードの光がファイバを伝搬することになります。SMファイバの小さいコアは、指定された波長に対して1つのモードしか伝播することができません(図1)。
図1:SMファイバはコアが小さいため、複数のモードで光を伝送することが制限されます。(画像提供:Cisco)
モード分散やモードノイズの影響を受けないSMファイバに比べ、MMファイバの帯域幅は制限されます。さらに、SMファイバはMMファイバに比べ、はるかに長い伝送距離をサポートすることができます。データの光通信は、通信の方向ごとに異なる波長を使用することで実現します。たとえば、1組の光トランシーバは、1330nmと1270nmの波長を組み合わせて使用します。一方のトランシーバは1330nmの信号を送信して1270nmの信号を受信し、他方のトランシーバは1270nmの信号を送信して1330nmの信号を受信します(図2)。
図2:光トランシーバは、データの送信と受信に異なる波長を使用します。(画像提供:Cisco)
電力と熱
データセンターの経営者は、電力と熱のコストに敏感です。データ通信ケーブルの非シールドツイストペア(UTP)は安価ですが、UTPトランシーバが約5Wの電力を消費するのに対し、ファイバトランシーバでは1W以下しか必要としません。
UTPトランシーバによって発生する追加熱をデータセンターから除去しなければならず、全体のエネルギーコストは2倍から10倍近くまで増加します。非常に短い時間の運転と低いデータレートを除いて、ファイバトランシーバは、UTPソリューションと比較して、生涯の総運用コストでほぼ常に安くなります。
また、UTPケーブルはファイバケーブルに比べ、直径も大きいです。高密度データセンターの床下に設置されるケーブルトレイの中には、大きすぎて入らないものもあります。さらに、10Gで伝送するCat 6Aケーブルの場合、UTPケーブル間のクロストークの管理が難しい場合があります。MMファイバはより安価なトランシーバを使用しますが、40Gや100Gの伝送にパラレルオプティクスを使用する場合、ケーブル配線はより高価になります。データレートが上昇し続ける中、SMファイバは、低消費電力、低コスト、小型ソリューションという最高の組み合わせを提供できるかもしれません。
温度範囲の選択
データセンターは、専用施設からオフィスや倉庫、工場などのクローゼットなど、さまざまな環境に存在します。光ファイバトランシーバは、特定の環境のニーズに対応するため、以下の3つの標準温度範囲で利用可能です。
- C-tempまたはCOMと呼ばれる0°C〜+70°Cの製品は、商業施設や標準的なデータセンター環境向けに設計されています。
- E-tempまたはEXTと呼ばれる-5°C~+85°Cは、より厳しい環境下で使用するためのものです。
- I-tempまたはINDと呼ばれる-40°C~+85°Cは、産業用設備で使用するためのものです。
一般的な光トランシーバは、周囲温度より20度ほど高い状況で動作することを想定しています。周囲が+50°Cを超えるか、-20°C以下になる環境では、IDN規格のトランシーバが使用されます。アプリケーションによっては、「コールドスタート」が可能なトランシーバが必要な場合もあります。コールドスタート時には、ネットワークはトランシーバのI²Cやその他の低速インターフェースにアクセスできますが、ケース温度が-30°Cになるまでデータトラフィックは開始されません。ネットワーク運用の信頼性を確保するためには、光ファイバトランシーバの動作温度を監視することが重要です。
デジタルオプティカルモニタリング
デジタルオプティカルモニタリング(DOM)は、デジタル診断モニタリング(DDM)とも呼ばれ、光ファイバトランシーバのデジタルモニタリングに焦点を当てたマルチソースアグリーメント(MSA)の一部であるSFF-8472に定義されています。以下のような機能があります。
- モジュールの動作温度の監視
- モジュールの動作電圧の監視
- モジュールの動作電流の監視
- 送受信光パワーの監視
- パラメータが安全なレベルを超えた場合のアラームの発報
- 要望があった場合のモジュールに関する工場情報の提供
SFF-8472 で規定される DOM は、特定のアラームフラグまたはアラーム条件を定義します。DOMは、ネットワーク管理者がモジュールの性能を監視し、故障する前に交換が必要なモジュールを特定するのに役立ちます。
100Gまでの光トランシーバモジュールは、SFF8636で定義された基本的なメモリマップドコマンドシステムを使用して、I²C制御インターフェース上で管理されてきました。高速モジュールでは、複雑なイコライジングを必要とするPAM-4インターフェースを搭載するため、管理がより複雑になります。CMIS(Common Management Interface Specification)は、高速モジュールにおけるSFF-8472/8636の置き換え、または補完を目的として開発された仕様です。
フォームファクタと変調方式
SFPトランシーバは、銅線および光ファイバネットワークに対応しています。SFPモジュールを使用することで、個々の通信ポートに異なる種類のトランシーバを搭載することができます。SFPのフォームファクタと電気的インターフェースはMSAで規定されています。基本的なSFPトランシーバは、ファイバチャンネルで最大4Gのデータレートをサポートできます。新しい仕様のSFP+は10Gまで、最新のSFP28は25Gまでサポートします。
大型のQSFPトランシーバ規格は、対応するSFPユニットよりも4倍速い伝送速度にサポートしています。QSFP28は最大100G、一方、QSFP56は倍の最大200Gを実現します。QSFPトランシーバは4つの送信チャンネルと4つの受信チャンネルを統合しており、「28」は各チャンネル(またはレーン)が28Gまでのデータレートをサポートできることを意味します。その結果、QSFP28はトランシーバによって4×25G構成(ブレークアウト)、2×50Gブレークアウト、または1×100Gをサポートすることができます。QSFPはSFPに比べてポートが大きいため、SFPトランシーバをQSFPポートに搭載できるアダプタが用意されています。
最新のバリエーションはQSFP-DDで、通常のQSFP28モジュールに比べ、インターフェース数が2倍になっています。さらに、新仕様では、50Gを実現するパルス振幅変調4(PAM4)にも対応しており、伝送速度がさらに2倍になり、QSFP28モジュールと比較して、ポート速度が4倍向上していることになります。
ファイバトランシーバで使用される従来の非ゼロ復帰(NRZ)変調は、光の強度を2段階で変調します。PAMは4つの光強度レベルを用いて、各光パルス周期で1ビットではなく2ビットを符号化するため、同じ帯域幅でほぼ2倍のデータを得ることができます(図3)。
図3:より複雑なPAM4伝送は、NRZよりはるかに多くのデータを伝送します。(画像提供:Cisco)
大規模データセンター向けQSFP-DD
大規模なクラウドや企業のデータセンターの設計者は、Intel Silicon Photonicsの SPTSHP3PMCDF QSFP-DD光トランシーバを利用することができます。このモジュールは、2kmの伝送能力を持ち、0°Cから+70°Cまでの動作に対応し、SMファイバによる400Gの光リンクまたはブレークアウトアプリケーション用の4つの100G光リンクに対応しています(図4)。この QSFP-DDトランシーバの特長は以下の通りです。
- 4 x 100G Lambda MSA光インターフェース仕様およびIEEE 400GBASE-DR4光インターフェース規格に準拠
- IEEE 802.3bs 400GAUI-8(CDAUI-8)電気インターフェース規格準拠
- CMIS管理インターフェース規格に準拠し、I²Cを介した完全なモジュール診断と制御が可能
図4:このQSFP-DDトランシーバは、2kmの距離を実現しています。 (画像提供:Intel)
マルチモードSFP+
II-VIの FTLF8538P5BCz SFP+ 光トランシーバは DDM機能を内蔵し、MMファイバを用いた25Gデータレートで使用するために考案されました(図 5)。0°C~+70°Cで動作するように設計されました。その他の特長としては、以下のものがあります。
- 850nm 垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)送信機
- 50/125μm OM4、M5F MMFケーブルで100m伝送可能
- 50/125μm OM3、M5E MMFケーブルで70m伝送可能
- OM3ケーブル30m、OM4ケーブル40mで1E-12ビットエラーレート(BER)を実現
- 最大消費電力1W
図5:このSFP+トランシーバは25Gに対応し、MMファイバを使用しています。(画像提供:II-VI)
SPFシングルモード
Ciscoの SFP-10G-BXD-I と SFP-10G-BXU-I は、最大10kmまでの伝送距離をサポートするSMファイバで動作します。SFP-10G-BXD-Iは常にSFP-10G-BXU-Iに接続されます。SFP-10G-BXD-Iは1330nmのチャンネルを送信し1270nmの信号を受信し、SFP-10G-BXU-Iは1270nmの波長で送信し1330nmの信号を受信します。また、これらのトランシーバは、リアルタイムで性能を監視するDOM機能を搭載しています。
テスト用ループバック
ネットワークやテストエンジニア、技術者は、光ファイバループバックやループバックモジュールを使って、光ネットワーク機器の伝送能力や受信感度をテストすることができます。ColorChipでは、-40°C~+85°Cにおいて2000サイクルの高使用環境に対応したループバックモジュールを提供します(図6)。このループバックモジュールには、光モジュールの電力をエミュレートするソフトウェア定義の多重消費電力と、200/400G Ethernet、Infiniband、ファイバチャンネル用の実際のケーブルをエミュレートする組み込み挿入損失特性も含まれています。サージ電流保護機能を内蔵し、被測定機器が損傷するリスクを軽減しています。このループバックモジュールの用途は、ポートテスト、フィールド展開テスト、機器のトラブルシューティングなどです。
図6:このループバックモジュールは、光トランシーバの性能をテストするために設計されたものです。(画像提供:DigiKey)
800-G QSFP開発キット
次世代の 800G トランシーバに備えるネットワークエンジニアのために、Multilaneでは QSFP-DD800トランシーバとアクティブ光ケーブルのプログラミングとテストを行うための効率的で使いやすいプラットフォームである ML4062-MCB を提供しています(図7)。このGUIはQSFP-DD MSAで定義されたすべての機能をサポートしており、設定プロセスを簡素化することができます。また、QSFP-DDトランシーバモジュールのテスト、特性評価、製造のための実環境シミュレーションに使用でき、OIF-CEI-112G-VSR-PAM4およびOIF-CEI-56G-VSR-NRZ仕様に適合しています。
図7:この開発プラットフォームは、次世代800Gトランシーバ用に設計されています。(画像提供:DigiKey)
まとめ
光ファイバトランシーバは、データセンターのネットワークエンジニアが求める高速、コンパクト、低消費電力ソリューションをサポートします。これらのトランシーバは、さまざまなフォーマットと3つの標準動作温度範囲、SMまたはMMファイバで利用可能です。ループバックモジュールは、光ファイバネットワーク要素の性能を検証するために使用することができます。開発プラットフォームは、800Gトランシーバの機能を探求し、次世代のファイバベースのネットワークへの道を準備するために使用することができます。

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。