過酷な環境で成功を確実にするためのケーブルの適切な選定方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

極寒地域におけるパイプライン制御、大量輸送システム、採鉱および軍事機器、食品、飲料、石油化学事業などは、過酷な環境で動作し、中断のない動作と安全を確保するために堅牢なケーブルが必要とされるアプリケーションです。重要な要件は、-50°C~+125°Cまでの広範な温度範囲での動作です。

ケーブルには、ポリ塩化ビニル(PVC)の3倍の低温柔軟性を有し、溶剤および水に耐性があり、優れた紫外線(UV)安定性を備え、持続可能性の向上のためにリサイクル可能な熱可塑性エラストマー(TPE)絶縁体が採用される必要があります。また、過酷な屋外環境での使用や、風雨にさらされる場所での使用、あるいは設置の迅速化のための直接埋設に適している必要があります。

これらのケーブルは、厳格なULおよびCSA規格に準拠し、マルチペアおよびマルチコンダクタの構成に対応し、トレイケーブル(TC)、電力制限トレイケーブル(PLTC)、風力タービン用トレイケーブル(WTTC)の性能、多様な電磁干渉(EMI)シールドオプションおよび多様なアプリケーションシナリオに対応する定格電圧を備えていなければなりません。

この記事では、TPE絶縁体を使用することによる性能と持続可能性のメリットをAlpha WireXtra-Guard 4ケーブルの構造に焦点を当てて解説します。これらのケーブルが過酷な環境での設置を簡素化する方法を検証し、最後に、AMS-DTL-23053/1クラス1および2規格に適合するFIT-600などの熱収縮チューブが、Xtra-Guard 4ケーブルを使用した設置を強化する方法を簡単に説明します。

PVCの制限およびTPEソリューション

PVCは広く使用され、非常に高性能な絶縁材料ですが、万能ではありません。過酷な環境用のケーブルなど、特定のアプリケーションでは適していない場合があります。そのようなアプリケーションでは、TPEという代替材料が有用です。

TPEは、PVCに関連する性能と環境に関連する不安を解消します。極寒のパイプラインや再生可能エネルギーシステムの制御、大量輸送システム、鉱山や軍事用機器など、極低温にさらされる可能性のあるアプリケーションでは、TPEがより最適な場合があります。

TPEは主に、硬質熱可塑性ポリマーと柔らかいエラストマーを融合または共重合して、特定のアプリケーションに最適な性能を実現した材料です。Alpha WireのXtra-Guard Flex 4ケーブルに使用されているTPEは、低温時においてPVCの3倍の柔軟性を有しています。これにより、設置やメンテナンスが簡素化されます。

食品および飲料加工における衛生洗浄や特定の石油化学プロセスなど、非常に高温になるアプリケーションもあります。125°Cまでの使用に耐えるTPEは、高温環境下でも安定した信頼性を発揮するため、優れた選択肢となります。また、溶剤、水、油、太陽からの紫外線、炎などの危険要因にも耐性があり、PVCの代替品よりも幅広いアプリケーションで優れた性能を発揮します。

最終的に、いかなるシステムにも寿命があり、リサイクルと持続可能性は、設置の長期的な影響を決定する重要な要因となります。この点でも、TPEは優れています。ハロゲン(塩素、フッ化物、臭素など)は、非常に反応性が高い物質です。一般的なPVCには、重量比で約29%の塩素が含まれています。フッ素化エチレンプロピレン(FEP)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロンと呼ばれる)などの他の代替品には、最大76%のフッ素が含まれることがあります。

通常の使用では、PVC、FEP、PTFEのような素材は無害で、非常に有用です。しかし寿命が来てリサイクルされると、有害で毒性のある化合物の発生源となる可能性があります。TPEは熱可塑性で、劣化することなく繰り返し溶融、成形が可能です。TPE絶縁材を使用することで、廃棄物の削減、資源の節約、および使用済み製品の廃棄に伴う環境への影響を最小限に抑えることができます。

最適化されたシールド

EMIは電子システムに別の環境リスクをもたらす可能性があり、Alpha WireのXtra-Guard 4ケーブルは、低レベル、中レベル、高レベルのEMIに対応するための3つのシールドオプションを設計者に提供します(図1)。

  • 低EMI環境では、シールドなしのケーブルが適しており、最小径および最軽量のソリューションを提供します。
  • 中程度のEMI対策であれば、アルミ/ポリエステルホイルシールドで十分です。ホイルシールドは、EMI性能、ケーブルサイズ、重量の面で中間的なソリューションを提供します。錫メッキ銅のドレインワイヤは、ケーブルの接地を容易にし、シールド効果を向上させます。
  • 高EMIレベルに対応する場合、設計者はAlphaのSupra-Shieldケーブルを使用することができます。このケーブルは、アルミ/ポリエステル/アルミホイルシールドと75%の密閉率を有する錫メッキ銅編組シールドを組み合わせた構造となっています。Supra-Shieldは、全周波数帯域にわたって高性能なシールド性能を実現し、システムの完全性を確保すると同時に、ケーブルの柔軟性を維持し、設置が容易です。

Supra-Shieldとアルミ/ポリエステルホイルシールドのシールド効果対周波数のグラフ図1:最大級のEMIシールド効果を必要とするアプリケーションには、従来のアルミ/ポリエステルホイルシールドと比較して、周波数帯域全体で優れた性能を発揮するSupra-Shieldが適しています。(画像提供:Alpha Wire)

その他のケーブル構造オプション

絶縁材料とシールドは、ケーブル構造の2つの要素に過ぎません。また、アセンブリの中心を成す導線もあり、システムの稼働に必要な電気エネルギーと情報の流れを促進します。

Xtra-Guard 4ケーブルは、マルチコンダクタおよびマルチペア設計から選択可能です。両タイプとも1つの被覆に複数の導線を使用していますが、その構造やアプリケーションが異なります。

複数の個別の導線を束ねてマルチコンダクタケーブルを形成します。これらは、信号の完全性が設計上、あまり重要でない場合、電力配線やシンプルな制御配線などの汎用アプリケーションに適しています。

マルチペアケーブルでは、導線のペアを撚り合わせてからケーブルに組み込まれます。撚り合わせることにより、ノイズや干渉を低減し、各ペアは高速のデータ伝送や通信アプリケーションに適したものになります(図2)。

Alpha WireのXtra-Guard 4の撚り線ペア(上)と複数の個別導線(下)の画像図2:Xtra-Guard 4ケーブルは、複数の撚り線ペア(上)と複数の個別導線(下)のバリエーションが用意されています。(画像提供:Alpha Wire)

マルチコンダクタケーブルは、16~24AWGの導線、2~40本の導線、および16/30、7/28、41/30などのさまざまな撚り構造で利用可能です。マルチペアケーブルは、18~24AWG、1~19ペアの導線、16/30、7/28、7/30、7/32の撚り構造のバリエーションが用意されています。

ケーブル定格

過酷な環境で成功するため、ケーブルを指定する際の重要な事項として、定格電圧とULタイプがあります。マルチコンダクタXtra-Guard 4ケーブルは、300Vおよび600Vに対応しています。300V定格のマルチペア設計は、データ伝送および通信アプリケーションに適しています。

ケーブルトレイは、コンジットやオープン配線の代わりとしてよく使用されます。ケーブルの効率的な敷設、管理、およびメンテナンスをサポートします。UL規格のケーブルトレイケーブルには、主に2つのタイプがあります。主な違いは定格電圧です。

タイプTCは定格600Vで、産業用アプリケーションの電源回路や制御回路に適しています。タイプ PLTC ケーブルは定格電圧300Vで、主に信号および通信回路に使用されます。Xtra-Guard 4マルチコンダクタケーブルは、TCおよびPLTCアプリケーションの両方に使用可能で、PLTCアプリケーションにはマルチペアケーブルも使用可能です(24AWGを除く)。

TC定格のケーブルは、難燃性が求められるアプリケーションでよく使用されます。PLTCケーブルは、米国電気工事規定(NEC)で規定されているクラス2およびクラス3の回路で使用できます。

クラス2の回路の最低定格電圧は150Vで、クラス3の回路の最低定格電圧は300Vです。どちらも最大電力は100VAに制限されており、火災の発生を防ぐことができます。クラス2の回路は、その低電圧と電力制限のために感電保護か確保されています。一方クラス3の回路は、感電防止のための追加の安全対策が必要となる場合があります。

Xtra-Guard 4ケーブルは、風力発電機アプリケーション用にUL WTTC規格に準拠しており、ペンシルベニア州深部採掘安全局(Pennsylvania Bureau of Deep Mining Safety)により鉱山全体の監視システム用(14AWGを除く)に承認されています。Alpha Wireは、Xtra-Guard 4の包括的な製品ラインアップを提供しています(図3)。例として以下の製品があります。

  • 45053、マルチコンダクタ(シールドなし)、3本の20AWG 7/28導線、定格300V
  • 45440/9、マルチコンダクタ(ホイルシールド有り)、9本の16AWG 19/.0117導線、定格600V
  • 45162マルチコンダクタ(Supra Shield有り)、2本の18AWG 16/30導線、定格300V
  • 45032マルチペア(シールドなし)、2組の18AWG 16/30導線ペア、定格300V
  • 45484マルチペア(ホイルシールド)、4組の22AWG 7/30導体ペア、定格300V
  • 45126マルチペア(Supra-Shield有り)、6組の22AWG 7/30導線ペア、定格300V

さまざまなケーブルおよびシールド構成のAlpha Wire Xtra-Guard 4ケーブルの画像図3:Xtra-Guard 4ケーブルは、さまざまなケーブルおよびシールド構成、および300Vと600Vの定格で利用可能です。(画像提供:Alpha Wire)

簡単で堅牢な設置

ケーブルが指定され、アプリケーションに適合させた後、最後の重要な工程は、簡単で堅牢な設置です。上記で詳細に説明したケーブルトレイの設置に加え、設計者は屋外や直接埋設アプリケーションにおいて、Xtra-Guard 4ケーブルを使用することができます。これらのケーブルはコンジットなしで、天候の影響や紫外線による劣化を防ぐことがことができます。これにより、設置を劇的に簡素化し、スピードアップすることができます。

これらのケーブルには、被覆の剥離を容易にするナイロン製リップコードが付属しています。Alpha WireのFIT熱収縮チューブは、端部の保護と密封を高信頼性で行うだけでなく、機械的強度も向上させます。

FIT 600熱収縮チューブは非常によく使用されています。たとえば、モデルF6001IN BK005は、収縮前の直径が1インチで、塩素化ポリオレフィン(CPO)製です。CPOは、熱と化学物質に対する耐性と柔軟性のバランスを兼ね備えています。低温時でも柔軟性を維持し、標準的な架橋ポリオレフィン(XLPO)熱収縮チューブよりも柔軟性があります。CPOはシリコーンゴム熱収縮チューブの2倍の引張強度を持ち、-75°C~+121°Cの動作温度範囲に対応し、過酷な環境下ではXtra-Guard 4ケーブルとの相性も良好です(図4)。

Alpha Wire FIT 600熱収縮チューブの画像図4:Alpha WireのFIT 600熱収縮チューブは、過酷な環境下でXtra-Grard 4ケーブルの性能とよく適合します。(画像提供:Alpha Wire)

FIT 600熱収縮チューブシリーズは、AMS-DTL-23053/1クラス1およびクラス2にも準拠しています。AMS-DTL-23053/1は、軍事および航空宇宙システムにおける電気絶縁、ストレインリリーフ、摩耗保護に使用される熱収縮チューブの軍事規格です。

この規格は、厚肉チューブのクラス1と中肉チューブのクラス2の両方を規定しています。収縮後の厚肉の公称値は、収縮前のチューブの拡張サイズに直接関連しています。たとえば、収縮前の公称サイズが1インチの場合、中肉チューブの収縮後の厚みは約0.070インチ(1.78mm)です。

まとめ

Alpha Wire Xtra-Guard 4ケーブルは、過酷な環境でも成功を収めるために必要な性能を備えています。-50°Cから+125°Cまでの温度範囲に対応しており、北極圏のパイプライン制御における寒冷環境、石油化学プラントにおける極熱環境での使用に適しており、食品および飲料の加工工程における蒸気洗浄や滅菌にも耐えることができます。

そのTPE絶縁体は、水、溶剤、紫外線、その他の環境要因に対する優れた耐性と柔軟性を備えています。多様な導線構成、EMIシールドレベル、定格電圧をラインアップし、幅広いアプリケーションの要件に対応可能です。

UL認証を取得しており、各種トレイケーブルの設置方法や直接埋設に対応しています。最後に、FIT 600熱収縮チューブは、Xtra-Guard 4ケーブルの柔軟性、耐薬品性、および動作温度性能と相性がとても良好です。Xtra-Guard 4は、100フィートおよび1000フィートのスプールでDigiKeyから独占販売されています。

お勧めの記事:

  1. 過酷で極端な環境におけるコネクタのための微妙な考慮事項
  2. 過酷な環境で高電流の電源安定性を確保するための適切なコネクタの選択
  3. 過酷な環境に耐える革新的なスチールケーブルタイ
  4. 堅牢なカスタムコネクタソリューションの考慮事項
  5. 信頼性と安全性を向上させ、炭素排出量を削減するVFDケーブルの指定と使用法
DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Image of Jeff Shepard

Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者