医療システムにおける基板実装DC/DCコンバータの選択および適用方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-06-28
医療システム電源の設計者は、電力密度の向上、フットプリントの削減、コスト制約への対応、拡張温度動作や高信頼性の要求への適合といった競争圧力に直面するため、カスタム実装のDC/DCコンバータを独自に設計し、アプリケーション用にそれを完全に最適化しようと考える場合があります。しかし、利用可能なリソースによっては、これが最善の選択とならないことがよくあります。それは、電源設計だけでなく、医療用DC/DCコンバータは、さまざまなユーザーや操作者の安全要件に対する認証が必要で、特に扱いが難しいためです。
これらの要件には、2 x 患者保護手段(MOPP)の安全性に関するIEC/EN/ES 60601-1第3版、ISO 14971によるリスク管理、電子アセンブリに関するIPC-A-610レベル3基準、IEC 60601-1-2第4版による電磁両立性(EMC)対応が含まれます。多くの場合、さまざまなバッテリや車載電源から動作させるために4:1の入力範囲が必要であり、高い電圧絶縁と低いリーク電流が要求されます。
代わりに、設計者は、上記すべての要件の認証を取得した小型フォームファクタの標準的な基板実装DC/DCコンバータを選択できます。これらのコンバータは、100万時間以上の平均故障間隔(MTBF)という利点や、リモートオン/オフ制御、リモートセンス、出力電圧トリム、入力への不足電圧・短絡・過温度・過電圧保護などの多くの制御機能を備えています。
この記事では、医療アプリケーション用DC/DCコンバータを指定する際に考慮すべき業界標準について考察します。次に、医療システムの業界標準をすべて満たすTRACO Powerの即納製品、60W DC/DCコンバータを紹介し、そのアプリケーションを説明します。
医療システムにおけるDC/DCコンバータの考慮事項
医療システム設計の業界標準は、患者の安全、機器操作者の安全、潜在的な損傷をもたらす状態から機器を保護するための安全に主眼が置かれています。「保護手段」(MOP)という概念は、患者や操作者の安全を理解し、実現するための鍵です。安全絶縁、沿面距離、エアギャップ、保護インピーダンス、保護アースなどさまざまなMOPが定義されています。医療機器には、万一故障が発生した場合に患者や操作者を感電の危険から保護するために、最低限1つのMOPを含める必要があります。
IEC 60601では、患者と操作者にそれぞれ異なるMOPを割り当てているため、MOPP向けの特定要件と操作者保護手段(MOOP)向けの特定要件があり、それらは絶縁電圧、沿面距離、絶縁レベルで定義されてます(表1)。患者は自身を保護する能力が低い可能性があるため、MOPPの要件はより制限が厳しく、アプリケーションによっては、IEC 60601で1つまたは2つのMOPPまたはMOOPが要求される場合があります。
表1:MOPPのIEC 60601要件は、MOOPよりも厳しい制限があります。(画像提供:TRACO Power)
必要な保護レベルは、各アプリケーションによって異なります。たとえば、超音波装置や血圧モニタなど、患者と電気的に接続される応用部品(AP)には、ボディフローティング(BF)の安全レベルが求められ、フローティング状態であることとアースから分離されていることが必要となります。
IEC 60601を満たすための1つの方法として、2 x MOPP安全規格の認証を受けたAC/DC電源を使用することもできますが、おそらく最もコスト効率の良い方法とは言えないでしょう。「医療用に承認された」AC/DC電源の多くは2 x MOPPに対応しておらず、BFアプリケーションに使用することができません。BF医療用アプリケーションでは、操作者が使用するシステムの一部は、比較的制限の少ない2 x MOOPを満たす必要があります。一方、システムのAPセクションはBF安全レベルに対応し、2 x MOPPを満たす必要があります。2 x MOOPを満たすAC/DC電源と2 x MOPPを満たすDC/DCコンバータを組み合わせることが、通常最も低コストのソリューションとなります(図1)。この方法は、バッテリバックアップ電源を含み、AC電源障害時に2 x MOPPに準拠する必要がある医療機器にも有用です。
図1:2 x MOOP定格のAC/DC電源は、2 x MOPP定格のDC/DCコンバータと組み合わせることで、医療機器設計においてコスト効率の良いソリューションを実現できます。(画像提供:TRACO Power)
すぐに入手可能なDC/DCコンバータの絶縁耐圧は500~1,600Vdcしかなく、2 x MOPPを満たすことができないものがほとんどです。設計者は、最大5,000Vacの絶縁、二重絶縁、および8mmの沿面距離を備えた特殊なDC/DCコンバータを利用することができ、2 x MOOPに対応する医療用に承認されたAC/DC電源と使用することで2 x MOPP要件を満たします。
加えて、標準的なDC/DCコンバータは、医療機器の全ライフサイクルステージのベストプラクティスを定義したISO 14971で定義されているリスク評価の対象にはなっていません。また、この医療機器指令は、DC/DCコンバータや他の医療認可機器のメーカーに対して、ISO 13485に準拠した品質管理システムの導入を義務付けています。
システム動作の保護
医療機器では、システム動作を確保することも要求されます。DC/DCコンバータを含む医療機器のプリント回路基板は、IPC-A-610レベル3、クラス3の高性能製品の要件を満たす必要があります。クラス3のプリント基板は、機器のダウンタイムなしで継続的な性能またはオンデマンドの性能を提供することが期待されています。これらの基板には、厳しい基準での高いレベルの検査とテストが要求されます。クラス3のプリント基板を使用する代表的なアプリケーションには、医療機器、生命維持装置、車載用システム、軍用機器などの重要なシステムが含まれます。
医療用設計の電磁両立性(EMC)要件は厳格で、近年さらに要求が厳しくなっています。IEC 60601-1-2:2014+A1:2020は、電磁波障害下で医療機器や医療システムの安全性と性能を確保するために適用される規格です。これは、医療機器や医療システムから発生する電磁波障害も制限します。2020年に発行された最新版では、伝導エミッション(CISPR 11)は、旧版で使用された単一電圧によるテストではなく、最小定格電圧と最大定格電圧でテストすることが定められています。単一電圧テストに合格できたDC/DCコンバータなどの医療機器や医療システムでも、最小定格電圧や最大定格電圧でテストすると不合格になる可能性があります。その他、最新版では以下のような変更点があります。
- イミュニティ試験レベルは使用目的の環境に応じて規定され、場所カテゴリは専門ヘルスケア施設や住宅・特殊環境での使用を目的とした機器など、IEC 60601-1-11に調和したものとなっています。
- イミュニティ試験と試験レベルは、医療用電気システム内の医療用電気機器のポートに基づいて規定されます。
- 旧版で規定された試験制限と比較すると、ポータブル通信機器がより近接して使用される場合に、医療機器や医療システムの安全な動作を確保するための試験が追加されています。
医療用アプリケーション向け標準DC/DCコンバータ
医療の安全や性能に関する無数の要件を満たすために、設計者は時間とリソースを費やして独自のコンバータを開発し、認定および認証プロセスを通過させることもできますが、TRACO PowerのTHM 60WIシリーズを利用することも可能です。これらの60W DC/DCコンバータは、2.3 x 1.45インチのクォータブリックプラスチックパッケージで提供されます(図2)。これらのコンバータは、4:1の広い入力電圧範囲を特徴とし、AC電源とバッテリ駆動の両方の設計に適しています。入出力間5,000VACの強化絶縁、4.5μA未満のリーク電流を備え、2 x MOPPのIEC/EN/ES 60601-1第3版、IEC/EN/UL 62368-1の認証を取得し、ISO 14971リスク管理ファイルを保持しています。その設計と製造は、ISO 13485の品質管理システムの要件を満たしています。THM 60WIシリーズは、医療用設計だけでなく、輸送用、産業用、制御・測定用アプリケーションにも適しています。
図2:THM 60WIシリーズの60Wクォータブリック医療用認定DC/DCコンバータは、すぐに入手可能なソリューションで、医療システムの設計や規格認定の課題に対応できます。(画像提供:TRACO Power)
THM 60WIシリーズ クォータブリックDC/DCコンバータは、9~36VDCまたは18~75VDCの入力範囲、5.1、12、15、24、±12Vまたは±15VDCのシングルまたはデュアル出力で、最大92%の効率を備えた12のモデルから構成されています。たとえば、THM 60-2411WIは、入力電圧範囲9~36VDC、12Aで5.1VDCの出力、90%の効率を備えています。このシリーズの2 x MOPPに準拠したBF定格DC/DCコンバータは、APアプリケーションに適しています。計算されたMTBFは100万時間以上(MIL-HDBK-217Fによる、地上温和)で、5年間の保証付きです。機能の概要は以下のとおりです。
- IEC 60601-1-2第4版EMC対応
- 5,000Vacの強化絶縁、4.5µA未満のリーク電流
- リモートセンス、出力電圧トリム、リモートオン/オフ機能
- 入力の不足電圧、出力短絡、過温度、および出力過電圧に対する保護
- 周囲動作温度範囲は-40℃~+75℃で、オプションのヒートシンクを使用することでさらに拡張可能
熱設計オプション
THM 60WIシリーズ クォータブリックDC/DCコンバータは、ディレーティングにより周囲温度+75°Cまで対応可能な仕様となっています。TRACOは、より厳しい熱環境向けに、熱インピーダンスが4.71K/WのTHM-HS1ヒートシンクも提供しており、自然対流と強制空冷の両方の条件で熱放散を大幅に向上させることができます。たとえば、THM 60-2411WIと組み合わせて使用した場合、THM-HS1は最大全負荷動作温度を約30℃~60℃(エアフロー20LFM時)、約80℃~90℃(エアフロー500LFM時)に拡張します(図3)。
図3:THM 60-2411WIのヒートシンクなし(左)とオプションのヒートシンク付き(右)の熱ディレーティングは、ヒートシンクが所定のエアフローに対して最大動作温度をどれだけ拡張するかを示しています。(画像提供:TRACO Power)
EN 55032対応
北米のEN 55032では、主に住宅環境で使用される機器はクラスBの制限を満たす必要があります。その他の機器はクラスAの制限に準拠する必要があります。TRACOは、クラスAとクラスBの両方の環境に対応した電磁妨害(EMI)フィルタの実装を提案しています(図4)。
図4:EN 55032 Class A制限に準拠したデュアル出力モデルのフィルタリング(左)、および推奨プリント基板レイアウト(右)。(画像提供:TRACO Power)
クラスAフィルタは、C1 100マイクロファラッド(μF)/100Vアルミコンデンサ、C2 2.2μF/100V 1210積層セラミックコンデンサ(MLCC)、C3およびC4 100ピコファラッド(pF)Y1コンデンサ、L1 285マイクロヘンリー(μH)コモンモードチョーク(TRACO PowerのTCK-103)から構成されています。
図5は、クラスBの推奨クラスB EMIフィルタを示しています。このフィルタは、C1 100μF/100Vアルミコンデンサ、C2、C3、C4 2.2μF/100V 1210 MLCC、C5およびC6 47pF Y1コンデンサ、C7およびC8 33pF Y1コンデンサ、L1およびL2 285μHコモンモードチョーク(TCK-103)から構成されています(図5)。
図5:EN 55032クラスBの制限に準拠したシングル出力モデルのフィルタリング(左)、および推奨プリント基板レイアウト(右)。(画像提供:TRACO Power)
まとめ
医療用アプリケーションの電源設計は困難ですが、設計者はすぐに入手可能な基板実装DC/DCコンバータを選択することができます。それでも、慎重に選択することは大切です。この記事で説明したように、適切なDC/DCコンバータは、患者や機器操作者の安全、潜在的な損傷をもたらす状態から機器の安全を保護するなど、医療機器の安全性のあらゆる側面を強化するのに役立ちます。また、過電圧、短絡、不足電圧の保護を提供しながら、AC主電源やバッテリ駆動ソリューションなどさまざまな電源アーキテクチャの使用をサポートすることもできます。
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