産業用アプリケーションにおけるハイブリッド制御ネットワークの実装方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

石油 & ガスの精製所、化学プラント、液化天然ガス基地などのコンビナートは巨大であり、操業効率の向上、柔軟な生産への対応、コストの削減、確実かつ安全な操業が課題となっています。この課題を高めているのが、生産プロセスが連続的である点です。これらの施設の産業用制御ネットワークは、最適な操業を行うために、温度、圧力、振動、流量などのパラメータを数千箇所で常時監視する必要があります。これらのネットワークは数キロメートル(km)に及ぶこともあり、低帯域のセンサから高帯域のリアルタイムの制御装置や安全装置に至るさまざまな機器をサポートするために、銅線や光ファイバによるいろいろなデータ通信技術が必要となります。

このような多様な要件を満たすために、ネットワークエンジニアは、銅線とさまざまな種類の光ファイバ通信機器を最適に組み合わせて導入する必要があります。これらの機器はすべて、冗長電源、広い動作温度範囲、リモート監視機能、および高度なセキュリティ機能を備えた小型の産業用Ethernetスイッチを使って接続する必要があります。

そこで本稿では、まず産業用Ethernet(IE)の概要を説明します。特に、光ファイバと銅線のハイブリッドデータ通信ネットワークの必要性に焦点を当てます(重点は光ファイバに置きます)。シングルモード(SM)ファイバとマルチモード(MM)ファイバを比較して、ホットプラグ可能な光ファイバモジュールの規格と、光ファイバモジュールのデジタル診断モニタ(DDM)の仕組みを調べた後、Cisco Systems、Phoenix Contact、Intelligent Network Solutionsの各種光ファイバデータ通信機器、Red Lion Controlsの、IP40保護ケースに銅線と光ファイバを組み合わせた産業用Ethernet管理スイッチを紹介します。

産業用Ethernet(IE)は、温度範囲が広いスイッチとEthernetプロトコルの使用、および過酷な環境に耐える頑丈な相互接続をベースとしています。IEはリアルタイム制御と決定論性をサポートでき、EtherCAT、EtherNet/IP、PROFINET、Modbus TCPなどのさまざまな通信プロトコルを使って実装されます。

IEネットワークに期待されているのは、従来のシステムと最新のシステムとの間の相互運用性をある程度実現するだけにとどまらず、予測可能な性能をも実現するとともに、稼働時間を最大化するために容易に保守できることです。大規模な施設では、銅線と光ファイバの相互接続の組み合わせがよく使用されます。銅線は、適している場合には、より低コストの代替品となることができます。しかし、光ファイバを使用すると、3つのメリットがもたらされます。つまり、電気ノイズに関連する問題の軽減、電気的絶縁の提供、大規模で分散したコンビナートで特に有用な、はるかに長い相互接続のサポートです。

MM(マルチモード)ファイバとSM(シングルモード)ファイバの比較

光は光ファイバを伝わっていきます。コアと被覆の間の光学指数の不一致により全反射を起こすためです。コアの直径は、ファイバに入射した光が伝搬し続けることができる角度を含む許容円錐を定義するうえで、非常に重要です。SMファイバは、基本モードと呼ばれる1つの伝搬モードのみをサポートできる10マイクロメートル(µm)の小さなコアを使用しています。MM光ファイバは、光の動作波長に比べてコアの直径が大きいのが特徴です。この大きなコアは、多くの光のモード(別称:定在波パターン)を同時に誘導します(図1)。MMファイバの5つのクラス、OM1、OM2、OM3、OM4、およびOM5が、ISO/IEC 11801規格により、2つのコアサイズとさまざまな帯域幅特性に基づいて定義されています。光ファイバケーブルは、コアの直径とケーブルの直径によって分類されます。たとえば、62.5/125µmは OM1のMMのことです。50/125µmケーブルは、OM2、OM3、OM4、OM5のMMに使用され、10/125µmはSMケーブルの一例となります。

画像:直径が比較的大きいMMファイバ図1:MMファイバは、直径が比較的大きく、同時に多くのモードの光の伝送をサポートすることができます。(画像提供:Cisco Systems)

MMファイバは発光ダイオード(LED)光源でも動作しますが、より高性能な設計では垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)が使用されます。VCSELを使用することで、MMファイバネットワークは数ギガビットのデータ転送速度を実現することができます。

MMファイバは、光の波長(単位:nm、つまりナノメートル)、コア直径(単位:μm)、モード帯域幅によって5つに分類されています。モード帯域幅とは、ある距離(単位:km)に対する最大信号速度(MHz)を示す指標、またはある信号速度に対する最大距離を示す指標で、帯域幅と距離の積、MHz·kmで表されます。各ケーブルにおいて、距離が半分になると、最大信号速度は2倍になります。ISO/IEC 11801で定義されているMMファイバのクラスは、以下の通りです。

  • OM1:コア直径は62.5μm。850nmでの最小モード帯域幅は200MHz·km。
  • OM2:コア直径は50μm。850nmでの最小モード帯域幅は500MHz·km。
  • OM3:コア直径は50μm。850nmでの最小モード帯域幅は2000MHz·km。
  • OM4:コア直径は50μm。850nmでの最小モード帯域幅は4700MHz·km。
  • OM5:コア直径は50μm。最小モード帯域幅は850nmで4700MHz·km、953nmで2470MHz·Km。

OM3規格は、IEEE802.3の10GbE Ethernet規格をサポートするために策定されました。OM3 MMケーブルは、VCSEL変調を使用した場合、300メートル(m)までの距離で10ギガビット/秒(Gb/s)を実現することができます。大部分の場合、OM3 MMファイバリンクが約500mまでのアプリケーションで最も費用対効果の高いソリューションです。OM4 MMリンクは、最大1kmの距離をサポートします。距離を長くし、データ転送速度を高くするには、SMファイバが必要です。

銅線 & ファイバ向けのSFP

プラグ式スモールフォームファクタ(SFP)インターフェースは、データ通信やテレコミュニケーションネットワークで使用される小型でホットプラグ可能なネットワークモジュールの形態です。EthernetスイッチなどのネットワークデバイスのSFPインターフェースは、銅線や光ファイバケーブルなどの、メディア専用トランシーバのモジュラースロットです。SFPを使用すると、必要に応じて異なる種類のトランシーバをポートに装備することができます。SFPは、それまで開発されていた大型のギガビットインターフェースコンバータ(GBIC)に代わるもので、「ミニGBIC」と呼ばれることもあります。スモールフォームファクタ委員会は、MSA(Multi Source Agreement)であるMSA SFF-8472において、フォームファクタ、メカニカルインターロック、電気インターフェースを規定しています(図2)。標準のSFPインターフェースに加えて、SFP+を使用した場合は最大10Gビット/s、またSFP28を使用した場合は最大25Gビット/sという高い速度をそれぞれ実現することができます。

画像:光ファイバSPFモジュールの機械構成部品図2:光ファイバSPFモジュールのうち、ラッチ機構とインターロック機構、光ファイバ接続と電気的接続を示す機械要素(画像提供:Intelligent Network Solutionsおよびジェフ・シェパード)

SFP光トランシーバは、同期光ネットワーク(SONET)、ギガビットEthernet、ファイバチャンネル、パッシブ光ネットワーク(PON)などの通信規格に対応したものが用意されています。

デジタル診断監視

MSA SFF-8472 では、光ファイバトランシーバのデジタル診断監視(DDM)機能も定義しています。DDMは、DOM(デジタル光学監視)と呼ばれることもあります。DDMを使用すると、ネットワーク管理者は光入出力パワー、温度、レーザーバイアス電流、トランシーバ電源電圧をリアルタイムで監視することができます(図3)。DDMは、GBIC規格で定義されているシリアルIDインターフェースを拡張したものです。DDMには、動作パラメータが工場出荷時の設定値から外れた場合に警告を送信する警告フラグとアラームが実装されています。

画像:DDMでSFP光トランシーバの性能を監視できます。図3:DDMは、SFP光トランシーバの性能を監視し、いずれかのパラメータが公称動作範囲から外れた場合に警告を送信します。(画像提供:Intelligent Network Solutions)

DDMは、障害を予測するとともに予防保守をサポートすることで、ネットワークの稼働時間を最大化するように設計されています。トランシーバメーカーは、さまざまなDDMパラメータに閾値を設定しています。閾値を超えてトランシーバを動作させると、性能が低下し、伝送エラーが発生する可能性があります。パラメータの値が指定された閾値を超えると、トランシーバによりアラームが送信されます。さらに、SPFモジュールはデータの送信を停止し、レシーバはメッセージの受信を拒否します。一度に複数のアラームが発行されることも珍しくありません。たとえば、送信光パワーが非常に強い場合は、温度が高くなることがあります。

DDMは、あらかじめ設定された閾値を超えるとシステムをシャットダウンして保護できるだけではありません。トランシーバの動作パラメータの監視にも使用することができます。つまり、動作パラメータが有害なレベルを超える前に、間違った方向に向かっている値をオペレータに知らせることで、予防保守を計画できるようにします。

伝送距離が1kmのMMファイバ

産業用制御ネットワークの設計者は、Phoenix ContactのギガビットSFPモジュール2891754を使用することで、850nmの波長で動作するように設計されたファイバを用いて1kmまでの伝送をサポートすることができます(図4)。このモジュールは産業用アプリケーションに適しており、動作温度範囲は-40~85℃、湿度95%までとなっています。伝送距離は使用するファイバによって異なります。

  • 直径62.5/125μmのコア(OM1)の使用時:275m
  • 直径50/125µmのコア(OM2)の使用時:550m
  • 直径50/125µmのコア(OM3)の使用時:800m
  • 直径50/125µmのコア(OM4)の使用時:1000m

画像:1kmの伝送距離を持つSFP光トランシーバ図4:このSFP光トランシーバは、OM4ケーブルを使って波長850nmで動作させた場合、伝送距離が1kmとなります。(画像提供:DigiKey)

SMファイバだと伝送距離は20kmに

Intelligent Network SolutionsのSFPモジュールINT 506724は、1310nmのレーザーを使用するシングルモード9/125μmファイバを介して、20kmまでの1000Base-LXデータ伝送をサポートします。DDMをサポートし、金属製のハウジングによりEMI(電磁妨害)の低減と耐久性の向上を実現しています(図5)。動作温度範囲は0~70℃で、相対湿度(RH)は10~85%に規定されています。

画像:Intelligent Network SolutionsのINT 506724 SFPモジュール図5:Intelligent Network SolutionsのSFPモジュールINT 506724は、1310nmのレーザーを使用するシングルモード9/125μmファイバを介して、20kmまでの1000Base-LXデータ伝送をサポートします。(画像提供:Intelligent Network Solutions)

伝送距離が10kmのSFPトランシーバ

CiscoのSFP-10G-BXD-ISFP-10G-BXU-IはSMファイバで動作し、SFP+ポートに接続した場合、最大10kmの伝送距離を実現します。同一リンク上にある10GBASE XENPAK、10GBASE X2、10GBASE XFPの各インターフェースとの光相互運用性を備え、リアルタイムに性能を監視するDOM機能を搭載しています。SFP-10G-BXD-Iは使用すると必ずSFP-10G-BXU-Iに接続されます。SFP-10G-BXD-Iが1330nmのチャンネルを送信して1270nmの信号を受信するのに対し、SFP-10G-BXU-Iは1270nmの波長で送信し1330nmの信号を受信します(図6)。

図:データの送信と受信に正反対の波長を使用する2つの光トランシーバ図6:図6:これらの光トランシーバは、データの送信と受信に正反対の波長を使用します。(画像提供:Cisco Systems)

産業用Ethernetマネージドスイッチ

ネットワークエンジニアは、8ポートおよび4つのSFPコンビネーション(コンボ)ポートの計12ポートとModbus監視機能を備えたマネージド・ギガビットEthernetスイッチが必要なら、Red LionのSixnet SLX-8MG-1を利用することができます。SLX-8MG-1は、8つの10/100/1000Base-T(X) ポートと4つのSFPコンボポート(100Baseまたは1000Baseのファイバトランシーバに対応)を搭載しています。SLX-8MGは、厳しい産業環境で使用するために、スリムな硬化金属DINレールエンクロージャに収納されており、冗長化された10~30VDC電源入力と-40~75℃の動作温度範囲をサポートしています。また、Modbus/TCPリモート監視、高度なセキュリティ機能、強化された耐衝撃および耐振動性能、高い電気ノイズ・サージ耐性レベルも備えています。

画像:Red Lionのマネージド・ギガビットEthernetスイッチSLX-8MG-1図7:マネージド・ギガビットEthernetスイッチSLX-8MG-1は、8つの10/100/1000Base-T(X)ポートと4つのSFPコンボポートを備えています(図の左上部)。(画像提供:Red Lion)

まとめ

光ファイバと銅線のハイブリッドネットワークは、石油 & ガスの精製所や化学プラントなどの大規模な製造プロセスにおいて、操業効率の向上、柔軟な生産の実現、コストの削減、確実かつ安全な操業に寄与します。ネットワークエンジニアは、マネージド・ギガビットEthernetスイッチを使用して、光ファイバと銅線の通信リンクを混在させて展開することができます。MMファイバとSMファイバを使用することで、最適なモード帯域幅を実現できます。さらに、DDM機能を搭載することで、予防保守が可能になり、ネットワークの稼働時間を最大化することができます。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者