絶縁を活用してデータ収集の精度を維持し、性能を向上させる

著者 Bill Schweber氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

今までにない複雑な問題を解決できるよう、インテリジェンスがエッジに移行する中で、データ収集(DAQ)の信頼性、精度、性能を確保することがますます重要になっています。そのため設計者は、取得した信号とシステムプロセッサの間に絶縁された高精度の信号チェーンを用意する必要があります。

高精度のアナログ信号測定チェーンで絶縁を確保するのは難しい課題です。信号を損なう要因や避けられない温度ドリフトがあっても、信号チェーンの性能を維持するには、細部にまで細心の注意を払う必要があります。多くの設計者にとって、適切な絶縁技術を選択して使用する前に、関連する問題をよりよく理解することは有益です。

この記事では、ハイエンドの絶縁型DAQシステムの開発と最適化に関連するさまざまな問題について説明します。「ハイエンド」という呼称には、精度、正確性、信号の完全性、一貫性といった属性が含まれます。次に、Analog DevicesのDAQ信号チェーンソリューションを紹介し、それを使用してハイエンドの絶縁型DAQシステムを構築する方法を示します。

各機能ブロックの最適化

典型的なDAQシステムは、物理システムからセンサを経由して信号を伝える一連の機能ブロックから構成されます。伝送された信号は、アナログフロントエンド(AFE)で調整され、A/Dコンバータ(ADC)でデジタル化され、そしてコンピュータベースの表示装置やコントローラ(マイクロコントローラからはるかに大規模なシステムまで)に送られます(図1)。

DAQシステムの直線的な信号チェーンの画像図1:DAQシステムは、測定対象の物理システムやセンサからホストプロセッサまでの、明確に定義された直線的な信号チェーンで構成されています。(画像提供:Bill Schweber)

DAQの精度と正確性の実現は、フロントエンドの信号調整コンポーネント、特にトランスデューサ用プリアンプの選択から始まります。低ノイズ性能は、この機能における多数ある重要な要素の1つです。なぜなら、設計の後半では内部ノイズを低減することが難しく、目的の信号と一緒に増幅されてしまうためです。ベースラインの信号対雑音比(SNR)はこの段階で確立され、信号が次の段階を通過するにつれてさらに劣化することは避けられません。

このため、AFEではノイズに最適化された単機能オペアンプを使用することが多いです。フロントエンド用プリアンプの適切な選択肢として、Analog DevicesのADA4627-1BRZ-R7があります。これは、30V(±15Vデュアル電源)、高速、低ノイズ、低バイアス電流のJFETオペアンプです。センサに最適化された多くの仕様の中でも、最大200µVの低オフセット電圧、1µV/°Cのオフセットドリフト(標準)、最大5ピコアンペア(pA)の入力バイアス電流が特長です。重要な電圧ノイズの仕様として、1キロヘルツ(kHz)で6.1nV/ルートヘルツ(nV/√Hz)を実現しています(図2)。

Analog DevicesのADA4627 JFETオペアンプにおける電圧ノイズのグラフ図2:ADA4627 JFETオペアンプは、6.1nV/√Hz(1kHz)の電圧ノイズを特長としています。(画像提供:Analog Devices)

絶縁がもたらす複数の利点

信号が増幅されデジタル化されると、次のステップは信号とシステムのデジタルセクションおよび関連プロセッサとの間にガルバニック絶縁を確立することです。このステップの主な理由は3つあります。

  1. ノイズと干渉の低減:ガルバニック絶縁はコモンモード電圧の変動、グランドループ、電磁干渉(EMI)を排除できます。また、外部ノイズ源による取得信号の破損を防ぎ、よりクリーンで正確な測定を実現します。
  2. グランドループの排除:グランドループは、測定信号を歪ませる電圧差をもたらす可能性があります。絶縁はグランドループの経路を断ち、グランド電位の変動による干渉を取り除き、測定精度を向上させます。
  3. 安全性と保護:絶縁バリアは、危険な電圧スパイク、過渡現象、またはサージが敏感な測定コンポーネントに到達するのを防ぐことで、電気的安全性を提供します。これにより、測定回路や接続されたデバイスが保護され、安全で信頼性の高い動作が保証されます。さらに、このようなバリアは、低レベルセンサが高電圧またはACラインに短時間でも触れた場合の、ユーザーへの電気的危険を排除します。

磁気的、光学的、容量性、さらにはRF原理に基づくデジタル信号の絶縁を実現するために、いくつかの技術が利用可能です。Analog Devicesは、独自のiCoupler技術に基づく5チャンネルのデジタルアイソレータであるADUM152N1BRZ-RL7を含む、高性能のソリューションファミリを提供しています(図3)。

Analog Devicesの5チャンネルのデジタルアイソレータであるADuM152Nの図図3:5チャンネルのデジタルアイソレータであるADuM152Nは、優れた性能を実現するために独自の磁気カップリング実装を採用しています。(画像提供:Analog Devices)

これらのアイソレータは、高速CMOSとモノリシックエアコアトランス技術を組み合わせています。高速デジタルリンクのニーズに見合う性能を確保するため、伝播遅延は最大13ナノ秒(ns)、パルス幅歪みは5Vで4.5ns未満、伝播遅延のチャンネル間マッチングは最大4.0nsと優れています。同じような2チャンネルバージョンのADUM120N1BRZ-RL7も用意されており、絶縁されたチャンネルの総数をバス幅に合わせることができます。

これらのアイソレータは、150メガビット/秒(Mbits/s)のデータレートを保証する高速性能に最適化されています。100kV/マイクロ秒(kV/µs)の高いコモンモード過渡耐性(CMTI)と、3kV二乗平均平方根(rms)の耐電圧定格を提供し、関連するすべての規制義務に準拠しています。

信号の絶縁は、全体的な絶縁設計の一部に過ぎません。DAQシステムのすべてのDC電源レールも絶縁されていなければなりません。これは多くの場合、絶縁素子としてトランスを使用することで実現されます。

1次電源がすでに交流(AC)の場合は、トランスを通した後に整流・調整されます。電源が直流(DC)の場合は、まずACに似た波形へと切り刻んで変換する必要があります。この作業は、50kHz~1メガヘルツ(MHz)で動作する低ノイズで1AのDC/DCドライバであるLT3999のようなコンポーネントを使用することで大幅に簡素化されます。

完全な高性能DAQシステムには、追加のコアコンポーネントと周辺コンポーネントが不可欠です。それらの設計と配置は、正確な測定とデータの完全性を確保する必要があります。アンプと絶縁バリアに加え、高精度信号チェーンには通常、フィルタリング素子、高分解能ADC、スイッチが含まれます。これらのコンポーネントを組み合わせることで、ノイズを除去し、干渉を最小限に抑え、正確な信号表現を実現します。

すべてをうまくまとめる

これらの主要コンポーネントを使用した絶縁信号チェーンの一例として、ADSKPMB10-EV-FMCZがあります。これは、シングルチャンネル、完全絶縁、低遅延のDAQシステムを実装した高精度プラットフォームです(図4)。このソリューションは、さまざまなセンサインターフェースの感度に対応する信号調整用のプログラマブルゲイン計装アンプ(PGIA)と、デジタルおよび電源絶縁をコンパクトなボード内に統合したものです。

Analog Devicesの高精度プラットフォームであるADKSPMB10-EV-FMCZの図(クリックして拡大)図4:ADKSPMB10-EV-FMCZは、シングルチャンネル、完全絶縁、低遅延のDAQシステムを実装した高精度プラットフォームです。PmodとFMC間のインターポーザボード(中央のブロック)は、絶縁およびその他の機能を提供します。(画像提供:Analog Devices)

評価用として、このソリューションはPmodフォームファクタのADSKPMB10-EV-FMCZとEVAL-SDP-CH1Zシステムデモンストレーションプラットフォーム(SDP)インターフェースボードからなるマルチボードソリューションとして構成されています(図5)。これら2つのボードの間には、完全に絶縁されたPmodとFMC間のインターポーザボードがあります。

Analog DevicesのADSKPMB10-EV-FMCZ(左)とPmodとFMC間のインターポーザボード(右)の画像図5:ADSKPMB10-EV-FMCZ(左)は、PmodとFMC間のインターポーザボード(右)を介してSDPインターフェースボード(図示せず)に接続します。インターポーザボード上の垂直に分割されたゾーンは、絶縁バリアが実装されている場所を示しています。(画像提供:Analog Devices)

ADSKPMB10-EV-FMCZは、ADA4627-1オペアンプを使用して構築されたディスクリートPGIAを搭載しています。このPGIAは、さまざまなセンサとの直接のインターフェース接続に必要な高入力インピーダンスを備えています。また、このモジュールは、ゲイン設定用にマッチングされた高精度クワッド抵抗ネットワーク、クワッドチャンネルマルチプレクサ、ADAQ4003用の完全差動アンプADCドライバも備えています。ADAQ4003は、µModuleとして実装された18ビット、2メガサンプル/秒(MSPS)のADCおよびDAQサブシステムです。

このモジュールは単なる高分解能ADCではありません。ADAQ4003には複数のノイズ低減技術が組み込まれており、忠実度の高い信号キャプチャが可能です。たとえば、µModule内部のADCドライバ出力とADC入力との間に単極のローパス抵抗コンデンサ(RC)フィルタが配置されており、高周波ノイズを除去するとともに内部ADC入力からの電荷の「キックバック」を低減します。

さらに、µModuleのレイアウトは、クロスオーバーを避け、放射ノイズを最小限に抑えるために、アナログ経路とデジタル経路を確実に分離しています。

完全に絶縁されたPmodとFMC間のインターポーザボードには、LT3999 DC/DCドライバ、5チャンネルおよび2チャンネルのデジタルアイソレータ、低ノイズ低ドロップアウトレギュレータ(LDO)、超低ノイズLDOが含まれています。このインターポーザボードはブリッジとして機能し、SDPインターフェースボードに接続します。

SDPインターフェースボードは、データ取得後の処理、管理、接続を行います。このボードには、160ピンのFMCコネクタ、他のボード用にさらに調整・分割された12VDC電源、コードおよびコンテンツ保護用のハードウェア対応セキュリティ付きBlackfinプロセッサ、USBポート、Spartan-6 FPGAが搭載されています。

性能が証明する

高精度DAQシステムの性能評価は、計測器、テスト配置、測定基準が重要であるため、簡単なプロセスではありません。多くの動的パラメータがDAQシステムの性能と相関していますが、最も意義深いのはダイナミックレンジ、信号対雑音比(SNR)、全高調波歪み(THD)です。

ダイナミックレンジとは、デバイスのノイズフロアと指定された最大出力レベルとの間の範囲を指します。

この設計の標準的なダイナミックレンジは、最も高いゲイン設定で93デシベル(dB)、最も低いゲイン設定で100dBであり、これは非常に優れています(図6)。オーバーサンプリング比を1,024倍にすると、測定値はさらに向上し、それぞれ最大123dBと130dBに達します。

回路と信号チェーン全体のダイナミックレンジが100dBであることを示すグラフ図6:ゲインやその他の設定にもよりますが、回路と信号チェーン全体のダイナミックレンジが約100dBであることから、高性能なDAQシステムであることがわかります。(画像提供:Analog Devices)

SNRは、rms信号振幅と、高調波とDCを除く他すべてのスペクトル成分の二乗和平方根(RSS)の平均値の比率を指します。一方THDは、基本信号のrms値と、高調波のRSSの平均値の比率を指します。

信号チェーンは、ゲイン設定にもよりますが最大98dBのSNR(図7、左)および-118dBのTHD(図7、右)を達成していることから、この設計のSNRとTHDが非常に高性能であることがわかります。

高いSNR(左)と低いTHD(右)を示すグラフ(クリックして拡大)図7:ダイナミックレンジとともに、高いSNR(左)と低いTHD(右)は、アナログに特化したDAQの優れた性能を具体的に示しています。(画像提供:Analog Devices)

まとめ

精度を維持し、ノイズや干渉を最小限に抑え、データの完全性を保証する絶縁された高精度信号チェーンを設計・実装することは、設計および実装における重要な作業です。そこで、精密増幅、絶縁技術、高分解能ADCとモジュール、低ノイズ電源管理を適切に活用することで、電気的に厳しい環境下でも正確な測定が可能になります。これは、基本的なオペアンプから高度な絶縁デバイスまで、Analog Devicesの高度なコンポーネントを使用し、詳細なデータシートとアプリケーションガイドラインとともに、必要な周辺機能を利用することで実現できます。

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著者について

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Bill Schweber氏

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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