絶縁型トランスの基礎と選び方、使い方
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2020-05-20
従来型の単相電源の配線は、ホットワイヤ、ニュートラルワイヤ、そしてグランドワイヤで構成されています。物理的に複数に分離されているデバイスが共通のパワーラインを共有する場合、デバイスのグランド電位がそれぞれ異なることが原因でグランドループが発生する場合があります。こうしたグランドループが特に問題になるのは医療用デバイスで、デバイスの試験中に問題が発生する場合があります。設計者にとって、整流されたライン電圧が使用されるデバイスでグランドループを測定するのは難しいことです。オシロスコープのように接地されたテスト機器は、これらのデバイスの電源を誤ってショートさせる可能性があります。また、ACパワーラインが原因の高周波ノイズによって、高感度のトランスデューサおよび計測器に関する問題が発生する可能性もあります。
これらの問題はいずれも、電源入力とデバイスの間で絶縁型トランスを適切に使用することによって回避できます。
絶縁型トランスは、パワーラインのグランド接続から分離して、グランドループや不注意なテスト機器のグランドを回避します。絶縁型トランスは、電源が原因の高周波ノイズも抑制します。
この記事では、Hammond Manufacturing、Bel/Signal Transformer、そしてTriad Magneticsのデバイスを例に、絶縁型トランスの特性、選択条件、用途について説明します。
絶縁型トランスの仕組み
絶縁型トランスは、ACパワーライン(主電源)と受電側デバイスの間のガルバニック絶縁を実現します。つまり、2つの巻線の間にDCの経路が存在しないことになります。絶縁型トランスは、主に以下の3つの目的で使用されます。
- 1つ目の目的は、2次側をグランド(アース)から絶縁すること
- 2つ目の目的は、ライン(主電源)の電圧を昇圧または降圧すること
- 3つ目は、1次側と2次側の間で伝送されるラインのノイズを低減すること
絶縁型トランスは、そもそもトランスであり、トランスの一般的な特徴を持っています(図1)。1次巻線と2次巻線は、強磁性のコモンコアに巻かれています。
図1:単純な電源トランスの回路図。強磁性のコモンコア上のNPターンの1次巻線と、NSターンの2次巻線で構成されています。(画像提供:DigiKey)
この図では、1次巻線はNPターンでコアに巻き付けられており、2次巻線のターンはNSです。1次(VP)と2次の電圧(VS)の関係を次の式1に示します。
式1
1次の方が2次よりもターン数が多い場合、2次の電圧は1次より低くなります。これは降圧構成です。1次の方が2次よりもターン数が少ない場合、2次の電圧は1次よりも高くなり、構成は昇圧になります。大半の絶縁型トランスでは、1次と2次のターン数は同じで、1次と2次の電圧は等しくなります。
エネルギーはトランスで保存されるので、損失を無視した場合、VPと1次電流(IP)の積とVSと2次電流(IS)の積は等しくなります。トランスは、1次のRMS電圧とRMSの1次電流を乗算した積によって定格されます。これは、「皮相電力」であり、電圧-アンペア(VA)単位で測定されます。
この回路図のドットは位相のドットであり、1次と2次の電流の方向を示しています。電流は巻線の1次のドット側から流入するため、図に示すように、2次電流は巻線のドット側から出力されます。これは、巻線が直列または並列で配置される場合に重要です。巻線の位相を観察できないと、エラーの原因となる場合があります。
ファラデーシールドは静電気シールドであり、1次巻線と2次巻線の間の静電容量を減少させ、通常は接地されています。このシールドは、コモンモードノイズの振幅と、トランスを介した過渡現象を低減させます。
絶縁型トランスの1次および2次巻線は、互いの間の直接的な伝導を最小限にするために厳重に絶縁されています。この絶縁の効果の指標はリーク電流です。大半の絶縁型トランスも、高電位(ハイポット)のテスタを使用して試験されます。これらのテスタは絶縁全体に高電圧を印加して、リーク電流を確認します。
絶縁型トランスの物理的な構造には、シェルタイプの構造など、複数の形式があります(図2)。この図の形式では、1次および2次の巻線は絶縁レイヤによって同心円状に包まれており、2つの層の間にはファラデーシールドが挿入されています。
図2:シェルタイプ構造の絶縁型トランスの断面図。この形式では、1次および2次の巻線は絶縁レイヤによって同心円状に包まれ、2つの層の間にはファラデーシールドが挿入されています。(画像提供:DigiKey)
ファラデーシールドはホイル層として実装することも、図に示すように近い位置に配置される巻線として実装することもできます。グランドは通常は1次側で接地されます。1次および2次巻線にはすでにエナメル線が使用されているため、この構造は「二重絶縁」と呼ばれます。
また、巻線をコアの両側に配置することもできます。これは、「分割ボビン」構造、またはトロイダルコアのラッピングと呼ばれます。
商用の絶縁型トランス
絶縁型トランスはオープンフレームで提供されることも、シールド構造に格納して提供されることもあります(図3)。Hammond Manufacturingの171E絶縁型トランスでは、シールド構造のエンクロージャが使用されています。エンドキャップシールドはトランスの磁場を遮蔽し、トランスが外部の磁場を極力拾わないようにする役目も果たします。この500VA、1:1のトランスは、ピグテール、NEMA、3線式接地入力および出力コネクタ、および一体型過負荷回路ブレーカも備えています。
グランドは2次出力コネクタに接続されていますが、これは絶縁型トランスの用途のほとんで使用されません。このトランスでは、定格入力電圧での1次および2次の間のリーク電流は60µA未満です。
図3:トランスのエンドキャップにシールドカバーが装着された絶縁型トランスの例。(画像提供:Hammond Manufacturing)
250VA絶縁型トランス、Bel/Signal TransformerのDU1/4では、マルチタップ巻線を2セット備えたオープンフレーム構造が使用されています。1次巻線と2次巻線はそれぞれ2つずつあります(図4)。
図4:Bel/Signal Transformer DU1/4は、タップ付き1次巻線と2次巻線のセットを2つ備えたオープンフレームの絶縁型トランス。(画像提供:Bel/Signal Transformer)
1次巻線と2次巻線は0、104、110、120ボルトで同様に定格されています。これにより、1次または2次での直列または並列の接続が可能になります。そのため、110ボルトまたは220ボルトの入力のいずれかで、通常の1:1の比率が維持されます。110ボルトから220ボルトへの昇圧トランスも220ボルトから110ボルトの降圧トランスも構成することができます。また、マルチタップ巻線を利用することで、208ボルト、214ボルト、または230ボルトといった、中間的な電圧定格を使用することもできるようになります(図5)。
このトランスの電源接続にはスクリュー端子が使用されます。
図5:DU1/4の2相巻線では、1:1、2:1、1:2の電圧比率など、多数の巻線構成が利用可能。(画像提供:DigiKey)
1次および2次がそれぞれ直列で接続されている場合、トランスの電圧比は220ボルトの入力に対して1:1です。1次および2次がそれぞれ並列で接続されている場合、110ボルトに対して1:1の電圧比になり、単一の巻線の場合と比較して2倍の電流が利用できます。1次が直列で、2次が並列で配置されている場合、1次電圧は2の因数で降圧されます。2次が直列で接続されており、1次が並列の場合は、2:1の昇圧が実現します。
医療における絶縁
医療用の絶縁型トランスは、リーク電流の面でより厳しい要件に対応しなければなりません。グランド(アース)のリーク、エンクロージャのリーク、患者のリークについては最大のリーク電流仕様が指定されています。グランドのリークとは、デバイスのグランドリードにおけるリーク電流のことです。エンクロージャの電流とは、グランドリード以外のコンダクタを経由して、露出された伝導面からグランドへ流れる電流のことです。患者のリークとは、デバイスに正常に接続されている際に患者からグランドに流れる電流です。このカテゴリのデバイスの大半は、UL/IEC 60601-1で認証されています。
Triad MagneticsのモデルMD-500-Uは500VAの絶縁型トランスで、医療用に定格されています(図6)。このトランスは、Underwriters Laboratories(UL)によってUL 60601-2仕様での認証を受けており、通常のリーク電流は10µAで、最大50µA未満です。
図6:MD-500-Uは、医療用定格の500VA絶縁型トランス。このトランスのリーク電流は10µA(通常)であり、トロイダルトランスを使用することで小型化を実現し、浮遊磁界を最小化。(画像提供:Triad Magnetics)
MD-500-Uでは、トロイダルトランスを使用することで浮遊磁界を最小化し、最大限の効率を実現する一方で、製品のサイズは最小化しています。スタンドアロンの医療トランスの多くと同様に、この製品も、一体式ヒューズと熱遮断スイッチが使用されたスチール製のエンクロージャ内に安全に格納されています。
一般的な絶縁型トランスの用途
絶縁型トランスの最も一般的な用途に、ACライングランドからのデバイスの絶縁があります。この絶縁が必要な例として、スイッチモード電源(SMPS)について考えてみましょう。一般的なライン供給SMPSには、安全に関する懸念事項が複数あります(図7)。
図7:グランド基準およびグランド基準でない回路領域を示すSMPSの回路図。(画像提供:DigiKey)
これは、フライバックトポロジが使用されたライン電源供給型の電源です。黄色の部分が回路の1次側で、全波でライン(主電源)入力を整流して1次レールに印加します。つまり、高電圧レールと低電圧レールの間で発生する電圧レベルが、120ボルトラインの場合は約170ボルト、240ボルトラインの場合は約340ボルトになります。整流されたライン電圧は、1次ストレージコンデンサ(C2)に保存されます。
電源の1次セクションと2次セクションは、フライバックトランス(L2)によって電気的に絶縁されており、カプラ(Q4)によって光学的に絶縁されています。2次セクションは負(-)の出力端子でグランドに接続されていますが、1次セクションは接地されていません。この状態は、トラブルシューティングのためにオシロスコープなどの接地された入力装置を使用する場合に問題となります。電源の1次側のコンポーネントにスコーププローブをグランド接続すると、短絡が発生し、主要なコンポーネントだけでなく、オシロスコープも損傷する可能性があります。
電源の低1次レールは、ACラインのニュートラルに接続されます。ニュートラルラインはサービスエントランスでグランドに接続されていますが、SMPS入力に到達するまでに数ボルト、グランドを上回る可能性があるため、スコーププローブのグランドに対しては安全でない接続ポイントになります。
絶縁型トランスの目的は、SMPSの1次セクションを電気的に絶縁することです。絶縁されると、1次回路の任意の場所にあるプローブのグランド側に接続できるようになります。これにより、グランドクリップが接続されている任意の場所にグランド基準が配置されるため、1次側での短絡を回避することができます。
これと同じグランド絶縁機能を利用すれば、それぞれに独自のグランドリターンパスがある複数のデバイスがお互いに接続されている場合に、絶縁型トランスを診断やグランドループの修正に使用できるようになります。
トランスによってグランドを絶縁できるので、どのデバイスがグランドのリーク電流の発生源なのかを確認できます。
絶縁型トランスは、接続されたデバイスにラインから伝送されたり、デバイスからラインに戻ってくる高周波ノイズを減らすこともできます。これは、トランスの直列インダクタンス、およびトランス全体の容量性カップリングを低減する接地されたファラデーシールドの効果によるものです。
結論
1次側にあるAC電源の2次巻線に接続されたデバイスを絶縁することにより、絶縁型トランスは2次デバイスの基準面を再定義することができます。これによって、リーク電流の方向の変更や制御も行うことができるようになります。同時に、高周波の倍振動やノイズの伝送も最小限にすることができます。これは、電源関連のデバイスをテストする場合に非常に便利です。
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