ミッドレンジの優れたモータインバータのために窒化ガリウムパワーデバイスを使用する方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2024-03-05
エネルギー源のさらに効率的な利用の推進、規制要件の厳格化、冷却オペレーションの技術的利点はいずれも、電気モータによる消費電力を削減するための最近のイニシアチブの動機となっています。シリコンMOSFETのようなスイッチング技術は広く普及していますが、このような技術では、重要なインバータアプリケーションの性能や効率の目標に対する厳しい要件に対応できないことが多くあります。
そのため、設計者は前述したようなスイッチング技術ではなく、ワイドバンドギャップ(WBG)FETデバイス技術である窒化ガリウム(GaN)デバイスを使用してこうした目標を達成することができます。窒化ガリウムデバイスは、コスト、性能、信頼性、使いやすさの面点で改善され、進歩しています。窒化ガリウムデバイスは現在主流となっており、電力レベルがミッドレンジであるインバータで選択されることが増えています。
この記事では、Efficient Power Conversion Corporation(EPC)が提供する窒素ガリウムベースの最新世代のFETで高性能のモータインバータを実現する方法について検討します。また、設計者が窒化ガリウムデバイスの特性を理解し、設計作業を高速化するのに役立つ評価ボードも紹介します。
インバータとは何か
インバータの役割は、多くの場合はブラシレスDC(BLDC)タイプであるモータを駆動するための電力波形を作り、調整することです。インバータはモータの回転数とトルクを制御し、スムーズな始動と停止、逆回転、加速率などの要件に対応します。また、負荷が変化した場合でも望ましいモータ性能を達成し、維持する必要もあります。
可変周波数出力のモータインバータは、ACラインインバータと混同しないように注意してください。ACラインインバータは車のバッテリなどの電源からDCを取り込み、正弦波に近似した固定周波数の120/240VのAC波形を供給するため、ライン駆動のデバイスに電力を供給するために使用できます。
窒化ガリウムを検討すべき理由
シリコンと比べると、窒化ガリウムデバイスはスイッチング速度が高い、ドレイン-ソースのオン抵抗(RDS(ON))が低い、熱的性能に優れているといった魅力的な属性を備えています。RDS(ON)が低いため、より小型で軽量なモータドライブに使用することができ、電力損失を低減し、電動自転車やドローンなどのアプリケーションでエネルギーとコストを節約できます。スイッチング損失が低いため、モータドライブの効率が向上し、軽電気自動車(EV)の航続距離を伸ばすことができます。また、スイッチング速度が高いため、ロボティクスのような精密なモータ制御を必要とするアプリケーションに不可欠である低レイテンシのモータ応答が可能になります。窒化ガリウムFETは、より強力で効率的なフォークリフトモータドライブの開発にも使用できます。窒化ガリウムFETは電流処理能力が高いため、より大型で強力なモータに使用することができます。
エンドアプリケーションにとっての最終的な利点は、サイズと重量の削減、電力密度と効率の向上、そして熱性能の向上です。
窒化ガリウムを使ってみる
どのようなパワースイッチングデバイスの設計でも、特に電圧と電流がミッドレンジの場合は、デバイスの極めて詳細な点と固有の特性に対して注意を払う必要があります。窒化ガリウムデバイスには、デプレッションモード(d-GaN)とエンハンスメントモード(e-GaN)という2つの内部構造オプションがあります。d-GaNスイッチは通常「オン」であり、負電源を必要とするため、回路設計が複雑になります。一方、e-GaNスイッチは通常「オフ」のMOSFETであるため、回路アーキテクチャはシンプルです。
窒化ガリウムデバイスは本質的に双方向性であり、デバイスを通過する逆電圧がゲート閾値電圧を超えると導電が開始されます。さらに、設計上アバランシェモード動作が不可能なため、定格電圧が十分でなければなりません。降圧、昇圧、ブリッジDC変換のトポロジのための最大480Vのバス電圧では、一般に600Vの定格で十分です。
窒化ガリウムスイッチは基本的なオン/オフの電力スイッチング機能ではシンプルですが、パワーデバイスであるため、設計者はターンオン/ターンオフの駆動要件、スイッチングのタイミング、レイアウト、寄生の影響、電流フローの制御、回路基板上の直流抵抗(IR)の降下などを慎重に検討しなければなりません。
多くの設計者にとって、評価キットを活用することは、窒化ガリウムデバイスで何ができるのか、窒化ガリウムデバイスをどのように使用するのかを理解するための最も効果的な方法です。このようなキットでは、各種の構成や電力レベルの単体/複数の窒化ガリウムデバイスが使用されています。また、コンデンサ、インダクタ、抵抗器、ダイオード、温度センサ、保護装置、コネクタなど、関連する受動部品も組み込まれています。
低電力のデバイスから始める
低電力窒化ガリウムFETの優れた例がEPC2065です。ドレイン-ソース電圧(VDS)は80V、ドレイン電流(ID)は60A、RDS(ON)は3.6mΩです。この製品は、はんだバー付きのパシベーション処理されたチップでのみ提供され、サイズは3.5 x 1.95mmです(図1)。
図1:80V、60AのEPC2065窒化ガリウムFETは、はんだバーが一体化されているパシベーション処理されたチップデバイスです。(画像提供:EPC)
他の窒化ガリウムデバイスと同様に、EPC2065のラテラルデバイス構造と大半のキャリアダイオードにより、極めて低い総ゲート電荷(QG)と逆回復電荷(QRR)ゼロが実現されます。このような特性を備えたEPC2065は、非常に高いスイッチング周波数(最大数百キロヘルツ)と低いオンタイムが有益な状況や、オン状態損失が優位である状況に適しています。
このデバイスは、20A/500W動作用のEPC9167KITと、20A/1kW動作用の高電力EPC9167HCKITという、類似した2種類の評価キットでサポートされています(図2)。どちらの評価キットも、3相BLDCモータドライブインバータボードです。
図2:表示しているのは、EPC9167ボードの底面(左)と上面(右)です。(画像提供:EPC)
EPC9167KITの基本構成では、スイッチ極ごとに1つのFETが使用され、1相あたり最大15ARMS(公称値)および20ARMS(ピーク値)の電流を供給できます。一方、より高い電流のEPC9167HCの構成では、スイッチ極ごとに2つの並列FETが使用され、最大20ARMS/30ARMS(公称値/ピーク値)の出力電流を供給できます。これは、窒化ガリウムFETを並列に構成してより高い出力電流を得ることが比較的容易であることを示しています。ベースとなるEPC9167ボードのブロック図を図3に示します。
図3:BLDC駆動アプリケーションにおけるEPC9167ベースボードのブロック図を示します。高電力のEPC9167HCでは、スイッチごとに2つのEPC2065デバイスが並列に搭載されていますが、低電力のEPC9167では、スイッチごとに1つのFETしか搭載されていません。(画像提供:EPC)
EPC9167KITには、ゲートドライバ、ハウスキーピング電源用の安定化補助電源レール、電圧センス、温度センス、電流センス、保護機能など、完全なモータドライブインバータをサポートする重要な回路がすべて組み込まれています。
EPC9167は、各種の互換コントローラに対応し、さまざまなメーカーによってサポートされています。既存のリソースを活用することで、モータドライブインバータやDC/DCコンバータとして速やかに構成でき、短期間での開発が可能です。モータドライブインバータの場合は、モータドライブアプリケーションで最大250kHzのパルス幅変調(PWM)スイッチング周波数に対応する多相のDC/DC変換を実現し、モータ以外のDC/DCアプリケーションでは最大500kHzまで動作します。
より高い電力へ
電力処理範囲が高いFETには、100V/101Aの定格と、わずか1.8mΩのRDS(ON)が特徴の窒化ガリウムFETであるEPC2302があります。EPC2302は、40~60Vの高周波数DC/DCアプリケーションや48VのBLDCモータドライブに最適です。この窒化ガリウムFETは、EPC2065のはんだバー付きのパシベーション処理されたチップパッケージとは対照的に、優れた熱管理のために上面が露出している3 x 5mmの低インダクタンスQFNパッケージに収納されています。
ケース上部への熱抵抗は1Wあたりわずか0.2℃と低いため、熱特性に優れ、冷却の課題を緩和しています。上面が露出しているため、上面側の熱管理が向上します。また、サイドウェッタブルフランクにより、リフローはんだ工程で側面のパッド面全体がはんだで湿潤されることが保証されます。結果として銅が保護され、この外部側面領域でのはんだ付けが可能になるため、光学検査が簡単になります。
EPC2302のフットプリントは、RDS(on)と電圧定格が同程度であるクラス最高のシリコンMOSFETのサイズの半分未満であり、QGとQGDは大幅に小さく、QRRはゼロです。その結果、スイッチング損失とゲートドライバ損失が低減されています。EPC2302は10ナノ秒(ns)未満の短いデッドタイムで動作して高効率を実現すると同時に、ゼロ値のQRRによって信頼性を高め、電磁干渉(EMI)を最小限に抑えています。
EPC2302を使用するために、EPC9186KITモータコントローラ/ドライバ電源管理評価ボードは最大5kWのモータをサポートし、最大150ARMSと212APEAKの最大出力電流を供給します(図4)。
図4:表示しているのは、EPC2302用EPC9186KIT 5kW評価ボードの上面(左)と底部(右)です。(画像提供:EPC)
この高い電流定格を達成するために、EPC9186KITではスイッチ極ごとに4つの並列窒化ガリウムFETが使用されており、この方法によって高い電流レベルに簡単に到達できることを実証しています。このボードは、モータドライブアプリケーションで最大100kHzのPWMスイッチング周波数をサポートし、ゲートドライバ、安定化された補助ハウスキーピング電源、電圧/温度センシング、正確な電流センス、保護機能など、完全なモータドライブインバータをサポートするための重要な機能をすべて搭載しています。
まとめ
モータインバータは、基本電源とモータをつなぐ重要な役割を果たしています。インバータの小型化、高効率化、高性能化という目標は、ますます重要になっています。設計者は、ミッドレンジのインバータで使用される重要なパワースイッチングデバイスのためのプロセス技術を選択できますが、EPCなどが提供する窒化ガリウムデバイスの使用が適しています。
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