信頼性と安全性を向上させ、炭素排出量を削減するVFDケーブルの指定と使用法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

可変周波数ドライブ(VFD)とモータは、コンベヤ、ポンプ、ミキサ、エレベータ、暖房換気空調(HVAC)システムなどの用途を含むさまざまなシステムにおいて、炭素排出量を削減し、効率、信頼性、安全性を向上させることができます。VFDとモータをつなぐケーブル配線は、システム内の重要なリンクです。正しいケーブル配線を行わないと、オペレータの安全性が損なわれ、モータの信頼性と運転寿命が低下する可能性があります。

一般的なVFDシステムは、電源電圧の2~3倍に達する高電圧スパイクや、高レベルの放射・伝導電磁ノイズなどの過酷な条件下で動作します。さらに、ケーブルは高温にさらされる可能性があります。UL、CSA、NFPA、NECの多くの技術要件を満たし、高い柔軟性を維持するとともに、油、水、紫外線(UV)照射などに耐える必要があります。

ケーブルの仕様は、VFD設置における厳しい動作環境と技術的要求によって複雑化しています。この記事では、VFDとモータの動作、ケーブル絶縁に対する要件、電磁両立性(EMC)の必要性について簡単に説明します。また、UL 1277 TC ER、WTTC、TCケーブルなどの仕様を比較し、NECとNFPAの要件を検討します。そして、ケーブル構造に関する考察を行ってから、BeldenHelukabelIgusLAPPSAB North Americaの代表的なケーブルの概要を紹介して締めくくります。

環境課題

VFDモータ、ドライブおよび、それらをつなぐケーブルは、過酷な電気的環境で動作します。VFDケーブルは、高電圧で高い駆動力を効率的に供給し、高電圧スパイクや高ノイズレベルに対処する必要があります。VFDケーブルの絶縁は、反射波やコロナ開始電圧などの厳しい条件にさらされます(図1)。

  • 反射波: 反射波は、VFDのモータとケーブル間のインピーダンスの不整合によって発生することがあります。そのため、電圧波がドライブに跳ね返る可能性があります。高性能の絶縁を行わないと、反射波によって絶縁体が損われ、ケーブルが過熱する可能性があります。
  • コロナ開始電圧/コロナ放電:VFDシステムのパルス幅変調(PWM)電圧は、ゼロからピーク電圧まで急速に振動します。適切な絶縁がないと、ケーブルのコロナ開始電圧以上の高電圧スパイクが生じ、導体周囲の空気がイオン化することでコロナ放電が発生し、絶縁体が溶けてモータ、モータベアリング、ドライブが損傷する可能性があります。

VFDケーブルの絶縁によって反射波とコロナ開始電圧に対処する必要があることを示す図。図1: VFDケーブルの絶縁によって反射波とコロナ開始電圧に対処する必要があります。(画像提供:SAB North America)

シールドと接地

VFDケーブルは電圧スパイクに耐えるだけでなく、高レベルのEMCにも対応する必要があります。EMCに関する重要な考慮事項は、以下のとおりです。

  • コモンモード電流は、VFDの三相電圧の合計がゼロにならず、電圧の不均衡が生じることで発生します。ゼロでない電圧レベルが変化すると、それに比例したケーブル充電電流が接地導体を介して戻ります。過度のコモンモード電流はグランドループを形成し、適切なシステム性能を妨げます。
  • 伝達される電気的ノイズは可変ドライブ周波数から生じますが、これは電磁波(EMI)や無線周波数干渉(RFI)を誘発して近隣のコンポーネントやシステムに影響を与える可能性があります。

効果的に接地されたドライブ、ケーブル、モータシステムは、強固なEMC性能を保証するファラデーケージを形成します(図2)。

コモンモード電流と電気ノイズを軽減できるVFDケーブルの図図2:VFDケーブルは、適切な接地接続によってコモンモード電流と電気ノイズを軽減します。(画像提供:SAB North America)

グランドとコンジット

VFDケーブルは、コンジットに通すための小外径および、連続溶接された装甲ケーブル構造で提供されます。このソリューションには、コストのかかる複雑な設置が必要となり、潜在的な信頼性の問題に対処しなければならない場合があります。また、コンジットが不要なトレイケーブル(TC)もあります。コンジットがある場合は、それを使ってドライブとモータの間にファラデーケージを作ることができます。さまざまなクラスのTCを使用する場合は、EMCケーブルグランドを追加してファラデーケージを完成させることができます。EMCケーブルグランドは、真水に対して最大水深1.5mで30分までの耐水性を備えて埃から保護するIP68の侵入保護等級を備えているため、要求の厳しい産業用環境や屋外環境での使用に適しています(図3)。

接続部に使用できるケーブルグランドの画像図3:ドライブエレクトロニクスやモータへの接続部にケーブルグランドを使用することで、ファラデーケージを形成してEMIを制御できます。(画像:SAB North America)

ケーブルクラス

TCを使用することで設置を簡素化し、コストを削減できます。TCは、電圧定格、柔軟性、衝突/衝撃試験など、さまざまな用途の基準によって分類されます。主なUL規格は2つあります。どちらの規格も18AWG以上のケーブルに適用されます。その2つの規格は、次のとおりです。

UL 1277のElectrical Power & Control Tray Cables(電源ケーブルおよび制御トレイケーブル)は、600V定格のいくつかのタイプのTCをカバーしています。

  • ベーシックなTCケーブルは最も一般的なタイプで、難燃性が要求されるVFDケーブルとして使用されます。
  • TC-ER(露出配線)トレイケーブルは、標準的なTCケーブルよりも厳しい衝突および衝撃要件をクリアする必要があります。平均1.8m(6フィート)の距離にわたってケーブルトレイ間に自由に配線できます。
  • THHN/PVCは、サーモプラスチックジャケットを使用した低コストな形式のTC構造です。直接埋設やコンジットでの使用に適しています。

UL 2277のFlexible Motor Supply Cable & Wind Turbine Tray Cable(フレキシブルモータサプライケーブルおよび風力タービントレイケーブル)は、1,000V定格の2つのTCタイプをカバーしています。

  • フレキシブルモータサプライケーブル(FMSC)は、主にVFDモータ電源ケーブルとして設計されています。
  • 風力タービントレイケーブル(WTTC)は、油、摩耗、極端な温度、水、絶え間ない動きなど、風力用途における極端で過酷な条件に耐えることができます。

NECおよびNFPA

NEC 79/NFPA 79 2018年版への準拠は、米国では地域の建築基準法によって多くの場合で求められますが、常に必須というわけではありません。この規格では、VFDケーブルに対し、以下のように定義された RHH、RHW、RHW-2、XHH、XHHW、またはXHHW-W のマークを付けることが求められます。

  • RHW、RHH、RHW-2では、高熱ゴム絶縁が採用されています。
    • RHWは、+75℃の温度定格の耐水性ケーブルであることを示します。
    • RHHは、+75℃の温度定格で耐水性のないケーブルであることを示します。
    • RHW-2は、+90°Cの温度定格の耐水性ケーブルであることを示します。
  • XHH、XHHW、XHHW-Wでは、XLPE(架橋ポリエチレン)絶縁が採用されています。
    • XHHは湿気の多い場所で使用するケーブルで、温度定格は+75℃です。
    • XHHWは水気のある場所で使用するケーブルで、温度定格は+75℃です。
    • XHHW2は水気のある場所で使用するケーブルで、温度定格は+90°Cです。

XLPE絶縁体はゴム絶縁体よりも軽量で柔軟性があるため、特に低温でXLPEケーブルを簡単に設置できます。さらに、XLPEはゴム絶縁に比べて漏れが少ないケーブルです。

ケーブル構造

VFD TCを実装する方法は数多くあります。Igusの品番CF31-25-04は、多くの共通要素を示す良い例であり、リスト内の番号は図4に対応しています。

  1. 圧力押出成形の耐油性PVCと低粘着の耐油性PVCで構成されたアウタージャケット
  2. 錫メッキ銅線から成る耐屈曲性の高い編組を使用したアウターシールド
  3. 圧力押出成形のガセット充填PVC製インナージャケット
  4. CFRIPは、ケーブルストリップを高速化するためにインナージャケットに成形されたIgus独自のティアストリップです。
  5. 架橋ポリエチレン(XLPE)プラスチックのコア絶縁では、プラスチック内で3次元結合されています。XLPEは高い機械的強度と低い静電容量を備えています。
  6. DIN EN 60228の要件に基づき、10mm²未満と10mm²以上のコアに応じて異なる導体
  7. 中央ストレインリリーフ、引張応力抵抗材料

シールドとストレインリリーフの要素を示すVFDケーブルの画像図4:通電導体に加え、シールドとストレインリリーフの要素を備えたVFDケーブルの例。(画像提供:Igus)

より多くの選択肢

LAPPの ÖLFLEX VFD 1XLは、ケーブル径を小さくする必要がある設計向けの、堅牢な耐油・耐紫外線シールドのVFDドライブケーブルファミリです。XLPE絶縁体の直径が非常に小さいため、標準ケーブルでは大きすぎるような込み入った設置での使用に適しています。さらに、直径を薄くすることで柔軟性を高め、迅速な設置を可能にしています。これらのTC-ER定格ケーブルはコンジットなしで設置できますが、直径が小さく柔軟性があるため、必要に応じてコンジットを簡単に使用できます。また、XHHW2の性能要件を満たしています。たとえば、LAPPは、10AWG(5.3mm²)導体のモデル701703や、2AWG(33.7mm²)導体のモデル701717のように、4つの導体(グランドを含む)とドレインを備えたモデルをいくつか提供しています。

Helukabelは、TC-ERおよびWTTC定格のケーブルを数種類提供し、4導体12AWG TCモデル63141のように、2~18AWGの導体も提供しています。これらは、アルミホイル(被覆率100%)と錫メッキ銅編組(被覆率約85%)を組み合わせた二重シールドを採用しています。XLPE絶縁体を使用し、オイル、クーラント、溶剤、洗浄・消毒剤に耐性のあるPVCジャケットを備えています。これらのケーブルは、ケーブルトレイ内およびケーブルトレイからマシンまでの設置が保護されない開放型設置用の定格となっています。さらに、コンジットへの設置や直接埋設にも適しています。

高屈曲ケーブル

Beldenは、複数の絶縁材とシールド材を使用し、さまざまな導体とグランド構成を持つTCの複数のファミリを提供しています(図5)。柔軟性の高いTCが必要な設置向けに、同社は複数の範囲に及ぶ柔軟性と最大1,000万回の屈曲サイクルを持つHighFlex VFDケーブルを提供しています。これらのTCでは、2,000本を超える素線を持ついくつかのモデルと、細かく撚られた錫メッキ銅導体および柔軟なTPEジャケットにより、しなやかさと取り付け中の扱いやすさを実現しています。たとえば、TC-ERおよびWTTC定格の品番29501F 0101000は、連続動作およびオンマシンアプリケーション用に設計されており、湿気のある最大+90℃の場所で使用するためのXHHW2の要件を満たしています。HighFlex VFDケーブルの対象となる用途は、次のとおりです。

  • プロセス装置の運転
  • ポンプの電力供給
  • ファンの駆動
  • 材料コンベヤの運転
  • ロボットアームの運動制御

VFDケーブルに使用される導体とグランド構成、絶縁材とシールド材の画像(クリックして拡大)図5: VFDケーブルに使用される多くの導体およびグランド構成、絶縁材およびシールド材の一部。(画像提供:Belden)

SABのVFDケーブルは、EMC性能を最適化するように設計されています。連続的な屈曲に適した設計も用意されています。これらのケーブルは、TC-ERおよびWTTCの要件を満たしており、静電容量を向上させるためにXLPE絶縁体を使用しています。また、直径が小さいオプションと長い配線長に対応したオプションの2つがあります。VFD TCの組み合わせに必要なペアサイズはVFDモータのメーカーごとに異なり、ドレインワイヤ付きまたはドレインワイヤなしのケーブルが必要な場合があります。SABのVFDケーブルには、ブレーキまたは温度検出用の組み合わせペア付き電源、18、16、14、12AWGを含む複数のペアサイズオプション、2ペアによる設計など、ほとんどの用途の要件に対応するケーブルが含まれています。金属箔と錫メッキ銅編組を組み合わせた二重シールドが用意されており、オプションとしてグランド対称設計もあります。これらのケーブルは、ケーブル直径の12倍の曲げ半径を持ち、湿気のある最大90℃の場所で使用できるXHHW2定格となっています。これらのケーブルを示す良い例は、モデル35661204の4導体12AWGケーブルです。

まとめ

VFDケーブルは過酷な電気的環境で使用されるため、高温、水、油、さまざまな化学物質への曝露に耐える必要があります。これらのケーブルを指定することは複雑なプロセスであり、反射波やコロナ開始電圧に耐える能力、シールド、EMC保護のためのケーブルグランド、UL、NEC、NFPAの要件など、さまざまな絶縁特性を考慮する必要があります。VFDケーブルを正しく指定して設置することで、設置の簡素化と低コスト化、モータ動作の改善、炭素排出量の削減、オペレータの安全性の向上に貢献します。

DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Image of Jeff Shepard

Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者