精密データ収集システムの設計時にスペースと開発時間を節約する方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-03-16
産業用オートメーションやヘルスケア向けのシステム設計では、デジタル化と分析のために、高度な感知、検出、画像やビデオのキャプチャ技術を採用することが多くなっています。しかし、分析の精度は入力データ次第であり、その取得には高性能、高ダイナミックレンジ、高精度の安定した信号調整、変換ブロックが必要です。これらのブロックをディスクリート回路で設計する場合、かなりの設計リソース、基板スペース、時間が必要となり、全体的にコストアップすることになります。
それに加えて、設計者は最終システムの競争力を維持せねばなりません。つまり、優れた性能を確保しつつ、可能な限りコストを削減して市場投入までの時間を短縮することが求められます。
この記事では、標準的なデータ収集システムとその中核となる要素について簡単に説明します。そして、これらの重要な要素の多くを統合し、安定した18ビット、2メガサンプル/秒(MS/s)の性能を提供するAnalog Devices Inc.のデータ収集(DAQ)モジュールを紹介します。また、設計者がモジュールを理解して使用方法を習得するのに役立つ評価ボードも紹介します。
DAQシステムの構成要素
標準的なデータ収集システムを図1に示します。対象となる信号は、なんらかの物理現象に反応して電気信号を出力するセンサで拾われます。センサの出力はシングルエンドまたは差動であり、フィルタリングなどの信号調整が必要な場合があります。A/Dコンバータ(ADC)から最大限のダイナミックレンジを得るためには、ADCの入力電圧範囲に合わせて信号を増幅する必要があります。アンプのゲインとオフセットは,一般に精密抵抗で制御されますが、ダイナミックドリフトと温度ドリフトを考慮して慎重にマッチングさせる必要があります。温度依存性がある場合、通常、部品が物理的に近接している必要があります。ダイナミックコンディションには、最小化する必要があるノイズや歪みのレベルが含まれます。
図1:標準的なDAQシステムは、センサからデータを取得し、それを調整し、ADCに適用される信号振幅を最適化し、デジタルデータをシステムプロセッサに伝達します。(画像提供:Analog Devices)
逐次比較レジスタ(SAR)ADCは、分解能のビット数で示される十分なダイナミックレンジを持つ必要があります。また、バッファ付きの安定したクリーンな電圧リファレンスが必要です。
最後に、取得したデータは通信インターフェースでアクセスできる必要があります。このようなデータ収集システムをディスクリート部品で実装すると、より多くの物理的なスペースが必要になり、結果として、集積化されたデバイスから得られる性能よりもはるかに劣ってしまうことが多くなります。たとえば、ADCを駆動する差動アンプの性能要件として、不均衡があるとコモンモード除去比(CMRR)が減少するため、アンプ入力の両足の入力抵抗と帰還抵抗が密接にマッチングしている必要があるとします。同様に、段のゲインを設定するために、入力抵抗と帰還抵抗を正確にマッチングさせる必要があります。これらの抵抗は温度変化にも追従しなければならないので、近くに配置する必要があります。さらに、信号の完全性を維持し、寄生応答を最小化するためには、回路全体のレイアウトが重要です。
内蔵DAQモジュールで時間短縮と省スペース化を実現
設計者は、サイズと設計時間を削減しながら性能要件を満たすため、ディスクリート実装の代わりにAnalog DevicesのADAQ4003BBCZµModuleシステムインパッケージ(SIP)を使用できます(図2)。7 x 7mmのADAQ4003は、信号調整やデジタル化など、信号チェーンの最も一般的なセクションを統合することに重点を置き、高度な性能を備えた、より完全な信号チェーンソリューションを提供しています。これにより、標準的なディスクリート部品と高度に統合された顧客専用ICの間のギャップを埋め、データ収集のニーズを解決します。
図2:複数の一般的な信号処理ブロックを一辺わずか7mmのデバイスにまとめたµModule SIPの断面図。(画像提供:Analog Devices)
ADAQ4003は、最大2MS/sで動作する高分解能18ビットSAR ADC、低ノイズ完全差動ADCドライバアンプ(FDA)、安定した電圧リファレンスバッファ、必要なすべての重要受動デバイスを兼ね備えています。また、49コンタクトの小型ボールグリッドアレイ(BGA)パッケージで、コンパクトなフォームファクタに対応します。
ADAQ4003は、図3に示すように、ディスクリートレイアウトと比較して、プリント基板面積を4分の1以下に削減することが可能です。
図3:ADAQ4003(左)のカバーを外した状態と、ディスクリート部品で実装した同一回路の面積は1/4以下となります。(画像提供:Analog Devices)
ディスクリート実装と比較すると、µModuleには多くの利点があります。フットプリントが小さく、部品が物理的に近いため温度追従性が良く、導線のインダクタンスや浮遊容量による寄生効果も低減されます。
ADAQ4033の機能ブロック図では、すべてのデータ収集システムに見られる4つの主要な部品が示されています(図4)。
図4:ADAQ4003の機能ブロック図は、7 x 7mm、49コンタクトのBGAパッケージにいかに多くのものを収めているかを示しています。(画像提供:Analog Devices)
ADAQ4003は、その小さな物理的サイズにもかかわらず、Analog DevicesのiPassives技術により、重要な受動部品を内蔵しています。内蔵受動部品は、複数の受動部品ネットワークが同時に製造される基板上に適用されます。製造工程では、これらの部品を非常に高い精度で製造しています。たとえば、抵抗アレイの部品は0.005%以内にマッチングされています。隣接する部品は、非常に狭い間隔で配置されているため、初期値がよく一致し、ディスクリート受動部品よりはるかに優れています。また、共通の基板上に実装することで、部品の一体化構造による温度や機械的ストレス、ライフタイムの経時変化への追従性も向上します。
前述のように、SARの18ビットADCは最大2MS/sのクロックで動作可能でありながら、コードの状態の欠落なく動作します。受動部品の正確な値とマッチングにより、ADCの優れた性能を保証します。ゲイン設定0.454で、標準信号対ノイズおよび歪み(SINAD)比は99デシベル(dB)です。その積分非直線性は、標準で3ppmです。入力抵抗アレイはピンストラップが可能で、0.454、0.909、1.0、1.9のゲイン設定により、入力をADCのフルスケール範囲に合わせ、そのダイナミックレンジを最大化することが可能です。重要部品のマッチングにより、0.454ゲインレンジでゲイン誤差±0.5ppm/C°、オフセット誤差0.7ppm/C°のドリフトを実現しています。
ADCブロックの前には、差動構成の全ゲイン範囲においてCMRRが90dBのFDAドライバがあります。このアンプは非常に広いコモンモードを持っていますが、これは具体的な回路構成とゲイン設定に依存します。FDAは差動アンプとして使用できますが、シングルエンド入力に対してシングルエンドから差動への変換を行うことも可能です。
FDAドライバとADCの間には、内部部品で差動的に実装された単極のRCフィルタがあります。これは、ADC入力のノイズを制限し、SAR ADCの容量性デジタル/アナログコンバータ(DAC)入力から生じる電圧キックバックの影響を低減するために設計されたものです。
ADAQ4003はまた、SAR ADCリファレンスノードのダイナミック入力インピーダンスを最適に駆動するために、ユニティゲインで構成されたリファレンスバッファを内蔵しています。また、電圧リファレンスノードと電源に必要なデカップリングコンデンサもすべて含まれています。これらは、低等価直列抵抗(ESR)、低等価直列インダクタンス(ESL)を特長とするデカップリングコンデンサです。ADAQ4003に内蔵されていることで、部品表(BOM)がさらに簡素化されます。
ADAQ4003のデジタルインターフェースは、DSP、MICROWIRE、QSPIと互換性のあるシリアルペリフェラルインターフェース(SPI)を使用しています。VIO電源を分離することで、1.8V、2.5V、3V、5Vロジックに対応した出力インターフェースを実現しました。
ADAQ4003は、最大クロックレート2MS/sでわずか51.5ミリワット(mW)という低い総消費電力で動作し、より低いクロックレートではより低い消費電力となります。
ADAQ4003の物理レイアウトは、アナログ信号とデジタル信号を分離することで、信号の完全性とパフォーマンスの維持に役立ちます。ピン配列は、左側がアナログ信号、右側がデジタル信号となっており、設計者は高感度のアナログ部とデジタル部を分離して、クロスオーバーを最小限に抑えることができます。
回路モデル
Analog Devicesは、シミュレーションモデルを公開しており、無償のLTspiceシミュレータでADAQ4003のモデルを提供しています。また、IBISモデルを他の市販回路シミュレータで利用できるようにしています。
LTspiceには、図5に示すADAQ4003を使用した基本的なリファレンス回路が含まれています。デバイスは差動入力構成で使用されており、1.0kΩと1.1kΩの入力抵抗を直列にしてFDAゲインを0.454にするストラップ処理をしています。モデルの基準電圧設定は5Vで、2MS/sの変換クロックを使用します。
図5:ADIは、差動入力構成を使用したADAQ4003のLTspiceシミュレーションモデルを公開しています。(画像提供:Art Pini)
LTspiceモデルは、あらゆる設計の出発点であり、評価ボードを使ってさらに検証することができます。
評価ボード
ADAQ4003を検討する際は、評価ボードEVAL-ADAQ4003FMCZで動作確認をしていただくのが賢明です。このマルチボードセットには、評価ボードとフィールドプログラマブルアレイメザニンカードが含まれます。Analog DevicesのシステムデモンストレーションプラットフォームEVAL-SDP-CH1Zで動作します。また、ADIは製品固有のプラグインを持つ分析/制御/評価(ACE)デモソフトウェアも提供しており、ユーザーは高調波解析、積分および微分非線形性測定を含む詳細な製品テストを実行することができます。
まとめ
ADAQ4003 µModuleは、サイズとコストを最小限に抑えながら、高性能なDAQシステムを迅速に開発することが求められる設計者にとって、良い選択肢となります。このデバイスは、ディスクリート部品の選択、最適化、レイアウトといった信号チェーン設計の課題を取り除くことで、精密測定システムの開発サイクルを短縮します。ADAQ4003は、カスタム設計のベースとして、最適化されたスペース効率の高いデータ収集ソリューションを1つの部品で提供することで、設計プロセスをさらに簡素化します。

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